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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
17/198

準備



「キグラス様は、攻略に失敗しました」


 宿で休んでいるというキグラスは全治数か月……という大怪我を負ってしまったらしい。


 そういうわけで、俺とニンは自警団本部に呼ばれていた。

 集まっていたのは双子、シュゴール、そしてフィールだ。


 それ以外のメンバーは全員重傷を負ってしまい、宿で休んでいる。


「……詳しい話を聞かせてもらってもいいか?」

「今回キグラス様は十階層まで、調査するはずでした。しかし、迷宮の守護者と遭遇してしまい、敗北しました」

「守護者だと? 十が、最終階層だったのか?」


 守護者は最終階層に居るものだ。

 この迷宮は予想よりも階層が少ないのか? 


 しかし、シュゴールは首を横に振った。


「いえ。五階層で遭遇してしまいました。我々はダンジョンウォークを使い、外にでてきたというわけです」

「……意思を持った守護者、か?」

「はい」


 本来、迷宮の最深部にいるはずの守護者。

 だが、時々、自分の意思を持ち、自由に動き回る者もいる。


 ある守護者は、英雄の名をかたり。

 ある守護者は、賢者の名をかたり。


 その真実は定かではないが、彼らから得られる情報はどれも俺たちが知らないようなものばかりだ。

 この国の技術が部分的に大きく向上しているのは、そういった守護者から、情報を聞き出しているからだ。


 ホムンクルス技術も、その一つだ。

 こうしたことから、教会は守護者を神の遣いとも呼んでいる。


 話のできる守護者が、五階層にいる。


 俺はそいつも、探していた。

 マニシアを治す方法を聞けるかもしれない。

 魔本のありか……あるいはもっと良い手段だってあるかもしれない。


 今まで、俺はいくつもの迷宮を攻略してきたが、そのどこにも意思を持つ守護者はいなかった。

 これからすぐに行けば、会えるかもしれない。


 ……だが、一人ではどうしたって迷宮攻略はできない。


「代理の者を立てなければなりませんが、今すぐに新しい人を用意するのは中々難しいです。守護者と遭遇する危険がある以上、中途半端な者では駄目です」


 シュゴールがそう言って肩をすくめる。


「……俺が行く」

「ルードさんが行ってくださるのですかっ?」


 シュゴールの目元が細められる。


「ああ。俺だけじゃ無理だが……双子と、シュゴール……それとニンが来てくれるなら、どうにかなるだろう」

「わかりました。それでは僕からギルドに連絡をしておきましょう!」

「別に、キグラスの手柄にしてくれて構わないぞ。だから、かわりに今すぐ迷宮に入るのは――」


 そう言うと、ニンが目を釣り上げた。


「ダメよ。あんたはそうやって、いっつもいっつも、自分のやりたいことを優先して……正当に評価されないのは、お互いのためにならないわ。シュゴール、あたしも参加するって伝えておきなさい」

