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クーラス8


 ストームウェアウルフ――ストームと呼ばれている彼は、戦場をじっと観察していた。

 現在、魔物たちによって、四つの門を封鎖していて、人間たちが逃げ出せない状況を作り上げていた。

 とはいえ、地下水路など、地図で確認しなければ判断できない部分もあるため、ストームたちも完全に人間たちを押さえ込めているとは考えていなかった。


 それ故に、ストームは視線をラースへと向けた。

 魔王の一人であるガミジン・ラース。燃え盛るような赤髪を揺らし、額からは鋭い角が生えていた。鋭い牙と翼、それに尻尾をはやした姿は、人間界で描かれる悪魔に酷似していた。

 そんな彼は感情のない目をストームへと向けていた。ストームはそれでも、再び同じ質問を投げた。


「なあ、ラースおまえの目的はなんだ? このままでいいのか?」


 このまま、というのは結界都市を取り囲んだまま、何もしていない状況に対してだ。


「ああ」

「このまま、ここで待機してたら、人間たちに反撃されるんじゃないか?」

「そうかもな」

「そうなったら、オレたち全滅するかもしれないんだぜ。いいのかよ?」

「それがどうした?」


 ラースは冷たい目をストームへと向けた。それ以上しゃべるな、と彼は魔力をわずかに込めた。

 ラースによって封印されていた空間から召喚されたストームたちは、全員奴隷の首輪をつけていた。


 その輪がしまり、ストームは顔を顰める。


「わかったわかった。悪かったよ。……それでおまえは一体なにが目的なんだよ? それくらいは話してくれてもいいだろ。魔物たちの士気にも関わってくるんだ」

「駒に、わざわざ話したところで意味はないだろう」

「あのなぁ……オレたちは確かにあんたの手足かもしれないがな、これでも感情を持ってんだ。って、おいっ」


 ラースはストームの質問に答えず、口を閉ざした。

 と、ストームとともに封印されていたウェアウルフたちが、ストームの前に来ると、すっと頭を下げた。

 彼らは、どちらかといえば人間に近い容姿をしている。魔人、あるいは魔族と呼ばれるものたちだ。


「ストーム様。結界の解除は我々では難しいです」

「……だよな。ラース。本当にこのままでいいのか? 魔物たちが、地下水路から脱出した人間を目撃している。放っておけば、このまま――」

「わかってる。けど、うちのリーダーさんは何か企みがあるらしい。オレたちにも話せないような、な」


 ラースの態度に、ストームはため息をついた。

 ストームはラースに代わり、魔物たちのリーダーたちへと声をかけていく。


 魔物たちにも相当のストレスがたまっている。街を包囲してすでに何時間と経過している。

 もともと、戦闘が大好きな魔物たちだ。こうした持久戦は不向きな奴らである。それを抑えるのは本来、軍を率いるラースの仕事であったが、彼があんな性格であるためストームがかわりを務めていた。

 

「ストーム! オレたち、ハヤク、アバレタイ!」

「ああ、わかっているさ。今は結界の解除を試みているところだ。それが終わり次第、存分に力を発揮してくれ」


 ストームは魔物たちをうまくコントロールするように声をかけていく。


「結界に込められている力を分解するには、魔王くらいの魔素を持っている奴が協力するほうがいいんだがな。さすがに長時間の運用で結界にもほころびが目立ってきている。そこをラースの魔法でつつけば、突破できそうなものなんだがな」


