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聖誕祭4



 アーオイトータスをひたすら狩り続けていた俺たちは、山のように増えていく素材にさすがにまずいと思った。

 そこで、リリアとリリィに一度ギルドへ帰還してもらい、素材の解体等を行ってもらうことに方針を変更した。


 俺たちがアーオイトータスを狩り、その死体をセインリアが運んでいく。

 向こうでは緊急依頼として冒険者にも解体依頼を出してあるらしいし、ペースは今のままでもいいだろう。

 そして、半日ほどが経った頃には、埋め尽くすようにいたアーオイトータスが、現実的な数にまで落ち着いた。

 

 ……とはいえ、今はスーイがいないため、もう少し減らしておく必要があるだろう。

 それでも、初めのように急いで討伐する必要はない。

 解体のペースを考えつつ、俺たちはゆっくりと討伐を行っていく。


「そういえば、ギルドが大変なことになっていた」


 リリアが思い出したようにつぶやいた。


「大変なこと?」

「うん。これだけ一気に狩れるとは思っていなかったみたい」

「……まあ、普通にやってたらな」


 アーオイトータスは非常に耐久力のある魔物だ。生半可な魔法なら、余裕で跳ね返してしまう。

 これらにダメージを通せるのはリリィくらいの魔法の持ち主くらいだ。攻撃スキルだって、俺のように条件付きで強いスキルを持つ人くらいだろう。


 リリィがアーオイトータスの死体を冷凍保存し、セインリアが運んでいく。

 そのセインリアはというとどこか上機嫌だ。

 腹が減ったら肉を食べてもいいと伝えたからかもしれない。先ほどおいしそうに食べていたからな。 


「リリア、あとどのくらい狩るんだ?」

「小柄なアーオイトータスだけを残すつもり。だから、あとあの三体」


 細い指でリリアが示していく。なるほど、了解だ。

 さて……これまでかなりの量を討伐してきた。一体どれだけの報酬になるんだろうか。

 マニシアはもちろん、クランのみんなにもお土産買って帰りたいしな。


 アーオイトータスの部位でもっとも高く売れるのは甲羅だが、今回に限ってはな。

 俺の攻撃でだいたい破損してしまっている。壊れていない部位を解体したとしても、大した金額にはならないだろう。

 

 それでも、肉は美味で人気がある。

 といっても……肉には消費期限がある。今回のように短期間で大量に討伐してしまうと、市場に多く出回ることもあり、値段ががたっと落ちてしまう。


 金儲けを考えるなら、毎日ちびちび狩るのがいいんだが……このままアーオイトータスを放置し続けていると聖誕祭にも影響が出かねないからな。


 ギルドから緊急の依頼として受けているのもある。依頼達成報酬は通常よりもはるかに高くなっている。

 次のダメージが蓄積するまでの間に、俺はルナに声をかける。


「ルナ、金が手に入ったら何か買いたいものとか、欲しいものはあるか?」

「そうですね……クランの家具が今ギリギリですから、何か追加したほうがいいかもしれません」

「いやそういう事務的なものじゃなくて、おまえ自身が何か欲しいものはないかと思ってな」


 あまりルナが自分からそういうことは言わない。ホムンクルスだからなのかもしれないが、今回の報酬はルナのものでもある。


「……考えたことありませんでした。けど、考えても何も思いつきません。その……こうして、マスターの隣にいられる。それだけで十分です」


 僅かばかりに頬を染めている。

 ……可愛らしい。ただ、そう正直に言われるとこちらとしては照れてしまう。


「そういってくれるのは嬉しいが。いや……今度、何か欲しい物があったら、言ってくれ」

「……欲しいもの、でしょうか?」

「ああ」


 ルナは考えるように顎に手をやり、それから疲れたような顔を作る。


「時間、ですかね」

「じ、時間っ?」

「はい……最近ではクランに関する書類をまとめることが多く。所属している冒険者の依頼達成状況など、すべて正確に情報をまとめる必要がありまして……過剰に報告するのは問題ですし、少なければこちら側にとって不利益ですからね……。ギルドと連携して、周囲にいる魔物の生息状況、分布図、数、鍛冶などで使える魔鉱石の場所等、色々資料をまとめていますから……」

「……」


 ふぅ、とルナが息を吐いた。

 疲れた様子で肩をとんとんと叩いている。な、なるほど……事務的な仕事はすべて彼女たちに任せてしまっていたからな。

 ……あとで手伝おうか。


「……そうか。その今度俺も一緒にやるからそれでなんとか終わらせよう」


 俺が別の提案をしようとすると、ルナは恥ずかしそうに顔を沈める。

 

