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聖竜と薬草11

これからの更新は毎週、月曜、水曜、土曜日でやっていこうと思います。



 イーセを先頭に、進んでいく。

 先に進めば進むほど、ホワイトウルフの数も増えていた。

 

 ここまで数が多いとなると、迷宮よりも魔穴の可能性が高い。

 あれは一体の魔物を大量に召喚しつづけるものだ。

 

 ホワイトウルフを無限に出現させ続ける魔穴があれば、それを破壊すればどうにかなるだろう。

 問題は、その魔穴を発見できるかどうか……なんだが。


 俺たちは岩や木々を使い、身を隠しながら進んでいく。

 もちろん、敵が三体で、こちらが一瞬で仕留められるのであれば、倒して進んでいる。


 気づかれずに狩るのは難しくない。俺が物陰から『挑発』を放てば、敵が何かがいると認識し、疑うように近づいてくる。

 その背後からイーセが突っこむ。魔物たちが気づくのに一瞬遅れ、その隙に一体が死んだ。

 勢いに押された魔物たちはそのまま、イーセによって壊滅させられた。


 敵が複数いれば、俺が一体に飛び掛かり、咆哮をあげられないように押さえ込む。

 ニンが風魔法で切り裂くなど、手段は色々だ。


 すでに、ここまでで二桁ほど討伐してきた。

 それでも一向に数が減った感じがしない。

 時々、俺も気になって探知魔法を使うのだが、たくさんの魔物が引っ掛かり、使うたび後悔するほどだ。


 ポッキン村があった高台からくだっていき、俺たちが通ってきた道を途中で曲がる。

 幅広な道には、白い砂が敷き詰められており、視覚的に肌寒い。

 時々風が吹き抜けると、思わず身震いしてしまう。


「この先、魔物の数が増える。二人とも、私の近くに来てくれ」

「ああ」


 慎重に進んでいったのだが、ある地点で、イーセが足を止めた。

 

「……魔素が濃いな」

「……これは、魔穴で間違いないわね」

「くっ……覚悟を決めて進むしかないか」


 魔素――魔界の空気が満ちていて、これを長く吸い続ければ周囲のものや人が魔物化してしまうといわれている。 


 人体にはあまり良いものではない。

 俺はすでにホムンクルスたちでそれを体験していた。……早いところ、破壊したほうがいいだろう。

 

「あまり行きたくはないが、魔穴をどうにかしなければ村の子たちが危ない。私はこの命にかけてでも、子どもたちを守る!」

「それだけ聞くと立派ね」

「何をいうニン。私に他意はないぞ、ほんとだぞ」


 もうその言い方からして怪しい。

 俺はイーセに笑みを向けながら、スキルを発動する。

 途端、眉間に皺を寄せていたイーセの表情が和らいだ。


「なんだ? 体にあった不快な感覚が消えたぞ……?」


 不思議がる彼女に俺のスキルについて説明する。

 彼女は驚いたように目を見開き、それから小さく頭を下げてくる。


「凄すぎるな、そのスキルの合わせ技は。これなら、もう少し近づいて状態を調べられる。……あの魔素のせいで、ずいぶんと体が重たかったからな」

「……そうなのか?」

「まあ、普通はね。あたしはそういうとき、常に自分にキュアの魔法を使ってるからどうにかなるけど……あんたは何も感じないの?」

「『健康体』が影響しているのかもな」

「便利ね。まあ、一応あたしはあんたにキュアの魔法を定期的にかけるわね」


 この前のホムンクルスのときのように、完全に相殺しきれない場合もあるかもしれない。

 彼女のキュアをあてにしつつ、俺たちは前へと進んでいく。


 ホワイトウルフの数が増えていく。

 確かにこの辺りは、ホワイトウルフたちが住処にしている場所だ。


 ……さらに進んでいったところで、イーセの眉間に皺が寄る。


「ここから、魔物の数が増えるな……一気に仕留めるか、足止めする必要があるぞ」

「……そうか。さすがに、ここで戦闘を開始すると、これまで隠れてやり過ごしたホワイトウルフたちも気づく、か」


 帰り道だって危険なのは変わらない。

 ……ただ、ここまできてひきかえすのか?

 恐らくこの先に魔穴か迷宮のどちらかがある。……まあ、ほぼ魔穴で確定しているのだが。


「一気に倒すわよ。あたしの魔法と、イーセの魔法を組み合わせてね」

「……どうするんだ?」

「簡単よ。ルード昔複数の魔物を仕留めるためにやったことあるでしょ?」

「……おいおい。あれをやるつもりか?」


 俺の言葉に彼女はにやりと笑みを浮かべる。

 

「大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫よ。イーセ、それじゃあ一気に仕留めるための作戦を話すわね」

