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町と迷宮と新たな力5


「すまないな、ルード。オレはおまえを騙していたようだ」


 マリウスの表情には怯えが混ざっているようだった。

 まるで、悪いことをして、それがばれてしまった子どものようだった。

 ……一体、何を言っているのだろうか。


「それで、マリウス。おまえはこれからどうするんだ?」

「こ、これから……?」

「ああ。記憶が戻って、それで? 魔王として、人間と敵対するのか?」

「い、いや……いやぁ、そんなこと考えたこともなかったな」


 腕を組み、真剣に悩んでいる様子のマリウスに、俺は手を差しだす。


「魔王マリウス。改めて、これから俺のクランのサブリーダーとして、一緒にやっていってくれないか?」

「……ほ、本気でいっているのか?」

「ああ。おまえ以上に、任せられる奴はいないんだ。あー、ニンがいたが、あいつはまだ教会の聖女で忙しいしな。そういうわけで、頼めないか?」


 マリウスは俺の手をじっと見て、困惑に染まっていた顔に笑顔を浮かべる。

 そうして彼は、俺の手を無視して、抱きついてきた。


「そうか、そうかっ! ああ、もちろんだ! オレは今を気に入っているっ! これからもやっていこう、ルード!」


 まったく、普段は浮かべないような顔をしやがって。

 俺が小さくため息をつくと、マリウスも離れて魔物たちへと視線を向ける。

 魔物たちなんて、俺たちの話に特に何も感じてはいないようだ。


「改めて、よろしくな、みんな」


 マリウスが声をあげると、魔物たちはそれぞれの声で鳴いた。

 さて、一つ問題も片付いた。


「他の魔物にも、ロールを与えていってみよう」

「ああ。それと……魔王たちは役割を切り替えることもしていたはずだ。ひとまずは、種族ごとにある程度でまとめてロールを渡し、あとで個人にあわせて切り替えていくのも悪くはないんじゃないか? 同じ種族の魔物でも、能力が違うことはあるからな」


 確かに。アタッカーの中でも魔法と物理の二つがあるしな。


 試しにヒューでやってみる。……確かになんども変更できるようだ。状況に合わせて、戦い方を変えるというのもできるかもしれない。

 それらの確認を終えたところで、魔物たちをみると思わず一歩後ずさる。


 魔物たちはキラキラと輝いた目を向けてきていた。かなり、期待しているようだ。


 現在いる魔物についてまとめると、ゴブリンが30。ゴブリンリーダーが15、フィルドザウルスが10、オークが12、ゴーストが10、サキュバス5、ラミア5、リザードマン10ということになっていた。

 まあ、これだけいれば、魔素で造りだした分身も相当な数になるので、迷宮を運営する上では問題はないといえばないだろう。


 しかし、今後、より上の難易度の迷宮を造ろうとした場合、もっとランクの高い魔物を用意する必要があるため、強化が必要というのもある。


 まずは、ゴブリンたちだ。彼らに与えるロールは何にしようか迷った結果25をアタッカーにし、残り5体のみをタンクにした。人間的考えではあるが、これがバランスとしては良いのではないかと思った。


 ……現時点で俺が考えているこの強化は、何か迷宮の外で問題が発生したときに俺が動かせる戦力として考えている。

 その時には、俺とマリウスの関係などもすべてばれることになってしまうだろうが、そうなったとしても、その一時の危険を追い払えばいい。


 あまり明かしたくないのは、この迷宮が基本やらせの迷宮であるという点だ。そうなってしまうと、冒険者たちも緊張感をもって挑まなくなってしまうだろう。そうなると、冒険者たちも成長できなくなってしまう。


 ゴブリン、一体一体にロールを与えていく。彼らは嬉しそうにその肉体を動かして見せる。早速力を発揮するものもいる。さすがに、ヒューほど強くなった個体はいなかったが、それでもそれぞれの力は今までの倍近くはあがったのではないだろうか。


 嬉しそうにお互いに声をかけあっているゴブリンたち。俺のほうに喜びを表すかのように飛びかかってくるのもいたので、それらは片手でひょいと掴んで放り投げる。やはり素早くなっている。


 強化の方向性はこれで間違いではないだろう。

 次に期待するように見ているのはゴブリンリーダーたちだ。彼らは最初期のゴブリンで、蓄えたエネルギーによって強化した個体だ。……このエネルギーもつまりは冒険者たちから巻き上げたもので、魔王たちの餌のようなものだったというわけか。


