聖誕祭16
最強タンクの迷宮攻略の一巻が発売されています。改稿、加筆を結構していますので、よかったら手に取っていただければと思います。
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こちら、一話分すべて無料で読めますので、読んでくれたら嬉しいです。
俺たちは地下へと駆けていく。
焦りの顔の教会騎士と、リリアたちとともに階段を下りる。
なにも、問題が起きていないことを祈るしかない。
壁に掛けられた魔石の明かりを頼りに進んでいきながら、俺は彼に視線をやる。
「おまえは何がしたいんだ、キグラス」
「なんだよルード。まだ疑ってんのか?」
「多少はな」
「安心しろよ。オレは英雄になりたいだけだ。英雄になるために、冒険者になったんだ。一人になってから、思い出したんだよ」
そういう彼はふっと柔らかく笑みを浮かべて走り出す。
……今はその言葉を信じるしかないだろう。リリアもめっちゃ彼を警戒している。
「どこで、ホムンクルスたちの動きに気づいたんだ?」
「偶然な。荒れていたオレに一人が声をかけてきたんだよ。今、あちこちで暴れている人型の化け物。あれも、恐らくはオレたちの成れの果てだろうな」
……確かに、ここにくる途中にはそういう奴もいたな。
「声をかけてきた?」
「力を与えてやるって感じでな。おまえもちったぁ、知ってんじゃないか?」
……ポッキン村であったようなものか。
ある程度、能力を把握して使いこなしている奴もいた。
そういう存在を思い出し、俺は口をぎゅっと結ぶ。
「それじゃあ、おまえも力を手に入れたのか?」
「いや、そいつはやってねぇよ。単純に協力してただけだ。だから、警戒されちまったのかもしれねぇがな」
肩をすくめるようにして、彼はとぼけた声を上げる。
階段を駆け下りたさきには、一本道があった。
大きな扉がある。その先の部屋が、結界を作るための部屋なんだろう。
だが、その扉の近くには教会騎士が二名いた。
彼らはこちらに気づくと目配せを一つする。
キグラスが、眉間にしわを寄せ、腰の剣に手を伸ばす。俺もリリアに視線を飛ばし、すぐさま体勢を整える。
この場で状況を掴みきれていないのは案内でついてきた教会騎士だけだった。
扉を守る教会騎士たちは片手をこちらに向けてきた。
同時に魔法が飛んできた。
リリィが障壁を張り、防ぐ。
正面から一人が突っ込んでくるが、キグラスとリリアが切り伏せた。
「な、なんで……攻撃してきたのですか……」
「本人そっくりに作られたホムンクルスだからだろうぜ」
キグラスがそれに答える。……まったく違いがわからないな。
本当に胸についた魔石だけしかわからなかった。
ついてきていた教会騎士がそんな風につぶやく。
俺は倒した騎士の服を破り、胸の部分を見せる。
教会騎士は口を押さえて目を見開く。
キグラスが扉を蹴りあけた。
……そこには、死体の山が転がっていた。そこにいたのは大量のホムンクルスたちだ。
恐ろしい数のホムンクルスに一瞬顔をしかめる。……けど、俺たちはすぐに視線をある場所へ向けた。
そこでは、ライとレフが戦っていた。ライは長剣を巧みに操り、レフの双剣と打ち合っている。
教皇を含めた五人の聖女たちは、ライの奥で魔力を込めていた。
彼らはいまも結界を作るために魔力を込めているようだった。
いや、結界自体は出来上がっているのかもしれない。
その維持にも力が必要なのだろう。
そんな聖女たちを守るように障壁のようなものがあった。
……ライはみんなを守るために戦っている様子だ。だが、レフは――。
レフと同じ容姿を持ちながらも、そこに以前のような優しげな表情はない。
ライは厳しい目とともに長剣を振り回していたが、レフはそれをあっさりと防いでみせる。
レフは軽快な動きとともに、ライへ蹴りを放った。
「ぐぅぅ!」
ライが地面を滑るように弾かれ、膝をつく。
「ホムンクルスのリーダー! てめぇをぶちのめして、オレが英雄だ!」
キグラスが叫びとともに剣を持ち上げる。
キグラスが叫んだことで、ライとレフがこちらを見た。
レフの残酷とも言える瞳がこちらを射抜いた。
「人間たちがここにきたということは、作戦は失敗か」
「ああ。テメェのやろうとしていたことは、ここで終いだ!」
キグラスは叫びながら飛びついた。
レフへと剣を振りぬくが、レフはあっさりとかわす。
「リリア、リリィ、キグラスの援護をしてくれ。俺はライさんの様子を見る」
