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町と迷宮と新たな力7



 全員が能力を判断したいというわけで、それぞれが戦闘を行ってみることにした。


 まずは、近接戦闘が得意なゴブリダとアックスだ。

 ……とはいえ、ゴブリンとオークという個体差がある。

 ゴブリダはどうにかできる! と無邪気な子供のように言っていたが果たしてどうなるだろうか。


 サキュバス達が椅子を用意してくれたため、俺とマリウスはそこに座る。飲み物とお菓子も用意してくれた。


 それどころか若干距離が近い。あまりデレデレしないように唇をぎゅっと引き締める。とはいえ、体は熱でも出たかのように熱い。それに気づいたミアがくすりと笑う。


 それから、キュイにからかうように声をかけていた。キュイはぷくーっと頬をふくらませる。

 俺はそれに気づいていないふりをして、両者の戦いに注目する。


 ゴブリダは簡素な剣を持っていた。

 あれ、あんな剣持っていたか?


「マリウス、ゴブリダのあの剣は用意したのか?」

「いや、さっき自分で作っていたようだぞ」

 

 ……強化されたのは容姿だけではないようだ。彼の持つ剣はかなりの魔力がこもっていた。


 アックスはその巨躯をいかすような斧を構える。

 ……アックスが作り出した斧も変化している。今までは、どこか錆びついたようなものだった。


 しかし、今は新品同然だ。見ただけではあるが、それが有名な鍛冶屋が作った物なのではないかというほどの力強さが感じ取れた。


 今まで不安定だった魔力による武器だったが、今は非常に安定している。これは、両者面白い戦いになりそうだ。

 ゴブリダとアックスはお互いに睨み合う。

 戦闘はすでに開始している。どちらが先に仕掛けるかだけだ。

 

 二人はじっと睨み合う。

 先に動いたのはアックスだ。距離を詰め、勢いよく斧を振り下ろしたが、すでにゴブリダはそこにはいない。

 その小柄な体をいかし、身軽に飛び回るように移動していた。今までとは比較にならないほど速い。


 ゴブリダのその動きを、ある程度アックスは予想していたようだ。彼もまた、小回りが効くように斧を振るう。その繰り返しだ。


 斧を引き戻しては、ゴブリダを追撃する。

 しかし、ゴブリダはそのどれもをかわしていく。もちろん、余裕は全く見られない。ゴブリダの表情は真剣そのものだ。


 だが、ゴブリダは楽しそうだった。口の端はわずかにあがり、ぎりぎりの攻撃をかわしていく。アックスも同様だ。どこか強い印象を与える表情に、今は笑みが混ざっていた。


 ゴブリダの剣がアックスの体を掠める。

 何かが剥がれていく。それは決して多くはなかったが、あれは――。


 外皮……いや、それとも違うようだ。

 魔物たちが持つ魔神の鎧と外皮が混ざったような感じなのだろうか。少しずつ、ゴブリダが剥がしていくのだが、アックスはその動きを邪魔するように斧を振り回す。


 だんだんとアックスの動きがゴブリダにあわせ、最適化されていく。

 ゴブリダがさらに加速しようとしたが、アックスがそれを上回っていく。 

 そして――アックスの斧がゴブリダを捉えた。ゴブリダの小さな体が石でも投げるように吹き飛んだ。

 ミアがぱんと手を合わせると、ゴブリダの着地点に水の塊が生まれ、そっとその体を受け止める。


 ゴブリダが体を起こして、悔しそうな表情を浮かべている。

 ……いやいや、まてまて。

 ここまでの両者……もう人みたいなものだし、人でいいか。二人の戦いを見ていて思ったのはお互いがどう考えても、ゴブリンリーダー、オークの枠を超えているということだ。


 恐らくだがそこらの冒険者パーティーなんて目じゃない。

 この後のミアとキュイ、フィルドザウルスとリザードの戦いを観察してから判断は下したいが、彼らの力もゴブリダたちと同じくらいに上がっているというのなら……。


 ……たぶんだが、そこらのSランクパーティーに並ぶほどの力を持っているのではないだろうか。下手したら、それさえも超えるかもしれない。


 俺はミアとキュイへ視線をやる。ミアは優雅に髪をかきあげる。……よくみると、髪にもわずかに蛇が見えた。メデューサとかが確かあんな感じではなかっただろうか。見た相手の動きを止めるという魔眼を持つAランク級の魔物だ。


