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昇格試験1

 



 昇格試験の話を聞くため、俺たちは冒険者ギルドに来ていた。

 この場にいるのは、俺、ニン、マリウス、シナニス、ラーファン、アリカの六人だ。この六人で、Aランク昇格試験を受けることになっていた。


 すでに全快しているリリアが、淡々と内容を説明していく。

 昇格試験は、ビンテという森で暴れているビンテコングの討伐だ。


 ビンテコングと呼ばれる魔物は、本来ならばBランク程度の魔物だ。

 だが、異常な進化を遂げてしまい、現在森の中を好き勝手に暴れているらしい。その数が凄まじいらしく、現在ビンテの森には人が近づけない状況となってしまっている。


 一刻も早く討伐しなければならないのだが、なかなか受けたがる冒険者がいないのが現実だった。


 報酬金額は良いが、ビンテコング自体、強い魔物だ。

 奴らは力と速度が単純に優れている。魔法といった搦め手は使わないし、そもそもビンテコング自体、魔法への耐性も高かった。


 完全な力勝負となるため、冒険者の中でも奴らを討伐できる人間が少ないのが現実だ。

 そこまでの話を聞いたシナニスが眉間にシワを寄せた。


「試験としての依頼っつーか、誰も受けたくないからじゃねぇのか?」

「まあ、それも多少はあるかもしれないが、ビンテコングほど実力がはっきりと出る魔物もいない。試験としてはうってつけとも思えるがな」

「……ま、やべぇ魔物だってのは聞いてるぜ」


 彼なりに調べて回ったはずだ。声は少し震えている。


「試験官として、私とリリィも同行するから」

「了解だ」

「移動は聖竜を借りてもいい?」

「ああ、準備は出来てる」


 リリアがこくりと頷いて立ち上がる。俺たちはクランハウスに移動し、そこにまとめておいた荷物を回収する。

 今回の依頼は一日以上はかかる見込みだ。大量のビンテコングを討伐し、森を本来あるべき姿に戻すことで、依頼達成となるからだ。


 準備を終えたところで、俺たちは用意しておいたゴンドラへと入る。

 相変わらず、ニンはなれていないようだ。ラーファンたちが意外そうに彼女を見ている。


「リリィ、あんまりはしゃぐなよ。落ちるぞ」


 逆に、普段は落ち着いているリリィが、今はあまりにもはしゃいでいた。

 聖竜に乗るのが楽しみというのはリリアから聞いていたが、これほどとは。

 リリアも心配そうにリリィを見ていた。


「大丈夫です! 落ちたら、ルードにダメージを肩代わりしてもらいますから!」

「解除しておく」

「だめですよっ!」


 リリィは籠から身を乗り出すようにして、景色を楽しんでいた。


「……そんなに心配なら、リリィの隣にいたらどうだ?」

「けど、リリィは今一人の時間を楽しんでいる……普段、私から離れたがらないリリィが……だから、ここは我慢しないと」

「色々考えているんだな」


 リリアとリリィを眺めていると、マリウスがこちらへと近づいてきた。


「ルード、確認しておきたいんだが……ビンテコングとやらは強いのか?」

「まあ、厄介ではあるな。それなりの知能を持っていて、連携もできるからな」

「そうかそうか。けど、こっちは六人もいるんだ、どうにかなるだろ?」

「……まあな。できるから、この昇格試験の話が来ているんだしな」


 今回の試験が難しいということはないだろう。軽い息抜きのつもりで戦えば、問題なく達成できるはずだ。


 ビンテコングが生息しているビンテの森が見えてきた。

 陸路でいけば数日はかかるはずの道を聖竜のおかげで半日かからず移動できた。


 リリィは終始はしゃいでいたが、ゴンドラから落ちることなく、リリアがホッとした様子で息を吐いている。


「セインリア、とりあえず入り口に着地してもらっていいか?」

「ぎゃう」


 セインリアがそう鳴くと、一気に地上が近づく。体を襲う重力に顔をしかめていると、地面にゆっくりと降りた。


「ありがとな。また後で呼ぶから、それまでは自由にしててくれ」

「ぎゃあ」


 セインリアは再び翼を広げ、空の彼方へと消えていった。

 リリィが楽しそうに手を振っていて、リリアもそんな姿を見て幸せそうに目元を緩めている。シスコンめ。


 試験会場である森についたことで、シナニスたちの表情も引き締まっていく。


「それじゃあ、試験を開始するわ。無理だと思った段階で言ってちょうだい」


 リリアの言葉に、俺たちは揃ってうなずき、ビンテの森へと入っていった。



 ○



 広大なビンテの森で、魔物を見つけ出すのは難しいものだ。本来であれば――。

 だが、ビンテコングが異常発生しているというのは本当のようだ。


「また、見つけたわね」


 ニンが顔を顰めながら、俺を見てきた。

 ……またか。さっき戦ったばかりだぞ。

 

