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昇格試験2

 

 シナニスたちの力がみたいそうだ。

 リリアがそういったため、俺たちは一緒に戦うことをやめ、リリアたちと並ぶように歩いていた。


 俺たちの力はもう十分見たからいいそうだ。そもそも、俺たちは別に同行しなくてもAランクに昇格させるつもりだったそうだ。それでいいのか試験官。


 とにかく、そういうわけで、シナニスたち三人で戦うことになった。

 目標であるビンテコングを発見し、三人が距離を詰めていく。びくっと、ビンテコングの体が揺れ、周囲を警戒するように見ていた。


 近くに俺たちがいることに気づいている様子ではあった。

 だが、正確な位置までは把握できていないようで、警戒を強めている様子だ。


 アリカの魔力が高まっていく。

 先制攻撃は魔法で仕掛けようというところだろうか。


 うまく魔力を濁してはいるが、ビンテコングもさすがに間抜けな魔物ではない。

 おおよその、場所に見当がついたようで、ビンテコングは近くの木々を鷲掴みにして、力任せに引っ張る。


 めきめきと木が悲鳴をあげ、土がめくれあがる。

 ビンテコングが引っこ抜いた木を構える。まるで、それを武器として使用するかのようだ。


 だが、それに臆することなく、ビンテコングの右手側からラーファンが飛び出した。

 同時に『挑発』を放ったのだろう。アリカに向いていた注意を一気に奪い取る。


 アリカが魔法を放つ。シナニスの体に魔力の膜がまとわりついた。

 シナニスの肉体を強化する魔法だ。


 その魔法に動かされるようにシナニスが、逆側から斬りかかる。

 振り抜いた右手の剣が、ビンテコングの左脇腹へと当たり、血が噴き出した。


 一度距離をとったシナニスへ、ビンテコングの木が襲いかかる。


「このビンテコング、毛に魔力通してやがるな……っ」


 毛に魔力を通して、鎧のようにしているのだろう。

 それは確かに厄介だな。


 だが、シナニスとラーファンが即座に打ち合わせをして、動き出した。

 シナニスたちもそれを予想していなかったわけではないのだろう。


 シナニスがビンテコングの攻撃をかわしきったところで、ラーファンが再び『挑発』を放った。

 ビンテコングが何度か攻撃を仕掛けるが、ラーファンは器用に盾で防いでいく。


 先に壊れたのはビンテコングが持っていた木だ。丸太のようなそれは、いくら頑丈とはいえ盾と打ち合って耐えられるほどではない。


 苛立った様子でビンテコングは胸を何度か叩き、それから腰を落とした。

 チャンス、とみたのだろう。ラーファンは注意を集めるために攻撃へと転じようとしたのか、一歩を踏み込んだ。


「ラーファン、突っ込むな!」


 シナニスが叫び、ラーファンは足を止める。

 その瞬間、ビンテコングはその場で激しく回った。


 地面がめくれ上がり、火花でもでそうな勢いだ。

 両腕を広げ、回転を始めたビンテコングは周囲の木々を薙ぎ払いながら少しずつ進む。


 巻き込まれればひとたまりもない。先程まで武器として使われていた木は、今は木屑となって宙を待っている。


 ラーファンとシナニスは合流し、アリカは姿を隠しながら魔法の準備を行なっている。


 アリカの役目はそれだけではない。周囲から魔物が近づいていないかも、探知魔法で確認しているはずだ。


「よく、周りが見えているわね」


 感心したように、ニンが呟く。

 ……彼らの戦いに、不安はない。安心してみていられた。


 ビンテコングは、自分の攻撃をかわしきったシナニスたちにますます苛立った様子だ。

 近くに落ちていた人間の頭ほどの岩を掴み上げ、それをシナニスへと投擲する。投げ終わったビンテコングがよろめいたのを見るに、相当に力を込めたのだろう。


 シナニスとラーファンは左右にかわす。ラーファンがすかさず、注意を集めると、ビンテコングは膝を折り曲げ、勢いよく飛びかかった。


 ラーファンが盾で受け止めるが、衝撃に弾かれる。


 近くの木に尻尾を巻きつけ、反動を利用するようにして、立て直す。

 ラーファンに狙いをつけたビンテコングに、シナニスが切りかかった。


 彼の剣には風の魔法が付与される。アリカの魔法だろう。

 シナニスが剣を振り抜くと、鋭い風の刃がビンテコングの毛を切り刻む。


 ビンテコングが腕を振り回すが、シナニスはそれをかいくぐってかわす。

 ラーファンが注意を引きつけ終わったところで、リリアがぷっと笑う。


「ハゲたね」


 それがシナニスの狙いだったのだろう。

 ビンテコングの体を覆っていた毛皮が、部分的に剥げていた。

 これなら、剣が阻害されることもない。考えたな。


 ラーファンが盾を振り抜くと、ビンテコングの身体がよろめいた。

 スキルを発動したようだ。ビンテコングが一瞬硬直して、シナニスが剣を振り抜く。


 彼の素早い剣が、一瞬でビンテコングの肌へと突き刺さる。

