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聖竜と薬草16


 

「おっ、ルードさん! もう元気になったのか!?」

「村を助けてくれてありがとよ! あんたはオレたちの英雄だ!」


 休息をはさんだあと。

 村を歩いていると、すれ違う人々からそんな声をかけられる。


 ……少し照れ臭いと感じるほどであった。

 俺は慣れない様子に曖昧な返事を返しつつ、村を歩いていく。


 なんでも、今夜は記念として宴を開くらしい。

 空は暗くなり始めている。


 まだ完全に村が安全となったわけではないため、もちろん村の周辺に注意を払いつつではあるが。


 ……とはいえ、この村を襲ってくる魔物はいないのではないだろうか。

 眼前に、広場が見えた。普段は子どもたちが遊び場として使っているらしく、今もそこに子どもの姿があった。

 

「竜の鱗って冷たいんだなぁっ!」

「わわっ! 空浮かんでる!」


 セインリアとセインが、そこにはいた。

 セインリアが近づいてきた子どもたちを尻尾で掴み、くるくると遊ばせている。


 大人たちも周りにいて、少し不安そうに竜たちを見ていた。

 セインリアたちはこちらに気付くと、一つ鳴いた。

 俺が片手をあげると、セインリアはすっと頭を下げてくる。そこまでの忠誠を見せなくてもいいんだが。

 義理堅いんだな。


「セインリア。村を守ってくれてありがとな」

「ぶぁぁっ」


 セインリアがそう鳴いた。

 ……セインリアがいる限り、この村を魔物が襲ってくることもまずないだろう。


 そもそも、どうして村に魔物が下りてくるかといえば、聖竜たちが怖くて逃げ場を探しているからだ。

 ……聖竜へとわざわざ挑むような真似はまずしないだろう。


 俺がセインリアの頭をなでると嬉しそうに目を細める。

 ……こうしてみると、ペットみたいで可愛いな。


「すげぇ……本当に聖竜を手懐けてやがる」

「……あの冒険者、邪竜は倒すし、やべぇな」


 セインリアを見に来たのだろう冒険者たちが、俺に少しばかり怯えたような目を向けてくる。

 ……セインリアがちらと冒険者を見て声をあげると、ささっと逃げていった。


 と、その中にイーセの姿もあった。

 イーセはセインリアには一切見向きをしていない。

 彼女は、嬉しそうに少年少女たちを見ていた。


 教会を追放された、か。納得できる場面だった。

 。

 俺はしばらくセインリアのもとで時間を潰していると、こちらへリリフェルとファンティムが駆けてきた。


 こちらへ、というか村を駆けまわっていたようだ。二人は俺に気付くと、一目散に駆けてきた。


「師匠っ! 元気でありますか!?」

「ああ、元気だ。リリフェルも、もう大丈夫か?」

「はいっ! 村を救ってくれて、本当に本当にありがとうです!」

「ルード! オレもだっ! リアニ草、ありがとな! いっぱいとれたんだ! これで、シャーリエを助けられる!」


 二人が俺に飛びついてくる。

 よかったな、と笑顔で受け入れるが、全体重をかけてくるような二人に、さすがに頬がひきつる。


 やめろ、まだ疲れているんだ……。

 彼らが喜んでくれているのは素直に嬉しくもあった。


 昔、子持ちの冒険者がいたが、休日は子どもたちの相手をして全然休めなかったそうだ。

 こんな気分だったのだろうか。……まだ子どもがいるような歳じゃないが。


 と、いい匂いが鼻をくすぐる。


「そうだ! もうすぐ、料理が出来上がるので、師匠を探していたんですよ!」

「おうっ! 冒険者たちも協力してな! おいしい料理がたくさんできたみたいなんだよ! 行こうぜルード!」


 ……そういうことだったのか。

 彼らは俺の手を掴み、引っ張ってきた。

 

 リリフェルたちの言葉にその場にいた子どもたちの表情も笑みで飾られる。

 そのまま、俺たちが移動した先は、別の広場だ。


 中央に大きな火が用意され、周囲には木製のテーブルが並んでいる。

 出来上がった料理が次々に置かれ、子どもたちがつまみ食いをして、近くの大人たちが怒りながら追いかけている。

 

 ぱちぱちと焚火の爆ぜる音に混ざり、穏やかな笑いがそこかしこから生まれる。

 

