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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
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新しい仲間にワクワクしていたら追放されてしまった

ヒーロー文庫様より書籍一、二巻、三巻のほうが発売しました。

それにあわせ、大幅の加筆修正を行いました。

興味のある方は手にとって頂ければと思います。


 自分のパーティーに新しい人が来る。

 そう聞いたとき、多くの者は嬉しさを感じるのではないだろうか。


 少なくとも、俺はそうだった。


 新しい仲間かぁ。男か女か。できれば女性がいいなぁ、とか。

 男としてそう考えるのはおかしくはないのではないだろうか?


 新しい仲間の歓迎会に参加するため、酒場へと来ていた。

 入口で待っていたパーティーリーダー――勇者と呼ばれているキグラスが、俺を見てにやりと笑う。


 笑顔の意味はわからなかった。


 彼の隣にはすでにパーティーメンバーが並んでいた。

 迷宮のルールで、一度に入れるパーティーは六人までだ。


 俺を含めて、現在は五人。

 あと一人。前から探していたのだ。


「よぉ、ルード」

「悪い。遅れたか?」

「いや、時間通りだ」

「そうか」


 キグラスの隣に並んだ瞬間、彼の笑みがますます濃くなった。

 何か面白いことでもあったのだろうか。


 彼の笑顔はあまり人に見せていい類のものではない。

 勇者と皆から尊敬される立場なのだから、少しは控えたほうがいいと思う。


 彼に教えようとしたときだった。


「す、すみません遅くなりました!」

「き、キグラス様! お待たせしました!」


 女性二人がこちらに来ていた。


 二人とも、俺よりもいくつか年下に見える。

 彼女らが、新しい仲間だろうか。


 ちょっと待って。

 合計七人になるんだけど……。


 くるりとキグラスが俺の方を向いた。

 その笑みの理由が、今やっとわかった。


「今日は歓迎会と送別会だ。ルード、おまえは今日でクビだ」


 キグラスは首を切るように腕を動かした。



 〇



 え?

 俺が固まっていた時間はどれくらいだろうか。


 しびれを切らしたように、キグラスが息を吐いた。


「だから、クビなんだよおまえは。この二人が新しく加わったら、七人になるだろ?」

「……それはわかるが、クビ、か。どうしてだ?」


 思い当たる節が見つからない。

 しかし、その質問は悪かったようで、キグラスが眉間をさらに寄せた。


「おまえのように、敵の攻撃を受けるだけのタンクは必要ねぇんだよ。今時、大盾なんか持っている奴がどこにいる? 回避重視のタンクばっかりだろ?」

「確かに、そうだが……」

「それに、てめぇがいるせいでポーションの消費が激しいんだよ。ヒーラーのニンがいるっていうのに、なんでてめぇは凄まじい勢いで外皮を削られているんだよ」


 俺たちには神の加護がある。

 それがスキルと外皮だ。外皮は神の鎧や体力とも言われており、それが削られない限り、死ぬことはない。


 俺の外皮は9999と、歴代を見ても最高の数値である。

 勇者と呼ばれる最強の冒険者であるキグラスが、4000ほどだ。

 この差を見れば、明らかだろう。


 ……だが、確かに俺は外皮をよく削られるのだ。

 知らぬ間に外皮は削られ、そのたびにポーションを使っている。


 だから俺がパーティーでもっとも金を使っているのは、確かにそうだった。


「だいいち、てめぇは、いつもいつも、攻撃せずに盾で守ってばかりだ。オレとリリアがいなきゃ魔物の一匹も倒せねぇ!」


 リリア……このパーティーのアタッカーだ。

 双子の妹リリィと、仲良く話している。……あいつらはいつも自分たちの世界に引きこもってるからな。


 俺たちの話に混ざるつもりはないらしい。


「俺の役目はタンクだから……攻撃は関係ないだろ?」

「魔物を引き付けてるだけで、仕事してるつもりかよ。他のパーティーを見てみろよ。敵の攻撃をかわして、反撃しているだろ!? ろくにかわさず、知らないうちにどんどん攻撃もらって、ポーションを馬鹿みたいに使いやがって! 外皮だけが自慢の体力馬鹿が!!」


 言い返せないでいると、ニンが前に出た。

 うちのパーティーのヒーラーだ。


 その翡翠色の双眸をつりあげ、キグラスを睨みつけている。

 公爵家の娘にして、教会の聖女である彼女は、美しいブラウンの髪の先を指に絡めていた。


 彼女が苛立っているときにやる仕草だ。


「そうは言っても、いきなり新しい人を入れるなんて考えられないわよ。ルードはタンクとして優秀な外皮を持っているのよ。新しい人を入れて、うまくかみ合わなかったらどうするのよ?」


 キグラスはその反論を予想していたようで、肩を竦めながらそういった。


「少なくとも、ルードよりは強いだろうぜ。一人はアタッカー、もう一人はタンクだ。こっちのタンクは、前にAランクパーティーに所属していたんだが……もともと、そのパーティーはBランク程度の能力しかなかったんだよ。けど、こいつのおかげでAランクになれた。ランクを一つあげるだけの力があるんだ、こいつには」