「……わかったわ」
リリアがキグラスの攻撃に参加する。
キグラスは前より明らかに剣の腕が上がっていた。もともと才能はあったほうだ。改めて鍛え直したのだろう。
彼らの戦いを横目に、ライへと駆け寄る。
「大丈夫、ですか?」
「……ああ。情けない姿を見せたな」
「……ここで、みんなを守っていたのでしょう」
俺は彼にポーションを渡す。ライがすっと起きあがる。
と、上から悲鳴が聞こえてきた。
ライがハッとした様子で顔を上げる。
「外は、大丈夫なのか?」
「魔物と……それにたぶん教会騎士たちも混ざって、どうなっているか――」
「まだ、みんな、状況を把握しきれていない、か」
ライが悔しげに顔をゆがませた。
「早く、奴を仕留めて――」
ライは視線をレフへと向けた。
「あいつは、俺たちに任せてください。……ライさんは、教会騎士たちに指示を」
それは、ライさんにしかできないだろう。
上で戸惑っている人たちに指示を与えられるのは、彼だけだ。
「……しかし、教皇様たちを守ることがオレの」
「任せてください。それは、俺が絶対に守ってみせます」
「……ルード。……頼んだ、任せる」
ライはすっと立ち上がり、部屋を出るようにかける。
そこで、キグラスが宙をまった。
彼は空中で回るようにして着地してみせる。
リリア、キグラスが並んだところへ、俺も隣に立つ。
「ルード、なんだ戦えんのか?」
「言ったろ、俺のスキルについては」
俺の言葉に、キグラスは口元を緩める。
「そういえばそうだったな。オレもホムンクルスたちにスキルを教えてもらったんだよ」
「そうか」
鑑定持ちのホムンクルスがいたんだろう。
「どうやら、オレは外皮を犠牲にして能力を高めるスキルを使えるみたいなんだよ。消費した外皮の分だけ強化具合も跳ね上がるんだ」
「……なるほどな。どうりで知らない間にダメージを食らっていたわけだ」
「……悪かったな」
キグラスは言いにくそうな顔でそう言った。
別に、責めるつもりはない。まったく怒りを覚えていないわけではないが、もうずいぶんと昔の話だ。
それに――彼を許せるのは、俺だけだ。
だから俺は、息を吐く。そんな彼の背中を一度軽くたたいた。
「別に。いまさらだ。それにおまえのおかげでいい奴らに会えたからな」
「はっ、そうかよ」
キグラスが声を張り上げた。
「二人とも、乳繰り合ってないで。来る」
「乳繰り合ってねぇよ!」
キグラスが叫ぶと、迫ってきたレフの攻撃を前に出た俺が受ける。
大盾で彼の一撃を受ける。
「まさか……まったく動じないとはな」
レフの言葉に、俺は大盾を押し返した。
すぐさまキグラスとリリアが斬りかかる。
お互いの隙を潰すようにして、剣を振るっていく。
しかし、一切呼吸を乱さず、レフが動く。
彼の振り抜いた剣が、リリアたちの外皮を削る。
俺が仕方なく、二人分を受けてやる。
次の瞬間、いつもの回復が飛んできた。
結界の維持を行っていたニンだ。
彼女だけは他の聖女たちに比べて余裕のある表情だ。
……さすがに、聖女様だな。
「ルードっ、テメェ、今。オレのダメージ受けたろ!」
「ああ。無駄に食らうなよ。かわせるんだろ?」
「ったりめぇだ、くそ!」
キグラスは叫び攻撃を仕掛ける。
あっさりとかわされる。
リリィの追尾魔法をレフは一撃だけくらい、それからすぐに同じものを再現した。
「魔法複製のスキル」
「あいつらホムンクルスどもはスキルを複製しやがるからな。レアなスキルが山のように出てきても驚かねぇよ」
「みたいだな」
俺たちは並んだところで、キグラスが視線を向けてきた。
「テメェのスキルを信じて突っ込んでいいか?」
「ああ」
「いいのルード? 途中で解除したらどう?」
リリアがからかうように言った。
俺も苦笑を返しておく。
「それも面白いかもな」
「ちっ、代償はわかってんだよ。あいつを仕留めるために使わせてもらうぜ」
「それに、俺も合わせる。俺の外皮は、好きなだけ使ってくれ」
「……はっ、頼もしいタンクだ」
キグラスが笑みを浮かべ能力を発動する。外皮が一瞬で大量に消費された。
こいつ、ある程度スキルの使い方を覚えたのかもしれない。
彼はさっきよりも素早く動き、レフへと迫った。
新連載始めました。
地球のローファンタジーもので、『好きな人のためにダンジョンに潜る主人公』という感じの物語です。
『大好きな人のためにダンジョンに潜るのは間違いですか?』
下にリンク作りましたのでよかったら読んでいただければと思います。