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呼び出し4


 次の日の朝。

 セインリアとともに王都へと向かい、近くの街道で降りた。直接向かうと、さすがに事情を知らない人たちに驚かれてしまうからだ。

 そこからは、歩いて王都へと向かう。もう見える位置まで来ていたので、そこから王都への到着は早かった。


 ラスタードに気付いた騎士が、門のあたりで慌てた様子で敬礼をしている。

 ラスタードは気にしなくていいといった様子で片手を振り、俺たちは騎士の隣を過ぎていった。

 王都の入出に関しては、かなり厳しい。ラスタードは左胸に家紋をつけているから簡単に通ることができたが。


 王都には裕福な人間が集まっていて、騎士たちはより一層警戒を強める必要がある。……逆にいえば、王都で仕事をもらえるような騎士は、基本的に皆エリートだ。


「それじゃあ王宮に向かおうか」

「……緊張、してきたな」

「そう固くならなくても大丈夫だよ。最低限のマナーさえ守っていれば、向こうだって冒険者だと思って接するんだからね」


 ラスタードはそういってくれるが、相手は国で一番偉い人なんだ。緊張しないはずがないだろう。

 城下町を抜けていく。密集するように高い建物がいくつも並んでいて、閉塞感のようなものがある。人の行き来も激しいな。もう少し落ち着いた空気の方が好きだ。


「おおっ、クーラスも大きかったが王都はさらに大きいのだなっ」


 マリウスがきょろきょろと周囲を見て楽しそうにはしゃいでいる。騎士たちを見ては、あっちのほうが強そうだ、などと騎士たちを見比べている。


「マリウスは本当に元気だね」

「まあな」


 俺とラスタードは子どものようにはしゃぐマリウスに苦笑を向ける。


「ラスタードは……王宮に戻ってから仕事に戻るのか?」

「とりあえず、ルードを引き渡したら……たぶんそうなるんじゃないかな?」

「確か今は、全国の領主とかの管理をしているんだったか?」

「そうだね。僕たちの基本的な仕事は、国内の領主たちの指導、または不正が行われていないのかを探すことだからね。ただ、僕はまだ父について仕事を学んでいる段階でね。騎士で言えば従卒みたいなものだよ」

「なるほどな」


 騎士には従卒と呼ばれるものがある。騎士の召使いのようなものだ。

 騎士学園を卒業したものは基本的にはここからの始まりとなる。

 と、いっても一年もすれば、従卒は卒業だ。よっぽどの問題児でない限りは、そのまま騎士になれる。


 ……ただ、騎士の受勲式には、結構な費用がかかるため、平民上がりの人によっては、叙勲式に参加するための費用が捻出できずに、もうしばらく従卒として金を稼ぐ人も珍しくはない。また、騎士より給料は少ないが、騎士よりも責任も少ないため、一生従卒でいい、という人もいるとか。


 騎士になるにはもう一つ、小姓から始めるというのもある。さらに幼いうちから騎士について指導してもらうのだが、最近ではあまり採用されていない。

 そのかわりが、騎士学園という形だ。

 

「ここが王宮だ」


 城下町を抜け、貴族街をさらに進んだ先に、城があった。大きなアーチ状の門があり、その奥には手入れの行き届いた綺麗な庭が広がっている。

 さすがに、城自体は近くでみると古い造りであるのがわかるが、建築士が熱意を込めて造り上げたのだろうというのは、よくわかった。


「まずはここが王宮で、僕たちの仕事場や、使用人たちの主な職場だね」

「……ああ」

「それで、向こうが修道院だ。あっちは、ニンのほうが詳しいんじゃない?」

「そうね。何度か行ったことがあるわね」

「あそこに司祭様もいてね。まあ、この王宮での司祭様の仕事は客人が来たときのために舞踏会の計画と実行をするくらいかな」

「そうね。あとは、修道院で指導とかもしていたわね」

「三人のために、明日には舞踏会が開かれる予定なんだ。楽しみにしていてね」

「へ?」


 なんだそれは。

 舞踏会に俺が参加するのか? ラスタードは悪戯っぽく笑う。


「今回呼んだ理由は二つあってね。一つは、世界会議に向けて。だけど、もう一つ……魔王を撃退したその功績をたたえて勲章を与えるためなんだよね」

「は!?」

「まあ、やっぱり驚くよね。ルードはそういうのあんまり好きじゃないと思って、黙っていたんだがごめんね」

「……そりゃあそうだ。俺はあまり、そういうのが好きじゃないんだ」


 騎士学園のときも、成績上位者が発表されていたが、それで何度かいじめのようなものを受けたことがある。

 それから、目立つのがあまり好きではなくなった。


「別に自由がなくなるわけではないよ。そのあたりは確認している。国として、魔王を撃退できるだけの力を持った人間がいる、というのをアピールしておきたかったんだ。そういう特別な人間がいるということで勲章を与えるだけだよ」

