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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第四章

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クーラス13




 戦いが終わってから駆け付けた騎士たちは、すでに戦闘が終了していたために、ただただ費用だけがかさんでしまうことになった。

 俺は知らない。何を言われてもそれで貫き通す。


 ストームを中心に魔物たちは騎士たちで管理することになった。

 ……そちらは、彼らを信じるしかないだろう。

 ……これからストームたちは王都へ向かうことになる。


 そこで、彼らが知っている情報を吐き出すことになっている。その後は――どうだろうな。

 奴隷の首輪があったため、仕方ないことではあるが、戦いに参加していない人たちがそれで満足できるかといえば、そんなことはないだろう。


 俺としては、うまく両者が納得できる形で片付いてほしいと思う。悲しいのは、具体的な案が何も浮かばないところだ。

 被害が何もなければ、もっと色々できたのだろうが――そんなことを考えていても仕方ないだろう。


 俺はまだクーラスにいた。

 アバンシアへと帰還することもできたが、まだ街に残ってほしいと言われてしまった。

 まあ、その理由が今開かれている宴への参加なのだが。始まりの挨拶を軽く済ませてから、俺は隅っこのほうでひっそりと宴を楽しんでいた。


 この宴は、死者を弔う意味もあるし、今生きている人たちを元気づけるためのものでもある。

 だからこそ、俺もここに残された。……街を救った英雄として。キジャクも、そうだ。彼の活躍は騎士や冒険者たちを中心にすでに街中に広まっていた。みんな、手のひらを返したように、キジャクを褒めていて、慣れていなそうだった。


「る、ルードさんですよね!? 街を守っていただいてありがとうございます!」

「ふぁ、ファンなんです! 握手してください!」


 ……隅のほうにいても、見つかってしまうのだ。

 俺は市民たちを元気づけるために、出来る限りの笑顔で対応していく。……こういうのは、一生慣れる気がしなかった。


 周囲に人がいなくなったところで、俺は逃げるように場所を移動する。仮面でも持ってくればよかったな。歩きながら、宴を見る。


 騎士も冒険者も立場を忘れて騒いでいる。普段は何かと睨み合っている彼らだったが、共に町を守ったことで、ある種の絆が芽生えたようだ。それがどれだけの期間続くかはわからないが、ずっとこのまま続いてほしいものだ。


 マリウスも楽しそうに冒険者たちに混ざっている。……マリウスは、結果的に見れば魔王という仲間たちを裏切り、こちら側についた。

 それでも、彼には迷いなどはないようだ。


 ――ラース、か。

 魔王にはまだまだ他に彼以上の力を持った存在がいる。

 俺は、そんな魔王たちに勝てるだけの力を持っているのだろうか。

 もっと、強くならないといけない。


「ルード、見つけたよ……」

「よっ」


 柔らかな笑みを浮かべるキジャクと、ボロボロの状態のレクラーがこちらへとやってきた。

 レクラーも随分と激しい戦いをしていたそうだ。

 レクラーはまだ体に痛みがあるようで、少し痛がるようにしながらしゃがんだ。

 キジャクがそれを支えてやってから、レクラーの隣に座った。


「すげぇな、おまえさんは。よくもまあ、あの状況の街を救出しようって思えたな」

「……戦力は聞かせてもらっていたからな。俺たちの部隊もあわせれば、どうにかなるんじゃないかって思ってた」


 けど、被害はそれなりにあった。

 戦いによって多くの命が失われてしまった。

 もっと、どうにかできたのかもしれない。そう思うと、悔いは残っている。

 それに、魔王の存在だってな。


「どうにかなるんじゃないかって思ってもな。その戦力たちのやる気を引き出したってことが大事なんじゃねぇか」

「……引き出した、か。それこそ、俺だけじゃない。普段から、キジャクやレクラーが冒険者たちの信頼を集めていたからじゃないか? ギルドで、話をしたとき、確実におまえの宣言で動いてくれている奴がいただろ」


 レクラーがいなければ、今よりも積極的に戦ってくれる人は少なかっただろう。


「だとよ、キジャク。よかったな」


 ぽんぽんとレクラーがキジャクの頭を撫でまわす。

 キジャクはなんとも照れくさそうに、その手をかわしていた。


「僕は……ルードのおかげで、少しだけクランリーダーとしてやっていけるかもって思えたよ。……ありがとう、あのとき、任せてくれて」

「……他に打てる手が思い浮かばなかっただけだ。それに……助けられたのは、俺たちだ。おまえが直しに行っているから、みんな戦えたんだ」

「そんじゃ、お互い様ってわけだな。キジャク、よかったじゃねぇか」

 

