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竜族の里1

 

 普段通りの生活に戻り、ファンティムとシャーリエも元気になった。

 ファンティムは一度旅をしたこともあり、戦闘に関しては十分戦えるようになっていた。


 シャーリエも、事前に話していただけあり、初心者冒険者程度の戦闘能力は有していた。

 そんなわけで、彼らはシナニスやマリウスたちに同行しながら、魔物討伐に励んでいた。


 ……シナニスたちも最近ではかなり腕をあげた。

 町での評判もあがっていて、今では彼らも優秀な冒険者として名前があがるほどだった。

 町のギルドに寄せられる依頼も、シナニスたちがいれば十分達成できるほどだ。


 俺は今日もクランハウスに足を運ぶ。隣接した空き地で丸くなって体を休めていたセインリアとセインに挨拶をかわしつつ、クランハウスへと入る。

 入室に合わせてこちらに振り返ったのは、ラーファンだ。


「ルードさん、相談したいことがある」

「どうした?」

「……私、ちょっと故郷に戻りたくて」

「帰省ってことか?」

「……うん」

「それなら別に、俺は構わない。……シナニスたちには話してあるのか?」

「シナニスたちも、大丈夫だって」


 すでに彼らはファンティムたちを連れて外に出ているだろう。

 ただ、ラーファンはまだ何かいいたそうにもじもじしている。自慢の尻尾も、どこか不安そうに震えている。


「それで、ルードさん。私と一緒に、ついてきてほしい」


 意を決したように彼女は口を開いた。

 予想外だった。どうして俺なのか、という疑問だった。

 ……クランリーダーに会わせろ、とか彼女の家族が話しているとかだろうか。

 

「行くこと自体はいいんだが、何か理由があるのか?」

「……その、私たち竜族が暮らしている場所は、竜の里と呼ばれていて、一体の竜を祀っているの」

「……確か、そんな里があるって聞いたことあるな」


 中に入ったことはないが、そういう場所があるのは知っていた。


「そこにいる竜と会いに行くのを、竜化の試練といって……その道のりを乗り切った竜族は、祀っている竜に会って竜化の力を授かることになる」

「……竜化、か。それって、生まれつきもってるものじゃないのか?」

「竜化の試練を受けることで、ようやく竜族は力を使えるようになるの」

「なるほどな……それでラーファンもそれを受けに行くってことか」


 竜化、か。

 竜族の者と一度だけパーティーを組んだことがある。竜化を発動するだけで、かなり戦闘能力があがったのは記憶にしっかりと刻まれていた。

 だが、ラーファンの表情は険しかった。


「……私は、以前その試練を失敗している。だから、今度は成功させたい。その場所には、一人だけパートナーを選んで連れて行けるんだけど……ルードさんにお願いしたい」

「……なるほどな」


 状況は理解できた。だから、俺を誘ったのか。

 よかった。彼女の家族から呼び出しでも受けてしまったのかと思った。

 竜族にも彼らの中でのルールのようなものがあるようだ。


「以前は失敗したって言っていたよな。……そんなに難しいのか?」


 俺の言葉に、彼女は言いづらそうに口を動かしていた。

 聞かない方がよかっただろうか。話せないのなら、構わないと言おうとしたところで、彼女が決意を固めた瞳とともに顔をあげた。


「竜化の試練は成人になったところで受けられて、それほど、失敗する人はいない。ただ……私は……その……、試練の場所が暗い洞窟で、アンデット種の魔物がいて――。それで失敗した」


