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クーラス10


 

 ストームが笑みとともに槍を回す。

 あちこちで、戦闘による音が響いていた。さっきまでの一方的な戦いから、両者互角の戦いへと、場は変化している。

 

 魔物たちの士気を下げるためにも、このストームに傷の一つでもつけられればいいのだが――。

 こうして向かい合っていると、ストームに微塵も隙がないのがよくわかった。


「さすがに、伝説級の魔物なだけはあります、か。どこからどう攻めたらいいのやら――」


 ゼロッコさんが細い目を向けながら、つぶやくようにいった。

 ……彼が弱気な言葉をぽつりと吐きたくなるのもわかる。


「俺は、防御に徹します。二人で隙をついてください」

「わかりやすい作戦ですね」


 にこり、とゼロッコさんが笑みを浮かべ、剣を構える。

 俺とマリウスはともかく、そこにゼロッコさんが加わる以上、複雑な連携は難しい。

 俺が前に出ると、ストームがさらに腰を落とした。

 そして、地面を蹴った。俺も腰を落とし、ストームの突撃を盾で受け止める。


 身をねじ込むような突撃。重たい一撃だったが、今度は受けきった。

 ストームが後退したのにあわせ、俺が突っこむ。ストームに大盾をぶつけるように動かすと、ストームは左手に持った剣を振るう。

 彼の攻撃を数度弾くと、ストームが跳躍した。空中へとあがった彼が、そのまま槍とともに落ちてくる。


 俺の眼前に魔法の障壁が出現する。ヒューとレイの魔法だ。彼女らの一撃によって、ストームの槍先が変わり、俺は体をわずかに横にずらし大盾を振り抜いた。

 回避は、間に合わない。彼は数度地面を転がり、すぐさま立ち上がる。

 

 そこへマリウスの刀が抜けた。それは目で追える速さだ。ストームの目が、そこに釘付けとなり、あっさりと回避する。

 だが、ストームの背後にはゼロッコさんがいる。振り下ろした彼の剣をストームは腕で受け止めた。


 ゼロッコさんの剣がストームの腕の中ほどまで斬りつける。だが、そこで剣が止まる。

 まるで、ストームの筋肉によって剣が阻まれたかのように――。

 ゼロッコさんが眉間にシワをよせる。剣を放棄し、後退するが、ストームが地面を踏みつけ、拳を振り上げるほうが速い。


「いい一撃だったぜ、爺さん!」


 ストームの拳に力がこもる。マリウスがすかさず動こうとしたが、やはり制限があるため、援護まで時間がかかる。


 俺は使用していなかった『犠牲の盾』を発動し、ゼロッコさんの顔面を捉えた一撃を肩代わりする。

 外皮の減り具合を確認したが、ポーションを取り出して回復する。ストームは思っていた手応えがないことに、首をかしげていた。


 ゼロッコさんとマリウスが俺の隣に並ぶ。ゼロッコさんは途中で落ちていた剣を拾ったようで、すでに構えている。


「助かりました、ルードさん」

「いえ……今の一撃でかなりの深手を負わせました。助かります」


 ストームは治癒魔法も使えるようで傷を塞いでいたが、それでも違和感は残るのか、何度か腕を動かしている。

 十分、戦えている。俺たちは顔を見合わせていると、ストームは転がっていた槍を蹴り上げて構える。


 それから彼は、俺とマリウスへと視線を向けてきた。


「おまえらは、魔王なのにどうして敵対するんだ?」


 こちらを見てきたストームに、俺とマリウスは顔を見合わせる。状況についていけていないゼロッコさんだけが、油断なく剣を構えている。

 マリウスは一歩前に出て、刀へと手を向ける。


「ルードたちと一緒にいるのが楽しいからだ」


 マリウスの能天気な返答に、俺は苦笑する。ゼロッコさんも、状況こそ理解できていないようだったが、マリウスの普段の調子に笑っている。


「人間と魔王が仲良くやってるなんて……おかしな話だな」


 ストームはくっくっくっと何度か笑ってから、俺のほうを見てきた。


「どちらがあの空の軍勢を率いているか疑問だったが……そうかおまえが、魔物たちを従えているのか?」

「それはどうだろうな」

「別に、隠す必要もない。協力的な魔物たちだ。よっぽど主のことを気に入っているんだろうな。羨ましい限りだぜ」


 ストームは吐き捨てるようにいってから、首輪を一度触る。彼の冷たい表情は俺たちではない誰かに向けられているようだった。


 その浮かんだ疑問を解消する時間はない。

 ストームが力強く槍を振りぬく。俺が受けとめ、ストームの体を弾く。そこへマリウスとゼロッコさんが飛びかかる。

 

