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町と迷宮と新たな力3


 マリウスがいる迷宮へと向かうために町を歩いていると、子どもたちと歩いているミノウの姿があった。


「あははっ、ミノウの尻尾柔らかい!」

「おいガキ! オレ様の尻尾に気安く触るんじゃないっ! くすぐったいだろ!」


 そんな風に子どもたちと遊んでいるミノウがいた。

 ミノウは子どもを捕まえるとひょいと持ち上げてぶんぶんと振り回す。

 ……気づけばミノウは、子どもたちの面倒を見ることが増えていた。


 恐らく精神年齢が近いというのもあるのだろう。

 今ミノウがいるのは市民区画の端だ。俺の家からも近い場所に、ミノウはいた。

 

「ミノウ、楽しそうだな」

「た、楽しんでなどいない。オレ様は……」

「くらえっ、突進攻撃!」


 がつっと子どもがミノウへとタックルをぶつける。もちろん、ミノウはそれを平然と受け止め、その背中を捕まえて高く放り投げる。

 子どもは空中で満面の笑顔だ。降りてきた子どもをミノウはすっと受け止めてから地上におろす。

 次やってー! とミノウへと多くの子どもが群がる。その姿にミノウは困惑したような表情となっている。


「お、オレ様は店の接客をやるんじゃなかったのか!?」

「今みたいに幼児の面倒を見るほうが、合っているし、いいんじゃないか?」

「ルード兄ちゃんもいつものやってよ!」

「ミノウ兄ちゃんに負けないくらいでさ!」

「かかかっ、ルード如きに負けるオレ様ではないわ!」

「さすがミノウ兄ちゃん! 頼むぜ!」

「任せろっ! そら行くぞ!」


 ミノウが子どもを空中になげ、それをまた受け止める。まあ、投げるといっても、それほど空高くではない。


 子どもたちが俺にも集まってくる。……元々、ミノウがやっていた力に任せた遊びは俺がやってやっていたものもある。

 俺もミノウと同じように子どもたちを高くなげて遊ぶ。


「ミノウ、ちゃんと外皮がある子だけにするんだぞ」

「当たり前だ。怪我をされたら困るからな。……困るというのはあれだからな、親どもに怒られるのが嫌なだけで、心配とかではないからな!」


 ミノウがぶりぶりと声を荒らげる。

 どちらでもいいっての。

 俺たちは生まれながらに外皮を持っているため、どんな大ダメージをくらっても、一撃なら外皮が受け止めてくれる。


 ないとはいえ、例えばキャッチに失敗してしまっても、ちょっと痛いくらいで怪我をしない。

 だからこそ、子どもたちも結構無茶な遊びをすることが多い。

 しばらく遊んでやると、子どもたちの親たちが迎えにやってきて、一人一人と減っていく。

  

 ミノウはここで朝から晩まで面倒を見ていることが多い。あとは、町のご老人がぽつぽつと協力している感じだ。

 子どもが全員親と帰ったところで、ミノウは小さく息を吐いて、地面に座る。


「まったく。魔物使いのあらい町だ」

「楽しんでいるみたいだな」

「た、楽しんでなどないわ!」


 とミノウは怒鳴ってから、正面を向く。


「けどまあ、今までに経験したことはなかったからな。未知に遭遇すれば、人間だって興味を抱くものだろう。そんなものだ」


 そういう彼の表情は柔らかい。


「ミノウも、町に馴染んでいるようでよかったよ」

「魔物が町に馴染んで喜ぶとは、貴様は冒険者失格だな」

「別に、誰が住んでもいいだろ。みんなが自由に生きられれば、それでいい。今の町に、みんな納得してくれているしな」


 町の人たちも、新しい人が来ることで良い点、悪い点を理解していっている。

 もちろん、不満はあがることもあるだろうが、現状に皆満足はしてくれている。


「ミノウ、これからマリウスのところに行くが、おまえはどうする?」

「マリウス、か。……いや、オレはいい。しばらく町を見て回る。店の手伝いをして、夕食でも奢ってもらいたいところだしな」

「そうか。今日はなんでも牛肉料理が目玉みたいなことを話していたな」

「なんだと! それはうまそうだっ! すぐに行ってくるぞ! さらばだ、ルード!」


 ミノウが立ち上がり、去っていく。

 とりあえず、町は問題なさそうだ。


 

 〇



 マリウスと合流した俺は、管理側の階層へと移動する。

 多くの魔物が出迎えてくれる。ここ最近もちょこちょこ顔を出しては、魔物の製造を行っている。

 現存している魔物たちの数は増加しているし、新しい種類にリザードマンもいた。

 彼らは俺たちを見つけると、びしっと敬礼をする。見た目も人型であり、簡素な鎧のようなものを身に着けているため、騎士らしさがあった。


 他の変化といえば、二十階層までだった迷宮は二十五階層にまで伸びている。

 ちなみに、迷宮の二十階層を休憩所として作ってはいたが、現状はあまりうまく行っていないため、そこも普通に魔物が出現するようにして調整したそうだ。


 先ほどホムンクルスと話していた魔物を作成したあと、本題へと移る。

 俺に飲み物を用意したのは、サキュバスだ。一応、店員としての指導を受けていたからだろう。

 