 対するキュイも、その翼や尻尾はよく見れば他のサキュバスたちとは比較にならないほどの艶を持っている。その両目に篭められている魔力は、かなりの量だ。

 

 両者が向き合い、サキュバス、ラミアそれぞれが声援のような鳴き声をあげる。

 ゴブリダ、アックス、レイ、リザードたちもその様子を堅く見守っている。


 ミアとキュイがじっと睨み合い、そしてお互いに魔法を構えた。

 ミアの足元に浮かび上がった魔法陣は緑色。キュイの足元の魔法陣は赤。それぞれの髪の色を象徴しているかのようだ。


 ミアとキュイが同時に腕をあげる。ミアからは荒れ狂う風が、キュイからは柱のように太い火が放たれた。

 お互いの魔法がぶつかりあい、打ち消しあう。即座に、今度は別の魔法を放つ。いくつもの矢がお互いを捉えようと飛び交うが、こちらも互角。


 最後は球体だ。二人の頭上に巨大な球体が出来上がる。火と風。両者の魔法が完成し、ぶつかりあうと周囲に強烈な魔力があふれる。

 魔力に慣れていない子どもなら、この量の魔力だけで気分を悪くするかもしれない。

 それほどの濃密な魔力がぶつかりあい、消しあう。


「……もう一回やってやるっ!」

「ふふ、次は負けないわよ」


 キュイがぐっと拳を固め、ミアはもう一度髪をかきあげる。

 いやいや、待て待て。


「もう十分だ。二人の実力はよくわかった」

「マスター! まだやりたいわっ」

「ダメだ。これ以上は、周りに被害がでる。仲間を傷つけるかもしれない」

「……そうね。確かにこれ以上は、危険だわ。マスターの的確な判断に、私も同意するわね」

「わ、わかった。あたしも、同意する……」


 悔しそうにキュイは唇を噛んでいる。勝ちたかったようだ。本当に子どものような奴だな。

 最後は、リザードとフィルドザウルスだな。

 ちらとレイを見ると、彼女はやはり首を左右に振った。あまり、人前で戦いたくはないらしく、今回も力を見せるつもりはないようだった。

 

「オレの番……」


 リザードはそうつぶやくようにいって、あまりやる気のない目をフィルドザウルスに向ける。

 爽やかな容姿に無気力な目という、アンバランスな彼は、槍を造りだして足でけり上げてから肩にのせる。


「嫌なら、やらなくてもいいが……」

「ううん、やる。やらせて」


 意外と乗り気な目だった。

 彼が歩いていった先にはすでにフィルドザウルスがいる。

 フィルドザウルスは一度鳴いてからその巨体を揺らして近づく。


 人型対魔物、か。

 これが一番、実は興味があった。今の彼らが、フィルドザウルスという魔物の体をした相手にどのように立ち回るのか。

 

 フィルドザウルスが、何度か威嚇するように鳴くと、リザードはふっと口元を緩め、腰を落とす。


「……」


 リザードが大地を蹴りつけ、一気に距離をつめた。フィルドザウルスは突き出された槍をじっと見て、牙で受け止めた。

 ……器用な受け方だ。今までのように力で押すだけじゃないというわけか。

 リザードが弾かれながら少し温度の低い笑みを浮かべる。フィルドザウルスはすかさず尻尾を鞭のように振りぬいてみせた。

 

 あっさりとかわしたリザードは空高く跳躍し、そのまま槍とともに落ちてくる。

 フィルドザウルスはそれを寸前でかわす。巨体のわりに俊敏で自由のある動きだ。


 リザードは何度も跳躍を繰り返し、槍を振りおろす。体重ののった一撃を繰り出していく。

 フィルドザウルスは後退しながら尻尾で払う。


 と、フィルドザウルスの足元に緑色の魔法陣が浮かび上がる。鋭い風の刃がリザードへと襲い掛かる。リザードは槍を思いきり振りぬく。槍を中心に水の魔法が現れ、それが風の刃を打ち消した。


