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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
13/198

人間のやり方


 時間稼ぎ、か。

 俺は剣と盾を構えたまま、前へと出る。


 入れ替わるように、自警団の者たちは後方へと下がる。

 そちらへ向かおうとしたフィルドザウルスに、挑発を放ち意識を俺へと集める。


 フィルドザウルスが突進してきて、その攻撃を盾で受け止める。


「正面から受け止めやがっただと!?」


 シナニスが声を荒らげる。

 それに返事をしている暇はない。

 俺はすぐさま、ルナへと視線をやる。


「ルナ、魔物の目を潰したい。何か、魔法は使えるか?」

「承知しました。光魔法を使います」


 ルナがこくりと頷き、魔法の準備を始める。

 あとは魔法の準備が終わるまで耐えればいい。


 フィルドザウルスが牙を突き立ててきて、それを盾で殴りかえす。


 受け流すようにして攻撃を捌くと、脇から尻尾が襲い掛かってきた。

 いい感じに見えにくい角度だ。こいつら、戦い方をよくわかってやがるな。


 けど、かわせる。

 尻尾を踏みつけてかわし、彼らの頭上を越える。


 剣を叩きつけ、挑発を放つ。

 他の者たちに注意が向かぬよう、隙を見つけて重ねるように発動する。


「早く逃げろ!」


 未だ腰を抜かしていた自警団たちへ怒鳴りつけるように声を荒らげる。

 こんな状況では、そのくらい言われないと動けないものだ。


 ようやく立ち上がり、フィルドザウルスから逃げていく。


「ガァアア!」


 フィルドザウルスが尻尾を薙ぎ払うように振りぬいた。盾で受けるが、今までよりも強い。

 俺は後方へと下がり、衝撃を和らげながら周囲を確認する。


 全員、逃げたな。もう後姿も見えない。

 ここまでの戦いで、剣の魔力は十分たまった。


 たまっていた魔力を解放し、同時に俺自身の魔力で剣を強化する。

 盾とともに突撃し、フィルドザウルスへと剣を叩きつける。


「グジャア!?」


 悲鳴のような声がもれた。

 俺の剣はフィルドザウルスの鱗を貫いた。

 運がいい。かなり防御の薄い場所だったようだ。


 緑色の血液が飛び散り、それを見ていたもう一体のフィルドザウルスもまた、心配するような叫びをあげた。


 今だっ!

