出会い
声の語る世界、イリアとラルドという二人の人間
後に世界にとって大きく影響する二人の出会い。
清々しい天気だ。晴天とはまさにこのことを言うのだろう。
「おい、イリア、空なんか見てどうした。早くいくぞ」
親父の声が聞こえる。また今日も始まる。気合を入れて取り掛からなくては。
「今日は忙しいぞ、なんたって収穫だからな」
ここは山中にある農村だ。住民も30人くらいだ、少なくないだろうが多くもないだろう。
この農村に俺は生まれた。イリア、それが俺の名前だ。健全な男子だ。もちろんいい意味でだ。歳は15、一般的には「お年頃」と呼ばれるのだろうか…?
俺には夢がある。いつか大きな国に仕える兵士となることだ。それには理由がある。この世界は力だ。多くの者たちが力をつけ出世することを夢見ている。そしてそれは力のない者たちは生き残れないということにもなる。実際に俺の農村も何度も山賊や周辺の国から襲撃を受けていた。しかし、そのたび、親父や村のおっさんたちが戦い、村を守っている。幼い頃親父に聞いたことがある。なぜこの村の人たちはみな強いのか。
それに対して親父は
「あぁ、俺を含め皆従軍経験があるからさ、昔大きな戦争があってな…」
この話を聞いた時俺はとてもドキドキした。優しかった人たちはみな戦争で戦い、生き残った人たちなのだ。この話を聞いてから、俺はいつしか自分も国に仕えることを夢見て時間がある時には親父に剣の稽古をつけてもらっている。
「今俺はどれくらい強くなったんだろうか、どう思う? 親父。」
「世界は広いさ、確かにお前は強くなってるかもしれないがな、あまり調子に乗らないことだ」
「いつもそれだよなぁ…」
この会話何回しただろうか…作物を入れる籠を持ちながら俺は思う。
「まぁ、そろそろ近隣国の兵士採用会でも行ってみたらどうだ、1回じゃ上手くいかないだ…」
突然親父が空を見つめた。いつもと様子が全く違う。
「…なぜ今になって…」
そうつぶやき、親父が見つめる方向を同じようにみると黒い影こちらへ向かってくる。
「イリア、今すぐ村に帰り住民たちを避難させろ。いいか、これは遊びじゃない。」
親父は念じたと思った瞬間魔法陣が出現し、剣を引き抜いた。初めてだ、親父が魔法を使うところを見るのは。
「早く行け!!」
その声と同時に俺の足は村へと向かっていた。不安もあったが、親父なら大丈夫という気持ちも大きかった。
村へ着いた。だが、遅かった。村は今まで嗅いだことのない嫌な臭いがした。なぜだかそれは人の焼ける臭いだとすぐに分かった。鼻の奥へ来る生理的嫌悪。
そこには竜に跨り鎧着こなしランスを持った騎士がいた。血の滴るランスを持った竜騎士が。聞いたことがある。大国アレキサンダーには竜騎士の部隊がいると…。憧れていた。まさか自分が…狩られる側になるとは…思いもしない…。
「ん? ガキがまだいたかもう終わったと思ったのだが。」
終わったってなんだ…? 何が終わったんだ…? 分かっていた。だが認めたくはなかった。
「焼け」
竜騎士の呟くその声に体が反応し、咄嗟に右へと転がった。火球だ。竜が火球を吐いた。熱い。なんて熱い炎だ。
「手間取らせるな小僧。遊ぶ時間はないんだ。」
炎の熱に比べて恐ろしく冷酷なことを竜騎士を呟く。言葉が出なかった。竜の口から火が漏れる。あぁ、ここで俺は死ぬみたいだ。
引っ張られた。強い力で後方へ。親父だった。左腕のない親父だった。
「イルカディアへ行け!!!そこに俺の友人がいる!!!俺の名、アイフェンという名を出せば良くしてくれるはずだ!」
そう叫んだ親父は防御壁に包まれた。。竜の吐く火球をたやすく防いだ。
走った。今までにないくらいに走った。
イルカディア帝国の場所は知っている。作物を売りに何度か行ったことがある。あまり大きな国ではないことは知っていたが、詳しくは知らない。
木の根に躓き、転んだ。気づけば夜は更けていた。もうすぐイルカディアは見えてくるはずだ。イルカディアに帰ったら助けを求め、必ず親父を助けてもらう。
そう考え再び立ち上がった時、風圧と衝撃で吹き飛ばされた。追い付かれた。すぐにわかった。
「この先はイルカディアか、探したぞ小僧。頼むから手間取らせないでくれ」
淡々と竜騎士は語る。
「俺も暇じゃあないんだ。今日中に報告しなければ、陛下にぶっ飛ばされちまう。俺がぶっ飛ばされるのは嫌だろう?」
ニヤリとしながら竜騎士は言う。何言ってんだこいつ。俺は恐怖よりも怒りが芽生えた。
「知ったことか! 俺はお前を許さない、絶対にころッ!!!!!!!」
そう叫んだが、遮られた。竜の蹴りを受けたのだ。
「お前こいつの蹴りを食らって生きていられるのか? 即死だと思ったのだがな」