 マリウスとゼロッコさんの刃を、ストームは多少の傷を負いながらも捌いていく。ストームの体内から力が沸き上がっていく。

 どうやら彼は、瞬間的に魔物としての力を発揮している。一時的ではあるが、伝説と呼ばれていたときの力を使えるようだ。

 マリウスの脇を、彼の振り抜いた拳がかすめていく。

 それを感じたところで、俺が前衛へと戻り、突き出した槍の一撃を大盾で受けた。


 力と力のぶつかりあい。だが、弾いたのは俺だ。ストームが驚いたように片腕を引く。ぷるぷるとその腕が震えていた。


「まるで、鉄だな。いや、それ以上か……」


 ストームがにやりと口元を緩める。

 ……これが、単純な模擬戦ならば、俺も楽しめたのだがな。

 封印されていた魔物、か。

 ストームが後退し、肩に槍を乗せる。それから彼は、空を見上げる。

 ……なんだ? 俺たちの視線を誘導して、その隙に――という様子ではない。


 その動きは何かを待つかのようだった。

 ストームの笑みが濃くなり、俺も異変に気付いた。


 空を覆っていた結界がゆっくりと消えていくのがわかった。驚き、息を飲む。

 

「ゼロッコさんっ、結界装置のほうにはゴッズさんがいましたよね……?」


 絶対に破壊されるわけにはいかない結界装置。そちらにはゴッズさんを中心とした騎士たちが配置されていた。

 結界がなくなっていくということは、そちらに何かあったというわけだ。


 と、視界の端でストームが動いたのがわかった。すかさず大盾を構えると、そこに彼の拳が当たった。衝撃が、腕から肩へと突き抜ける。

 想像以上の威力だ。結界が、なくなったからか? これが彼の本気、というわけか――。


 俺が後退しながら睨みつけると、腕を回していた。


「こっから、本気でいかせてもらうぜ」


 ストームの言葉にあわせ、魔物たちも同様にその力を発揮していく。

 あちこちで騎士や冒険者の悲鳴が聞こえた。

 

「ゼロッコさんは、すぐに騎士の指揮をとってください。ストームは、俺たちでやります」

「わかり、ました。それでは、結界装置のほうはどうしましょうか」

「……キジャクとレクラーに任せます」


 俺の言葉にゼロッコさんはこくりと頷き、騎士たちのほうへと向かう。普段の落ち着いた口調からは打って変わって、怒鳴りつけるように彼が声を張ると、騎士たちが冷静さを取り戻していく。

 俺はちらとマリウスを見て、同時にヒューとレイの確認もとる。同時、ヒューから連絡が入る。

 相手はゴッズさんだ。どうやら、結界が設置されている建物をウェアウルフたちが襲撃しているようだ。結界がなくなったことで、ヒューの分身からもしっかりと連絡が届く。

 俺たちのほうへ、キジャクとレクラーがやってくる。


「る、ルードどうするんだ……このままでは街がっ」

「キジャク。万が一、結界装置に問題が発生していて、おまえは修理できるか?」

「で、できると思う。今回の様子から想像するに、多分魔素が関係している、んだと思う……! 一度、結界装置に使用している魔石の浄化を行えば再使用もできると思うが」


 ……なるほどな。

 もともと、長時間使用していたため、いつ問題が起きてもおかしくはなかった。


 結界を休ませるためにも、早めに戦闘を開始したのだ。結界内であれば、戦闘を有利に進められるからな。

 しかし、それでも結界が先に壊れてしまったようだ。


「キジャク。おまえに結界装置は任せる。レクラー! キジャクを連れて、装置のもとへ!」

「了解だ! 直すまでぶっ倒れんじゃねぇぞ!」


 レクラーが頷き、キジャクの頭を叩く。


「そんな……僕には――」

「やってくれ」


 どれだけ不安があろうが――今すぐに動ける知識あるものは彼しかいない。

 戦場にいたレクラーが、キジャクを抱えて走り出す。


「結界が壊れた今が攻め時だ! やれ!」

「怯むな! 結界はすぐに復旧する! それまで、身を守ることに徹しろ!」


 俺は冒険者たちへと怒鳴りつけ、同時にヒューとレイに指示を出す。

 結界がなくなった今。彼女たちも全力を出せる。

 彼女らには、不利な戦闘への手助けを頼み、俺はマリウスとともにストームを睨みつける。


「今のオレに。おまえたち二人だけで勝てるのか?」

「結界がなくなった以上、オレたちも本気で戦える」


 ああ、そうだな。

 俺は体内の魔素を強く意識し、それを全身へと巡らせていく。

 一度息を吐いてから俺は、剣と盾を構える。


 にやり、と笑みを浮かべたストームが地面を蹴りつけ、拳を振りぬく。

 俺はその一撃を大盾で受けとめる。

 ここで、負けるわけにはいかない。俺の帰りを待つマニシアのためにもっ!

 大盾ではじくと同時、マリウスが刀を振りぬく。地面を這う斬撃をストームは蹴りで消し飛ばし、拳を構える。

 格闘による戦闘が彼がもっとも得意なのかもしれない。構えなおした彼の口角がつりあがる。


「確かに、さっきよりも厄介になっているかもな。おもしれぇ。やってやろうじゃないか」


 ストームが一度腰を落とし、それから地面を蹴りつけた。 



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