 俺が片手を振ると、ルナが光魔法を放つ。

 盾で顔を隠した瞬間、強烈な光が炸裂する。


 フィルドザウルスたちは目を閉じていた。

 これで視覚は潰した。


 俺とルナは皆が逃げた方角へと走り出した。

 フィルドザウルスたちが追ってくることはない。


「つがいの弱点、か」

「……片方を、守るように動いていましたね」

「ああ」


 そこらの家族よりも仲がいいな。

 そんなことを思いながら、皆に合流する。


 フィルドザウルスの追撃はなく、ようやく足を止め、落ち着けた。

 フィールたちに追いついたのは、それからまもなくしてだ。


 俺は一つ汗をぬぐい、状況を確認する。

 自警団たちは皆、疲れ切った顔をしている。


 勝てるのか……という絶望に染まりきった表情だ。


「フィール、これからどうするんだ」

「待ってくれ、今考えているところだ」


 フィールは顎へと手をやる。

 眉間に皺をつくり、時折こちらを見てくる。


 何か、ヒントでも欲しいというような顔だ。

 ……ただ、これはフィールの父親からの試験みたいなものなのだろう。


 いつも指揮をとっていた彼女の父が、今回は参加していない。

 それは、フィールの今後を考えてのものだろう。


 俺がそれに口出ししては、せっかくの機会が台無しだ。

 あくまで俺は補助に回らせてもらう。


 タンクらしくな。

 こちらに来たニンがヒールをかけてくれる。


「あんた、大丈夫?」

「まあ、このくらいはな」


 あの程度のダメージなら慣れたものだ。

 外皮も戻ったので、ニンに片手を向ける。


「ありがとな。おまえこそ、結構激しく動いたが腕は大丈夫か?」

「別に。もうほとんど治ってるしね。それで、これからどうするのよ?」

「それを決めるのはフィールだ」

「……あの子にはちょっと荷が重くない? こんな経験今までないでしょ」

「だったら、周りに協力を頼めばいい」


 俺が勝手に手を貸すのと、頭を下げて協力を申し出るのは違う。

 フィールは一つ息をついてから、皆を集めた。


「とにかく、だ。私たちはフィルドザウルスを討伐する必要がある……これから作戦を練っていこうと思うが、皆何かいい案はあるか?」


 切り出しとしては及第点だろう。

 ダン、っと地面を蹴り付け、シナニスが乾いた笑いを浮かべた。


「じょ、冗談だろ? オレたちは一体相手にどうにかなるんじゃないかって話だぜ? あの時、すぐに動けたのは、悔しいがそっちのFランクと聖女様くらいだぜ? そんな状態で、二体を相手にどう戦うってんだよ!?」


 シナニスの言葉に間違いはない。

 自警団の者たちは悔しそうに顔を歪めている。


 本来ならば、優秀な冒険者を町に呼ぶのが正しい。

 だが、その間にフィルドザウルスによる被害は広がるだろう。


「……わかっている。だが、それは驚きが多くを占めていた部分がある。こちらには、ルードとニンがいる。彼らは、先日まで勇者パーティーに所属していたんだ」


 なるほど。士気をあげるための言葉か。


 にわかに場が沸き立った。

 特に、俺のことを詳しく知らなかったシナニスたちは心底驚いた様子だった。


 空気が少し変化した。

 それに手を貸さないのは、さすがに意地悪だ。それもちょっと、見てみたいけどな。


「フィールの言った通り、俺は勇者パーティーで仕事をしていた。訳あって、この町に戻ってきたが、腕にはそれなりに自信がある。それに俺が持つスキルは仲間のダメージを肩代わりするというものだ。俺が倒れない限り、おまえたちの外皮は一切傷つかない。まあ、多少の痛みもあるから、可能な範囲で回避はしてほしいけどな」


 とはいえ、相手に反撃されるがダメージを与えられる場面なら、攻撃してほしいとも思っている。


「……勇者、パーティー。それに、そんなすげぇ、スキルを持ってるのか……」


 シナニスが顎に手をやり、彼の仲間も声をあげる。


「そ、そんな二人がいるなら、Cランクの魔物程度なら――!」

「あ、ああっ! さっき、ルードさんはフィルドザウルス二体を相手にしても、まったく押されてなかったしな!」


 自警団も含め、場が盛り上がっていく。

 フィールはひとまず安堵するかのように息を吐いていた。


 俺とシナニスの目が合う。

 彼もまた、この状況の変化を理解し、思案している様子だ。


 俺は少し目に力を籠める。

 「おまえも、協力しろ」。そう訴えかけると、彼は唇を噛んだ。


「確かに、それならなんとかなるかも、しれねぇな」


 先ほどまで否定的だったシナニスが賛成したことで、ますます士気は向上する。


 口は悪いが、シナニスの状況判断は悪くない。

 ここまでで、皆もそう理解しているだろう。


 だからこそ、彼の肯定は強い意味を持つ。


「……それじゃあ、フィルドザウルスを討伐するために作戦を考えていこう」


 フィールが全員を集め、これからの作戦をまとめていった。



 〇



 果樹園へと戻り、フィルドザウルスを発見する。

 二体とも、果樹園に暮らす魔物を仕留め、食事をしていたところだった。


 あの巨体では、どう見ても満足できる量ではない。

 飽きて別の地域に移動してくれるのが一番なんだがな。


 つがいだと、出産できる場所を探している可能性がある。

 ここが暮らしやすいと判断されれば、定住されてしまう。


「あ、あわわ……フィルドザウルス……二体」


 俺の隣には、シナニスの仲間である探知スキル持ちの女性がいる。

 杖を抱えるように持ちながら、彼女はがたがたと震えていた。


「落ち着け。おまえの役目はここで終わりだ。全員を呼びに向かってくれるか?」

「……わ、わか、わかりました」


 彼女はそろそろと立ち上がる。

 緊張のせいで、随分とぎこちない動きだ。


 みしっと枝の割れる音が響く。フィルドザウルスたちの顔があがる。

 ……マジかぁ。


「る、ルードさん! め、迷宮の入口が!」


 視線を向けると、確かにそちらに小山のように盛り上がった入口があった。

 見慣れた迷宮への入口だ。


 ……果樹園に迷宮なんてなかった。

 まさか、フィルドザウルスはこの迷宮から出てきたのか?