「あぁ、魔法壁か、なぜお前のような小僧が使えるのか…あの親父か…」
薄れゆく意識に聞こえる声、親父との稽古が役に立った。だが、もうだめだ、足が動かない。
「お前は頑張ったよ。だが相手が悪い。一般兵かつ一対一であれば勝機はあったかもしれない。だが俺は竜騎士だ。アレキサンダーの中でもエリートだ。相手が悪かったな。」
「敬意を表し、俺が直々に止めを刺す。感謝しろ、我が槍で貫かれることを。」
目も開けない、もう俺は十分だったのだろうか。尽くしただろうか。村の人、親父の顔が浮かぶ。
……おかしい。死ぬ感覚とはこんなものなのだろうか。案外何も感じないんだな。
「き…イル…」
竜騎士の声が聞こえる。何をやってるんだ。薄れゆく意識の中、目を開ける。
「…元気か? 少年」
目に映ったのは、大剣で竜騎士のランスを受け止めている背中であった。歳はおそらく俺より2歳か3歳上。それくらいの青年が竜騎士の一撃を受け止めていたのだ。
「あきらめるのは良くないよ、あきらめるのは。自分の今まで生きてきた感覚を信じろって」
そう言いながら彼は笑った。
「まぁ、とりあえず安全な場所で見ていてくれよ」
青年はそう言った。俺は近くの木陰に這うように移動した。
彼はランスを弾き、竜の懐へと入った。途端、光波が竜を引き裂き、竜の叫ぶ声が響く。騎士は竜から降り、構えた。
「なんだ、竜に乗っていなくても構えは様になっているな。さすが竜騎士様だ。」
「全くついていない。最近俺の相手は小僧ばかりか。」
「なめるなよ~俺はイルカディアのエースだぞ」
次元が違う。全くわからなかった。俺もいつかこうなれるのだろうか、そう考える余裕すら出てきていた。
「まぁ、少し本腰を入れるか。」
そうつぶやいた青年は、自分の剣を地面に突き刺した。
「舐めているのか、クソガキが…。」
竜騎士は怒りを覚えている様子であり、詠唱を始めた。これで決めるようだ。
「竜騎士様、俺の噂聞いたことないか? 武器の形が変わることで有名なんだが。」
青年はそう言いながら剣の魔法陣へと力をこめる。
「知らんな、教えてほしいものだ」
竜騎士は答える。
「残念だ、教える必要もないからな、お前くらいならレベル2で十分だろうな」
青年は答える。レベル2…?
「貴様に訪れるのは死のみだ。祈れ。」
竜騎士はランスを構え、猛スピードで突進する。恐ろしいエネルギーだ。寸前、青年はつぶやく。
「おつかれ」
青年は空中に飛び、突進を避けた。そして着地をする頃には、竜騎士の首は飛んでいた。
「ヒューマンキラーレベル2…いやレベル1でも十分だったな。」
青年の持つ大剣は細く片刃の長剣へと変化していた。
「うーん大丈夫?」
青年は笑いながら声をかける。
「はい…今のは…」
素朴な疑問が出てしまった。しかし、呆気にとられているのも事実だ。
「それは教えられないな~、まぁ、正式に所属してくれたら、教えてあげるかもしれないな。」
「所属?」
「そ、イルカディアの兵士としてな」
青年に抱えられ、イルカディア帝国へと着いた。そういえば、まだ名前を聞いていなかった。
「俺の名前はラルドだ」
質問する前に青年はニコニコしながら答えた。考えを見透かされているようだ。
「お前は…なんて言うんだ?」
「イリアです。山中の農村に住んでいました」
「あぁ、それは悪かったな…」
ラルドすぐに申し訳なさそうにつぶやいた。
「奴がそのあたりを襲撃する情報は流れていたんだ。様子を見に行く途中でお前に会ったんだ」
「そうだったんですか…」
きっとラルドがいれば誰も死なずに済んだ。だが間に合わなかった。現実はそんなものなのだろう。
「なぁ、お前はこれからどうするんだ? このままイルカディアに市民として住むのもいいし、さっき言った兵士として生きる道もある、それを選択するのはお前の自由だが。」
ラルドは俺に尋ねる。
「俺の夢は兵士になることです。そしてそれは今も変わっていない、いや強くなっている。俺は強い兵士となる。俺と同じ境遇の人たちを作らないために」
「じゃあ決まりだな!」
ラルドはニコニコしながらこう言った。
「ようこそ、イルカディアへ」
『イリアとラルドの出会いはこんな感じだったかな』
声はつぶやく。
『まぁ、少し改変があるかもしれないがそこは気にするな』
『のちに世界にとって大きな存在となる二人だが、イリアも初めは弱かったのさ』
『今ではあれほどになったがな…』
『ところで君はこの世界についてどれくらい知っているのかな』
俺はこの世界について全く分からない、だが登場人物であるイリアの状況やラルドの風景など強くイメージすることができた。
『まぁまだ始めたばかりさ、次はこの世界について一緒に復習しようか…』
アドバイスなど頂けたら泣いて喜びます