聖誕祭1
聖誕祭が行われる大聖堂がある街、セプトまではセインリアを使って移動する予定だ。
セプトに向かうのは俺、ニン、ルナ、マリウスだ。
……セプトのギルドで開かれるクラン説明会にも参加したいため、うちを代表するルナとマリウスにも来てもらうことにした。
ニンも参加してくれるそうだが、彼女は聖女の仕事が忙しいからな。どうなるかはわからない。
それと、リリア、リリィ、聖女候補のベリーもこの場にはいた。
リリアとリリィも、クラン説明会の手伝いで呼ばれているそうだ。
ベリーもセプトの街にいく予定で、本来は陸路で行こうとしていたのだが、ニンが一緒にくればいいじゃないと誘ったのだ。
「ルードさん」
くいくい、とリリィが服の袖を引っ張ってくる。一瞬でリリアが睨むように俺を見てくる。
……リリィとの距離が近いとすぐにあいつ睨んでくるんだよな。これだからシスコンは困るんだ。
「どうした?」
「私、セインリアの背中に乗ってもいいですか?」
「リリィ、危ないよあそこは」
リリアが珍しく、リリィに待ったをかけた。彼女の顔が引きつっている。
「あっ、私お姉ちゃんとも乗りたいんです」
「……うん、その」
リリアが珍しく困った顔をしている。……こいつも高いところ苦手なのか。
そういえば……思い返してみると、以前も顔が引きつっていたような。
「まあ、二人で乗ったらどうだ? セインリア、大丈夫だよな?」
「ぎゃい」
セインリアがこくりと頷く。リリアが俺を見てくる。
……気づかないふりをしておこうか。
「頑張りなさいよリリア」
「うるさい、落ちたら、ルードに外皮を肩代わりさせてやる……っ」
スキルは切っておこうか。
聖竜が体を折りたたむように下げ、リリィとリリアがその背中にのる。リリィを前にして、後ろからリリアが抱きしめる形だ。リリアは一瞬幸せそうにしていたが、セインリアが翼を広げたところで現実を思い出したようだ。顔が引きつっている。
俺たちはゴンドラに乗り込むと、セインリアが飛んだ。
リリアがどんな顔で乗っているのか見てみたかったが、あとで何を言われるかわかったものじゃない。
二人がいないおかげで、ゴンドラ内はずいぶんと広く使えた。
セインリアの移動は馬車に比べるとそれほど揺れないが、それでもまったく揺れないわけではない。
「これだけ距離が近いと、うっかり触れてしまうことがあるかもな」
「あんた変なとこ触ったらぶっとばすわよ?」
「あいにく、無駄なことはしない主義なんだ」
「何が無駄なのかしら?」
マリウスが両手をあげて笑みを浮かべている。
ルナは必死に手元の紙に目を通している。クラン説明会では、女性が話したほうがいいとリリアからアドバイスをもらったので、彼女がそれを行う予定だ。
マニシアと一緒に考えていたそうだ。……うちのクランはまだ明確に何かする、というものがないから、考えるのは大変だっただろう。
入った人が自由に迷宮で鍛えているくらいだ。もちろん、暇を見つけて模擬戦の相手とかはしてやれるかもしれないが……特別、何かしているわけでもない。
「あんまり頑張りすぎるなよ」
「はい。……でも、クランのためにも失敗はできませんから」
「……ああ、頼んだ」
ルナがぐっと拳を固める。……すっかり、彼女もここでの生活に慣れたな。
ルナの隣に座ってるのはベリーだ。彼女と目が合うと、彼女は耳まで真っ赤にしてそっぽを向いた。
な、なんだその反応は。……照れて、いるのか? それとも嫌がられている?
