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竜族の里4

 外に出る。

 ラーファンは子どもたちと話をしている。子どもたちの目線に合わせたラーファンは頬を少しだけ緩めていた。

 

「ラーファン姉ちゃん、帰ってきてたんだね」

 

 少年が嬉しそうにはにかんでいる。彼だけではなく、集まった子どもたちはみんな嬉しそうだ。


「うん、竜化の試練を受けにきたんだ」

「竜化の試練!? お、お姉ちゃん大丈夫なの……? 俺たちみたいな、半端者は――」

「半端者なんかじゃないよ。お姉ちゃんが証明してくるから」

「ほんと!?」

「うん。だから、待っててね」


 きらきらとした視線にラーファンが手を振って返す。

 それから彼女は俺に気付いたのか、こちらにやってくる。

 少しだけ頬は赤く、唇がもにょもにょと歪んだ。


「変なこと、言われなかった?」

「ああ。ただ、竜化の試練のこと、心配はしていたぞ」


 そういうと、ラーファンの表情も少しだけ沈んだ。


「うん。わかってる。けど、もう私も子どもじゃないから」

「……ああ。おまえならできる」

「……ありがと」


 ラーファンとともに里を歩いていく。

 混血の中でも、ラーファンはやはり目立つようだ。

 里を歩くたび、いくつもの視線が集まり、声をかけられる。


 純血からは、訝しむような視線が。

 混血からは親しげに、時に俺と歩いていることをからかうように。

 ラーファンはそれらに顔を真っ赤にして返事をするものだから、からかうほうとしてはさぞ楽しいだろう。


「ラーファン、そんなに反応しないほうが何も言われないかもしれないぞ」

「じゃ、じゃあ……ルードさんは誤解されたままでもいいってこと?」

「そ、そういうわけじゃなくてだな……」

「……ほら、ルードさんもからかわれて同じような反応してる」


 ラーファンがぺろっと悪戯っぽく舌を出す。

 ……そのわりに、頬が赤い。

 彼女もあまり慣れていないのだろう。


 やがてたどり着いたのは、一つの洞窟の前だ。

 そこには二名の純血の竜族がいた。彼らは槍を持っていて、こちらに気付くと不思議そうに目を丸くした。

 ラーファンが彼らの前にたち、尻尾を軽く振った。


「竜化の試練を受けに来た」

「竜化の試練を、か。半端者のおまえが、か」

「以前、失敗したときのこと、忘れてはいないだろうな」

「……あれは、たどりつけなかっただけ。今度はちゃんと、たどり着ける」


 ラーファンの言葉に、門番たちの視線が俺へと集まる。


「人間のパートナーか。人間。迷惑ならば、きちんと断るといい」

「洞窟内には魔物もいる。すべて、黒竜様の作りだしたものとはいえ、重傷を負う危険もある」

「それは、大丈夫です。それなりに戦えますから」

「そうか……ラーファン。竜化の試練へ向かうことに問題はない。だが、今はまだ竜化の試練を受けに行っているものがいる」

「彼らが帰還するまで、しばらく待つといい」


 二人の門番の言葉に、ラーファンが小さく頷いた。


「……わかった」


 ラーファンの肩が大きく下がった。

 少し緊張しているようで、彼女の翼や尻尾は震えている。


「もうここまで来たんだ。今持っている力を出し切るしかない」

「……うん」


 少しは緊張がほぐれてくれただろうか。

 そんなことを考えながら、10分ほど待つ。

 やがて、騒がしく一人の青年が戻ってきた。傍らには女性がいる。

 青年は鎧と槍を持っていて、女性はあまり見ない衣服をしている。巫女と呼ばれる人が来ているような服装だ。

 

「……ニュート様!」

「ご無事でなによりです!」


 門番が声を張り上げる。

 その声に、ニュートは眉間を寄せた。

 ニュート。ラーファンたちが話していた新しい里長のことか。

 確かにまだ若い。……それでいて、この集団のリーダーを務めるというのはさぞかし大変なことだろう。

 俺だって、より規模の小さいクランリーダーでさえ、未だ満足に務められていないんだ。


「……試練は失敗、だ」


 ニュートの言葉に門番たちは顔を見合わせる。それから、慌てた様子でフォローの言葉を投げた。


「そ、そうですか……で、ですがニュート様は十分お強いのですから――」

「慰めはやめろっ!」


 ニュートは声を張り上げる。その怒声は、空気を突き破った。


「竜化のできない竜人が、一体どうやって里を守ればいい……。お父様を殺したあれと同じような魔物が里へ襲ってきたら、オレは誰も守れやしないのだぞ!」

「も、申し訳、ありません……」

 