 お互いの魔法が消えたところで、彼らは一度見つめあう。

 一定の距離を保ったまま、攻撃体勢を整え、再び動き出した。

 

 両者の戦いはあまりにも激しく、クールなリザードの表情に戦いへの高ぶりが表れていく。濃い笑みだ。そんな顔は予想外で、少しだけ人間らしさを感じた。いや魔物なんだけど。

 

 戦いは激しさを増していく。彼らの戦いはとにかく動く。周りにいた俺たちまで被害をこうむりそうになってきたところで、止めに入る。


「そこまでにしてくれ。力はよくわかった」


 そういうと、リザードは額を軽く拭った後、柔らかく首を傾げる。


「どうだった、オレの力は」

「ああ、かなりのもんだ。これから、頼りにさせてもらう」

「そっか」


 リザードはそういってそっぽを向いた。少ししか表情は見えなかったが口元が嬉しそうに緩んでいたように見えた。

 フィルドザウルスも嬉しそうな顔で近づいてくる。ごりごりと、頬ずりをしてきた。鱗がびしびしと頬にささり痛い。

 それでも、なで返すとフィルドザウルスは微笑む。


「ずるいっ!」


 そういったのはキュイだ。きつく目を吊り上げ、こちらへと近づいてくる。

 そうして、頭をこすりつけてくる。……子どもだな本当に。

 なでろ、ということだろうか。昔マニシアにやったときのことを思い出しつつ軽くなでると嬉しそうにほほえんだ。


 ミアもささっとやってくる。リザード、ゴブリダ、レイ、それにアックスもだ。

 俺的にはリザードたちは男として見てしまうが……そもそも彼らは魔物だ。オスの犬を撫でるような感じと思えばいいのだろうか。……いやでもなぁ。


 俺がそんな難しい感情のさなかにいると、マリウスもその列に並ぼうとしたので、頭をはたき、そのまま切り上げさせてもらう。

 と、あくび交じりに一人の男がやってきた。


「何をしていたんだ、貴様らは?」


 ミノウだ。町での仕事も完全終了というところか。

 ミノウには一応宿の部屋も用意しているのだが、迷宮で休むことが多い。


「少し、強化をな。ミノウ、町の仕事は終わったのか?」

「ああ。どいつもこいつも、オレ様がいないとまともに仕事もできん奴らだな!」


 ふふん、と彼は腕を組み胸を張る。

 彼の容姿は女性の受けもよく、子どもの面倒見もよいため、町の奥様方に大人気なのだ。


「それで、ミノウ。おまえも強化をしてみるか?」

「強化か、具体的にはどのようなことをしているんだ?」

 

 彼にこれまでの流れを伝える。

 彼は考えるように腕を組み、それから首を振る。


「悪いが、オレ様は貴様を別に信頼しているわけではないからな。また今度にさせてもらおう」

「そうか」

 

 彼の場合、すでにかなりの力を持っている。町にいる冒険者たちを止めたこともあるくらいには強い。

 さて……ここまで、強化強化と色々とやってきたが……いや、やってきてしまったが。

 一つ、大きな問題があるのだ。


「マリウス、こいつらを迷宮に配置したらどうなる?」

「まず初心者冒険者は一階層も突破できないだろうな」


 ……だろうな。今のゴブリンたちはどう考えても、一階層を超える魔物だ。


 新しい魔物を用意するのはもちろん、それだけでは足りないわけで――。

 俺とマリウスは顔を見合わせ、あちこちで戦闘訓練を行っている魔物たちを集める。

 集まった際にきっちりと整列しているのを見るに、冒険者よりも賢い。


「上手に手加減する訓練をしよう」


 みんなが嫌そうな声をあげた。

 けど、それができるようにならないと、この迷宮の難易度が跳ね上がってしまうんだ。

 

 彼らが造り出した分身が、最高の演技とともに冒険者にやられるようにしなければならない。

 彼らの賢さならどうにかなるだろう。



 〇



 それから、数日。

 アバンシア果樹園迷宮の魔物たちは、やられるときにやたらと演技臭いという噂がしばらく流れてしまった。

 それも、さらに数日もすればなくなっていったが。

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