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聖竜と薬草12


 かつて、ドラッケンと呼ばれる国があった。

 この国とも友好的だったドラッケン国は、竜を祀る国だったそうで、多くの竜人がそこで暮らしていたらしい。

 もしかしたら、ラーファンの先祖もそこの出身かもしれない。

 そんなドラッケンは、今はもうない。地図に残っているのは、旧ドラッケン国という名前だけだ。


 その国が壊滅したのは、突如として出現した邪竜が原因だった。

 魔神が召喚したのではないかといわれている邪竜であったが、そいつのせいで、ドラッケン国があった大陸は人が暮らせない土地になってしまった。


 アンデット種の魔物がはびこり、草木は枯れ落ちた。その大陸を腐敗させた邪竜が次に目を付けたのは、この国だった。

 当時、騎士学園にまだいた俺は、そのときのことをよく覚えていた。

 国で討伐部隊が編成され、そして……学生も出陣するのではないかと噂されていた。


 そんな邪竜を追い払ったのは、聖竜だ。

 我が国が、彼ら白い竜を白竜ではなく、聖竜と呼ぶのは国を救ってくれたからだ。

 神の遣いではないかといわれている聖竜――白く美しい鱗を持ち、立派な四肢で大地をかける。大きく立派な翼で空中を飛ぶ姿は、人の視線を多く集める。


 そんな聖竜と邪竜――実は姿が非常に酷似していた。 

 一部の研究者たちは、邪竜とは、聖竜が魔素に侵されてしまった姿なのではないか? といわれていた。

 それは失礼だぞ! ということで、あまり研究は勧められてこなかったらしいが……。


 俺の目の前には、巨大な邪竜がいた。

 これが、国を破壊した邪竜と同じかどうかはわからない。

 もしも、邪竜ならば――放置するわけにもいかないっ。この国を、破壊させるわけにはいかない。


「ルード……っ! あいつの魔素を治療するっていうのは……っ」


 ニンの声にも焦りが混ざっている。彼女も、俺と同じことを考えているのかもしれない。


「わかってる……っいますぐに、やるぞ!」


 以前やったように、奴を仲間と認識してその魔素を俺が取り込もうとする。

 しかし、強い拒絶を受けた。体が殴り飛ばされたような錯覚に襲われる。


 ……これはいったいどういうことなのだろうか。

 スキルを無効化された……?

 だが、今までこんな経験はない。とにかく、わかっていることは……このままではダメだ。


「ダメだ、スキルが通用しない」


 次の手を考えている暇はないな。

 ここで時間を使うくらいなら、一度退くしかない。


「すぐに避難するぞ!」


 まともにやって勝てるか分からない。

 何度か戦った魔素の力を取り込んだ魔物や人を思い出す。

 

 彼らは数段ランクがあがっており、戦うのは苦労した。

 聖竜が魔素によって強化されたというのなら、その力は計り知れないものになっているかもしれない。


 一度退く。そう決めたはいいが、ニンとイーセはどうにか頷いていた。

 ニンがすかさず光の魔法を放つ。しかし、邪竜は何かを察知したのか、すぐさま両の翼を動かし、黒い光を放った。

 ニンの魔法と打ち消しあい、それは消滅する。


 イーセが氷の槍を作り出し、それを放つが、邪竜は大きな翼を地面につけ、口を大きく開いた。

 魔力が渦巻く。放たれたのは黒い風。


 そいつがあっさり氷の刃を弾き飛ばした。

 俺は、舌打ち混じりに邪竜を睨みつける。


 誰かが残って足止めするしかない。誰かはもう決まっている。


「俺が時間を稼ぐっ、二人ともすぐに避難してくれ!」

「わかった……わっ! 必ず、助けに戻ってくるから、それまで耐えてなさいよっ!」


 ニンが悔しそうに眉根を寄せ、すぐに走り出す。

 ……俺を残すという選択に迷いがあったのだろう。

 こちらを心配げに見つめてきたが、俺とここで言い合っているだけ、時間の無駄だ。


 そのあたりの割り切りができるのはさすがだな。

 イーセもAランク冒険者だ。判断は早く、剣を片付け、きた道を戻っていく。


 俺が『挑発』を使うと、邪竜はじっとこちらを睨みつけてきた。

 邪竜は四つの足で、大地に立っていた。


 後ろ足は太く、しっかりとしている。前足だって、人間の胴よりも太かった。

 邪竜は、後ろ足で強く地面を踏みつけ、尻尾を地面に叩きつける。


「ガァァア!」


 咆哮が周囲へと抜け、ぴりぴりと肌を焼く。

 立っているだけで、冷や汗がだらりと頬を伝う。


 どれだけの時間が過ぎただろうか。

 邪竜と睨み合っていた俺は、反射的に横に飛んでいた。

 さきほどまで俺が居た場所を、邪竜の尻尾が抜ける。


 その余波を盾で受け止める。

 すぐに視線を邪竜へと向けると、飛びかかってきていた。


 盾で受け止めるが、さすがに弾き返せはしない。

 

