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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
15/198

出会いと別れ



 次の日。

 自警団本部は、忙しい様子だった。


 あれだけの宴のあとで、二日酔いの症状を訴える人もいたが、それでも事態は急を要する。


 迷宮が発見され、そっちの対応をどうするかで困っているようだ。


「迷宮が発見された場合の対応にこんなにあたふたするもんなの?」


 ニンが首をかしげる。

 王都などで暮らしていたニンからすれば、迷宮の発生は馴染みのある問題だ。


「当たり前だ。迷宮が出現しました、はいそうですかで納得できる方がおかしいんだよ」


 王都とかじゃ月に一度くらいで発見されるらしいからな。

 それに慣れ切っているニンは首をかしげている。


「よかったルード! これから呼びに行こうと思っていたんだ!」


 通路から現れたのはフィールだ。

 息を切らしながら現れたところを見るに、俺が来たことを知ってすっ飛んできたんだろう。


「迷宮が発見されたあと、どうすればいいのかさっぱりなんだ。二人に協力をお願いしたい」

「そういうことか。ニン、行ってみるか」

「そうね。今日は学び舎で勉強、なんて空気じゃなさそうね」


 少し残念そうにニンが肩をすくめた。

 俺もな。


 たまには子どもたちに剣を教えてやりたかったんだけどな。


「迷宮を発見したことは連絡済みなのか?」

「あ、ああ。こういうときは王都のギルドに連絡するものと聞いていたから、そこにな」

「それだけじゃないほうがいいな」


 俺が言うとフィールがえ? と目を丸くする。


「他にはどこに連絡するんだ」

「ここから一番近い大きなギルドに連絡しておいたほうが、対応しやすいんだ。だから、クーラスの町にも連絡したほうがいい」


 最終的に、近くの町から調査員が派遣される。

 王都のギルドからそちらに伝えるよりは、アバンシアから連絡したほうが情報は正確だし、速い。


 それだけ、調査員の派遣も迅速に行ってくれるはずだ。


「クーラス、か。確かちょうど商人が立ち寄っていたはずだ。その者に頼んでおこう。……ほ、ほかには?」

「以上、でとりあえずの対応は大丈夫なはずだ。……な、ニン?」


 大丈夫だよな? 俺だってこういう対応をしたことはない。

 知識があるだけだ。


「迷宮に関してはそれでいいわね。それと、少しだけいいことを教えてあげるわね。迷宮ってね、町を盛り上げる大事なタイミングなのよ」

「……ふむ。確かに、そうだな。町を作るときは、水の近く、迷宮の近くともいうくらいだしな」

「そういうこと。迷宮の難易度次第だけど、これからこの町を冒険者が利用する機会が増えるかもしれないわ。少なくとも、様子見で足を運ぶ冒険者は大勢いるわ。みんな、自分にあった効率の良い最適な狩場を探してるからね」

「……なるほど。ならば、冒険者たちの宿が必要になる、な」

「そうね。こういうとき、ホムンクルスを買い入れられる経済力があれば、それらに宿の運営を任せるってのが一番だけど……」

「うーむ……おそらく、現状では難しいな」


 フィールが眉間に皺を寄せる。

 ……町の発展か。

 それは俺もどうにかしたいと思っていたことだ。


 この町は静かで過ごしやすい良い場所だ。

 けど……何もない。そのため、若い人たちが別の町へと出て行ってしまうことが多い。


 どんどん人口は減ってしまい、今では老人ばかりだ。

 いつかは、この町はなくなってしまうのではないか、と言われている。


 ……それは俺も嫌だ。


「自警団の者や、手の余っている人たちで対応するしかないんじゃないか?」

「わかった。相談してみよう」


 俺の提案にニンも頷く。


「いずれは、何体かホムンクルスを購入しておくことをお勧めするわ。一切教育されていないホムンクルスなら、比較的安価で購入できる。こっちで指導してあげる必要があるけどね」

