覇者
初日から寝て過ごすイリア。掲示板には依頼はなく途方に暮れていた所リアロに声をかけられる。
俺は大きく伸びをした。セラと話してからかなり時間が経ったようである。日は高く登り、周囲には多くの兵士達が各々の鍛錬を行っていた。
さて・・・兵士になれたはいいが、金がない。絶望的だ。このままでは今日の食事も怪しい、というか無理だ。一文無しなのだから・・・
俺は水汲み場へ行き、顔を洗った。とても清々しい気分だ、やはりわだかまりが減ると気持ちも違う。
早速掲示板を覗き城門を出た。来た時は気づかなかったが、すぐ目の前に掲示板はあった。
ふむ・・・「逃げた犬を探して」「お菓子のための材料探し」「剣道場塾生募集」・・・なるほど・・・ほかの掲示板を探してみよう。
いくつか探してみたが、あまりパッとするものはなかった。さてどうしたものか・・・。
街中で途方に暮れていると、知っている顔に出会った。
「なにやってんだ?イリア」
リアロだった。どうやら依頼帰りのようだ。
「今さっき起きてな・・・依頼がほとんどなかったんだ」
リアロの問に答える。
「なるほど・・・」
「任務は先着順だからな〜今日はもう残ってるやつしか無そうだぞ」
「だよなぁ・・・」
困った。今日もどうやら野宿らしい。溜息をつきながら俺は立ち上がる。
「どっかいくのか?」
「あぁやることないし、修練場に行こうかなと」
「なるほど、じゃあ俺も行こう城に用事があるしな」
俺とリアロは城へと歩みを進めた。
――城内
「うーん・・・・」
「昨日からよく唸るな、ラルド」
ラルドが腕を組みながら悩んでいる。考えていることは分からんが行動にはよく出てくるやつだ。だが、実際ラルドがここまで悩むのもよく分かる。
「いやー炎の覇者どうしようか・・・バンホイルも適応ではなかったんだろ?」
「あぁ。速攻で追い返されたよ」
現在イルカディアには覇者はいない。覇者の影響力は非常に強い。実際に戦争での常勝国はほとんどが覇者を所持している。大国アレキサンダーでは覇者が2人属しているとの噂がある。その他にも北の国ボルノート、ここには既に覇者が属していることも裏が取れている。俺らが見つけていた雷の覇者を取ったのがこの国だ。
国だけではない、傭兵集団のギルドナイツ。ここのギルドマスターが覇者であるという噂もある。
「とりあえず、隊長級、将軍級はみんな見たよなー」
ラルドは再び唸る。
「新兵を連れてってみたらどうだ?」
俺は冗談交じりに話す。
「いやいや、人数多すぎて効率悪いっしょ、あそこの守護者頭硬いから1日に見せられる人数決まってるし」
ラルドが諦め半分に話す。
「あ、そうだ」
ラルドは立ち上がる
「マナの扱いが上手いやつを選んで連れていこう」
リアロと模擬戦を繰り返しているうちに戦闘の感覚がわかってきた気がする。もちろん実践はまた違うだろうが・・・剣の型も曖昧だが自分なりの型が出来てきた。
俺は右手で剣を使いながら左手で魔法を使うスタイルが合っているようだ。盾を使うことも考えたが、使ってみたところうまく使えなかった。しかし、魔法盾なら使うことが出来る・・・。
しかし、今の状況では防御寄りの魔法が多い。少し攻撃にも目を向けなければ。
そう考える中、一つ思いつき、剣にマナを流すイメージで剣へとマナを送った。そこから少し離れたリアろに向け、剣を振る。するとマナは斬撃の光波となり、リアロへ向かって行った。直線的であったため、あっさり避けられてしまったが、距離を詰める分には十分だ。
「追い打ちにも使えるな、それ」
いつの間にかラルドは見ていたようだ。
「あぁ、使い物になりそうだ」
答えながらチラリとリアロを見るとリアロを見ると固まっている
・・・緊張しているのか・・・?
