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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 

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真実の想い 下


 二人の見事な作戦に、俺とマニシアはまんまとはめられたわけだ。

 俺は別に構わない。


 感謝こそあれ、二人を責める気持ちは一切ない。

 問題はマニシアだ。


 ベッドで目を覚ました彼女は、俺を見て、それから顔をすっと澄ましたものにした。


「兄さん、なぜここにいるんですか。早く部屋を出て行ってくれませんか」

「マニシア、さっきの頭突き、大丈夫か?」

「……な、なんのことですかねー」


 棒読みだ。

 嘘がへたくそな彼女を可愛いなと思いながら、俺は頭をさげる。


「色々と、考えててくれてありがとな」


 その言葉がすべてだ。

 俺と目が合うと、彼女は耳まで真っ赤にした。


 じんわりと、目じりに涙がたまっていて。

 鼻の先も少し赤くなり、


「兄さんは、もっと自分のことを考えてください」

「考えているよ。考えて、今のように生きているだけだ」

「ありもしない魔本を探して、あたしなんかのために人生を使いきろうとしないでください」

「魔本じゃなくても、迷宮には未知のものがたくさんある。いつか、マニシアを治す手段だって見つかるはずだ」


 それに――。


「家族のために生きることの何が悪い」


 少しだけ怒って、また笑みを浮かべる。

 ぶわっとマニシアが涙をこぼした。


「兄さん!」


 彼女が抱き着いてきた。


「……マニシア。心配しないでくれ。俺にはおまえが生きていることが幸せなんだ」

「……兄さん。今までごめんなさいっ。馬鹿なあたしには、こうするしか兄さんを幸せにできないってずっと思って――でもあたし、兄さんに嫌われたくないです!」

「別に、嫌いになるわけがないだろ。……それに、俺も悪かった。これからは、自分の幸せって奴を探してみるよ。だから、マニシアも……体が治ってから何をするか、考えてくれ。全部終わって、それから俺たちは俺たちなりに生きていこうよ」