 サキュバスはテーブルに飲み物をすっと置いて去っていく。

 

 見た目が完全に子どものサキュバスは、どこかつっけんどんな態度だ。生えた悪魔のような尻尾はぶんぶんと振り回されている。犬と同じであれば嬉しがっているのだろうが、サキュバスはよくわからない。


 この場にあるテーブルや椅子はすべて、人型の魔物たちが作成したものだ。なんでも魔法で作ったらしい。


「マリウス。以前、俺は黒竜から色々と話を聞いたんだ。それについて、いくつかおまえにも確認しておきたいことがある」


 少し、緊張している部分はある。

 ここはマリウスのテリトリーだ。彼とは友人、とはいってもな。

 黒竜から聞いた話――その中には、一つ、どうしても確認しておかなければならないことがあった。


 マリウスは楽しそうにほほえんでいる。


「なんだルード?」


 いつもの調子だ。何も変わらない。

 俺はそんな彼に一つの疑問を投げる。


「迷宮を一体誰が造ったのか、それについて知っているか?」

「迷宮の制作者……オレはようわからんが、神が造ったものではなかったのか?」

「本当に、何もわからないんだな」

「ああ、さっぱりだ」


 念を押すように彼に訊ねる。少しばかり、目に力がこもっていたと思う。

 彼はそれでも疑問といった様子で首を傾げている。


「……なにかあったのか?」


 マリウスもさすがに何かを感じ取っているようだ。

 俺はそんな彼に真実を伝えるかどうか迷い、結局口にすることにした。


「……黒竜から聞いたんだよ。黒竜は、迷宮という存在が魔素に満ち満ちていると」

「魔素に……。まあそれはそうなのではないか?」

「ああ、俺も初めは魔物に関係するものだと思ったんだ。けど、違うらしい、根本的な部分から強い魔素を感じるらしい」

「……強い魔素。それはつまり、魔神が生み出している、ということか?」


 こくり、と頷く。……かもしれない。

 だが、黒竜はある程度確信しているような口ぶりだった。

 マリウスはポンっと手をうった。


「ということは、つまりオレも魔神から生まれたのか! 確かに、魔物に変化できるというのも頷けるな!」


 マリウスは楽しそうに笑っている。

 いや、まったく笑い事ではないんだが。


「それでルード。どうするのだ。オレが魔神から生み出されたとしたら、それこそお前たち人間にとっては敵だろう。この関係はやめておくか?」


 マリウスはぎゅっと唇を結び、こちらを見てくる。


「……いや、そうじゃない。俺はべつに、魔神だから敵、という話をしたいわけじゃなかったんだ。おまえが何か知っていれば、情報が欲しいと思った、それだけだ。お前が、俺の友達としていてくれるのなら、この関係を俺からやめるつもりもない」


 俺の言葉を聞いて、マリウスの真剣な表情から力が抜けた。


「そうか……そういってくれて、少しほっとしている。オレも友達としていたい。最近はおまえとこうして話しているのも悪くなかったからな」

「俺もだ。……悪かったな、少し疑って」

 

 頭をさげると、マリウスは首をふった。


「いや……おまえの立場を思えば、そうなってしまうのも仕方ないだろうさ。安心しろ。ここにいる魔物たちの所有権はすでにおまえに移っているんだ。オレが敵対したとしても、この迷宮含め、すべておまえのものだからな。むしろオレのほうがピンチなんだ」

「いや、勝手に所有権全部渡すなよ。一緒に作っている迷宮だろ」

「ははは、いいだろう別に。今日の話はそれだけか?」

「……いや。ここからが重要な話となる。黒竜からもう一つ話を聞いていてな」

「ほぉ、そっちの話は楽しそうだな」


 俺の表情から察したようだ。彼がテーブルに肘をつき、身を乗り出す。


「楽しい話になると思う。魔物を強化するための手段を聞いたんだ」

「魔物の強化か?」

「ああ。というか、魔神や魔王についての関係性をな」

「ほぉ、黒竜とやらは詳しいのだな」


 こくりと、首肯を返す。


「すべての色の竜は神によって造りだされ、かつての魔神との戦争にも参加していたらしい。その後、世界を守るために色の竜は世界に残ったそうだ」

「ほぉ、それで魔神や魔王が強化にどう関わってくるんだ?」

「彼らは特殊な方法で、自分の配下の魔物たちに力を与えていたらしい」

「特殊な方法……とな?」

「ああ。……俺たち冒険者と同じように、役割ロールを与えていたらしい」


 そういうと、マリウスは少し首を傾げた。



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