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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第四章

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聖竜と薬草15


 セインリアの尻尾が持ちあがる。

 振り下ろされれば、耐えきれる自信はなかった。


「ルード!」


 ニンの声が響いた。幻聴を疑ったが、違う。無数の魔法がとび、セインリアへとぶつかる。

 視線を向けると、ニンを先頭に、村にいた冒険者たちがそこにはいた。


 魔法がセインリアを傷つけるような威力はなかったが、突如現れた冒険者たちに、一方的に攻撃されたセインリアが面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 振り上げた尻尾がそちらへと襲いかかる。


 冒険者たちは回避したが、その余波に全員が吹き飛んだ。

 一人――ドランだけは厳しい目とともに、葉巻を口にくわえたまま槍を構えていた。

 俺は体を起こし、地面を蹴りつける。同時に、冒険者たちが落とした剣を握りしめ、スキルを発動する。


 セインリアは俺に背中を向けていた。

 絶好の機会だった。全員が作ってくれたこの一瞬。無駄にするわけにはいかない。


 隙だらけの足へと、俺は剣を振りぬく。

 セインリアの足を捉え、えぐるように剣が鱗を破る。


「がああ!?」


 予想外の一撃だったのだろう。セインリアがこれまで聞いた事もないような大きな悲鳴をあげる。

 だが――わかる。足りない。

 今の生命変換だけでは、足りない。しかし、これ以上、こちらに戦えるだけの力は残っていない。


 力、もっともっと力が必要なんだっ。全員を守るために――!

 体中の力をひねり出す。体内で、どろりと黒い力が渦巻いた。


「うぉぉぉ!」


 叫ぶと同時、俺の体をわずかに魔素が満たす。心を、体内の魔石を蝕むが意識をしっかりと保つ。

 体内で『健康体』と魔素がぶつかり合っているのがわかる。それゆえの痛みがあふれるが、同時に力も沸き起こった。

 剣を振りぬくと、黒い軌跡が残ったような気がした。


 連続で振りぬき、セインリアの鱗をはがし、その肉体を斬りつける。

 攻撃の手を緩めはしない。剣と大盾を、何度も振りぬいていく。


「今よ! 全員! 持てる力の全力をぶつけなさい!」

 

 ニンが叫び、怯んでいるセインリアへと冒険者たちが突撃する。

 セインリアが大きくのけぞった。

 その瞬間、空でこちらを窺っていた聖竜たちが一斉に歌を歌った。


 それはセインリアの放った咆哮とはまるで違い、人の心を、体を癒すかのような優しい音色だった。


 セインリアは悲鳴をあげるように声を上げ、その場で暴れる。

 冒険者たちが全員離脱し、俺も逃げようとしたが、限界が来ていた足が沈む。


「若いの、あんまり無理すんなよ」


 そんな俺に肩を貸してくれたのはドランだ。

 彼は険しい表情とともに、セインリアを見る。

 セインリアの体から魔素が抜け、その体がゆっくりと沈んでいく。


 ……真っ白に戻ったセインリアへ、セインが慌てた様子で飛んでいく。


「……まさか、聖竜を味方につけて邪竜をぶっ飛ばしちまう人間がいるなんてねぇ」


 ドランは何かを知っているかの様子で、そうつぶやいた。

 ……戦いは、終わったということでいいのだろうか。

 そう思った瞬間、体の力が一気に抜けた。


「……どうしてここがわかったんだ?」

「ヒューから聞き出したのよ」

「……ヒュー」


 ごめん、といわれた。けど、やられてほしくなかったの、……といわれた。

 ヒューがぺこぺこと体を振る。その体をそっとなでる。


 聖竜セインリアは、体を起き上げ、大きな声で鳴いた。

 それはいまだ上空へと飛んでいた仲間たちへ向けての言葉だったのだろうか。


 理解したのか、聖竜たちはその場から去るように飛んでいく。

 後に残ったのはセインリアとセインだけだった。

 そして、彼らはこちらへと向かってゆっくりと近づいてきた。


 ドランに肩を貸してもらいながら、俺はセインリアをちらと見る。

 何度か、セインリアが鳴き、ドランは口元を緩めた。


 ドランは、竜の言葉が理解できているのだろうか?