 そうか。

 その頃にはもうスケルトンが苦手で、突破できなかったってことか。


「それで失敗して……みんなの期待に応えられなくて……私は里を出て冒険者になった」

「……今度は、突破できるってことだな?」


 彼女は唇をぎゅっと結び、それから拳を固めた。


「うん、任せて。その、ルードさんにはついてきてもらうだけだから。そのお願い、できる?」


 ラーファンの不安そうな瞳に首を縦に振った。


「ああ。任せてくれ。俺にできることならなんでもするよ」

「……ありがと。ルードさん、いつ頃なら行けそう?」

「明日には出発できるな。セインリアに頼んで連れて行って貰えば、移動は問題ないだろ?」

「……そっか。それなら、明日出発して、一日かからないかな?」

「場所はどの辺りなんだ?」


 地図を持ってきて確認する。

 南東の方だ。

 地図で見たかぎり、ポッキン村の真逆だが距離的にはそう変わらない。一日どころか、半日で移動できるだろう。

 打ち合わせはそこで終了し、ラーファンはほっとしたように息を吐いた。


「なんだ、緊張していたのか?」

「うん、まあその、ね」

「何か困ったことがあったら自由に相談してくれ。……あっ、もしかして、俺って結構話しにくい……か?」


 できる限り、話しやすいような雰囲気を作っているつもりだが……失敗していただろうか。

 ラーファンはぶんぶんと首と尻尾をふった。


「そ、そんなことない。むしろ、私のほうが話しにくくて。その、恥ずかしかったし」

「それならいいんだが。……これからまた仲間は増えていくからな。俺が怖いとか言われないように、したいんだ」


 舐められるわけにはいかないが、だからといって怖がられるのも違う。

 俺はできる限り、楽しいクランにしたかった。


「大丈夫だよ。ルードさんは、話せば優しい人ってわかるから」

「話せば?」

「それじゃあ、また明日」

「お、おい。どういうことなんだ……」


 からかうように笑ってラーファンはクランハウスを出ていった。

 ……俺って怖いか? 一人ショックを受けていると、ルナがやってきた。

 ギルドに行って、依頼などの確認をしていたはずだ。


「マスター、また旅に出るのですか?」

「ああ。クランメンバーの相談だ。ギルドは何か問題でもあったか?」

「いえ、大丈夫です。気をつけてくださいね」

「ああ、了解だ。何か、行く前に片付ける必要のある仕事があれば言ってくれ」

「大丈夫ですね、今のところは」


 ルナが思い出すように顎に手をやる。それならよかった。


「ルナ。一つ聞きたい」

「な、なんでしょうか」


 彼女の瞳をじっと見ると、ルナは少し戸惑ったように視線をさまよわせた。


「……俺ってクランリーダーとしてあうとき、顔怖いか?」

「……マスターですか? かっこいいですよ?」

「そ、そうか。その、威圧感とかないか?」

「……確かに、少しあるかもしれませんね。椅子に座って新聞とか見ているとき、熟練の冒険者、みたいな雰囲気がありますね」


 ……そ、そうなのか。

 俺は一人がくりと肩を落とす。

 確かに、一人でいるときは無表情というか、仏頂面のときが多かった気がする。

 これからはその辺りも気をつけようか。


 俺は席に座りなおし、腕を組む。

 竜化の試練、か。

 装備品はしっかりとしたものを持っていきたい。……ただ、以前の武器が折れてしまったこともあり、今身に着けているものはレイジルさんの店で購入したそれなりの剣を二本だ。


 ……まあ、普通につかっていても問題はないだろうが、最大威力で『生命変換』を使う場合は壊れるのを覚悟しておいたほうがいいだろう。


 あとは、大盾にスキルを使うというのも一つの手段だろう。

 ただ……こっちが戦闘中にこわれるとなると俺の役目であるタンクとしての仕事が機能しなくなる可能性がある。


 ……ならば、使い捨てとして使用できる剣のほうがいい。

 こうなると、剣を複数所持しておきたい気持ちにかられるな。


「ルードー! 戻ってきたー」

「ルードさん! 町の近くでゴブリンリーダーを倒してきたよー!」


 元気よくクランハウスに駆けこんできたのは、ファンティムとシャーリエだ。

 俺の前でびしっと敬礼をしている。お互いの服には返り血がついている。

 遅れてやってきたのはシナニスだ。今日は彼が一人で二人を連れて行っていたようだ。


「ルード、ゴブリンリーダーが近くまで来ていたんだがよ。どうなってんだ?」

「……確かに、普段は見ない魔物だな。ギルドには報告しておく。たぶん、調査は町にいる冒険者たちでやるんじゃないか?」

「だろうな。たぶんだが、あの個体は聖都のほうから流れてきた奴じゃねぇかな。ま、報告はそんだけだ。おい、おまえら! 汚れたんだから、ちゃんと体洗っておけよ!」


 聖都か。懐かしいな。

 教会本部である大聖堂が置かれているため、聖都と呼ばれている。

 また、騎士学園もあり、俺が昔生活していた街だ。


「シナニスにーちゃん、一緒にはいろーぜ!」

「ったく、面倒だな」


 そういいながらも、シナニスは一緒に入るんだろう。

 面倒見いいんだよな、シナニス。

 口調は荒く、そっけない様子を見せることの多いシナニスだが、暇さえあれば彼が新人冒険者たちを連れて行ってくれるので、非常に助かっている。


「……と、そういえばラーファンここに来たか?」

「ああ、竜化の試練の話でな」

「それなりに悩んでいたみたいだし、気にはかけてやってくれよ。リーダー」


 シナニスはそれだけ言い残して、ファンティムとシャーリエとともにクランハウスを出ていった。

 悩みか。自分の過去と向き合う行為でもある。不安も抱えているだろう。

 ……出来る限りのことはしてやりたいものだ。

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