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クーラス7


 「なぁ、俺たちはどうすればいいんだ?」「この命、あんたに預けるぜ!」「俺にも、大事な妻と子供がいるんだ! こんなところで、腐っていられねぇ!」。

 そんな風に俺に何か仕事がないかと意見を求めてきた彼らに、今はまだ具体的な指示を出せないため、俺は頬を引きつらせながら、とりあえず、待機の指示だけを伝えておいた。


 今までとやることは変わらない。が、周りで元気がないやつに声をかけてくれ、先輩として。とかそれっぽいことをお願いしたら彼らもすっかりその気になってくれた。

 俺はレクラーとキジャクとともに、騎士の詰め所へと戻ってきていた。


 ゼロッコさんが具体的な部分を話したいといわれたからだ。

 レクラーとキジャクはともに並んでいたが、彼らは一言も話をしない。


「リーダーとサブリーダーというのはあれが普通なのか?」

「どうだろうな」


 俺とマリウスは見た目の年齢は近い。

 キジャクとレクラーでは親と子ほどは離れてしまっている。そういうのもあって、やりにくいのもあるのかもしれない。

 と、レクラーがこちらの視線に気づいたようだ。彼は笑みとともに近づいてきた。


「さっきは助かったぜルード。こっちはリーダーが腰抜けなもんで、どうしても冒険者たちをまとめることができなかったんだよ」


 そういってレクラーは小馬鹿にするようにキジャクを見る。キジャクはぐっと唇をかんでから、視線をそっぽに向ける。

 キジャクは悔しそうに拳を固めていた。しかし、実際何もできなかったためか、キジャクの拳から力がふわりと抜けた。


「オレもあんたのとこのクランに今から移りたいくらいだぜ」


 ぽんぽんと、レクラーはからかうようにキジャクの頭をたたいていた。

 しかし、レクラーは楽しそうに笑っている。まあ、どれほどかはわからないが、冗談交じりなのだろう。


「なら、そっちにいけばいいだろっ!」

「そんくらい、てめぇもやれってわけだ。おらおら、それなりに歴史ある『ワイルドランス』を率いてんだ。出たばっかのクランに負けてんじゃねぇぞ?」

「僕は、僕は……父さんに押し付けられて、仕方なくやっているんだ! 本当は魔道具整備士になりたかったのに……文句があるなら、レクラーがやればいいだろっ!」


 キジャクがきっとレクラーをにらみつける。レクラーは余裕のある表情でキジャクを見ていた。

 そんな二人の間に入ることもできなかったため、黙ってみているとやがて、騎士の詰め所にたどりついた。

 ゼロッコさんの案内で、すぐに作戦会議室へと通される。

 ゼロッコさんとゴッズさん、それといくらかの騎士がそこにいた。 


 こちらも俺とマリウス、それとキジャク、レクラーだけで中に入り、席についた。

 

「冒険者ギルドはどうでしたか」

「そっちのリーダーさんのおかげで、とりあえずギルドにいた冒険者たちの士気はあがったぜ」


 レクラーがそういうと、ゴッズさんがこくりとうなずく。


「そうか、ありがとうルード。こちらも具体的な作戦が決まったところだ。それを共有していこうと思う」


 こほんとゴッズさんが咳払いの後、立ち上がる。

 それから、手元の紙を見ながら口を開いた。


「まずは前提条件だ。結界装置を今の調子で使用していれば、おおよそ午前5時に魔力がつきてしまう。だが、ルードが提案したとおり、ある一か所の門だけを解除すれば、どうにか7時までもたせられる。このあたりは、キジャクの言ったとおりで、これでほぼ間違いない」


 確認もどうやら終わったようだ。

 ……となると、キジャクは先ほどの発言とあわせて、かなり魔道具に詳しいんだな。


「まず、解除する結界は、敵の侵入を防ぐ、障壁結界だ。敵の弱体化を行うための弱体結界はそのまま維持をする。障壁結界の解除時間が午前3時。それから4時間、戦闘を行う必要があるのだ。解除するのはもっとも多い援軍が期待できる北門。城塞都市の兵と挟み撃ちにする、というのが我々の作戦だ。そちらの門を解放する時間は午前3時。そこに魔物が集中している間に、他の門の様子を見て結界を部分的に解除。これを繰り返していけば、7時まで結界を維持できるというわけだ」