「……わかった。やってみようか」


 うまくいけば、いいんだがな。

 うまくいかずとも、ホワイトウルフの数を減らすことができれば、どうにかなるだろう。


 悪戯を思いついたようなニンの笑みに、俺はもう駄目だと思いつつ協力することにした。



 〇



 準備は調った。

 イーセとニンは姿を消し、俺は一歩前に踏み込んだ。


 大盾を地面に落とす。白い砂がまうと同時、ホワイトウルフたちがこちらに気づいた。

 一体が吠えると、続々と集まってくる。すでに、逃げられる様子はなかった。


 俺はそれらすべてに『挑発』を放つ。

 範囲を拡大し、この場にいる魔物たちすべてを、巻き込むように広げまくる。


 俺の挑発から逃れられた魔物はいない。

 ホワイトウルフの一体が、吠えると、それを合図に一斉にとびかかってきた。


 俺はそこで、大盾を前に出す。

 駆けこんできたホワイトウルフたち――しかし、そんなホワイトウルフたちの体が突然沈んだ。


 俺の目の前に巨大な穴ができていた。

 それはニンの魔法だ。土魔法に関するもので、簡単に言えば穴を掘るだけの魔法。


 だが、彼女がとんでもないほどに魔力をこめたことで、その穴の規模は随分と大きなものとなっている。


 何体か跳躍してきたホワイトウルフを盾で殴り飛ばす。穴へと落とすように攻撃すると、ホワイトウルフたちは驚いたように背中から落ちていった。


「……酷い罠魔法だな」

 

 視線を下に向けると、氷の槍で串刺しになった魔物たちの姿があった。

 さらに、逃れようとしたホワイトウルフたちへ、イーセが魔法で攻撃していく。


 探知魔法で、おおよその魔物の位置はわかっているのだろう。

 これがニンと俺の合体技……みたいなものだ。


 俺の『挑発』で、ニンが作った落とし穴に魔物すべてをはめる。


 単純明快でもっとも効率の良い倒し方だ。以前は逃走するために使ったことがある。

 ……今回は魔物の数があまりに多すぎる。

 結構ショッキングな光景になっているので、俺はあまり見ないようにしておく。


「あとは土で埋めておきましょうか」


 ニンは両手を合わせ、土魔法で掘った穴を元に戻した。

 一応聖女らしく、神にでも祈っているのかもしれない。


 魔物たちの死後を考えるのであれば、魔神に祈る方が正しいのだろうか。

 そんなことを考えていると、イーセが驚いたように目を見開いた。


「……凄いな。あれだけの数相手に『挑発』の効果が届くなんて、聞いた事ないぞ」

「……他人の『挑発』について考えたことはないんだが、どうなんだ?」


 そもそも、『挑発』持ちを二人パーティーに入れることは少ないからな。


「……どうなのかしらね? こんだけの数を相手にしたタンクを見たことないからわかんないわね」


 ニンもまた首を傾げていた。

 俺たちがそろって首を傾げていると、いやいや、とイーセが首を横に振った。


「私は騎士として、こういう魔穴の対処を何度かしたことがあるからな。タンクとはいえ、十体も敵を引き付けるのが精いっぱいなものだ。『挑発』で、あれだけの数を引き付けられるタンクなど、見たことないぞ」

「……まあ、できたのだからいいだろう。それより早く、魔穴をどうにかしよう」


 スキルには個人差がある。それだけだ。

 イーセがこくりと頷いて、先へと進む。


 ホワイトウルフたちを埋めた大地は、しっかりと元の足場と変わらなくなっている。

 そこは、さすがニンといったところか。


 さらに少し進んだ先――。すでにホワイトウルフの姿はなく、目に見えるほど濃い魔素が満ちた空間に魔穴があった。

 紫がかった魔素は、確かに毒のようで、見た目からして体に悪そうだ。


 そこに到達したところで、イーセが剣を構える。


「破壊は、任せろ」


 イーセが笑みを浮かべ、剣に魔力を込める。

 それから、彼女の剣がきらりと光った。スキルが発動したのだろう。

 一瞬のうちに何度も剣を振りぬく。


 それが終わった瞬間、まるで宝石が砕け散るような音が響き渡り、魔穴が壊れた。

 周囲を覆っていたどこか暗い空気と、肌にべっとり張り付くような空気も、砕けた衝撃とともにかききえていく。

 新鮮な風が、魔素を払うように吹き抜けていった。


「……これで、村の安全は守られた、か?」


 俺の言葉に、からっとイーセは微笑んだ。


「例年通りになるだけ、ではあるがな。これまでを知っている村の人たちは喜んでくれるだろう」


 よかった。

 リリフェルの元気のない顔を思い出し、俺はほっとする。

 いい報告ができそうだ。


 俺はヒューを取り出し、リリフェルに連絡を取る。

 魔穴を破壊した、と告げたときだった。


 俺たちの頭上を黒い影が覆った。

 イーセが驚愕の表情で頭上を見上げ、俺もまたそちらを見て絶句する。


 ゆっくりと降りてきて、こちらを睨みつけるように吠えたそいつは――。


「……な、なぜ、聖竜までもが……まさか、魔素に侵されたというのか」


 呟くようにイーセが言った通りの魔物がそこにいた。

 途中で見かけた聖竜と、体のつくりは同じだ。だが、これまで見てきた聖竜のどれよりも大きかった。


 黒竜と化してしまったそいつは、四足の足で地上に降り立った。

 風圧に顔を覆う。次の瞬間、翼が大きく広げられた。


「ガァァァァ!」


 地響きがするほどの咆哮――。それによろめいている暇など、俺たちにはない。

 振り下ろされた尻尾を、俺は先頭に立って受けとめると、俺の体が沈んだ。



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