「ちょうどよかった。お前ら2人とあとは・・・セラだっけか、あいつはどこにいる?」
ラルドは話す。珍しく真剣な様子だ。
「あ、え、っと・・・あいつはどこにいるんですかね・・・」
リアロは吃る。かなり動揺しているようだ。
「彼どうしたの?」
ラルドは小声で俺に聞く
「ラルドの熱烈なファンらしい」
俺は答える。ラルドは困ったように笑う。
「私を呼んだか?」
・・・こいつ気づかないうちに後ろに立っているな。ほんとにやめてくれ。
「お、お前がセラか。よしじゃあ行くぞ!」
ラルドは突然修練場の出口へと足を進める
「待ってくれ、どこに行くんだ」
俺が代表して聞く。
「聞いて驚くなよ?お前達に属性精霊との謁見を許可する!」
――イルカディア郊外
意味がわからない。なんの説明もないまま馬を渡され、ここまで走ってきた。リアロとセラも納得している様子はない。
「ラルド、そろそろ説明してくれ、属性精霊ってなんだ?」
俺は切り出す
「ん?知らないのか。どこから説明すればいいのやら」
まずい、ラルドの苦手分野の説明だ。俺は早々に諦め始めていた。
「覇者関係か?」
セラは話す。
「お、そうそう覇者だよ覇者」
ラルドは答える。ここでようやく思い出した。昨日夜聞いた話を
「なぁ、ラルド、覇者ってなんだ?」
俺は聞く。
「は?お前知らないのか?」
ラルドは驚く。
ラルドの代わりにセラが説明をする
「覇者、つまり治める者と説明した方がわかりやすいかもしれない」
「この世界には属性がある。そのそれぞれに覇者がいるとされており、覇者となったものはその属性に関して莫大な知識と特別なマナ、そして召喚術を学ぶことが出来る、とされている。」
「覇者は必ず1つの属性に1人、つまり選ばれし者という事だ」
「覇者になるためにはそれぞれの属性に異なった条件があるようだが、共通することはその者のマナに関係しているらしい」
・・・なるほど、これで合点がついた。高い戦闘力を持つ者がいることで国の利益となる。だから昨日の2人は焦っていたのか。
「いいねセラちゃん。俺と同じくらい説明うまいよ」
嘘つくな、めちゃくちゃ下手だろお前。と心の中で突っ込む。
「まぁ今セラちゃんが言った通りだ。イルカディアは覇者を獲得したい。今向かっているのは炎の覇者神殿だ」
ラルドは付け足す。
「で、でも・・・ラルドさんはだめだったんですか?」
ようやくリアロが思い口を開く。まだ緊張しているのか。
「あぁ俺はダメだった。俺だけじゃなく、イルカディアの将軍や兵長なども適応する奴はいなかった。最終手段としてのお前達だ」
ラルドは話す。適応者がいなければ覇者を得ることは出来ない。思いの外追い詰められているようだ。
しかし、俺達の中に適応するものはいるのだろうか・・・
「よし、着いたぞ。ここから歩く」
ラルドは下馬しながら指示を出す。
山の麓、どうやら火山のようだ。山頂からどす黒い煙が出ている。
少し歩くと村が見えてきた。ラルドは「少し待ってくれ」と言うと小走りで村へ入っていった。
しばらくすると杖をついた老人と共に出てきた。村長のようだ。
「あんたら遠いところはるばる来たな、来てもらって悪いのだが、今は山を登ることは許可出せん」
村長は続ける
「先程ギルドナイツが来てな、同じことを言ったんだ。「覇者の適応を見させてほしい」とな」
ギルドナイツ・・・?
