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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
12/198

Cランクの魔物




 自警団の建物は、町の中央にある。

 彼らの仕事は町の安全を守ることだ。


 主要な都市では騎士が常駐し、町を守るが、地方の、それも小さな田舎ではそういうわけにもいかない。


 ここアバンシアは、ある伯爵の領地だ。

 伯爵が持つ私兵は、もっと大きな町の警備に回されている。


 だから、この町の管理は現状町長にゆだねられている。

 自警団のリーダーを務めているのもそれゆえだ。


 自警団の建物は町長の家に併設されている。

 いずれは町長の娘であるフィールが引き継ぐのではないだろうか。


 「仕事を手伝ってほしい」といわれた俺は、現在自警団本部の会議室に来ていた。

 結構大掛かりな仕事らしく、町にいる冒険者も呼ばれていた。


 会議室にいる冒険者は全部で三人だ。

 やはり、少ない。近くに迷宮がある町なら、この十倍は集まる。


 彼らはまだ冒険者になりたてのような年齢だ。

 しかし、この場に呼ばれたにもかかわらず、顔には自信があふれていた。


 これまでの活動が上手くいっていたのだろう。

 ルナと話しながら待っていると、彼らのリーダーと思われる男が近づいてきた。


「あんたも冒険者なんだな。オレはシナニスだ」

「よろしくシナニス。俺はルードだ」

「冒険者ランクは?」

「Fだ」


 シナニスが目を見開いた。


「F!? それって登録したばっかりってことじゃねぇか! ははっ、だからこんな田舎にいるんだな!」


 そういうあからさまに見下した態度をとられ、何も感じないほど俺も大人じゃない。

 ただ、原因は俺の側にもあるわけで……だから何も言い返しはしなかった。


 ギルドの依頼を達成すれば、ランクはあがる。

 俺は迷宮にしか潜っていなかったし、素材などの売却はすべてパーティーリーダーに任せていた。


 俺がギルドから評価される機会は一度もなかった。


「オレたちは冒険者になって一年。もうDランクにあがったぜ! ゆくゆくは、勇者と呼ばれるようになるんだ!」


 最強の冒険者に与えられる勇者の称号、か。

 それに憧れて冒険者になる者は多いらしい。


「そうか。なれるといいな」


 順調にはいかないほうがいいだろう。

 何度か挫折を味わいながら、本当の強さを身につけていってほしい。


 俺の言い方が気に食わなかったのか、シナニスが目を吊り上げる。


 そのタイミングで扉が開き、フィールとその父親、そしてニンが部屋へと入ってきた。


 冒険者たちの目は、ニンで止まる。

 目を見開いた彼らに、ニンは疲れたような顔を一瞬見せ、すぐに笑みを浮かべた。


「初めまして皆さま。教会所属のニンと申します」


 うふふ、とか聞こえてきそうな外行きの笑顔。

 俺が笑いをこらえると、彼女のこめかみがひくついた。


 いけない。

 聖女様としての彼女を邪魔するわけにはいかない。


 彼女の心配ではない、俺があとで痛い目に遭う。具体的にいうと、嫌いな野菜を夕食に出されたりだ。


「せ、聖女様……ど、どうしてこんなところに」

「たまたま、休暇に来ていました。ここにいる彼は、あたしの騎士みたいなものでございますから」

「せ、聖女の騎士……このFランクが!?」


 ……おい。

 それは前に断っただろ。


 聖女は一名、自分の身の安全を守る騎士を雇う。

 安定した職業、なおかつ美しい聖女様と四六時中一緒にいられる。


 男の憧れの職業、第一位だ。

 ……とはいえ、実際は召使いみたいなもんだ。


 俺がやりたいのは迷宮攻略。

 それができない仕事は、どれだけ待遇がよくてもやりたくはない。


「今はみんなに頼みたい仕事がある。フィール、それじゃああとは任せた」

「わかりました」


 父親がそう言うと、フィールがすっと前に出てきた。


「私はこの町の自警団のサブリーダーを務めるフィールと申す。朝早くから皆に集まってもらったこと、感謝しよう」


 フィールは一礼の後に続ける。


「みんなに集まってもらったのは、ある魔物の討伐を行ってほしいからだ」


 そう言って、フィールはギルドで作られる依頼書のようなものを見せてきた。

 魔物の姿が描かれたその依頼書の上には、「フィルドザウルス」と書かれていた。


「フィルドザウルス、といえば……Cランク相当の魔物じゃねぇか。なんでこんな町にいるんだ」


 シナニスもさすがに驚いた様子だ。

 フィルドザウルスは、様々な環境で生きられる竜種の魔物だ。


 奴らは決まった住処を作るのではなく、あちこちを旅する。

 おそらく、別の場所から移ってきたのだろう。


「どこから現れたのかは不明だ。ただ、奴らはこの町の付近にいる。果樹園のほうにも被害が出ている。自警団の者たちで一度戦ったが……まあ、追い払うのが精々だった。そこで、だ。キミたちに討伐してもらいたい」