「なるほど、な。ありがとう、ニン」

「無駄に覚えさせられた知識が役に立ったみたいでよかったわ」


 ニンの物言いに、フィールは苦笑する。

 公爵家の娘だけあって、そういったことは詳しいようだ。


 フィールが大きく頭を下げた。


「ありがとう、ふたりとも。とりあえず、言われたとおりの対応をしてみよう」

「また何か困ったことがあったら言ってちょうだい」


 フィールとニンはお互いに笑いあう。

 結構仲良くやっているようで安心した。


 昔に比べて、ニンは柔らかくなったしな。


「町と周辺の見回りは俺が行ってくるよ」

「すまない、頼む。人手がいるようなら言ってくれ。誰かしらを出そう」


 ……できる限り、頼まないようにしたいな。

 自警団に余っている人員はいなそうだしな。


 用事も終わったので、本部を後にする。


「それじゃあ、巡回に行きましょうか」

「ニンも来るのか?」


 一応怪我人だ。

 かなり治ってきたようだが、それでもな。


「何よ。あたしと二人きりだと緊張しちゃうとか?」

「するかよ。怪我が悪化しないように気をつけろよ」

「そのくらいわかっているわよ」


 ニンがからっとした笑顔を浮かべて隣に並んだ。

 いや、まったくしないというわけじゃないけどな。


 彼女だって女性で、たまにどうしたって意識してしまうときがある。

 さっきの笑顔とか、結構俺の好みだった。


 ドキリとした心を落ち着かせるため、マニシアの笑顔を思い浮かべた。



 〇



 町を歩いていく。

 さすがに昨日の今日で冒険者がいきなり増えるということはなかったが、馴染みのある商人は金の匂いを察知して色々と準備を始めているようだ。


 馬車の待合い所に、シナニスたちの姿があった。

 田舎に寄ってくれる馬車は数時間に一本だ。


 時間もかなり適当だ。魔物に襲われることもあるため、仕方ないといえばそうなんだけど。

 予定では、もうすぐ馬車が来るようだな。


「おっ、ルードじゃねぇか」


 シナニスは相変わらずの口調ではあったが、初めのような敵意はない。

 軽い調子で片手をあげてきたので、同じように返す。

 それは彼のパーティーメンバーもそうだった。


 彼の仲間たちは俺の前まで来て、一礼をしてきた。

 目をキラキラと輝かせていて、さすがにこれほどのあからさまな羨望を受けたことがなかったため、一歩距離をあける。


「別の町に行くのか?」

「まあな」

「おまえたちはここの迷宮攻略はしていかないのか?」


 未知の迷宮というのは、宝の山だ。

 他の迷宮では手に入れにくい素材を獲得できるかもしれないし、宝だってあるかもしれない。

 まさに、多くの冒険者の憧れだが、シナニスは首を横に振った。


「オレたちは今、武者修行の旅をしてんだよ。だいたい、一か月を目安にあちこちを転々としてんだ」

「まさしく、冒険者って感じだな」


 昔の冒険者はそんなものだった。

 それぞれが自由に生きていた。


 今では一つの町に定住し、ギルドと契約をし、専属冒険者になる者もいる。

 やっぱり、安定はいいものだ。


「人間ってのは一つの環境にいると段々とだらけちまうからな」

「確かに、そうだな」


 俺も、ここ最近よく感じている。

 マニシアと離れたくなくって、今回はずいぶん長く町に滞在してしまっている。


「次はどこに行くんだ?」

「冒険者の街、ケイルドだ。オレ様のこの愛用の剣がいい加減疲れてきたからな。一度そこで鍛えなおしてもらってくる。色々素材も手に入ったしな」


 にやり、と彼が口元を緩めた。


「そうか」


 俺がそう言うと、脇にいたパーティーメンバーの女性がシナニスを押しやり、俺のほうに顔を近づけてきた。


「シナニス、嘘ばっかり。ケイルドでおいしい店があって、そこに興味あるだけなんですよ。それに修行だなんだとさんざん理由つけてはあちこちでうまいもの食べたいだけなんですよ。あっ……その私、アリカって言います! フィルドザウルスのときは、危険なところを助けていただいて、ありがとうございました!」

「テメッ! 邪魔だ! まだオレの話は終わってねぇ! ルード! ……次に会うときはあんたよりも強くなっててやるからな!」


 ……そうライバル視をされても困るんだがな。

 俺だって、鍛えなおさないといけなくなる。


 負けてられないな。

 馬の鳴き声、そして車輪の音が近づいてくる。


「それじゃあ、またどこかでな、ルード! 弱くなってんじゃねぇぞ!」

「ああ……っ」


 シナニスたちは馬車に乗っていった。

 冒険者には出会いと別れがよくある。


 俺は特に、その回数が多い。

 わずかな寂しさもあったが、次会うときを楽しみにしていよう。


「あんたも、そろそろ活動を再開するの?」


 彼らが去っていくのを見ていたニンが、小首をかしげた。


「……そうだな。最近、足を運んでいない地方がある。迷宮がまたいくつか増えているし、今度はそっちに行こうかと考えている」

「そうなのね。あたしも、あんたについていこっかな」

「教会に叱られるぞ」


 そりゃあニンの回復魔法があれば、俺の負担もずいぶんと減る。

 来てくれるのならば嬉しいが、彼女には立場がある。


 聖女で、公爵家の娘だ。

 自由に行動できることは少ない。


「別に。最悪聖女なんてやめてもいいわよ」

「家はどうするんだ」

「追放されてもいいわよ。所詮あたしは、三女なんだしね。それにあんたについていくっていえば喜んで送り出してくれるわよ。強い血が欲しいんだしね」


 ……そういうこと、なのだろう。

 ただ、俺はマニシアを治すまでそういうことは考えるつもりはない。


 意識しないように生きているつもりだ。

 相手には失礼だと、わかっている。


 けど、俺は弱い人間だ。

 今ある幸せに、甘えるようになってしまうかもしれない。


 そうなったとき、誰がマニシアを助ける? 別の幸せを見つけてしまい、それを大切に思ってしまう自分がいたら? そちらを優先してしまう自分がいたら――。

 だから、俺は考えない。鈍感に生きる。


「親のいない俺から一つ助言だ。いつか、帰れる場所は残しておいたほうがいい。心の余裕がまるで違う」


 どこかに、頼れる場所があったほうがいい。

 俺にとってはマニシアだ。

 帰れば、彼女がいる。それだけで、今日を頑張れる。


「忠告ありがと。あたしなりに、考えてみるわ。教会にも、家にもなんだかんだ尽くしてきたつもりよ。これからはあたしのやりたいことをやったって怒られないでしょ? もう、子どもじゃないんだし」

「そう、か。まあ、わかった。最後はおまえ自身が決めればいい。ただ、無茶なことはするなよ」

「わかったわ。ありがとね、ルード」

「何も感謝されることはないだろ」

「あんたのおかげで、今のあたしがいるのよ。だから、その感謝」


 昔に比べて笑顔が増えたものだ。

 それが俺のおかげ、というのだろうか。


 特にこれといって仲が深まることをしたつもりはない。

 大喧嘩なら、何度もしているがな。



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