 つまり。俺たちの仕事は北門での戦線維持だ。

 魔物を内部に引き込み、結界によって弱体化した魔物たちを仕留めていく。

 ……つまり、敵をどれだけ内部へと引き込めるか。それが重要になる。


 レクラーたちもこくこくとうなずいていく。


「そんじゃ、オレたちの仕事は、北門を死守するってことか」

「ああ」

「わかりやすくていいねぇ。とにかく、暴れまくればいいってわけだ」

「そいつはいいなっ。ボコボコにしてやろうじゃないか!」

「おお、マリウス。お前、気が合うな」


 レクラーとマリウスはあっけらかんというが、俺たちが最終防衛ラインでもある。

 突破されれば、その瞬間、終わりだ。責任重大であり、それを理解しているキジャクは大変憂鬱そうな顔つきだ。

 まあ、俺も似たような顔になっているかもしれない。騎士たちは、レクラー達ののんきさに呆れ半分ではあるが笑顔を浮かべている。

 こんな状況だ。あのくらい能天気なほうがいいのかもしれない。

 打ち合わせは以上となり、騎士たちが立ち上がり、俺たちもそれにあわせる。


「それじゃあ、我々は騎士たちに具体的な役割分担を話しにいきます。ルードたちも、冒険者に話をしておいてください」


 ゼロッコさんが柔らかく微笑む。


「わかりました。何かあったらヒューを使って連絡してください」

「……ええ。それにしても、本当に便利ですね」


 ヒューの分身は小さな人型でゼロッコさんの手にのっている。

 ゼロッコさんは孫でも見るかのようににこりとはにかむ。

 そんなゼロッコさんに、ヒューがえへんと胸を張ってみせた。

 会議室を出たところで、俺たちはシナニスたちに視線を向ける。会議室での話を彼らに伝えたあと、冒険者たちに声をかけて回るように指示を出す。

 

 マリウスを中心に、彼らが騎士の詰め所から飛び出していった。

 彼らが去ったところで、俺はキジャクとレクラーに視線を向ける。


「二人は、クランのメンバーを使って冒険者たちにとにかく声をかけてくれ。俺でも、聖女でも、騎士でもおまえたちのことでもなんでもいい。絶対に勝てる戦い、ということを強調して、街にいる冒険者たちを集めてくれ」

「おう、了解だ。んじゃ、行こうぜリーダーさん」


 キジャクの頭をばしっと叩いたレクラ―に、キジャクが唇を噛んだ。


「僕は……僕は、リーダーとしてこれ以上、ここにいたくはない。僕がいたとしても……迷惑をかけるだけじゃないか」

「なんだ、相変わらず泣き虫な奴だな」


 レクラーがバカにするように笑うとキジャクが目を吊り上げる。


「僕には……力がないんだっ! 大したスキルも、優秀な外皮もないっ! 力でみんなを引っ張っていくなんて、到底できないんだよっ! 僕なんかより、おまえのほうがよっぽどリーダーに向いているんだ! いつも、みんな言っているよ!」


 そう叫んだキジャクは目じりに涙をためながら走り去っていく。

 レクラーはその後姿を見た後、小さくため息をつく。


「なんだ、心配しているのか?」

「あぁ? ……んなんじゃねぇよ」


 レクラーはぶっきらぼうにそういってから、頭をかいて歩き出す。

 そんな彼の隣に並ぶ。


「なんだぁ? 悪ぃがオレは男とデートする趣味はねぇぜ」

「少し、キジャクのことを聞きたいと思ったんだ。……どうして、キジャクの父親はキジャクにリーダーを引き継がせたのかと思ってな」

「はっ、そんな話かよ。信頼されてっからだろ」


 レクラーは肩を竦め、それから歩きだす。俺とレクラーを見ると、冒険者たちが声をかけてくる。


「おっ、クランリーダー二人が勢ぞろいか」

「おいおい、オレたちのリーダーはキジャクだろうが」


 二人は顔を見合わせ、からからと笑う。その様子に嫌味なものはなかった。冗談めかしたものであるのは態度でわかった。

 彼らにも冒険者たちに声をかけてもらっていく。あちこちで声をかけてけば、市民たちも安堵してくれることだろう。


 さすがに、『ワイルドランス』の規模は俺のものとは比較にならない。恐らく、この街にいる冒険者の半分くらいはそこに所属しているのではないだろうか。


 皆、レクラーに対してリーダー、なんて冗談めかして言っている。そのたびにレクラーが否定し、皆がキジャクの名前を出す。


 というか、キジャクのクランはどうにも柄の悪い見た目の人が多い。接してみると結構よい人たちなんだが、その見た目だけで勘違いされそうだ。

 キジャクとは真逆の人たちなのが、またおかしなことになっている。


 ただ――。こうして街を歩いていてわかったのは、キジャクは多くの人に信頼されているのだということ。あちこちで名前を出されるが、クランに所属している人たちは嫌っている様子などなかった。