 レクラーが大きく笑うと、そのままむせた。


「おい、レクラーっ。あまり無茶をするなっ」

「大丈夫だ。酒でものみゃ治るってんだ」

「そんなわけないだろっ。あっ、こら飲もうとするな!」


 と、レクラーはグラスを持って走り回っていた冒険者からそれを奪い取り、おもいきり飲み込んだ。そしてむせた。


「医者からしばらくは酒を控えるように言われていただろ! まったく……っ」


 キジャクは呆れながら、レクラーの腕をつかんだ。


「ルード。何か困ったことがあったら言ってくれ。協力するから」

「そうだぜ。てめぇの町が同じような事態に陥ったとき、助けにいってやるからな!」

「そのためにも、まずレクラーは体を休めるように」

「わかってるってんだよ」


 キジャクは呆れた様子でレクラーを叱りつけ、それから彼を連れて去っていった。

 俺はぼーっとその後姿を眺めながら、ため息をつく。

 なんというか家族のような関係で羨ましい限りだ。俺も早くマニシアに会いたい。会って、あんな風に叱られたい。

 とりあえず想像の中で楽しんでいると、俺の頬にグラスがぶつかった。


「ほら英雄。何固まってんのよ」


 からかうような笑顔を向けてきたのはニンだ。

 さすがに、セインリアに乗って戦闘を行っていた者たちは帰したが、ニンだけは俺たちに合流していた。士気をあげるために、聖女の名前も出したからな。

 いや、別に誘わなくても残っていただろう。酒大好きだし。


 そんな彼女も、多少は機嫌を直してくれたようだ。

 セインリアの部隊を任せたときは、ニンにしては珍しく今にも泣きそうな顔だったからな。


 ……それだけ、高い場所が苦手なんだろう。俺たちの外皮はどれだけの攻撃を受けても、必ず一撃は凌いでくれる。

 どれだけ高い場所から落ちても、外皮を失うだけでなんとかなるので、ニンの性格で考えれば大丈夫そうな気もするんだがな。

 そんなニンは、しばらく俺の顔を見て、横に並んだ。


「あんた、何考えてたのよ」


 ニンはグラスを傾けながら、こちらを見てくる。

 マニシアのことを考えていたとは言えなかった。


「これから、どうなるかと思ってな。魔物と町の人たちがすんなりと和解できるわけもないだろ。王都に連れていかれることになったストームやその他の知能がある魔物たちはどうなるって思ってな。それに、魔王だってな」

「まあ、なるようになるしかないでしょ。国も悪いようにはしないんじゃない? ストームって奴は、それなりに友好的なんでしょ? なら、国だって、条件をつけて味方に誘おうとするんじゃない? 何より、魔王という脅威が見えてきてしまってるんだしね」

「……そうだったらいいんだがな。そうなると、今度はクーラスの人たちの気持ちもあるだろ。難しいなって」


 俺の言葉にニンは酒をあおって気持ちよさそうに息を吐いた。


「そうね。全員が全員、割り切って仲良くなんてできない。けど、そんなのは知らないわよ。世の中、理不尽なことだってたくさんあるんだから。納得できなくっても、納得しないといけないことってあるのよ」

「……大人だな」

「でしょ。けどね。それでもあたしも納得できないことが一つあんのよねぇ」

「どうした」

「あたし、地上部隊で行きたかったんだけど」


 それ掘り返すか?