「あまり負担をかけたくないんじゃ、属性精霊さまにはな。」
そう言うと村長は村へと入っていった。
「ここで取られると色々めんどくさいな・・・」
ラルドは呟く。いつも以上に真剣な表情だ。
通信術式でラルドが話している間、馬のそばで待っていた。なかなか話し込んでいる様子だ。
すると村の方から人影が見えてきた。3人のようだ。
先頭の男は背中に正面から見てもわかるほど分厚い大剣を背負いそれを青いマントを羽織っている。装備は見た感じ重装だ。もう1人は色白で病弱な印象を受ける。装備も軽装であり、腰に2本のダガーが見える。そして最後の1人。金髪の長い髪、背は大きくないもののすらっとしたライン。2本の剣を腰に差している。サーベルのように刃身が薄く長い。どうやら女のようだ。
先頭の男はこちらを見るなり
「イルカディアか?」
と尋ねてきた。それは僅かに殺気を込めているようにも感じた。
「あぁそうだ。なんか用か?」
リアロは答える。すると、
「そう焦るな、近いうちに嫌でも顔を合わせるさ」
男はそう言うと再び歩き出した。
「なんなんだあいつら」
影が見えなくなったところでリアロは口に出す。
「どう見てもギルドナイツだろうが」
セラは呆れたように答える。
「やつらは一つの国に定住せず、金で動く。嫌な予感しかしないな」
セラが付け加えた。金で動く・・・奴らを動かせるような資産を持つ国・・・か。
「おーい、俺らの番だってよ!」
ラルドは遠くから声をかける。俺達はラルドの元へと走り出した。
「よかったんですか?マスター。次の相手、イルカディアですよね」
「あぁ。どうせ宣戦布告を入れるんだ。今やってもしょうがない」
「でもよぉ・・・しばらく斬ってないからよぉ・・・」
「だから言ってるだろ。近いうちに嫌なほど斬れるとな」
・・・岩、坂・・・さっきからずっとこればかりだ。
「なんて・・・山なんだ・・・」
息を切らしながら登る。ほかの4人は全く息を切らしていない・・・俺だけか・・・?
「だらしねえなぁイリア」
ラルドはにやにやしながら声をかける。
「もうすぐだぞ、気合を入れろ」
村長にも言われてしまった。
しばらくすると前方に洞穴が見えた。ほとんど山頂の場所だ。長かった・・・
「よし、入るが良い。くれぐれも無礼がないように」
村長に念を押され、中に入る。
「まだ来るのか・・・今日は多いな」
突然声がした。
「まぁこいつらもさっきのやつらと同じように我の声は聞こえぬのだろう、とっとと帰らせろじじい」
声は響く。ラルド、リアロ、セラは聞こえていないのか?何事もないように村長のあとをついていく。
「ほお、貴様我が声が聞こえるのか、久しいのう」
声の主は現れた。炎をかたどったような見た目をしているが人形はしっかりと残っている。
「なんと!姿も見えるのか!」
「おい、じじい!こいつ我と共鳴しておる!こいつだったら合うかもしれんぞ!」
村長はにやりと笑うと
「適応者がいるようですな、外へ出ましょう」
外に出た時、3人に確認した。話しかけられなかったか?と。誰1人そのような者はいなかった。つまり俺だけだったのだ。
精霊は共鳴と言っていた。俺には属性精霊との波長が合うらしい。
村長は口を開く。
「適応しておりますが、まだ意思が足りない。これではすぐに解けてしまうぞ」
「だがわしも嬉しい、炎の適応者は久方ぶりじゃ」
「意思を強めるのだ。そうすることでお主はより強い覇者となることが出来る。」
・・・覇者。果たして俺にその役目が果たせるのだろうか。炎の覇者について考えながら馬へとまたがる。
この時はイルカディアがどうなっているか、知る由もなかった。
『ふむ、炎の覇者、果たしてイリアは務めることが出来るのだろうか』
『まぁ、俺は結末を知っているがな、おそらくお前の想像通りだ』
『それよりも、すれちがった奴ら、想像の通りギルドナイツだ』
『これからどうなるのだろうな・・・』
そのまんまですが「ギルドナイツ編」です
戦闘描写が難しい