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町と迷宮と新たな力1



 アバンシアには現在大きくわけて二つの区画がある。

 発展前の住民が暮らしていた市民区画。

 発展後。アバンシア自体を広げる工事に伴い出来上がった冒険者区画。現在はこの二つが主な区画となっている。


 もともと、薬屋と鍛冶屋は冒険者区画に近い位置にあったため、その辺りが一つの区切りとなっている。

 そして今、冒険者区画は大いに盛り上がっていた。

 いくつもの建物が出来上がったのがやはり大きい。初めは教会とギルドくらいしかなかったが、今では様々な店が並んでいる。

 俺はその一つ――ホムンクルスのリーダーであるフェアが管理している宿へと来ていた。


 この町の宿は、現在は完全な宿のみとなっている。他の町でいえば食事ができる場所も用意されているものだが、さすがにそこまで手を回すことはできていない。

 扉をあけると、受付のところにいたフェアがこちらに気付き、元気よく挨拶をしてきた。


「おっ、ルードくん。やほやほーボクに会いに来てくれたのかな?」

「様子を見に来たって感じだ。調子はどうだ?」

「こっちは問題ないよ。ルードくんこそ、クランが色々忙しいんじゃない?」

「まあ、こっちは分担しているからなんとかなっているよ。人は……足りているのか?」

「なんとかねっ! ほら、新人の冒険者さんたちが迷宮の合間に生活費を稼ぐために結構仕事入ってくれるからね。おかげで、らくらくー」

「……そうか」


 アバンシア果樹園迷宮についての情報を、他の町のギルドにも流したことで、冒険者がたくさん集まってきた。おおよそCランク程度までの冒険者ならば、狩場として悪くないという評価に落ち着いた。

 新人冒険者にも優しい迷宮ということもあり、結構集まっていた。

 ほとんどが他のクランに所属している人なので、特に新しいメンバーが追加されたというわけではないが、そんな人たちが結構お金に困っていて、アルバイトを探しているのだ。


 そういうこともあって、現在人手はそれなりにある。特に、仕事を手伝ってくれれば宿を格安で泊まれるというのが新人冒険者には人気だ。

 この宿は問題なさそうなので、次の宿へと向かう。


 宿の管理者は基本的には人間が行うことにしている。ただ、フェアに関してだけは一つの店を任せている。

 あとは、町の自警団や町人に協力してもらって、いくつかの宿を回している状況だ。


 現状の問題点などを、メモし、出来る限り改善できるところは探していく。

 対人の仕事をしている以上、不満がいくつもあるようだ。愚痴を聞きながら、宿を回っていく。

 客である冒険者たちからの反応はかなりいい。接客してくれている彼らには、そういう評価を得ているのだと伝えていく。


 現在ある宿屋十軒を回ったところで、次は武器屋だ。

 この町には、『アームズ』と呼ばれる武器を扱うクランが入っている。『アームズ』は、ある町に拠点を置き、そこで大量の武器を生産しているクランだ。

 国とも連携しており、同じ性能の武器を大量生産し、あちこちの町へと流通しているクランだ。


 この町にも、冒険者たちが多く入ってくるため、オリジナルの一品である鍛冶屋レイジル以外も必要だということで、このクランに来てもらった。

 その辺りはすべてトゥーリ伯爵が対応したそうだ。『アームズ』へと向かう。

 大きな建物が教会の隣にある。さらに、その隣には料理専門のクランもあり、そちらも後で寄る予定だ。


 店の入り口を開けると、可愛らしい衣装に身を包んだ店員がはじけるような笑顔とともに声をあげる。


「いらっしゃいませーっ! って、あらやだ、ルードちゃんじゃない! 何、武器探しにきたの!? とびっきりの選んであげちゃうわよっ!」


 そういってはにかんだのは、鍛え上げられた筋肉をメイド服のようなふりふりとした衣装に身を包んだ男――ここの店長を務めるムッキさん。

 かなりのやり手らしく、これまでもいくつもの店を任されてきた人らしい。可愛らしい店員も何名かいて、ムッキさんの後ろから控えめに手を振ってきてくれる。あっちの人と代わってほしいとは言えなかった。

 服からはみ出た筋肉をぶるんぶるんと震えさせる。にこっとウインクをしてきた彼から俺はそっと視線を外す。


「ムッキさん、何か問題とかはありましたか?」

「いやーねぇ、もうそんなのないわよっ。あっ、一つだけあったわ」

「……なんですか?」

「私の心。奪った人がいるの、いやん!」

 