 血が吹き出し、よろめいたビンテコングは鼻息荒く周囲を睨み付けると、ある方角へと視線を向けて走り出す。


 それは逃走だ。

 アリカが慌てた様子で追いかけようとしたのを、シナニスが止める。


「あいつには、オレたちの魔力がついているんだ。探知は余裕でできるんだし、焦る必要はねぇよ。体勢を立て直し次第、向かうぞ」


 シナニスとラーファンはびっしりと汗をかいていた。

 余裕そうに戦っていたが、それはあくまで表向きだ。


 対策をたて、考えてきた戦いが通用しているからこそ、有利に進めているだけだ。

 気を抜けば、何かイレギュラーが起こり崩れれば、その瞬間パーティーは瓦解するかもしれない。


 その危険性を十分に理解しているからか、一度休憩を挟んだのだ。


「試験官様の目から見て、あれはどうなのよ?」


 ニンがリリアに問いかける。彼女は軽く肩を竦めた。


「まだ、Aランクの依頼を受け続けるのは難しいと思う」

「……そうね」

「けど、十分Aランクに到達できるだけの力はある。ルードはどう思う?」


 ちらと、リリアがこちらを見てきた。

 難しいことを聞いてくるな。


「確かに、ここでAランクに昇格できれば、あいつらは喜ぶだろうけど……まだ、早いとおもう」


 戦いはぎりぎりだ。確かに、負けることはないのだろうが、何か一つイレギュラーが発生してしまえば、崩れる可能性がある。


「クランリーダーとしては、もっと余裕がある戦いができるようになってからにしてほしいな」


 ……まあ、彼らは落ち込むかもしれないが。

 リーダーとして、危険が残る以上、無理にランクアップはしてほしくはなかった。


「そう、ね。あたしもそう思うわ」

「ふむ……オレも同じだ」


 ニンとマリウスも頷いた。

 リリアは顎に手をやり、それから唇を結んだ。


「わかった。こっちで、色々と検討してみようと思う。ね、リリィ」


 リリアが珍しく少し頬を膨らませた。リリィはびくっと肩をあげ、触れ合っていたリスを逃がした。



 〇



 シナニスたちがビンテコングを追い詰め、討伐したのは、それから一時間もしないうちだった。

 ビンテコングは最初の戦いで随分と体力を削られていたようだった。


 姿を発見したシナニスたちが、補助魔法を受けた後、一気に攻め込む事で、討伐してみせた。

 ただ、シナニスたちはかなり疲労していた。この場でもう一度ビンテコングと戦えといわれれば、恐らく厳しいだろう。

 とりあえず、彼らには休んでもらい、ビンテコングの討伐を行っていく。

 

 俺、マリウス、ニン、リリア、リリィの五人だ。

 ちょうどいま、ビンテコングをリリアが切り伏せて見せた。その隣では、負けじとマリウスがビンテコングの首をはねている。


「久しぶりね、四人で行動するの」


 リリアがぽつりと呟いた。確かにな。以前はマリウスと戦って以来か?


「そういえば、そうだな」

「話を聞いたんだけど、また私たちに迷宮攻略の依頼が来ているって本当なの?」

「まだ、確定した話じゃないが、巨大迷宮の攻略を行ってほしい、という話はあるそうだ」

「そう。けど、キグラスも必要なの? かわりに、マリウスと誰か追加すればいいんじゃない?」

「……まあ、それもそうだな」


 キグラス、か。

 夢でみたキグラスは何か強い決意を固めた目をしていた。もともと、英雄に憧れた男だ。力を求めた彼が一体どんな選択をしたのか――。

 少しだけ、気になってはいた。


 ビンテの森入口に到着すると、セインリアとともにシナニスたちがいた。

 夕食の準備をしているようだ。シチューの良い香りが鼻をくすぐる。

 そういえば、シナニスが細かく食材や調味料を用意していたな。


「おう、みんな戻ってきたな。飯の準備はできてるぜ」


 今日はここに泊まり、また朝早くからビンテコングを倒し、帰還する予定だ。

 

「し、師匠……ちょっとこれ、作ってみた」


 ラーファンがすっと俺のほうにシチューを差し出してきた。

 ……どうやら、ラーファンはわざわざ俺のために別に一つ料理を作ってくれたらしい。


 ちらと見るとシナニスが顔を顰めていた。何やら体を動かして、アピールしてきている。それはアリカもだ。まるで危険を告げるかのようだ――。

 ……なるほど、な。

 ラーファンが一緒に作った場合、被害が全員に出る。だから、わけて作った、というところか? 犠牲は俺だけで済む、と。……ラーファンってそんなに料理苦手なのか?


「……ああ、ありがとな」


 ラーファンがこちらをうかがうように見てくる。皿に入ったシチューは見た目は悪くない。なら、きっと大丈夫だろう。

 一口食べて、俺は即座に状態異常にかかっていないかを確認した。大丈夫だ。一瞬意識が飛びかけた。なんだこのスパイシーな味付けは。


 『健康体』のスキルがなかったらやられていたかもしれない。


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