 今のこの世界の生活は迷宮を基本として考えている部分もある。今更、その生活をなかったものにするというのも不可能だろう。


 ひとまず置いておこう。

 ゴブリンリーダーたちにロールを与えていく。こちらもアタッカーだ。……というか、恐らく基本的にアタッカーで問題ないと思う。


 彼らに与えていくと、彼らもその力を見せつけるように体を動かし始める。今までとは比較にならないくらい強くなってるのは、彼らの動きを見ればわかる。

 最後の一人。こちらへと輝く目を向けてくるゴブリンリーダーは、もともとはゴブリンでサキュバスの椅子になって喜んでいた個体だ。たぶん、俺ともっとも関係があるので、もしも、ヒューのようになるとしたらこいつだろう。


 彼にも力を与えると、ゴブリンリーダーの体が強く光る。体一回り大きくなり、どこか顔つきも人間の男に近づいている。ただ、少し子どもっぽい。

 

「ちから、ちから!」 

 

 ゴブリンリーダーはヒューよりもたどたどしくはあったが、言葉を発した。

 ゴブリンとゴブリンリーダーたちは、そんな彼に対してからかうように鳴き声をあげ、肩や頭を叩いている。……まあ、冒険者同士で小突きあうような感じだ。


「おおっ、まさか他にも話ができる奴が出てくるとはな! ルード、話ができる個体には名前を与えたほうがいいかもな」


 確かに……マリウスの言うことも一理あるな。


「わかった、名前をつけようか」


 ゴブリンリーダーが期待するように俺の方を見てくる。やはり幼い顔だちだ。というか、名前、か。

 あまり名づけるのは好きじゃないんだ。ゴブ、ゴブ――。


「ゴブリダ。それでいこう」

「く、くくくっ」

 

 腹を抱えて笑い出したのはマリウスだ。ならおまえが決めろっての。少しばかり照れ臭くなって睨むと、マリウスは両手をあげる。


「ごぶ、りだ、ゴブリダ!」


 ゴブリダはそうはっきりと頷いてから胸を叩いた。


「ああ、そうだ。ゴブリダだ。……というわけで、ゴブリダ。おまえはゴブリンとゴブリンリーダーたちのリーダーだ」

「ゴブリン、ゴブリンリーダーの、リーダーゴブリンリーダーリーダー! 頑張る!」


 にこっと笑う。あふれんばかりの笑顔は見ているこっちも気分がよくなる。


「ああ、頑張ってくれ。みんなも何かあったらゴブリダに話してくれ。あっ、そうだ。このリーダーに文句があったらいつでも言ってくれていいからな」


 俺が冗談めかしてゴブリンたちにいうと、彼らは揃って笑った。

 ……冗談を理解する知能まであるようだ。


「ルード、酷い!」


 ゴブリダがぶんぶんと腕を振るい、ゴブリンたちがからかうように鳴いた。

 ……まあ、しっかりとやっていけるんじゃないか? すくなくとも空気は悪くない。若干、リーダーとしては舐められているような気がしないでもないが。


 次はゴーストだ。ゴーストにはスカウトとサポーターの二つで迷い、結局5、5でわけることにした。

 ゴーストはあちこちを自由に移動できる。それを使えば、情報収集は可能だろう。ヒューと一緒で、誰かについたままサポーターとしての活躍もできるだろうと思った。


 ロールを与えると、こちらも一体だけが言葉を話せるようになった。

 ……あと、人間に近い容姿となった。まるで、人間が死んでそのまま生霊とでもなったような感じだ。おかげで、若干怖さが軽減してしまった気がしないでもない。

 足はなく、ゆらゆらと火のように下半身は揺れている。

 ゴーストは俺のほうをみて目を輝かせている。


「ゴーストの名前……マリウス、何かいいものないか」

「行く当てもなくさまよえる人、というのはどうだ?」

「……(ふりふり)」


 ゴーストは女性のような見た目をしている。あまり話すのは好きではないようで、せっかく言葉を発せられるようになっても、口を開くことが少ない。

 ……そんな彼女であるが、マリウスの提案した名前に全力で首を振り続けている。

 ずーんと落ち込んでいるマリウス。……冗談じゃなかったのか。


「レイスというゴーストの上の個体もいる。おまえはもうその域に到達しているだろうから……レイというのはどうだ?」

「……(こくこく)」


 激しく首を縦に振っている。その様子を見て、マリウスはまたため息をついた。

 さて、次は……と思ったところでサキュバスが前に出てきた。サキュバス軍団は合わせて五体いるのだが、その中で一番最初に作ったものだけは幼い容姿をしている。


 ……その子が、睨みつけるように俺の前に立つ。


「次は、おまえか」


 サキュバスは首を縦に振る。その力強さには何か力への執着でもあるのだろうか。

 別に反対意見があるわけでもないので、次の強化は彼女にしようか。


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