「さっきと同じで行くぞ。シナニス、ラーファン、マリウスで削って、二人は周囲の警戒をしながら、補助魔法で援護だ」


 全員がこくりとうなずいたところで、俺が前に出る。

 森の木の実を食べているそいつらの数は三体だ。

 それぞれ、談笑でもするかのような雰囲気でいたが、俺に気づいたようだ。


 体を起こす。奴らはなにか話しあったあと、俺を見て、ニヤニヤと笑い、ゴリラ特有の動きと共に近づいてくる。

 俺の前に立ち並ぶ。奴らはドラミングをしたあと、飛びかかってきた。


 『挑発』を発動する。ビンテコングたちの注目を集め、大盾を構える。一体が思い切り殴りつけてきたが、軽い。

 ……昔は、もっとビンテコング相手に苦戦していたものだ。俺も、ちょっとずつではあるが成長している。


 大盾で殴り飛ばす。仲間がやられたからだろうか。別のビンテコングが声を荒らげながら飛びかかってきた。

 それらも大盾で受け止め、蹴りや殴りつけて距離をあける。彼らは俺を突破しようと躍起になっていく。

 すでに、周囲には自分らを倒すために準備を整えた冒険者がいることなど、気づいてもいないようだ。


 ビンテコングの悲鳴があがった。見れば、ぱっくりと体を斜めに斬り裂かれていた。マリウスだろう。

 次いで、別のビンテコングが倒れた。ラーファンとシナニスだ。

 最後の一体は、マリウスたちに目線を向けたが、俺が『挑発』を放つと、三人の存在など忘れたように飛びかかってきた。


 大盾で跳ね返し、よろめいたビンテコングをマリウスが仕留めた。

 それを離れたところで見ていた試験官たちは、パチパチと手を叩いている。


「相変わらずの馬鹿力だね」

「他の人達も、ビンテコング相手に引けをとらない動きをしていますね」


 その言葉を聞けて、シナニスたち三人はほっとした息を吐いている。

 これは一応試験だからな。……けど、あんまり緊張感はない。騎士学園にいた頃の試験と比べれば、気楽なものだ。

 あんまり、ランクを気にしていないのもあったかもしれない。


「ルード様! こっちに魔物が近づいてます」


 アリカだ。魔物が近づいている? 確かに耳を澄ませると、不気味な羽音が響いた。

 ビンテの森で羽音がするような魔物は確か、ビートルフライとかいう魔物だったか。


「このまま迎え撃つぞ」


 短く全員に指示を出し、魔物がやってくるほうに近づく。

 現れたのは巨大な昆虫だ。

 鋭いハサミを持ったそいつの全長は、人間の子どもほどの大きさだ。数は二体。


 不気味な羽音を繰り返し響かせている。

 俺が『挑発』を発動する。

 ビートルフライはその羽をより一層激しく動かし、俺へと飛びかかってきた。鋭いハサミで切り裂いてこようとしたが、大盾で受け止める。もう一体が頭上から回転しながら落ちてきた。

 大盾で一体を弾き、剣を振り上げる。魔剣がわずかにきらめき、魔力によってビートルフライを弾いた。


 そこへ、マリウスが飛びかかる。よろめいていたビートルフライの背中に刀を突き刺した。液体が飛び散り、マリウスの全身にかかると、彼は嫌そうな顔を作った。自業自得だ。

 それを見ていたラーファンが顔を顰めた。ラーファンがわずかに速度を緩め、シナニスがビートルフライに飛びかかった。今ラーファン、汚れるのが嫌で手を抜いたな。


 シナニスは問題なく、一撃で魔物を仕留めた。

 同じようにシナニスも汚れる。


「おい、ラーファン! 今てめぇ、オレに任せやがったな!」

「信頼、している」

「便利な言葉だなっ!」


 シナニスはアリカに水魔法をかけてもらって、体をきれいにしていた。

 マリウスにも、俺とニンで水をかけてやってから、温風で体を乾かしていく。


「ここの魔物は魔王と比べれば、強くないな」


 そりゃあそうだろう。確かに最近はやばいやつとばかり戦っていて、感覚がおかしくなっていたな。

 それにしても、予想以上に安定していた。シナニスたちも、俺の想像よりもはるかに動けるようになっていたからだろう。


 この調子で、ビンテコングを倒していこうか。






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