「……こっちはDランク四人に、Fランクとその仲間の二人。聖女様がいるとはいえ、さすがに厳しいんじゃねぇか?」

「我々ももちろん協力する。合計十人ほどで挑めるはずだ」


 それだけいれば十分だろう。

 俺もスキルの正しい使い方を理解した。なんとかなるはずだ。


「了解だ。今から向かうのか?」

「おい、おっさん! わかってんのか! Fランクで勝てる相手じゃねぇんだよ!」


 誰がおっさんだ。まだ二十だぞ。


「おまえたちはビビッて逃げたってことにしておこうか。冒険者まで集めなくても、時間さえかければ勝てるからな」


 彼の性格なら煽ればのってくると思った。

 あと、おっさん呼ばわりにかちんときた部分もある。


「あ!? なんだと!? ビビっちゃいねぇよ!」

「それなら、一緒に行くぞ」

「……ちっ、無理だと思ったらすぐに逃げるからな」


 落ち着いた声でそう返してきた。

 シナニスは無鉄砲な男ではないようだ。


 自分たちの力を把握し、討伐は厳しいとわかっている。

 キグラスよりもずっと冷静なんだな。


「……あたしも、行くわよ」


 ニンの腕の怪我は予定よりもずっと回復している。

 彼女が同行してくれる。これほど頼もしいことはない。


「わかった、無茶するなよ」

「……それはあんたよ。みんなの分まで、攻撃受けるんだから」


 小さな声で言ってきた。

 周りに聞こえないように、という配慮だろう。

 大丈夫だ。心配しないでくれ。


「……それでは、すぐに討伐へ向かおう。現場での指揮は私がとる。もしも私に何かあったときは、ルードの指示に従ってくれ」


 気に食わなそうなシナニス。

 しかし、不満を口には出さなかった。


 俺たちはすでに準備が調っているので、さっそく自警団と合流する。

 合計十名だ。


 これだけいれば、十分だな。顔が強張っているのが、少し心配だ。

 フィールを先頭に、町の外へと向かった。


 外は静かだ。だが、いつもと違い、張り詰めた空気があった。


 魔物たちもまた、フィルドザウルスを恐れている。

 それゆえの、緊張感があった。


 それは俺たちも同じだ。

 特に、自警団の人々はこの状況に体がこわばっている。

 Cランクの魔物と戦うのは今回が初めてだろうし、緊張は当然か。


 さっさと、フィルドザウルスを見つけようか。

 自警団とシナニスの仲間が探知スキルを発動し、魔物を探す。


 しかし、なかなか見つからない。

 フィルドザウルスのような魔物なら、すぐに見つかると思ったが……。


 果樹園へと入り、そこからさらに探索していく。

 と、ぴたりと数名の足が止まる。


 見事に、全員探知スキル所持者だ。

 ……敵を発見したのか?


「なにか、下にいるわ!」

「この反応、まさかフィルドザウルスか!?」


 地面が揺れる。

 そういえば、こいつらは……!


「フィルドザウルスには、土中を移動する奴もいる。全員――」

「ぜ、全員距離をあけろ! 迎え撃つぞ!」


 フィールが指示を飛ばす。

 俺はすぐさま盾と剣を取り出す。


 土が宙を舞う。同時に、緑色の巨体が現れた。

 ぎょろりと黄色の目がこちらを射抜く


 太い後ろ足とは真逆の衰えた前足を、動かしていた。

 その動きはまるで獲物を見つけたことを喜んでいるかのようだった。


 鋭く伸びた尻尾も、嬉しそうに揺れている。

 全員が回避する。


 しかし、フィルドザウルスの突き上げによって、一人が打ち上げられてしまい、背中から地面に落ちた。


 俺の全身にわずかに痛みが広がる。……受け身をとるのに失敗してしまったようだな。


「戦闘準備を調えろ!」


 フィールが剣を抜き、声を張り上げる。

 シナニスが、両手に剣を持って距離を詰めていく。

 その表情には笑みがこぼれていた。


「こいつ、小さいな! 子どもか!?」

「ラッキー! これなら、Dランクの俺たちでも狩れるぜ!」


 シナニス達が飛びかかった瞬間、彼の仲間が魔法を放つ。

 それは明後日の方向へと行き、木の陰から飛び出そうとしていたもう一体のフィルドザウルスにぶつかった。


「に、二体!?」

「まさか、つがい……!?」


 驚いたような声が漏れる。

 全員の表情にますます怯えが混じってしまう。

 あまり、よくない状況だな。


「夫婦だなんて珍しいな……。新婚旅行か?」

「そ、そんなのん気なことを言っていられるか!」


 別に、のん気なつもりはない。

 あまりにも皆が緊張しすぎているたから、それを解そうとしたんだ。やはり、こういうのは不慣れだ。


 俺が引きつけて皆に攻撃してもらうというのは変わらない。

 その皆はというと……完全に気圧されている。


 自警団の人からすれば、一体でも衝撃的な状況だ。それが二体ともなれば、そりゃ思考も停止するか。


 これでは、本来の力は発揮できないな。


「フィール、こういうときは一度態勢を立て直したほうがいい」

「そう、だな。皆、一度退避し、作戦を立て直す! ルード! 時間を稼いでくれ!」


 フィールが顔をしかめながらそう叫んだ。





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