「うぉぉぉっ!」


 声を張り上げ、思いきり腕を押し上げる。

 一瞬だけだが、邪竜の体を浮かせられた気がする。その隙間に体をねじ込んで、地面を転がる。


 素早い動きと力。

 はっきりいって、やりあいたくはない。

 ……逃げるしかないな。


 こっちの体力だって無尽蔵じゃない。

 何度も攻撃を受け切れるだけの余裕はない。


 邪竜が身を低くし、前足と後ろ足を折りたたんでいく。

 ……跳躍か? それとも――。


 今までの経験を存分に生かす。

 似たような姿の魔物がどのような動きをしていたか。それを考え、俺は突進と予測する。


 予想通りだった。

 邪竜は恐ろしい速度で地を走ってきた。 

 足が地面を蹴りつけるたび、土がめくれその巨体が迫ってきた。


 横にとんでかわすと、すかさず反転してくる。

 その凶悪な牙が俺の体へと迫ってくる。

 巨体で、動きも素早い。でたらめすぎる。


「……ふざけんなっ!」


 俺は低くなっていた邪竜の頭を蹴りつける。

 そのまま大きく跳躍するが、狙いすましたように尻尾が叩きつけられた。


 大盾で受け止めるが、空中ではさすがに力ではじかれる。

 壁に叩きつけられ、俺は首を振る。


 今の一撃で外皮は1000ほど削られたが、まだ残っている。

 ポーションを取り出して回復を行いながら、別の方角へと走っていく。

 とにかく、狭い場所に行き、奴の動きを阻害して、時間を稼ぐ。


 別の道へと入り、俺は姿を隠して一度呼吸を整える。


「……くそっ、どうする」

「……っ」


 俺の肩にヒューがのる。小さな人型であるヒューは両手を振る。落ち着いて! と声をかけてくれて、それがありがたかった。


「ガァァァ!」


 咆哮のあと、黒い風が吹き抜けた。ブレスが周囲の岩壁を破壊し、俺の眼前を抜けていく

 ……呑気に、隠れてもいられないな。


「ヒュー……ニンに俺の場所を聞かれても答えるなよ……っ」


 この邪竜を狩るだけの戦力があの村に揃っているとは思えなかった。

 ……無駄に人を犠牲にするだけだ。


 邪竜が先ほどと同じように飛びかかってきたので、大盾で受け止める。

 地面を滑るように無理やり押される。

 その衝撃を受け流すように、上体を捻って、かわす。地面を転がり、すぐに起き上がって、態勢を立て直す。


 ……攻撃する暇がないな。

 逃げる俺へと尻尾が伸びてくる。

 何度か攻撃をかわし、道の先を見る。直線だ。


 そこでわざと尻尾の一撃を盾で受け止める。衝撃に吹き飛ばされ、距離を稼ぐ。

 壁に激突すれば、外皮は削られてしまうが、その分はポーションで十分カバーできる。


 最初に戦闘していた場所から、随分と距離を開けた。

 村とは逆方向に移動したため、村へと襲いかかる心配もないだろう。


 ……援軍は期待できない。だから、とにかく村から離れる。

 後は、どこかで、邪竜を撒ければいいんだが……撒いたあとが心配で、結局逃げるわけにはいかなかった。


 邪竜は完全に俺を狙っている。

 攻撃を紙一重で受け流し、時には回避もしていく。


 ……それでどうにか時間を稼ぎ、近くの木々や岩に身を隠し、体力を回復していく。


 しかし、邪竜の奴は探知魔法でも持っているのか知らないが、俺を完全には見失ってくれないな。

 とっくに、挑発の効果は切れているはずなのだが、なかなか逃がしてくれない。


 呼吸を整えていると、壁のような圧力が迫ってきた。

 俺はすかさず、岩から体を離したのだが、その岩を破壊するように邪竜が飛びかかってきて、巻き込まれる。


 ごろごろと地面を転がりながら大盾を構えると、すかさず連撃に襲われる。


 敵にわざと弾かれて、距離をあけてからポーションで体力を回復し、全速力で走る。

 邪竜が両腕を曲げ、飛びかかってこようとする。


 その瞬間に合わせ、俺は光魔法を放った。

 ニンやルナたちのように強力なのは無理だが、弱い光なら生み出せる。


 間近まで引き付け、それで魔法を放つ。邪竜の腕に殴り飛ばされたが、邪竜の目に光を当てることに成功し、なんとか時間を稼ぐことができた。


 邪竜は周囲を薙ぎ払うように尻尾や腕を振り回しているが、俺の正確な位置をすぐに把握はできないようだった。


 ……目以外でも探知しているのかと思ったが、そういうわけじゃないんだな。


 今の一撃で外皮が半分ほど持っていかれた。まずい、急いでポーションで回復をしないと。

 ……ポーションポーチに手を突っ込んだ俺は、そこで、気づいた。

 普段なら、確実にしないようなミスを犯していた。


 ……残りのポーションがすでにつきていた。

 邪竜に集中するばかりで、ポーションを計算できていなかった。

 邪竜がブレスを吐き、俺はそれを盾で受け止め、弾かれる。壁に背中から叩きつけられ、残っている外皮は3000ほどになる。 


 回復をしないと――。

 そうは思っても手段がない。

 とにかく、一度逃げるしかない。


 俺は運よく見つけた脇道へと入る。そこは下り坂のようになっていて、俺は外皮へのダメージを覚悟しつつ、そこを転がって落ちる。

 それほど削られず、大きく距離を稼ぐことに成功する。

 しかし、どうする……? もう、奴を足止めすることもできない。


 このままでは、村にあいつがいってしまう――。

 そう思ったときだった。ヒューが何かに気付いたのか、俺から離れた。


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