 俺が首をかしげていると、ヒューが俺の肩に乗って体を揺する。


 ……助けてくれたこと、感謝する。

 セインリアは頭を俺の目の前へと下げてきた。


 ヒューが言葉を翻訳してくれた結果をまとめてみると、どうやらセインリアは迷惑かけた分、俺たちに力を貸したいそうだ。

 お礼、というようだ。


「別に気にしなくてもいいんだがな」


 しかし、セインリアは首を振ってきかない。

 セインも同じく俺のほうに飛んできて頬をすりよせてくる。


「聖竜が懐くっていうのは珍しいことなんだ。だから、ありがたく仲良くしておいたほうがいいぜ」


 ……いや別に仲良くって言ってもな。

 こちらの様子をうかがってくるセインリアは、どこか寂しげにちらちらこちらを見てきていた。

 ここで断ったら、滅茶苦茶がっかりして去っていきそうだ。


「わかった。これからよろしく、セインリア、セイン」


 そういうと、セインがますます激しく体をこすりつけてきた。

 衝撃に押し倒されても、だれも助けてくれない。

 俺はちらとリアニ草へと視線を向けていると、ニンが腰に手を当てながらこちらを覗きこんできた。


「あんたねぇ……一人で抱え込もうとするんじゃないわよ」

「悪いな……」

「本当に悪いと思ってんの?」


 ニンの目が厳しく吊り上がる。

 俺の横に座った彼女は、それから俺の頭を軽く小突いてきた。


「無茶するんじゃないわよ。何のためのクランで、冒険者で、仲間だと思ってんの? 少しくらい、こっちにもよこしなさいよ。無茶はこっちも覚悟してるんだからね」

「……わかったよ。そんな怒るなって」


 ニンはむすっとした様子で腕を組んでいた。

 しばらく体を休めていると、俺のほうへリリフェルたちがやってくる。


「師匠ぉぉぉ! 死んじゃったかと思っていましたぁ! よかったです……無事で!」


 泣きじゃくりながら彼女がこちらに飛びついてきた。倒れている俺の腹で涙を拭くのはやめてくれないか。

 ファンティムも同じように俺の腹で泣いている。


 ……無茶、か。

 死ぬかもしれないという思考は頭の片隅にあった。


 俺が死ねば、きっと色々問題が出てくるはずだ。

 不自由だ。けど、悪くない不自由だ。


 俺はファンティムとリリフェルの頭を一つなでてから近くのリアニ草をつかんで、ファンティムに見せる。


「ほらファンティム。これがリアニ草だ。これで、シャーリエの治療ができるよ」

「……うんっ。ありがとな、ルード! ……オレ、絶対強くなって、シャーリエだけじゃなくて、ルードやクランも守れるくらいになってやるっ!」


 はにかみ、拳を固めるファンティムの頭を軽くなでる。

 俺がそのまま目を閉じて休もうとしたところで、ニンが頬を引っ張ってきた。

 にこっと屈託のない笑顔で、


「ルード、まだやること残っているわよ。村に戻って、全員に報告しないと!」


 ニンがそういった。

 どうやら、まだ素直に休ませてはくれないようだ。


 疲れていた俺はもうこのまま眠りたかったんだがな。

 そんな俺たちの言葉を聞いていたセインリアが翼を広げる。


 俺の体を器用に前足でつかんできた。……気分は餌にでもなってしまったような感じだ。

 

「それじゃあ、あたしたちは先に戻りましょうか」


 ニンがひょいとセインリアの足にしがみつく。

 セインリアが飛びあがり、ヒューが村のほうへと案内すると、まっすぐに飛んでいく。


「村の人たちに、ルードが邪竜と戦っているって伝えてるのよ。……安心させるためにも、あんたがきちんと宣言してあげてね」

「わかった」


 まあ、冒険者たちを連れ出す以上、村の人たちに事情は伝わっているだろう。


 飛行による衝撃に顔をしかめていると、あっという間に村へと到着した。

 村の前でセインリアが下りると、村人と冒険者三名が顔をしかめていた。


 ……村に残っていた冒険者はドランと一緒にカードで遊んでいた男たちだ。

 彼らは驚いたように体をのけぞっていた。

 村人たちも目を点にしてこちらを見ていた。


 俺は立ち上がり、彼らを見て宣言する。


「邪竜は全員の力で討伐したっ! 魔穴も破壊し、村を襲っていた問題はすべて解決した! だからもう、安心してくれ!」


 そう声を張り上げると、村の人たちは一瞬の間の後、割れんばかりの歓声をあげた。

 涙を流しながら、喜ぶ者。

 こちらへとやってきて何度も感謝の言葉を並べる人。


 ……助けられて、よかったな。

 ただ、その中で、こちらをじっと見ていた冒険者たちだけが気になった。

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