聖誕祭18
「人間の街をどうして守るのですか?」
その問いを投げかけた男に、マリウスは視線を向ける。
街の中――。
ルードたちが舞踏会を楽しむそんな中で、マリウスは一人の男と対峙していた。
マリウスの周りでは、男が生み出した魔物たちが切り裂かれ、倒れていた。
マリウスは刀をすっと鞘へとしまってから、男を見る。
男――名前はヴァレファール・グリードだ。
七罪魔王の一人、序列六位の男だ。
見た目は爽やかな優男の印象を受けるが、眼鏡の奥の瞳は人を見下している。
「友が人間だからだ」
「魔族の落ちこぼれは、人間との戯れを選んだ、ということですか」
ふっとほほ笑むと同時、グリードはマリウスの背後に現れる。
マリウスは視線だけを一瞬向けてから、歩き出す。
「高みで見物とは、いい身分だなグリード」
そういった次の瞬間、マリウスは居合とともにその体を切り裂いた。
グリードの体はまるで霧のように揺れる。
そこにいるのは本体ではない。魔法で生み出した幻影のようなものだった。
くすくす、とグリードは笑いながら言う。
「どこまで通用するのか、楽しみにしていますよマリウス」
それだけを言い残し、グリードは去っていった。
マリウスは軽く息を吐いてから、着物の胸元から一つのネックレスを取り出した。
「仲間の仇、討たせてもらうぞ魔王共」
マリウスは小さく息を吐いてから、歩き出した。
〇
一週間ほど街に滞在した後、俺たちはアバンシアへと帰還するためにセインリアを呼んでた。
場所は大聖堂の庭。
周囲にはセインリアを一目見たい者たちであふれていた。
セインリアに乗るのは、俺、ニン、リリア、リリィ……そしてキグラスだった。
「なんでキグラスもいるのよ?」
「しらねぇよ。なんか、ルードのクランに連絡が届いているみたいだからな」
……その通りだ。
俺のクランに届いた国からの依頼には、キグラスの名前もあった。
詳細に関しては、まだわからないが、キグラスも連れてきてほしいという話なんだそうだ。
……というわけで、キグラスもいたのだが。そいつはとりあえずいい。
「……マリウスが来ないな」
「マリウス? 誰だそいつは?」
「俺のクランのサブリーダーだ」
「ほぉ、ってことはそれなりに強いのかよ?」
「まあな」
「へぇ、そいつは楽しみだな」
マリウス。しばらく連絡がつかなかったのだが、昨日の夜に突然ヒューを通じて連絡があった。
大聖堂に行くから待ってて、と。
しかし、待てど待てどなかなか来ない。
セインリアに触れたいという人たちのふれあい広場になって一時間が経過したときだった。
ドラゴンが大好きというライがしきりにセインリアの鱗を撫でていたときに、マリウスが現れた。
……両手には大量の紙袋だ。
駆け込んできた彼は、満面の笑顔。
それを見たキグラスは目を見開いた。
「お、おまえ……っしゅご――!」
「ちょっと黙ってて」
余計なことを言われる前に、とリリアがキグラスに手刀を入れた。
よ、容赦ない一撃だな。
俺がちらと見るとリリアはぐっと親指を立てる。
いや、確かに守護者と口走らなかったのはいいがやりすぎだ。
ニンがぐっと親指をたて返す。……ま、まあいいや。
「マリウス遅いじゃない。どこで何してたのよ?」
「いやぁ、すまん! アバンシアの子どもたちにお土産頼まれていただろう? あと、まあクランの面々にも買っていかないといけなかったからな!」
「それならある程度はグリウルたちに持たしているから気にしなくてもよかったんじゃないの? ねぇ、ルード」
俺はマリウスの笑っている姿に、少し違和感を覚えていた。
……なんだろうか。
初めて出会ったときは、腹の底が見えない奴、と思っていた。
最近、長く彼と接しているうちにマリウスの人となりがそれなりにわかった気がしたのだが。
今は昔に戻ったように、距離が感じられた。
「ルード?」
「あ、ああ」
ニンが再度問いかけてきて、俺は慌ててマリウスを見る。
「それじゃあ、そろそろ出発しようか。あんまりアバンシアへの帰還が遅れるとマニシアを心配させてしまうしな」
「マニシアだけじゃないでしょうが」
いやまあそうだが。
というか、グリウルたちや町のホムンクルスたち、すべてマニシアに任せてしまっている。
クランの管理だってそうだ。
早く戻ってマニシアの負担を減らす必要がある。
そう思ったら、すぐにセインリアに乗り込むことにした。
名残惜しそうにライがこちらへとやってくる。
それから彼はすっと頭を下げてきた。
「……すまなかったな、ルード」
「え?」
「私はあまり冒険者が信用ならなくてな。だが、キミたちのおかげで町を守ることができた。感謝する」
「……いや、別にそんな気にしないでください」
ライにそう返すと、彼は改めて深く頭を下げてきた。
それから俺たちはセインリアへと乗りこむ。
セインリアが空高くへと上がると、ニンの顔色が少し悪くなる。
キグラスは初めて乗るがどうだろうか。
彼の足も震えていた。
あまり、高いところは好きじゃないようだな。
それを見てリリアとリリィが楽しそうに笑うと、キグラスが顔を真っ赤にして激昂していた。
あれこれ吠えていたが、リリアがキグラスの体を突き飛ばそうとすると、キグラスはがたがたと震えてセインリアにしがみついていた。
そんな姿を横目に見ながら、マリウスをちらと見た。
彼は風に髪をなびかせながら、街を見ていた。
その目は、少しだけ鋭かった。
「何もなかったのか?」
「……ああ」
「そうか。それならいいんだ」
……何かはあったのだろう。
けど、今すぐに語らないのなら、彼の中で消化できるような問題なんだろう。
「何か、話したいときは聞くからな」
「……ああ、ありがとう」
マリウスがちらとこちらを見てから、口元を緩める。
今はそれだけで十分だろう。
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