「もらうのは俺だけなのか?」

「まあね。あの場にいた代表者というわけでね。ゼロッコさんにも確認しての決定だよ」


 ……魔王を撃退できたのは、俺一人の力ではなかった。だから、それをもらうのは明らかに過剰だ。

 ……ゼロッコさんも何も言っていなかったが、裏でそんなことを画策していたんだな。

 ゼロッコさんが愛嬌のある顔に悪戯っぽい笑みを浮かべてピースをしているのが脳内に浮かんできた。まったく……。

 ラスタードに怒ってますという顔を向けると、彼はひきつった笑みとともに歩いていく。


「ニン。勲章をもらうような立場って珍しい、よな?」

「戦争が行われていた時代だったり、それこそ魔王がいたときってのは結構あったみたいね。魔王を討伐、撃退したものにはまた普通の勲章とは別の魔王専用のものが用意されていたのよ。普通の勲章よりも、価値は高いわね」

「……そんなものもらったら、色々自由が利かなくなるんじゃないのか?」

「どう、かしらね? 勲章をもらった人が、そのまま貴族と結婚したりして、自由が利かなくなった……みたいな話は聞いたことがあるわね。……今までどおりってわけにもいかない可能性は出てくるわよ」

「……そうか」


 それなら、拒否できないものだろうか。いや……難しいだろうな。

 だが俺は勲章よりも、マニシアと一緒にいられる時間のほうが大事だ。


「ラスタード」


 俺がぶすっとした声をぶつける。


「わ、悪かったよ」

「別に。おまえにだって立場があるのは知っているからな。それについてはもう怒ってない」

「怒っているじゃないか……」

「怒ってない。ただな。俺がマニシアを大事に思っているのは知っているだろ? 万が一、勲章をもらってから必要以上に拘束されるのであれば、勲章だって返すからな」

「……まったく。おまえは相変わらず、権力とかそういうのに興味がないんだね。清々しいほどのシスコンめ」

 

 ラスタードがそういってから、両手をあわせて頭を下げてきた。

 ……別にもう本当に怒ってないって。

 

「今回行われる舞踏会も、勲章が関係しているんだったか」

「そういうわけだよ。多くの人が、魔王に対して不安を覚えているんだ……だから、それを軽減させてやってはくれないかな?」

「俺がいるだけで、安心できるっていうのなら構わないが――いざ魔王が現れたとしても、それをどうにかできるだけの力は持ってないからな?」

「それでも、やっぱり目に見える形で安心したいものがあるんだよ」


 不安、か。

 ……この国は、嫌いじゃない。いや、好きなほうだ。

 だから、一市民として国に何かできるのであれば、したい部分もある。


「ああ、なるほどね。それであたしも呼んだのね」


 ニンが納得したように頷く。


「どういうことだ?」

「たぶんだけど、あれでしょ? ルードのことを守れってことでしょ?」

「さすがニン。察しがいいね」


 ラスタードがこくりと頷く。

 

「どういうことだ?」

「勲章を授かるような立場の人間を、貴族が放っておくわけないってことよ。あんたに集まる虫を、あたしが隣にいれば払えるってわけよ」


 ぽんっとこれまで黙っていたマリウスが手を打つ。


「なるほど。確かにニンは恐ろしい奴だからな」

「マリウス? それはどういう意味よ?」

「今まさにそのとおりじゃないか」


 マリウスがニンの顔を指さすと、ニンが拳を固める。……確かに、こんな鬼のような顔をできる……じゃなくて。

 公爵令嬢で聖女の彼女が隣にいれば、よっぽどの人以外は俺に声をかけてくることもしないだろう。


「そういうわけだよ。一応、これでも色々と配慮しているんだからね」


 ラスタードがウィンクとともに歩き出す。

 やがて、王宮の入口が見えてきた。そこにはドレスに身を包んだ綺麗な女性がいた。


「……ルフィア殿下」

「初めまして、ルード様。それとお久しぶりですわ、ニン様」


 にこりと微笑み、彼女がドレスの裾を掴み軽く一礼をしてきた。

 ……ルフィア殿下? 確か、騎士学園にいたときも聞いたことがあった。

 たぶん、王女様だ。ニンが懐かしそうな顔を作り、少しばかりひきつった顔でラスタードが彼女を見ていた。


「なぜわざわざ殿下がこちらに?」

「英雄様のお出迎えですからね。わたくしくらいの立場の人間が出ていく必要がありますでしょう?」

「……そうですか。王はもう謁見の間にて準備を?」

「ええ。それでは、皆様方。どうぞ、ついてきて来てください」


 再度にこりと微笑み、彼女は片手で廊下の先を示した。

 王女、か。……いよいよ、王様と対面するのか。緊張でぶっ倒れるかもしれない。そうしたら、マリウスに代理を頼もうか――いや、こいつに頼んだら何をするか分からない。

 逃げ場を失った俺はかろうじて意識をつなぎとめた。

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