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クーラス4



 有事の際には、冒険者たちはギルドの命令によって徴用されることになる。

 万が一、それを拒否して逃げ出したとなれば、ギルドカードの剥奪となる。

 強制的に集められているため、冒険者たちの士気はお世辞にも高いとは言えない。


 何より、もう夜だ。冒険者たちからすれば、家でゆっくり休みたかっただろう。

 それでも、集められた冒険者の数は合計で、300ほどだった。想像よりも少なかったが、今の町の規模から考えれば十分か。

 それだけ、あの迷宮が人を集めてくれていたのだ。

 

 今回の作戦についての話はすでに終わっている。

 冒険者たちはリリアをリーダーとして、行動してもらうつもりだ。


 彼らに一言だけ挨拶をしてから、俺はセインリアのもとへと向かう。

 そこには、ラミア、サキュバス、ゴーストとホムンクルス、それにルナ、ティメオ、ファンティム、シャーリエ、そして、冒険者や教会騎士で魔法が得意な者たちが乗りこんでいる。

 それを従えるは、ニンだ。若干頬がひきつっていないでもない。地上部隊がいいと何度も言ってきたが――彼女は接近戦はそこまで得意じゃないからな。今回は、外れてもらった。危険も多いだろうし。


 シャーリエはそれほど魔法が得意なわけではなかったが、彼女の場合はファンティムの精神を安定させるためだ。

 彼らの目的は魔法攻撃と幻術による敵のかく乱が主な仕事となる。


 兵士の幻影を造りだすこと。また、幻術からの敵の同士討ちを引き起こすことを目的としている。

 ……まあ、敵は伝説の魔物だ。となれば、この程度は見破ってくる可能性もあるが、動揺を誘える可能性もある。


 魔物の軍勢であるが、見た目はかなり人間よりだ。そういうこともあって、亜人として受け入れられた。あまり人の言葉は話せないので、そこら辺はニンやルナ、ホムンクルスたちにも事情を説明しているので、うまくやってもらうしかない。


 魔法部隊が軽く魔法の腕を見せ合っている。魔物たちの魔法の才能に、冒険者たちは驚いたような顔になっていた。

 それは、ゼロッコさんもだ。


「凄い、ですねルードさん。まさかこれほどの魔法部隊を用意されるとは――これならば、騎士団の魔法部隊とも張り合えますよ」


 そこまでこいつらは強くなっていたのか。

 もしも反乱を起こされたら危険だな。これまで以上に、威厳ある態度で接していく必要があるかもしれない。

 セインリアが用意した舟に乗りこんでいく。俺たちも途中までは一緒に行動する予定だ。

 さすがに、これだけの人数となると少し心配だったが、セインリアは舟を担ぎ翼を広げた。まったく問題はなさそうだ。

 

「それじゃあリリア。任せる」

「わかった。そっちも、気を付けて。今までと違って、個人での戦いじゃないんだからね」

「わかってる」


 ……集団での戦いだ。

 リリアにアバンシアを任せ、俺たちは空へとあがる。

 ニンが小さく悲鳴をあげ、俺のほうに近づいてきた。目が合うと、彼女は不服そうに眉間を寄せた。


「あたしも、地上で一緒に行きたいわね」

「おまえの魔法は空中からのほうが活かせるんだ。……みんなを頼むぞ」

「……わかったわよ。あんたも、気をつけなさい」


 心配そうにこちらを見てきたニンに、俺は強く頷いた。

 ある地点まではセインリアで移動していたが、途中で俺たちは地上へと降りる。

 クーラスへと向かうための地下水路へと向かうためだ。


 こちらの部隊は、俺、レイ、ヒュー、ゼロッコさんだ。

 魔物に気付かれないよう、必要最小限のメンバーで、索敵や夜の闇に強いレイとヒューに来てもらうことになった。


 ……まあ、彼女らの戦闘能力も非常に高い。こと、隠密に関してそれなりの腕なのは、マリウスから聞いている。

 セインリアの舟から降りた俺たちは、近くの自然物に身を隠しながら、移動していく。


 レイが先行し、周囲の状況を調べていく。同時に、ヒューによる通信で現在の町、セインリアの状況も把握していくことになる。

 セインリアは一度戦場を確認後、町へと帰還することになっている。どのように魔法で攻めこむかは、戦場を見て、打ち合わせをすることになっている。

 

 そちらは魔法戦の知識を持つニンを中心に、ホムンクルスたちとともに打ち合わせをしていくことになっている。……ホムンクルスたちは戦闘用として作られたこともあり、そういった知識には精通しているからな。


 先行しているレイからヒューごしに情報が伝わってくる。

 周囲に魔物の気配は感じられないようだ。

 移動は順調に進み、ベルガよりもらっていた情報から地下水路に繋がる道近くまでは到着した。

 が、その周囲には魔物の姿があった。まるで、地下水路をふさぐかのように、魔物たちはいる。


 つまらなそうな顔つきだ。……まあ、普通にかんがえれば、こんなところにはなにもないだろう。


「……魔物たちが、中にいる可能性もあるな」


 地下水路がクーラスへと繋がっているというのはわかっているかもしれない。

 ……そのために、いりくんだつくりをしているし、出入り口には騎士も配置しているらしい。


 ……出来れば、他の魔物たちには気づかれずに片づけてしまいたい。

 だが、俺にそこまでの力はない。敵の数は六体か。

 視線をゼロッコさんに向けると、彼も難しそうな顔をしていた。


「魔法を使えば、倒せるかもしれませんが。それでは気づかれてしまう可能性がありますね」

「ならマスター、私に任せて」


 ヒューがこちらに視線を向ける。


「気づかれずに、敵を倒す手段があるのか?」

「うん。できたらほめて」

「……あ、ああ」

 