 つまりは、そういうことだと思う。

 俺はマニシアの体が治ってからの人生がわからなかった。

 それがダメなんだ。


 これから、探していかないとな。そういう意味では、俺もルナと一緒だな。

 とんとん、とマニシアの背中を優しくなでる。

 マニシアはわんわんと泣く。


 小さな頃を思い出した。

 あのときは、彼女を守るだけの力はなかった。


 けど、今は違う。

 何度も何度も、撫でていれば、マニシアも落ち着いていく。


 泣きすぎてしまった彼女は、ひくひくと声をあげている。


「兄さん……ごめんなさい」

「別にいい。マニシア、これからまた一緒に生きていこう」

「……はい」


 立ち上がり、頭を軽くなでる。

 マニシアは久しぶりの笑顔で受け入れてくれた。


「二人に、お礼でも言おうか」

「……そう、ですね」


 マニシアの手をとり、部屋を出る。

 リビングの席に座っていたニンとルナと目が合う。

 ほっとした様子でこちらを見ていた。


「よかった。二人とも仲直りしたみたいね。せっかくの家族で喧嘩なんて馬鹿らしいわよ」

「そりゃ、おまえにだけは言われたくないな」


 両親と仲悪かっただろおまえ。

 マニシアは俺から手を離し、つんとした態度へと戻った。

 それから席に座り、じろっと二人を見る。


「……二人に相談したのが間違いでした」

「……マニシア様は、仲直りがしたかった、と私は考えました。違い、ましたか?」


 ルナは申し訳なさそうに、頭を下げた。


「……うっ」


 マニシアの頬が引きつり、助けを求めるようにこっちを見てきた。

 それはおまえの問題だ。


 俺は出来上がっていた昼食の用意へ向かう。


「ルナさん……その」

「申し訳ありませんでした。私には、人の感情を完全に理解できません。頑張って、予測して……それでニン様にも相談をして、行動に移しました」


 隣に並んだニンは、からかうように口元を緩め、ピースを作った。

 ……俺にも相談してほしかったな。


「間違っていたのなら、申し訳ありませんでした。……余計なことをしてしまいました」

「あ、あってます……。あって、います。……あたしは兄さんと、仲良くしたくて。……はい」


 料理を運ぶとき、マニシアと目が合う。

 彼女は顔を真っ赤にして、黙りこんでしまった。

 ルナがほっとしたように息を吐く。


「……よかったです。最後は、私の気持ちもありました。マニシア様と、マスター、お二人に仲良くしてほしかったです」

「……わかり、ましたよ。はい、あたしは……そうしたかったですから」


 マニシアはルナの真意に恥ずかしがっている様子だ。

 気持ちはわからないでもないな。


 料理を並べ、席に座る。


「色々あったが、とりあえず……ご飯を食べよう」


 全員で手を合わせ、神への祈りをささげた後に俺たちは昼食を頂いた。



 〇



「兄さん」


 寝室から出てきた彼女は、俺を見つけると嬉しそうに笑った。


「おはよう」


 俺は王都新聞から一度だけ視線をあげて、戻す。


 王都からここに運ばれてくるまで一週間ほど。

 町の人たちで読みまわし、俺の家に届くのは一番最後。


 情報としての新しさはない。

 他国との状況や、国内の迷宮調査に関しての情報に目を向けるくらいだ。


 ただ、一面に取り上げられていたのは勇者の失敗だった。

 ニンが話していたものだろう。


 すると、マニシアが俺のほうにやってきて、俺の上に腰かけた。


「兄さん、新聞読んでください」

「……おまえ読み書きは得意だろ」


 俺たちは拾ってくれた貴族の家で、習得している。

 しかし、マニシアは駄々をこねるように首を振った。


「読んでください」


 俺に体を押し付けるように、腰を揺らす。

 彼女の長くのびた黒髪が、俺の鼻をくすぐる。


 俺とは違って小柄だから別に重くはない。


 こうした素直な行動をしてくれるのは、ルナのおかげだ。

 マニシアは誰もいないとき、俺に甘えるようになった。


 人前では昔のような冷たい……とまではいかないが、そっけない態度をとるが、今のように誰もいなければそれはもう甘えてくる。


 新聞の見出しを順に読んでいく。

 マニシアが指さした場所はさらに詳しく伝えていく。


「兄さんも、王都には行ったことあるんですか?」

「何度か、な」

「……羨ましいです。綺麗でしたか?」

「そうでもなかったな。人が多いからゴミはあちこちに転がっている。道は汚い。人も、色々な奴がいる。……この町のほうが俺は好きだな」

「でも、この町は……人がどんどん減っちゃってますよね。これから先は、心配ですよね」


 そうだな。

 アバンシアはいい町だ。


 けど、目立つようなものが何もないから、人はどんどん減ってしまっている。

 何とかしたいものだけど、こればっかりはな。


 マニシアが新聞の一面を指さす。


「この勇者って、ニンさんが嫌っていた人ですよね?」

「そうだな」

「兄さんも一緒にパーティーを組んでいたんですよね。ニンさんは兄さんのことを馬鹿にするから、嫌いって言っていましたよ」

「ニンは多少私情が入っているんだよ」

「なんだ、兄さんも気づいているんですね。それで、何もないのですか?」


 からかうように目を細めてきた。

 ……しまったな。そこまで話すつもりはなかった。


 バツが悪くて、口を閉ざしたが、頬を軽くつつかれる。

 ……わかったよ、気持ちを伝えるか。


「まあ、な。けど、今はまだ考えられない」

「……あたしがいるから、ですか?」

「違う。……いや、少しそうだな。おまえを治したいから、そういうのは考えてない。……一度、誰かとそうなってしまうと……俺はきっと弱い人間だから、その幸せに固執してしまう。不器用で……二つを同時に、なんてきっと無理だ。だから……これだけは、すまない。マニシアを治すまでは、考えたくないんだ」


 これが、マニシアが俺を嫌っていた理由だ。

 わかっているが、今度ははっきりと自分の気持ちを伝える。


「……理解してくれているのなら、いいです。けど、本当に大切な人ができたときは、その人のために生きてください。私は今でも幸せですから」

「……わかった」


 マニシアが笑顔を浮かべ、それから俺に体重を預けてきた。

 そうして、彼女は少しだけ頬を染める。


「けど、それまでは……その、妹を大事にしてくださいね」

「……わかったよ」


 彼女の頭を軽くなでると、昔のような甘えた笑顔になった。


「そういえば、ニンさんって貴族なんですよね? あまり話したがりませんが」

「ああ。一度だけ連れていかれたときがあってな。公爵様だそうだ」


 マニシアもさすがに目を見開いた。


「こ、公爵!? そこまでのお方だったんですか!? 私、結構無礼なこと言ってしまいましたよ!」

「俺も似たようなもんだ。むしろ、それで態度を改めたほうがあいつは嫌がるぞ」

「……そ、そうですか。わかりました、打ち首にならない程度に気をつけます」

「まあ、そのくらいはな。普段通りのマニシアなら大丈夫だ」


 マニシアはこくりと頷いた。


「それにしても、兄さん。女の人にモテモテですね。帰ってきていきなり二人も連れ帰ってくるなんて驚きましたよ」

「二人とは仲良くできていると思うが……そういう言い方はやめてくれ」

「モテモテです。町にも兄さんのこと気になっている人いますし……」

「まあ、それなりに接する機会はあるけどな」


 別にモテているという気持ちはない。

 町に関しては、若い男性が少ないというのも理由の一つじゃないか。


「……兄さん。女を泣かせるのはダメですからね」

「もちろん……わかってるよ」


 と、ドンドンドン! と激しい音がして、マニシアがびくんと跳ねた。


「な、なんですか!?」

「る、ルード! 大変なんだよ! ぱ、パパが!」


 ミレナが玄関を押し開けてきた。

 ニンが学び舎に行ったきりで、鍵は開けっ放しだ。


 そもそも、この町で鍵をかけるというのはあまりない。どうせ、近所みんな知り合いだしな。


 マニシアはぴょんとはねるようにして俺の上からどいた。

 逃げるように部屋へ向かったマニシアの頬は赤い。


「レイジルさんがどうかしたのか?」

「鍛冶場で倒れていたんだよ!」


 ……まさか。


「わかった、すぐに行く。ミレナ、まだ走れるか?」

「も、もう無理……あとから追う、から……」

「いや、一緒に行くぞ」


 病気などでは助けを呼びに行く必要がある。

 俺だけでは足りない。


 ミレナを抱え、そのまま家を飛び出した。


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