魔剣のとき以来、彼女とは会っていない。いまいち、ベリーという子がわからないでいた。
「……ベリー、空の移動は初めてだと思うが体調は大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。し、心配してくださってありがとうございます!」
ぺこり、と頭を下げてくる。
……初対面のときから随分と態度が柔らかくなったな。
それに少し安堵する。別に好かれたいというわけではないが、嫌われたいわけじゃない。
とりあえず、空の旅は問題なさそうだ。
〇
街の近くで降りた俺たちは、セインリアと一度別れた。
セインリアにはヒューの分身がくっついているので、呼べばだいたいすぐ来てくれる。人を乗せないで飛ぶときのセインリアはかなり速い。
セプトの街は、教会の総本山であることもあり、教会騎士が多い。他の街に比べて圧倒的に…だ。
街全体を見ても、神への信仰を示す白色の建物が多く存在している。
教会騎士についで多いのは、参拝客と思われる人だ。聖誕祭が近いこともあって、人であふれていた。
そんな熱心な教徒たちがいることもあり、すでに街に入る前からニンとベリーは仮面をつけていた。
聖誕祭では仮装して参加する人もいる。今から練習とばかりに変な格好をしている人もいるため、ニンとベリーも別に目立つことはない。
そういえば、聖誕祭で仮装が流行ったのは、そもそも聖女様が変装して祭りに参加するためだったとか。
とはいえ、街の人たちはベリーの修道服をみると、少しばかり気にするようなそぶりを見せる。
「ベリー、私服の方が怪しまれなくてよかったんじゃないか?」
「そ、そうかもしれませんが……私、服とかこれ以外に持ってなくって」
「……そういうものなのか?」
ニンに問うと彼女は短く息を吐く。
「いや、ベリーが興味ないのよ。あんまりそういうのに、ね?ベリー」
「は、はい……」
恥ずかしそうに身を小さくする。
「だから今度あたしが飲みに連れて行ってあげるのよ。聖女就任のお祝いにでもね」
「お、お酒とか飲んだことないですけど、楽しみです!」
……少し不安だな。
遊び慣れているニンはともかく、ベリーは本当に純粋だ。ニンに変な遊びを教えられなければいいのだが。
「ニンに変な場所連れていかれないようにな」
「ひっどいわね。それじゃあ、リリアとリリィはギルドに用事だっけ? ここでお別れね」
「ニンさんも、聖誕祭頑張ってくださいね」
リリィが元気よく手を振っている。
リリアは死んだ魚のような目で、リリィとともに歩いていった。
「ルード。オレも自由行動をさせてもらう。オレは街をじっくりと見てみたい」
「わかったよ。目立つ行動はさけてくれよ」
それだけ伝えると、マリウスは頷いて去っていった。
まあ、ヒューの分身がいるため、連絡はいくらでも取れる。
彼が、問題さえ起こさなければな。
とりあえず、俺たちは教会を目指して歩いていくことになる。
「ルードたちはギルドに行かなくていいの?」
「まあ、別に急ぐ必要もないな。……それに、聖女様二人をこんな人であふれた街に残すのもな」
二人を教会まで護衛しないとな。
「それじゃあよろしくね、ルード」
ニンは嬉しそうな声をあげ、後ろで手を組んで歩いていく。
それにしても……いつも祭りの時期になるとこの街は凄いな。
ルナも興味深そうに周りを見ている。今くらいはクラン説明会を忘れて楽しんでほしいものだ。
やがて、教会本部である大聖堂についた。
白塗りの建物は、他の教会に比べて少し古めかしい。
長い歴史が詰まっていることの証でもある。
「教会本部……たくさん人がいますね」
ルナの驚いたような顔に、頷く。
「そうだな。……ここまでくれば大丈夫か?」
「ええ、ルードたちの宿くらいは用意しておくから、またあとで連絡頂戴ね」
ニンが小さなヒューをつかんでみせる。
「ああ、ありがとな。それじゃあ、ニン、ベリー。またあとで」
「は、はい……ありがとうございました」
ベリーが急いだ様子で頭を下げる。
彼女らが教会騎士に声をかけ、中へと入っていくのを確認してから、大聖堂に背中を向ける。
「マスター、これからギルドですか?」
「ああ、クラン説明会について聞いてから、マリウスと合流して依頼でも受けに行くか? 最近、あんまり体動かしてないよな?」
「はいっ、行きましょうか!」
ギルドへと移動した。……どこのギルドも騒がしさは変わらないな。
リリアとリリィがいて、二階へとあがっていくのが見えた。彼女たちがこちらに気づき、リリアが「ついてきて」とばかりに顎をあげた。
階段のところで待っていた彼女たちのもとに向かう。
「どうしたんだ?」
「ちょっと色々頼みたいことがあるのよ。あと、クラン説明会に関しての話もしておこうと思ったんだけど」
「そうか……」
頼みたいこと、というのが少し気になった。
二階にあがると、クラン説明会の会場の設営が行われていた。別にそれほどしっかりとしたものではない。
どこでどのように行われるのかなどリリアが話してくれる。別のクランと思われる冒険者の姿もある。
……ルナが頑張って紙にペンを走らせていく。
説明会では各クランに一定の場所を与え、同時に行われていく。
俺も説明会を見たことはあったので、想像はしやすかった。
「まあ、だいたいこんなところだけど何か聞きたいことはある、ルナ?」
リリアが優しい声音で首をかしげる。
「いえ……大丈夫です。ありがとうございます」
「それならよかったわ。そんでルード、頼みたいことなんだけど」
「……なんだ?」
「大量発生してしまった魔物の討伐をお願いする。私も手伝うから」
「……大量発生?」
ルナとともに顔を見合わせる。
このギルドで何か不手際でもあったのか、リリアの顔が険しかった。