 ばしっと俺の肩を叩いたあと、ぎゅっと抱き着いてくる。外皮が500ほど削られた。精神的ダメージも含まれている気がする。


「そう、ですか。問題がないのであれば、よかったです。すみません、忙しい中、押しかけてきちゃって」

「やだ、全然いいのよ! ていうか、ルードちゃん。結構な頻度でここにきてるけど、大丈夫なの?」

「……そんなに多いですかね?」

「多いわよ。町を任されたクランが、こんな一つ一つの店に訪れるなんて滅多にないのよ? それも、リーダーさんがね。もちろん、クランメンバーが巡回で時々訪れるってことはあるけど……こうしてお話する機会ってなかなかないの」

「そう、なんですか。あまり、クランについて詳しくないので……まあ、とりあえず、まだ余裕がある間は今のようにしたいと思います」

「本当!? 私、嬉しいわっ!」


 両腕を広げて抱きしめてこようとしたので、俺はさっとかわした。


「若いクランリーダーって聞いてから、どんな町なのか不安だったんだけど……いい町ね」

「そういってもらえて、嬉しいです。『アームズ』クランにも、長く町にいてほしいので、これからもお互い、うまく連携を取っていきましょうね」

「ええ、もちろんよルードちゃん! 私、あなたがいる限り、この町から離れないわ!」


 クランをマリウスにでも任せ、俺はマニシアとともに旅に出ようか。

 やられる前に逃げなければと、俺はその場から離脱した。


 他にも行く場所はある。隣にある料理クランだ。

 クランというのは、何も戦闘がすべてではない。こういった技術的な仕事を担うクランも多くあり、むしろ、国内ではそういうクランのほうが多いくらいだ。


 『ミヤ食堂』と呼ばれるクランだ。店名もそのまま、ミヤ食堂となっており、冒険者たちの出入りが凄かった。

 ……まあ、宿で食事の提供がない以上、冒険者たちが食事をする場所といったらここしかない。


 そういうわけで、人であふれていて、そんな冒険者たちを眺めつつ、俺も中へと入っていく。

 店員が俺に気付いた。事前に来ることは伝えていた。時間に関しても、昼時から少し外した時間にしたのだが、まだ混んでいるとはな。


「ルードさん。待っててくださいね、店長呼びますから」

「……あー、大丈夫ですか? また後でも別に構いませんが」

「このくらいは、問題ないですよ! それじゃあ!」


 店員がさっと奥へと入り、次に店長がやってくる。

 エプロンを身に着けた店長は可愛らしい見た目だ。少女、とつい呼びたくなるが、彼女はこれでもすでに100を超えているそうだ。

 見た目の種族は人間だが、エルフの血が混ざっているそうだ。


 そんな彼女についていき、一つの部屋に案内される。

 席に着くと、彼女がお茶を持ってきてくれる。


「ルードくん、どうだいこの店は。かなりにぎわっているだろう?」

「……ええ。捌ききれるのか、心配に思っていて」

「ルードくんが提案してくれたとおり、今は庭のほうまで使ってやってるんだよね。おかげで、どうにかなってるよ。これから、寒くなってきたらどうなるかわからないけどね」

「……そうですね」


 店自体はかなり大きな建物となっている。こちらが建物自体は用意し、クランに貸し出しているという形だ。

 ただ、それでも、町にたくさんいる冒険者たちに手いっぱいのようだ。

 ……まあ、ほとんどがこの店で引き受けているからな。


 一応、一か所、自分で料理が作れるように場所の提供はしているが、そちらを使う冒険者はほとんどいないからな。


「とりあえず、今のところ問題は起きていない感じですかね?」

「まあね。ま、酔った冒険者たちが暴れることがたまにあるけど、そんなのいちいちあげていたらキリがないからね」

「……そうですね」


 冒険者にとってそんなのは日常茶飯事だ。

 

「ふむ……ルードくん。クランリーダーの仕事はどうだい。なかなか大変じゃないかい」

「……ええ、まあ。毎日、やることばかりで大変です」

「こうやって、よく顔を見せるのは誰かに聞いての行動なのかい?」

「……いえ、別に。迷惑、でしたか? 自分としては、実際に訊いてみたいという気持ちがあったんですけど」

「そんなことないよ。こちらとしても、素直な意見を伝えられるからね。キミが色々とかみ砕いて、領主たちに報告してくれているんだろう?」

「……まあ、可能な範囲で協力はしていきます。これからも、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


 彼女もまだ仕事の途中だ、あまり無駄話というのもいけないだろう。

 無邪気な子どものような笑顔ではにかむ彼女と別れてから、軽く伸びをする。

 ……次は、ホムンクルスたちの宿だな。勝手に寮などと誰かが名乗っていたが、一人一人に確認をしにいかなければならない。


 ただ、な。

 ホムンクルスたちは、少々……やりにくい。

 俺に対して――一方的な崇敬が多いのだ。

 

 特に苦手なのは、サミミナだ。彼女は随分と女性的な肉体をしていて、表情豊かに体を近づけてくる。

 相手がホムンクルスとわかっていても、本物の人間のようなので、結構緊張してしまう。

 それをあまり悟られたくなかった。





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