「ルードさん、もう大丈夫なんですか?」

「ああ」

「そろそろ、宴が始まるみたいですよ」

「……そうだな」


 俺たちが話していると、村長の挨拶とともに宴が始まった。



 〇



 酒や食事を楽しんでいた。

 色々な人に声をかけられ、少し疲れていた俺は人々の輪から少し離れた場所で宴を見ていた。

 手元にある酒と肉でちびちびと体の疲れをいやしていると、こちらにニンがやってくる。


「何よ。主役が隠れるようにいていいの?」

「さすがに、疲れたんだよ。おまえはいつもこんなに注目されてたんだな」

「こんなにじゃないわよ。あんたのほうがよっぽど、目立っているわよ」


 俺の隣に腰かけ、にこりと笑う。


「……知名度でいったらあんたのほうが全然上。戦闘能力だってね」

「そうでもないだろ」

「そうでもあるのよ。はぁー、あたし、あんたの隣で戦い続けたいって思ってたけど、どんどん離されている気がするわ」

「お互い様だろ、そこは」


 俺だって、おまえが遠い存在だとずっと思っていた。

 今だって、聖女としてふるまっているときは、どこか別の世界で暮らす人間のように感じてしまっている。


「もうすぐ、新しい聖女が決まるらしいわ」

「そうか。……おまえはどうなるんだ?」

「今度から聖女の数を増やすらしいわ。あたしは、引き継ぎが完全に終わり次第、聖女引退。これからは冒険者として生きていくわ」

「……そうか。家は何か言っていないのか?」

「もう今さらあたしに何も言うつもりはないみたいよ? ていうか、あたしの面倒見れるような貴族はいないって逆に突っぱねられたわ」

「……確かにな」

「だから、これからもよろしくね」


 ニンがはにかんで伸びをする。

 そんな彼女の奥――。宴を楽しんでいた人たちが、一人、また一人と倒れていった。

 眠っている、ようだ。


 もちろん、これだけ飲んで騒いでいれば眠気を感じる人もいるだろう。

 だが、一人だけではない。集団だった。

 明らかな異常で、俺とニンは視線をかわしたあと、すぐさま向かった。


 何名か、無事な人はいる。

 ティメオとリリフェルだ。

 となれば、ドリンキンとファンティムも気になったが、彼らはすでに宿に戻っているので分からない。

 

 建物の陰から、三人の冒険者が現れた。

 彼らは互いに笑みをかわしていた。

 ……カードで遊んでいた冒険者たちだ。俺たちが魔穴の破壊にいくとき、反対していた者たちだ。


 彼らはこちらに気付くと、眉間に皺を寄せた。


「……なんで、睡眠薬が効いていないんだよ」

「……睡眠薬だと?」


 俺が聞くと、男たちはしまったといった顔をしている。

 ティメオたちと合流し、彼らとともに睨みつける。


「ちっ、まあ、いい。こいつのスキルは特殊なスキル、らしいからな。持っていけば、金になる」


 冒険者たちは笑みを浮かべる。

 彼らは武器を構えて、こちらへと切りかかってきた。

 金になる? 俺たちを奴隷商にでも売るというのか?


 さすがに、この場に大盾は持ってきていない。

 剣は折れてしまっている。


 皆武器は持っていないようだ。


「……ティメオ、やれるか?」

「まあ、無手での戦闘は騎士学園にいたときに少々やっています。ルードさんもですよね?」

「ああ、まあな」


 ティメオに騎士学園の話をしたか? と思っていたが、ティメオは俺と同じ構えをとる。

 なるべく彼に無茶はさせない。

 俺が一歩前に出たところで、男たちが動いた。 


 彼の剣を右手で捌き、左手の甲で敵の剣の腹を叩いて弾く。

 蹴りを放った。


 ティメオも一人を相手取り、問題なく撃退している。

 ……騎士は犯罪の取り締まりが仕事内容だからな。対人戦のほうが得意だ。


「つ、えぇ……っ!」

「さすがに、オレたちの魔穴を破壊しただけはあるか」

「オレたちのだと……? おまえたち、まさか……ブルンケルスの関係者か?」


 俺が問うと、彼らは顔を見合わせてから口元をゆがめた。


「ブルンケルス? はっ、さてな……っ。どちらにせよ、オレたちは力を手に入れたんだよっ!」


 彼らが叫ぶと、彼らの体を黒い魔力が覆っていく。

 彼の体から僅かに黒い魔力があふれた。

 それは一人だけではない。伝染するように複数の男たちも力を発揮する。


「悪いが、こっちも、契約があるんだ。死んでもらうぜ!」


 彼がその力とともにこちらへと飛びかかってきたところだった。

 彼の胸から鋭利な刃が生えた。


 その背後には、ドランの姿があった。

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