 門番たちの尻尾がしゅんとたれた。


「にゅ、ニュート様。そう焦らなくても……」

「黙れ!」


 ニュートは脇にいた女性を突き飛ばし、それからよろよろと歩いていく。

 女性は慌てた様子で


「ニュート様! まだ傷が……!!」

「うるさいっ! オレに構うな! ……くそっ! 次こそは、必ず竜化の力を手に入れて、みせるっ!」


 青年はぼろぼろの体を引きずるようにして歩いてきた。

 しかし、それは強がりだったのだろう。

 俺の前で体が傾き、俺がその体を支える。


「怪我をしているのに、無茶をするな。……気休め程度だが、ポーションを飲むといい」


 俺がポーションポーチを取り出して渡す。

 彼は口をぎゅっと結び、首を振る。


「すまない……外の人間よ。今のオレに構わないでくれ」


 ニュートはそういって、俺の体から離れ歩き出した。

 女性が近づくが、彼の鋭い目の前に足を止めてしまった。

 と、ニュートはラーファンの前に立った。


「そんなに荒れたってどうしようもないでしょ」

「……何をしに戻ってきた、ラーファン」

「竜化の試練を受けに来た」

「そうか。おまえにできるわけがないだろう」

「絶対やりとげてみせる」


 ラーファンとニュートの視線が一瞬ぶつかり、ニュートはそのまま歩き去って行った。


 その背中をちらと見ていると、洞窟の入口を守っていた二名の竜人族と、女性の竜人族がそろって頭を下げてきた。

 

「申し訳ありません。うちの里長が無礼を働きまして」

「いえ、俺が勝手にやったことですから。……俺たちも、もう洞窟に挑んでも大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」


 門番たちが頷き、尻尾を振るう。その槍を洞窟の入り口へと向け、俺たちは歩き出す。

 未だ、元気のなかった女性に声をかける。


「ニュートの、パートナーとして洞窟に入ったのか?」

「は、はい……ですが、私では彼を助けることは……できませんでした」

「……それでも、ニュートが選んだんだ。彼の傍にいてあげるといい。……今、彼は焦っている。誰かが、支えてあげるべきだ」

「……はい。ありがとうございます!」


 女性はすっと頭を下げたあと、目を軽く擦ってからニュートの後を追っていく。

 ……色々と大変なんだろうが、俺にできることはこのくらいだろう。

 洞窟の中へと入り、進んでいく。

 洞窟内は明るかった。あちこちに魔石が埋め込まれており、視界は良好だ。


「ニュートは、私と同い年で優秀な竜族だった。それでも、彼の父親はもっと強かったから、その壁を超えるのは大変だと思う」

「かも、しれないな」

「……けど、あそこまで怒鳴るような奴じゃなかった。きっと、相当に追い込まれている」

「友達だったのか?」

「どう、だろう。少し違う……ライバル、みたいなものだった。彼は純血のリーダーで、私は混血のリーダーだったから」

「そういうわけか。……けど、親しくはあったんだな」

「……難しい感じ。だから、どう声をかけるのが正しいかもよくわからなかった」

「それでいいんじゃないか。困っているからって無理に相手に合わせても、相手も大変だろうしな」


 そんな話をしていると、魔物が現れた。


「き、来た……っ」


 洞窟の奥から現れたのは、三体のスケルトンだ。

 ラーファンは一瞬だけ体を震え上がらせたが、それからぐっと拳を握りしめる。

 剣と盾を構え、俺に一瞥だけをくれる。

 

 この洞窟での戦闘は一人でやると話していた。

 ラーファンが突っ込んでいき、スケルトンと戦っていく。

 まったく問題なく処理して、先へと進んでいく。

 魔物自体はそこまで強くはない。戦闘を終えたラーファンが息を吐く。


「うん……前来た時と違って、戦える」

「それなら、黒竜のところまで行けそうだな」

「ルードさん、どんどん行くから。遅れないように、ついてきて」

「ああ、わかってる。……行こうか」


 これはあくまでラーファンの試練だ。

 俺が前に立って戦闘をすることはなるべくしないよう、ラーファンの背後をついていく。

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