 ストームも直接何度も話しているが、ラースはある考えがあり、動かなかったのだ。


「これが今の魔王なのかねぇ。前に仕えていた魔王はもっと接しやすかったがねぇ」

「……どうでしょうか」


 ストームに付き従っていたウェアウルフもまた、ラースに対してストームと同様の感情を抱いていた。

 魔物全員への声かけを行ったあと、ラースの下へと戻る。そして、改めてストームは進言をする。


「ラース。結界の綻びが目立ち始めている。攻めるなら、今だろう。魔物たちも、だいぶ苛立ちがたまってきているぞ」

「そうか」

「……このまま万が一、人間たちが反撃に出てきたらどうする?」

「それならそれまでだ」


 ラースが吐き捨てるようにいった……そんなときだった。ストームは空を見上げた。

 彼は空から強い力を感じ取ったのだ。そして、彼はそれを見つけた。

 月明りに照らされるように、一体の竜を。


「ラース! 空を見ろ!」

「なんだ」


 声につられるようにラースが顔をあげる。

 そこには白き竜が木製の船を抱え、その翼を羽ばたかせていた。


「聖竜か。魔素を払ったのは本当か」


 ラースはその竜を見て、即座にその判断を下した。

 いくつもの魔力が船から漏れ出たことに気づいたストームが叫ぶ。


「来るぞ!」


 同時、いくつもの魔法が船より放たれた。

 それらは魔物たちを狙って、雨のように落ちていく。

 あちこちから悲鳴があがり、魔物たちは戸惑い、恐怖が伝染し、逃げていく。

 

「何事ですか、ストーム様!」


 ウェアウルフたちが悲鳴をあげる。ストームは魔法を見ながら、声を張り上げる。


「この魔力は人間のものだ。おそらく、人間と協力している! ラース、どうするんだ!」

「任せる」

「なんだってっ! ああ、くそ――」


 どうにか、といわれ、ストームは考えるように眉間を寄せた。


「魔法障壁を張れ! 同時に、敵の魔法を弾くつもりで魔法の準備を! 臆することはない! 今の魔法の規模からみて、敵の規模はそれほどではない!」


 瞬時に魔法障壁を張っていく。魔法の壁によって、敵の攻撃を防いでいくが、完璧にすべて守り切れるわけではなかった。

 障壁を破り、いくつもの魔法が魔物たちを貫いていく。


 魔法障壁が完成すると、敵の魔法攻撃をある程度は防ぐことができた。

 しかし、空中から落ちる魔法の雨のすべてを防ぐことはできない。このまま、ここで時間をかけていれば、被害は甚大なものとなる。

 と、翼をもっていた魔物たちが、たまらず障壁から飛び出し聖竜へと襲い掛かる。


「まて! 無理に攻め込むな!」


 しかし、もう遅い。

 魔法が雨のように降り注ぐと、あっさりと部隊が全滅した。

 地面へと落ちた魔物たちが溶けるように消滅していく。


 魔物たちはせめてもの抵抗とばかりに魔法を上へと打ち上げていく。

 しかし、上から下へと打ち落とすのと、下から打ち上げるのでは魔力の消費がまるで違う。

 それ故に、魔物たちの魔法と聖竜から降り注ぐ魔法では、魔物たちの魔法が撃ち負けてしまう。

 

「結界、コワレタ! イマ、セメコメル!」


 魔物の一人が嬉しそうに叫び、その声につられるままに魔物たちが入っていく。

 疑問を抱いたのは、ストームと一部のウェアウルフたちだ。


「開いている門は一つ、か。どう見ても罠だろうな」


 しかし、ストームが制止するよりも先に、魔物たちは攻め込んでしまっている。

 ウェアウルフや知能のある魔物たちはストームを見る。

 ストームはラースを一瞥してから、持っていた槍を掲げる。


「全軍、突撃!」


 嬉々として攻め込んでいく魔物たちだったが、その体が吹き飛んだ。

 ストームは顔を顰めた。それでも、すでに動きだした魔物たちを止める術はない。

 魔物たちが順番を待つようにして門から中へと入っていく。少しずつ、魔物は攻め込めていたが、中に入るだけにも関わらず、被害は甚大なものとなっていた。


「ラース。このまま攻め込むつもりだ。文句は……ないな?」

「ああ、構わない。指揮はおまえに任せる」


 そういうと同時、彼は影の中へと消えていく。

 それでも、ストームは自身の体を拘束する首輪の魔力がなくなっていないことから、ラースが近くで見張っていることを理解する。


 ストームは門近くにいる魔物たちを一瞥してから、ウェアウルフの一人を見る。


「おまえには、仲間たちをつれ、結界装置の破壊に向かってほしい」

「……わかりました」


 ストームにとっての右腕的存在であるウェアウルフだ。たくましい肉体はストームに並ぶほどのものを持っている。

 ストームは一度息を吐き、それから地面を蹴りつける。魔物たちの怯えをなくすための一手を、打つために動き出した。

 

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