 ……それは後で考えよう。

 とにかく、フィルドザウルスたちをどうにかしないとだな。


 フィルドザウルスはわずかに体を沈め、口を開く。

 魔法、か。


 俺は『挑発』を放ちながら、女性の前に立ちはだかる。

 放たれた風の弾を盾で防ぎきってみせる。


「早く、呼びに行け……いや、こうなったら魔法を空に打ち上げろ」

「わ、わかりました!」


 彼女が杖を天へとかざし、火魔法を放つ。

 それが昼の空で大きな音をあげる。


 狂ったように何度も放つ彼女に、フィルドザウルスたちの注意が集まってしまう。


「もういい、下がってろ!」

「わか、わかかかか!」


 フィルドザウルスが駆け寄ってきたのを見て、女性は顔を青ざめる。

 俺がその間に体をねじ込み、突進を受けとめる。


 さすがに体勢が悪い。けど、止める。


 ああ、いい。

 腕にずしりと重い衝撃。わずかな痛みが心地いい。

 生を実感できる瞬間だ。


 力をそらし、盾で顔を殴りつける。

 『挑発』を放ち、もう一体の噛みつきを剣で切り上げる。


 後退はしない。むしろ前進だ。

 俺への注意を集めきらなければならない。


 女性は木の陰に隠れ、魔法の準備を始める。

 それでいい。

 フィルドザウルスたちが俺に注目したところで、魔法の援護が入る。


 落ち着けば、さすがにDランク冒険者だ。

 自分の仕事はこなしてくれる。信頼して、背中を任せる。


 自警団の人々が駆けつけてくる。

 矢が、魔法が宙を舞い、フィルドザウルスへと襲い掛かる。


 狙うは雌のフィルドザウルスだ。


 いくつかが刺さる。

 悲鳴があがると、雄フィルドザウルスが激高するように吠えた。


 やはり、こいつらは仲がいい。それが、弱点だ。

 フィルドザウルスの黄色の瞳が、射手を捉える。


 隙が、できたな。

 そこへ、シナニスが突っこむ。


 両手の剣を巧みに使い、フィルドザウルスの鱗を削っていく。

 わずらわしそうにフィルドザウルスが尻尾を振る。


 シナニスはそれを跳んでかわすが、追尾するような一撃にかわしきれず、体がはじかれた。

 俺がダメージを肩代わりすると、シナニスは俺をちらと見て、小さく頭を下げてきた。


「気にするなっ。攻撃に集中しろ!」


 雌フィルドザウルスが荒い息を吐く。

 毒が回ってきたようだ。矢には毒が塗られていたからな。


 それが、ますます雄のフィルドザウルスを焦らせる。

 雄がさっさと倒そうと躍起になって仕掛けてくる。


 それを俺は焦らすように、ゆっくりと後退しながら受ける。

 フィルドザウルスをあおるように、俺から攻撃は仕掛けない。


 矢が降り注ぐ。


 今度は雄のフィルドザウルスの体にも突き刺さっていく。

 よろめいたその体に、魔法が突き刺さる。


 戦いで大事なのは力だ。

 けれど、それ以外の部分も大きくかかわってくる。


 人質をとられた状態で、満足に戦えるか?

 お互いが、お互いを思いあっている中で、敵にだけ集中できるか?

 魔物だって同じだ。


 有利に立ち回るためなら何でも利用する。

 それが、人間の戦いだ。


 雌フィルドザウルスの体が崩れ落ちる。

 ぴくりとも動かないそれを見て、雄フィルドザウルスは雌の傍らで沈んだ。


 ……人も魔物も自分の生活を守るために戦う。

 フィールが剣を振りぬくと、フィルドザウルスの首から血が噴き出した。


 そうして、フィルドザウルスの目から光がなくなった。

 


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