 キグラスが女性の肩に手を回すと、女性は頬をひきつらせながらも笑みを浮かべる。


「ルード。何か意見はあるかよ?」

「……いや」


 それだけ優秀なタンクなら、何も言い返せない。

 俺は、このパーティーのお荷物みたいなもんだ。


 外皮の多さだけで、パーティーにいられたんだ。

 それに、彼らだって冒険者。


 上を目指すために、優秀な人間を入れるのは当然だ。

 俺以上に優秀なタンクがいれば交代するだろう。それが、俺たちの仕事なんだしな。


「そういうことでおまえはクビだ」

「……わかったよ」


 冒険者は自分に合わせて仕事を選ぶ。

 より上に行きたければ、上の冒険者と組むし、その逆もしかり。


 このあたりが別れ時、なんだろうな。

 辺境の町に置いてきている妹が心配で、そろそろ一度戻ろうと思っていた。


 だから、ちょうどいい。

 そのときだった、俺の手をニンがつかんできた。


 俺より二つ年下の彼女は、少しばかり目元を潤ませてこちらを見てきた。


「あたし、ルードがいないならこのパーティーでなんてやってられないわよ」


 ニンは教会の指示で勇者に協力している。

 彼女の意思では、脱退を選択できない。


 だから、親しい俺に残ってほしかったのだろう。


「おいおい。この無能が抜けて、より強い奴が仲間に加わるだけだ。魔物の前で突っ立っているこいつより、オレのほうが頼りになるだろ」

「……あんたは好き勝手暴れているだけじゃない」

「オレがどれだけ魔物を倒していると思うんだ? まっ、すぐにわかるだろうさ。こんな奴がいなければ、オレたちはもっと楽に迷宮攻略できるってな」


 ……そんな風に考えていたんだな。

 俺はキグラスを仲間だと思っていた。


 少し、残念だ。


「悪いな、ニン。リーダーが決断した以上、俺はここには残れない」

「……それは」

「……それじゃあ、俺は帰るよ」


 この空気の中で送別会に参加できる奴はいるんだろうか。

 少なくとも、俺はもうそんな気分はさらさらない。


 いても空気を悪くするだけだ。

 だから、帰ろうとしたのだが……。


「おいおい、待てよ。今までおまえが無駄に使ってきたポーション代も支払えよ」

「……いくらほしいんだ?」

「その武器でいい。魔剣だろ?」

「……わかったよ」


 昔、運よく迷宮内で拾ったものだ。

 腰から外し、彼に渡すと、キグラスの笑みが濃くなった。


 キグラスは剣から鞘を取り出し、かざすように眺めている。


「ちょ、ちょっと!」


 ニンが手を掴んできた。珍しく、泣きそうな顔だ。


「どうした?」

「あんた、本当に行く気なの?」

「このパーティーの編成は、キグラスが決めるんだ。俺が不要になったなら、あきらめるしかない」

「あんたは優秀なタンクよ……今まで、みんなが戦えていたのは、あんたがいたからだとあたしは思っているわ」


 キグラスに聞こえていれば、何か言ってきそうだ。

 けれど、彼は新しく入る二人と話している。


 こちらの会話は聞こえていないようだ。


「そう評価してくれるのは素直に嬉しいけどな。それはさすがに買いかぶりすぎだ」

「そんなことないわよ。……あんたがあたしを守ってくれてることは、よくわかっているわ……そんなあんたの背中がなくなるなんて……」


 彼女の声は次第に小さくなり、顔を俯かせる。

 どうしたんだ、とのぞきこもうとしたところで、彼女は顔をあげる。


 きりっと引き締まった表情をしていた。 

 その何かを決意したような顔は、少し不安だ。


「あたし、決めたわ。パーティー抜けてやるわ」

「どうやって、だよ……? 教会の指示だろ?」

「教会に言ってやるわ。次の迷宮攻略に失敗したら、パーティーから離脱させてもらうって。教会だって、あたしが危険な目に遭えば、勇者に協力させるってこともないと思うのよね。それが無理なら、教会だってやめてやるんだから」

「……そうか」


 結構無鉄砲な奴だが、考えなしなわけではない。

 彼女は聖女で、冒険者ではない。


 あれこれ理由をつければ、教会だって無理に協力させはしないだろう。


 ただ、彼女のような実力者が冒険者をやめるというのは、ちょっと寂しい。

 去る俺がいうのも勝手なんだけどな。


「それじゃあな、ニン」

「あんたはまだこの街で冒険者を続けるの?」

「いや。一度妹がいるアバンシアの町に戻る」

「わかったわ。ま、元気にやりなさいよ」

「おまえもな」


 もう会うこともないだろう。

 彼女は公爵家のご令嬢だから、貴族にして聖女。


 俺はしがない平民。住む世界が違うからな。



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