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町と迷宮と新たな力6


 サキュバスたちに視線を向ける。

 サキュバスは魔力が多く、魔法攻撃を得意としている。


 だから、俺は彼女らにアタッカーのロールを与えようと考えていた。

 それぞれにロールを与えていく。と、彼女たちはより人間に近くなり、一層の美しさを獲得したその顔で嬉しそうにほほえんでいる。

 そして、次々と、その場で魔法を発動してみせる。


 揃って天井へと向けて打ち上げた火の球がぱんという音とともに炸裂する。祭りのときに用いられる花火の魔法に似ている。


 その魔法はしばらくやまない。……魔力と魔法の射出速度がかなり上昇したようだな。

 と、そんなサキュバスたちに混ざるように一人の少女が体を起こす。


 一番最初に俺を睨みつけていたサキュバスであり……大変、不満そうである。

 腰に手をあて、こちらをきっと睨む。その悪魔の尻尾は左右に揺れている。


「なんで、あたしだけこんなに体が貧相なのっ!」


 ……滅茶苦茶流暢に話すな。それゆえに、俺に対しての怒りもはっきりと口に出来ていた。

 顔をぎゅっと近づけてくるサキュバスは、こちらを強く睨む。

 その整った容姿は少し幼くもあるのだが、とても魅力的だった。……サキュバスの魅了なども俺には効かないはずだが、彼女はなんだろうか。美というものを形にしたような存在だった。


「わ、わからん。ただ、まあ……その。言葉を話せるようになったし、能力は高いんじゃ……ないか?」

「だとしても! これじゃあ……ま――サキュバスらしくない!」


 何かいいかけてやめた。

 ……まあごもっともではある。だいたいの冒険者が想像するサキュバスは、綺麗な女性だからな。


「ただ、あれだ。サキュバスは人の夢の中に入って、相手の理想の姿になって、外皮を奪う存在だろ? ……なら、実際の肉体はなんでもいいんじゃないか?」

「よくないっ! あたし、これ、嫌よ!」


 ……ぶんぶんと子どものように首を振る目じりにぎゅっと涙をためている姿は、なんだろうか。小さい頃のマニシアに似ている気がする。

 初めて薬飲んだ時、確か薬が凄い苦くてこんな顔していたなぁ。ちょっと昔を思い出して嬉しい気持ちになった。


「とりあえず、名前は……必要だろ?」

「……うん」

「サキュバス……サキュバス……キュイってのはどうだ?」


 たまには少しひねってみた。

 そういうと、彼女はこくこくと元気なさげに頷いている。

 

「キュイ、でいいけど……体が」


 ぺたぺたと彼女は胸のあたりを触る。サキュバスたちはかなりの薄着であったが、服を身に着けている。

 それはキュイも例外なく、露出多めの衣服であり――まあ、着やせとかじゃないのは丸わかりだ。


「気にしなくても、戦闘においてはいいんじゃないか? それに、ほら、大きいと戦いにくいだろうし」


 ああ、だからニンとかは小さいのかもしれない。冒険者になるために、あの体型を選んだのかもだ。この思考は決して口に出してはいけないだろう。

 それでもまだ落ち込んだ様子の彼女は、しばらく胸を触っていた。


「……気にするな」

 

 そう伝えると、彼女は口を開いた。


「だって……こんな……だと、マスターが……」


 しかし、呟くような小さな動きで、言葉のすべては聞き取れなかった。


「……俺がなにかあるのか」

「う、うるさい黙ってっ!」

 

 はっとしたように顔をあげ、彼女は距離をあける。と、耳に手を当てていたマリウスが楽しそうに目を開く。


「こんなに貧相だとマスターに気に入ってもらえなくて悲しい、だそうだぞ、ルードー!」

「マリウス、何言ってるのぉ!」

 

 彼女が髪を逆立て、魔法を構える。即座に魔法が放たれたが、マリウスはにやりと笑い刀を振りぬいた。

 あっさりと、魔法を両断し、それから刀の先をくいくいと上げる。


「前よりもかなり強くなったじゃないか! これから、一戦交えようか!」

「交えるな……」


 そういってから、キュイに視線を向ける。悲し気な彼女を元気づけるために、口を開いた。


「その、なんだ……別に俺は、あれだ。巨乳だから……とかじゃないから」


 そういうとキュイは目を輝かせる。俺に目線を合わせるように、必死に翼をはばたかせている。

 それを見ていたサキュバスたちがずいっとキュイの体を支える。仲は非常に良いようだ。


「じゃ、じゃあ、この体が好きっていって!」

「……」

「だ、ダメじゃない……っ」

「い、いや……その。おまえのその無邪気さや素直さは、昔のマニシアに似ているところがあるんだ……それで、だいたい察してくれないか」

「……マスターの妹さんに……」


 そうやって呟くと、彼女は目をぱっと輝かせる。まあ、ある程度は俺のことを理解しているようだし、それでとりあえず落ち着いてくれた。

 それから上機嫌に鼻歌をうたっていた。うんうん、と頷きながら、マリウスが近づいてきた。


「それにだ。ルードは口では巨乳がいい、巨乳がいいと騒いでいるが、周りに集まっている女性を見てみろ。口だけの男なんだ、こいつは」

「言い方に気をつけてくれないか」


 とはいえ、何かいってキュイの機嫌を損ねても大変だ。

 次へと移ろう。

 次は、オークだ。オークたちを集め、それぞれに力を与えていく。ロールはアタッカー。彼らにはこれ以上にふさわしいものはないだろう。

 オークには、アックスオークもいる。ただし、そいつは一体だ。


 初めからいたオークなので、そいつが言葉を話せるようになるのではと予想していたのだが、その通りだった。


「マスター、力、感謝します」

「……ああ。名前はアックスでいいか?」

「御意」


 アックスオークは多少ふくよかだった体がしゅっと引き締まっていた。……凛々しく、男らしい顔つきとなっており、正直いってここまでの変化に驚いていた。それを見ていたキュイがまた胸を撫でてずーんと沈んでいたが、周りのサキュバスたちが頭を撫でて対応すると満足そうだ。……あれ、ただの子どもじゃないだろうか、とは思わないでもなかった。