「そ、その……すみません。冗談です……へたくそで、もうしわけありません……」


 ぷしゅーっと煙でも出てきそうなほどに頬を赤く染める。

 あ、ああ……冗談なのか。

 せっかくルナが見事な演技で冗談を繰り出してくれたのに、なんということだ。


「お、俺も冗談だったんだ。ルナの本気の演技に、付き合おうと思ってな」


 ルナの冗談、ちゃんと伝わっていたぞ、という俺なりのアピールだ。

 そうすると、ルナは顔を少しあげて、ほっとしたように息を吐き、片手を胸に当てた。


「よ、よかったです」


 ただ、あれだな。

 ルナの演技は見事すぎてまず気づかれにくい。

 ……もう少し、表情にからかっています、という感じを出したほうがいいだろう。


「ルナ、もう少し……その、真剣さをなくすというのはどうだ? 俺も一瞬、本気なのか冗談なのか判断がつかなかったんだ」

「……なるほど。それでは、こういうのはどうでしょうか?」


 ルナが表情に変化をつける。

 口元はにやり、という感じで緩められ、少しばかり目は細められる。

 からかっています、という感じが出ている。少し、悪女っぽい気もしないではないが、俺の心はぞくぞくといい感覚がしたので、たぶんきっと悪くない。


「まあ、うまく使い分けられれば、いいと思うな。いつもその表情だとダメだけどさ」

「……なるほど、難しいですね。わかりました色々と調整してみますね」


 ぐっと拳を固めてやる気を見せる彼女に、俺も頷きを返しておいた。


「ルード、そろそろ準備いい?」


 リリィといちゃついていたリリアが首をかしげる。


「ああ、問題ない」


 最後の討伐に向かうとするか。



 〇




 討伐した数はかなりだろう。

 街へと運ぶように頼んでからは、数えるのをやめたからどのくらいかわからない。


「ルナ、何体倒したか覚えてるか?」

「102体ですね」

「……そうか」


 なんか、どっと疲れてしまった。

 ただ、今日は久しぶりにルナとゆっくり話ができた。

 マニシアとよく関わる彼女がどんな会話をしているのか気になっていたので、それを聞けてよかった。


 マニシアは俺のこともよく話題にあげてくれているらしい。

 強い兄として、尊敬してくれているようで、もうそれを聞けただけで嬉しくって小躍りしてしまいそうだ。

 街近くに、セインリアで着陸すると、街の入口はそれはもう人であふれていた。


 いまだ、アーオイトータスの解体をしているところだ。甲羅が頑丈で、解体できる腕を持つ人間が少ないのが原因だ。


「おっ、来たぞ!? この数を倒した化け物たちの帰還だ!」


 俺たちに気づいた彼らが興奮した様子で声を荒らげた。

 よく見ると、街の外であるにも関わらず、冒険者以外の姿もあった。 

 商人や、おそらくは貴族が雇っているだろう執事たちの姿もあった。


 そこで売られているのは、討伐したアーオイトータスの素材だ。

 ギルド職員というよりも、商人っぽいいでたちの人が多くいた。

 アーオイトータスがその場で販売されていて、主婦なども積極的に購入しているようだった。


 本来の値段よりは随分と安い。


「だいぶ値段落ち着いちゃってるな」

「でしょうね。あんだけあればね」


 リリアの言葉にわかっていたこととはいえ、がくりと肩を落とす。

 ギルド職員が俺たちのほうにやってきた。


「リリアさん、アーオイトータスはどうなった?」

「正常な数以下に押さえておいた。あとは、状況を見守っていれば問題ないと思う」


 子どもではあるが、スーイの姿も見かけている。

 あれらが育てば、またバランスが程よく保たれるだろう。


「よかった……ルードさん、ルナさん、ご協力ありがとうございました! 報酬に関しては、あとでギルドによってください。先に依頼達成の報酬をもらいたいということであれば、ギルドに寄ってください!」

「いや……全部まとめてでいいかな」

「わかりました! それでは、忙しいのでこれで! 詳しく聞きたいことがあればリリアさんに聞いてみてください!」


 さっと職員は去っていった。


「これでひとまず仕事は終わり。あとはこっちでやっておくけど、何か質問はある?」

「いや、俺たちも疲れたから街に戻るよ。何かあったら連絡くれ」

「わかった、あんがと」


 リリアとリリィがひらひらと手を振ってくる。

 街に向かって歩き出したところで、俺の前に一人の女性が倒れこんできた。


「大丈夫か?」

「は、はい……すみません」


 その子は、ギルドでスーイ討伐依頼を出してしまい、先輩からいじめられた職員だった。

 彼女は慌てた様子で頭を下げた。 


「あ、ありがとうございます! あ、あなた様のおかげで……私のミスもどうにかなってくれてよかったです……」

「あー、そんな気にするな。俺は報酬をもらえるから受けただけだ」

「……それでも! 本当にありがとうございました! あっ、私、シュンっていいます! まだしばらく街にいるんですよね!? ギルドでお会いすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いします!」

「ああ、よろしく。それと、次からは気をつけてくれよ。職員の仕事は街を守るために大切だからな」

「はい……気をつけます」


 彼女はぺこりを頭をさげ、それから仕事へと戻っていった。

 ……こうして感謝されるのは、悪い気はしないな。








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