「上を任せられるのはおまえしかいなかったんだ」

「って、ルナにも言っていたみたいじゃない」

「……ふ、二人にな。結局、地上は混戦状態だったからな。ニンには荷が重い、だろ?」

「……そう、なのよねぇ」


 はぁ、とニンはため息をついた。別に本気で怒っているというわけではないようだ。


「あたしが、空にいたときのこと知ってる?」


 まさか、怯えて縮こまっていたわけでもないだろう。

 俺が首を傾げると、ニンは唇をぎゅっと噛んだ。


「また、あんたの近くで戦えないってのが心配だったのよ。ヒューがいたから、状況はわかってるけどね。それでもやっぱり、不安なのよ」

「……悪いな、心配かけちゃって」

「ほんとよ。……いくらあんたでもね、勝てない相手と対峙するときって絶対あるでしょ。そういうとき、傍にいられるくらい、あたしももっと動けたらなって思うのよ」

「……そうか」


 俺は不安そうなニンに首を振る。


「けど、な」


 不安だって思うのは、ニンだけじゃない。

 俺だって、そう思っていた。

 一緒に戦って、けど、彼女を守り切れないときだってあるかもしれない。


 ……だからもしかしたら。

 俺は彼女を魔法部隊のほうに送ったのかもしれない。


「大丈夫だ。俺は絶対、戻ってくる。……だから、そう心配すんな」

「……絶対よ」


 ニンが差し出した拳に軽く当てる。それから俺たちはグラスを傾けあった。



 〇



「遅いぞ、ラース」


 その部屋に入ったのは確かにラースが一番最後だった。

 長い黒机のそれぞれについていた六人の魔王たちにラースはすまないと短く伝えてから席についた。

 ラースが席についたのを確認したところで、序列5位魔王マルバス・ラストがラースをちらと見た。

 手入れのされた緑髪をかき上げるようにして、ラストが首を傾げた。


「それで、人間界はどうだったの? いい餌はたくさんいたの?」

「……」


 ラースはそこで一度口を閉ざした。

 彼は考えていた。人間界で起こった出来事について。彼は人間界で自身が戦ったことを、この場にいる七罪魔王たちには一つも話していなかった。

 それはひとえに、邪魔をされたくないという感情があったからだ。かといって、何も答えないのも他の魔王たちにいらぬ疑いをもたれる。

 ラースは首を縦に振った。


「ああ。人間たちはよく育っていた。あとは、餌とするだけだろう」

「そうっ。それは楽しみだわ」


 ラストは唇をなめるように舌を動かす。エルフのようにとがった耳の先も楽しげに揺れている。

 他の魔王たちもこれからの人間界への進軍を想像してか、表情を緩めていた。

 魔王たちの穏やかな空気は、次の瞬間にはぴりっと張りつめる。


「人間に、強い奴はいなかったのか?」


 褐色肌の魔王バアル・プライドが問いを投げる。鍛え抜かれた肉体を持つ彼は、この場でもっとも威圧的な風貌をしていた。

 そんな彼と向き合ったラースは、平然と首を振る。


「おまえが期待するような奴はいなかった」

「……そうか。所詮は、人間如きか」

 

 プライドの表情は期待したものから、冷めたものへと変わった。

 プライドは席を立ち、そのまま姿を消した。それに合わせたように、魔王一の面倒くさがりとして知られている少女の見た目をした魔王アモン・スロースもその場から立ち去った。


 一気に二人が消え、場は一瞬の沈黙に包まれた。

 口火を切ったのは、魔王ヴァッサゴ・グラトニーだ。

 金髪を揺らしていたグラトニーは、プライドが消えた場所を見ていた。その顔は不満げに歪められ、小さな黒い翼も、いら立ちを示すように揺れていた。

 

「ほんと、あの人いつもあんな感じだよな。あれで一番強いんだから、面倒で仕方ないよ」


 それに反応したのは、序列2位、アグレアス・エンヴィーだ。美しい水色の髪を持ち、肌は竜の鱗によって守られている。


「そういうことは口にしないでくれませんか?」

「いやいや、みんな思ってることだろ? 代弁してるだけだって。……ちょっと、あんまりにらまないでくれるか! 悲しくなるからっ」


 グラトニーが叫び、アグレアスは深いため息をついた。

 アグレアスの視線から逃れるように、グラトニーが顔を向けたのは序列6位、ヴァレファール・グリードだ。

 もっとも特徴的なのは、その紫の髪だ。背中からは、魔王たち共通の黒い翼が生えている。他の者たちに比べ、立派で大きな翼だ。

 

「そういえば、グリードも人間界にはちょくちょく顔出してるんだろ? どうなんだそっちは」


 彼はかけていた眼鏡を指で直す。


「僕はブルンケルス国にしか行っていませんから、そちらの国の状況は知りませんよ」

「ブルンケルスって国はどうなっているんだ?」

「ええ、まあ。人間という欲深い生き物たちを観察するにはうってつけですよ。ちょっと知識を与えれば、すぐに応用して使おうとするのは、見習う必要がありますね」

「ああ、なんだ。ホムンクルスに戦闘技術を与えるとかだっけか?」

「ええ、僕はきっかけしか与えていませんが、彼らはホムンクルスを使い、現実の人間に成りすまさせることだって可能にしていました。あれほど、貪欲に研究を進められるというのが、人間の才能なのでしょう」

「へぇ、そいつは楽しそーだ。今度俺もそっちいっていいか?」

「やめてください、あなたはバカなんですから」

「ちぇっ、バカで悪かったな。なぁラース、今度行くときは俺もついていっていいか?」

「やめてくれ」

「うわー、仲間外れにしないでくれよぉっ」


 しくしくと泣き真似をするグラトニーには誰も触れず、その部屋から立ち去っていく。

 

「なぁラース」

「なんだ」

「本当に強い奴はいなかったのか?」

「ああ」

「そっか」


 グラトニーは一瞬真面目な表情になってから、いつもの顔に戻す。

 ラースはそんな彼に一瞥をくれてから、部屋を出た。

 ラースが会議に遅れた理由は、傷の治療が理由だった。


 ルードと殴り合った右手をちらと見て、ラースは少しだけ、口元を緩める。

 と、そんな彼の先に一つのキャンディが現れた。丸い玉がやがて集合していくと、一人の人間となる。

 少女は、先ほどまったく発することがなかった序列7位のアモン・スロース。見た目は少女そのものだ。

 それでも彼女は、魔王たちの中でもっとも長く生きていた。そんなスロースとしばらく見つめあう。


「ラース、さっきの約束を果たすがいい」

「そうだったな。オレがいった人間界の近くにはリンゴールという果物があるらしい。どこの街かまではわからんが、それがあの国では非常に美味だそうだ」

「ご苦労。それにしても、軽傷とはいえ、我らに傷をつけられる人間がいるとはな」

「それは黙っているという約束だろう」

「わかっておる。そんな面倒なことするはずがなかろう」


 ラースの治療を行ったのはスロースだ。彼女は面倒臭がりであり、まともに他の魔王たちと交流を図ろうとはしない。

 だからこそ、ラースは彼女に治療を頼んだ。その条件が、人間界の食事の情報だった。

 面倒くさがりの彼女が唯一行動的になるのが、食事に関してだった。

 

 ラースは片腕を軽く動かし、口元を歪めた。

 

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