 次は、フィルドザウルスだ。こちらも、与えるロールはアタッカーを予定している。

 フィルドザウルスたちはどうなるだろうか……と少し気になっていた。何体か懐いているのがいたからだ。

 しかし、彼らは言葉を話せるようにはならなかった。


 いまいち基準はわからないが、ただかなり強化されている。特によく懐いていた個体に関しては、やはり他とは一線を画する力を手に入れていた。フィルドザウルスが嬉しさを強調するように体をこすり付けてくる力がました。


 キュイもフィルドザウルスとは仲が良かったようだ。

 近づいて撫でようとしたキュイが吹き飛ばされ、涙目で翼を羽ばたかせて戻ってきていた。その姿に、サキュバスたちがうっとりと頬を緩めている。ぎゅっと抱きしめてキュイをなだめている。たぶん、あれぬいぐるみみたいな扱いだ。


 とにかく、あちこちで色々なことが起きていて、処理が追いつかない。

 ……最後はラミアだ。彼女たちにも力を与えると、全体的に人間に近くなり、そして――

 

「ありがとう、マスター。この力、マスターのために使うわ」


 やはり一人だけ話せるようになった。彼女は微笑を浮かべ、嬉しそうに蛇の尻尾が揺れた。

 落ち着いた雰囲気を持っている。それに胸も大きく――恐らくだが、俺の理想が多分に含まれているだろうことは、絶対に口に出してはいけないだろう。

 

 少しばかり気に食わなそうにキュイが腕を組んでいるからな。


「マスター、早速で申し訳ないのだけど、私はアタッカーよりも、スカウトのほうが向いていると思うわ」

「……そうなのか?」

「ええ。私、この目で人の温度を見ることができるの。相手が嘘をついているのとか、なんとなく、わかるわ。そういうの、利用すれば情報収集とかに向いていると思うのよ」


 そういってちらと彼女はキュイのほうを見る。

 

「それに、こうすれば人間と同じにもなれるわ」


 そういって彼女は指を鳴らす。魔法が発動すると、尻尾ではなく人間の足となる。

 一応簡素な衣服で局部は隠しているが、なかなかに刺激的な格好だ。ゴブリンたちが興奮したような声をあげ、オークたちはさっと視線を外した。……オークたちは全体的に紳士なんだな。

 

「どうかしら?」

「……まあ、そうだな。スカウトでいいか」


 いわれた通りに変更してみる。実際、あとでいくらでも変えられるのだから、それぞれにあったものに合わせていけばいいだろう。

 彼女は嬉しそうに目を細めた。


「それとね、マスター。今後私がどうするのか。色々と考えているのよマスター」

「色々と?」

「ええ。これなら、町で仕事とかでもできるでしょう?」

「……ああ、確かにな」

「嬉しいわ。これで、マスターを傍で癒してあげられるわ」


 ふふ、と緩やかに微笑んだ彼女に、反応して、びしっとキュイも手をあげる。


「あたしも、マスターの手伝いするっ!」

「……そうだな。まあ、できることは探しておこうと思う」


 ……人手が足りていない部分も確かにある。人の言葉を話せるのであれば、十分にこなせるだろう。

 キュイも、亜人で通用するだろうしな。


「名前は……ミアでいいか?」

「ええ、とても嬉しいわ」


 うっとりとした様子で微笑んだ彼女に首肯を返す。

 そろそろ終わりにしようか、と思ったところで。

 リザードマンたちが慌てた様子でアピールしてきた。

 ……すっかり忘れていた。


「あとは……リザードマンたちだな」


 忘れていないぞ、というのをアピールするように視線をやると、ミアがくすっと笑う。

 ……本当に見破られているようだな。

 ロールはアタッカー、彼らとはそれほど関係はなかった……と思う。しかし、そのうちの一人が立ち上がった。


「これが……肉体」


 どこか感情の少ない表情を浮かべるリザードマンの一人が、ぽつりとつぶやくようにいった。

 何を考えているのかあまりわからない彼が、ちらとこちらを見てくる。


「ありがとう、マスター。この力、大切にするよ」

「……ああ、おまえは――リザードでいいか?」

「うん、ありがとうマスター」


 抑揚のない声で、軽く頭をさげる。どこか無気力なように見えるが、大丈夫だろうか。

 これで、全員に力は渡し終えた。

 少しの疲労感があった。俺が肩を回していると、腕を組んだマリウスが口を開く。


「……少し疑問なのだが、どうしてみんなオレを呼び捨てにするんだ! サブマスターくらいの呼び方でも良いんじゃないか!?」

「だってマリウス、何もしてないし」


 キュイがふんと鼻息を鳴らしながら腕を組む。


「マスターがいないとき、いつもマリウスも迷宮を私たちに任せてでていっていたわね」


 と、ミアがはにかみながらいう。


「ゴブリダも同じ意見!」

「……拙者は――黙秘させてもらう」


 ゴブリダと……たぶんアックスもおなじような気持ちなんだろう。

 レイも俺の後ろに隠れ、ヒューも無邪気に笑っている。リザードは眠たそうにあくびを片手で隠していた。


「い、一応オレがここの守護者なんだからな!」


 マリウスはそういってつーんといじけてしまった。

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