 ヒューが何かを企んでいる目を魔物たちへと向ける。

 そうして、ヒューは地面に体を埋めた。


 魔素を敏感に察知できるものでなければ、恐らくヒューの正体には気づけないだろう。俺も一瞬見失いかけた。

 そして、今入口近くを覗いている魔物たちにそれほどの腕の者はいないようだ。ヒューがどんどん近づいていく。


 ……となれば、そこからはヒューの独壇場となる。

 ヒューの体が六つに分かれる。そうして、他の魔物たちから死角にいる魔物の背後から飛び掛かる。


 ぎゅっと、ヒューの全身が魔物の体を包みこむ。

 顔を覆われ、窒息状態となり、魔物は暴れる。そりゃあそうだ。呼吸を封じられれば誰だってパニックに陥るだろう。

 しかし、液体のヒューに攻撃は当たらない。

 ゆっくりと魔物の体が溶けるように吸収され、ちらと振り返った一体の魔物が気づいた。


「ナニゴトダ!」


 ……発した魔物の言葉に驚いた。奴は、今間違いなく人の言葉を話した。それほどの知能を保有しているという事実に目を見張っていた。

 魔物の一体が思いきり息を吸いこむが、すでにすべての魔物たちの背後をヒューの分身がとっている。


 ヒューは無慈悲にすべての魔物たちを飲み込む。声を発することも、もがくことさえもできない。


 彼らが、もう少し冷静さを持っていれば、魔力などをぶつけて対処することはできたかもしれないが、そこは焦りもあったのだろう。


 全員があっさりともがき、そして溶けた。ヒューは残った魔石をぺっと掃き出し、それからこちらに移動してくる。


 その顔はとても嬉しそうである。俺は彼女がとった暗殺者も目を見開くような無音の殺害術にただ頬をひきつらせていた。


「できたよっ」

「あ、ああ……凄いな」


 偉い偉いと褒めると、ヒューはとても嬉しそうであった。

 俺の近くに待機していたレイが少し羨ましそうにこちらを見ている。


「それじゃあ、中に行こう」

「……(こくこく)」


 レイは身振り手振りを使って、中を示し、そのまま俺の言葉を聞かずに中へといった。

 ……一体どういうことだ? 俺が首を傾げていると、何やら不思議な映像が脳内に流れてきた。

 それは、恐らく地下水路だろう。そして、このぷかぷかとした視線は恐らくレイのものだ。


 レイも、ヒューと同じことができるんだな。暗闇でもはっきりと通路が見える。


 レイは事前にもらっていた地図をすべて頭に叩き込んでいるため、迷いなくまっすぐに進んでいく。

 ……途中、何度か魔物を発見する。レイは気づかれないようにすっと身を隠してうかがう。


 人間の言葉を流暢に話している個体もいるようだ。

 ヒューがちらと俺に視線を向けてきた。……どうやら、戦いたいようだ。


「ヒュー、道中の魔物の処理を頼めるか?」

「うん」


 ヒューは小さく頷いて、そのまま地下水路へと入っていく。


「……かなり魔物よりの亜人なんですね」

「まあ……そうですね」

「とても強いお二方で、驚きました。ルードさんは良い仲間に恵まれているようですね」


 ゼロッコさんにも、すべてを話しているわけではないので、曖昧に頷くしかない。

 しばらく外を警戒していたが、特に何もないので、俺たちも中に入る。

 早いところ、クーラスへと向かわないとだな。


 俺たちも早いところ、クーラスに向かう必要がある。

 クーラスに到着後、時間的な部分で具体的に詰めていかなければならないことが多い。


 なにより。このまま結界を失うくらいならと自暴自棄になって反撃を開始してしまう可能性もある。

 早く到着して、状況を説明する必要がある。


 レイの案内に従って、地下水路を移動していく。

 ヒューが道中の魔物をすべて処理しているため、安全に地下水路を進んでいける。


 人が通るための通路の横を水が流れている。そのせいか、随分と涼しい。

 臭いも結構きつい。ここにいるだけで、何かしらの状態異常になりそうだ。


 ヒューとレイは特に気にしている様子はない。

 ……それにしても、この二人の戦闘能力は随分と高い。彼女らを相手にだけはしたくないな。

 

 そのまましばらく進んでいくと、レイが動きを止める。


「あっちか?」

「(こくこく)」


 レイが示したほうは、水路を横切るように移動する道だ。

 ちょうど、そこからならクーラスの街に入れるようだ。入り組んだ地下を進むよりも、地上に出たほうがはるかに早く移動できるだろう。


 俺がぬれるのを覚悟していると、すっとヒューが体を伸ばした。

 そして向こう側へと体をくっつけ、それから体を硬化させる。それによって簡易的な橋ができた。


「……おまえ、そんなこともできるのか」


 ヒューが小声で教えてくれる。


「うん。それにみんな、色々と自分でできることが増えているんだよ。レイも、だよね」

「(こくこく)」


 レイは口元を隠しながら、しきりに頷いている。

 ……なるほどな。あの戦闘だけでは把握しきれなかった部分も今ではわかっているというわけか。


「みなさんのおかげで、予定よりも随分と早く、クーラスにたどりつけそうですね」


 ほっとゼロッコさんが胸をなでおろしていた。

 ヒュー橋を渡っていく。非常に頑丈だ。俺とゼロッコさんが渡り終わったところで、ヒューがもとの人の姿に戻った。

 すぐ近くにあった梯子に足をかけ、俺たちは地上へと向かった。


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