 なんとなく、彼がクランリーダーを継いだ理由がわかった気がした。


 しばらく歩いていると、キジャクを見つけた。俺たちは反射的に近くの建物に隠れる。

 キジャクが声をかけているのは、あまり身なりの整っていない人たちだ。そんな彼らに絡まれているということはなく、自然な様子で話している。


「……どんな国にも影はあるだろ。裕福な奴がいりゃあ、貧乏な奴もいる。……キジャクはそんな人達が社会復帰できるようにって、冒険者支援を行ってんだ。今所属しているクランメンバーの半分くらいは、あいつに助けられたんだよ」


 キジャクは困ったように笑い、それから胸をたたいている。

 任せてくれ、とでも言っているのかもしれない。キジャクの足や手は震えているが、それでも、彼はみんなの前で精一杯を見せようとしている。

 キジャクたちが去っていったところで、レクラーがその浮浪者たちの元へと向かう。

 戦いに参加する意思があるなら、クラン本部に来てくれと伝えてから、また歩き出す。

 俺もそんな彼の隣に並ぶ。


「キジャクはな。優しいんだよ。誰に対してもな。他人に対して、偏見をもたない。見た目で判断することもねぇくらい、バカがつくほどのお人よしだ」


 しばらく歩いたところで、レクラーがぽつりといった。

 確かに、俺を見ても特に怯える様子もなかったし、老け顔とか言わなかったな。


「ま、多少考えすぎて、一人うじうじと悩んじまうこともあるけど、そんくらいは可愛いもんだ」

 

 レクラーはまるで親が子に見せるような笑顔とともに、そういった。

 それから彼は照れ臭そうにそっぽを向いた。


「今のはあれだな。オレらしくねぇな」

「別に。人を褒めるのに周りの目を気にする必要はないだろ」

「けっ、うっせぇよ。……とにかくだ、あいつは自分で考えているよりもよっぽどリーダー向きなんだよ。そりゃあ、確かに戦闘面に関しては難しいかもしれないがな。知識は豊富だし、リーダーには向いてんだよ。むしろ。戦いなんざ、オレたちにまかせてくれりゃあいいんだ」

「そういってやればいいのに、どうして黙っているんだ?」

「何度か、それとなく言ったことはあるさ。けどな、あいつはそんなん聞いて安堵できるような人間じゃないのさ。自己評価が低いんだ。……だから、これでちょっとは成長してくれたら嬉しいんだがな」

「……もう、助かった気でいるのは早くないか?」

「なんだよ。てめぇがいるんだ、大丈夫だろ」

「あまり、プレッシャーをかけないでほしいんだが」


 俺は苦笑しながら、彼に目を向ける。

 凄いな、と思う。彼はこうして、まだあったばかりの俺を信頼してくれている。


 だからこそ、レクラーを信頼している冒険者が多いのだろう。そのレクラーは、キジャクのことを認めている。

 あとは、キジャクが自分の価値をきちんと評価できるようになれば、これからもっと有名なクランへとあがっていくだろう。


「なんだよ」

「いや……キジャクも凄いがおまえもかなりの男なんだと思ってな」

「何がだよ? オレなんざ、大したもんは何もねぇぞ」

「それは俺もだ。そんな俺を信頼して行動してくれているんだから、そいつは凄いことだと思うがな」

 

 そういうと、レクラーは肩を竦めてから、息を吐いた。


「オレは単純な男でよ。てめぇの話を聞いて、てめぇをもうすっかり信頼しちまってんだ。頼むぜ、オレたち『ワイルドランス』は単純なバカどもの集まりだ。のせられりゃすぐに調子に乗るし、落ち込むときはどこまでも落ち込む。そんな奴らは、すでにてめぇに乗せられちまってんだよ」


 にやり、と彼が笑い、オレの胸を叩いてきた。

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