「だが、俺はすぐにでも行って――」

「守護者にでも会いたいってわけ?」

「……ああ」


 そう言うと、双子が顔をしかめた。

 そして、珍しくこちらに口出しをしてくる。


「あれと戦うの、リリアはおすすめしないよ」

「リリィもお姉ちゃんに同意。あれは、人間が相手していい奴じゃない」

「それでも、会いたいんだよ」

「なぜ?」

「アホ?」

「うるさい……妹を、助けたいんだ。俺の妹は生まれつき体が弱いんだ。……それを治す手段を、聞き出せるかもしれないっ。だから、頼む……協力してくれないか?」


 そういうと、双子は顔を見合わせてから、息を吐いた。


「……ギルドから指示があれば、私たちは構わないよ」

「お姉ちゃんに同意」


 少しばかり、彼女らの視線が柔らかかった。

 ……もしかしたら、同情でもしてくれたのかもしれない。


 なんだっていい。

 協力してくれるなら、俺は頭を下げるだけだ。


「ありがと。……あとで何か奢るよ」

「それじゃあこの町のリンゴールケーキをお願いね」

「うん、私もそれで」


 それくらい、お安い御用だ。

 顎に手を当てていたシュゴールが、ぽんと手をならした。


「聖女様とその騎士様のお二人ならば、すぐに許可もおりるでしょう!」

「待て。俺はこいつの騎士になったつもりはないぞ」

「わかっていますよ。冗談みたいなものです」


 目を細めて笑うシュゴール。

 こいつは初めてあったときから読めない男だった。


 今も、内心で何を考えているのやら。

 さわやかに微笑む彼は、すぐに紙を取り出して、筆をはしらせる。


 あと一人、連れて行くことができる、か。

 ……候補は何人かいる。


 そのうちの一人であるフィールに視線を向ける。

 難しい顔を作っている彼女が、アタッカーとしてパーティー参加してくれるのなら心強い。


「フィール、おまえも来てくれないか?」

「わ、私か!? ……さすがに、優秀な冒険者たちに混ざれるほどの実力は……」

「おまえの攻撃力は、Bランク冒険者相当はある。それなら十分任せられる。俺たちだけじゃあ火力が足りない」

「し、しかし……私は足の速さもなければ、おまえたちのように魔法が得意なわけでもない」


 それらは謙虚な彼女らしい発言だ。

 フィールは十分強い。けれど、自分に自信が持てない奴だ。


「……フィールは冒険者をよく知らなかったな」

「どういうことだ?」

「いいか。冒険者はなんでもすべて、Sランク相当できるから、Sランク冒険者といわれるわけじゃない。それぞれ、一点でも抜き出たものがあれば、Sランク冒険者になれる。フィールなら、Bランク冒険者を名乗っていけるってわけだ」

「そういうものなのか?」


 フィールは首を傾げ、ニンが小さく頷いた。


「そういうものなのよ。あたしは、治癒魔法に関してはSランクを自負しているわ。けどね、攻撃魔法に関してはBランクくらい。近接戦闘なんてDランクくらいしかできないわ」


 外皮か、スキルが影響しているのかは分からないが、人によって肉体の強度や力などは違う。

 自分にとって優れている部分をいかに伸ばしていけるか、それが大事になってくる。


「俺だってそうだ。俺が使える魔法は生活魔法程度、Eランクもあれば精々だ。近接戦闘だって、CかBくらいだ。ただ、壁役としての力はAランク相当はある……と思う」

「あんたの場合はSランクくらいよ。あんたがいれば、どんなに弱いパーティーでもランクが一つ……いや二つははねあげられるわよ」


 付け加えるように、ニンが言う。

 あまり褒めないでほしい。照れてしまうから。


 と、普段口を出さない双子の姉、リリアが頷く。


「そこまで強いかはわからんけど、並よりは絶対強いと、リリアも思うね。タンクの人と組んだことなんてそんなにないけど、新しく入ってきた子たちとは比べものにならなかったよ。ていうか、最近ルードがいなくて魔物と向かいあって戦う回数が増えたね」

「お姉ちゃんに同意」


 リリィが頷いて、それから二人は見つめあって抱きしめあう。

 シュゴールも両手の親指を立てて、頷いている。


「俺が敵を引き付け、すべての攻撃を受けていれば……Sランクとしての力を発揮できる。その間に、ニンが治癒魔法を使っていればSランク、フィールが攻撃だけをできるようになればAランクとして戦えるというわけだ。こうやってパーティーはお互いの最大の能力を発揮できるよう補うんだ。一人でなんでもできる、なんてのはそれこそ天才くらいのものだ」


 そんな奴がいればパーティーを組む必要はない。

 俺にそこまでの力はない。

 だから、パーティーを組んで迷宮に潜る必要がある。


「逆に、俺が攻撃魔法を担当し、ニンが壁役を務め、フィールが治癒魔法を使おうとすれば……そんなのは、Fランクパーティーだ」


 そこまで言うと、フィールは顎に手をやり、考えるように頷く。


「そういうことなのか……。それなら、なんとかなるだろうか?」

「ああ、とりあえず、これで攻撃はどうにかなるだろう。シュゴールは、わかっているだけの情報をまとめておいてくれ」

「承知しましたよ。なかなか、楽しいパーティーが出来上がりましたね」


 シュゴールがざっと全員へ視線を向ける。

 ニンが背筋を伸ばした。


「それじゃあ、あとはギルドからの許可がおりればいいのね」

「そんなところだな。迷宮から魔物が外に出てこないよう、いつも通り見張っていればいいだけだ」


 攻略されてない迷宮は、魔物が外へと出てきてしまう。

 生態系が崩れるし、そもそも危険だから、冒険者は迷宮を攻略する。


 ……だが、もしもこれから調査する迷宮がSランクだとすれば、最深部まで到達するのは至難だろう。

 それこそ伝説の勇者パーティーとかでなければ攻略は不可能だ。


 ちょっと、この町の今後が不安だ。


 けど……そんな先のことを考えている場合ではない。

 とりあえずは、十階層だ。

 そこまで行って、守護者と会えればいいんだがな。





 


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