噂
3人は小隊を組み、任務をこなしていた。それぞれの役割や立ち回りが確立しつつある中、セラとバンホイルの口からとある噂を耳にする
「追え! あとはあの2人だけだ!」
セラは山賊を踏みつけながら大声で怒鳴る。その声に続きリアロとイリアは走る。
「逃げ足はほんとに早いな……!」
リアロの声が聞こえる。
「頼むぜリアロ、お前の2丁のマスケットで撃ち抜いてくれよ」
イリアはリアロへと注文する。この1ヶ月、リアロは新しい武器に手を出していた。
ハンドマスケット銃。マスケットほど大きくはなく、片手で扱えることに加え、マナを消費しないため、片手の空いていた者には流行りの兆しがある。
「動いてると当てられねえよ! 動きは止めてくれ!」
ハンドマスケットを構えながらリアロは言う。片手にすればいいものを、リアロは両手で持ちたがり、この1ヶ月で両手で扱うのを練習していた。今日が初めての実戦だった。
ダンッ!
リアロが狙いを定め1発撃ち込むが、明後日の方向へと飛んでいく。
(期待出来なそうだな……)
イリアは足にマナを込め、敵へと一気に走り飛ぶ。
「ディアフレイム」
火球は片方の山賊へと直撃し、倒れ込む。
「リアロ、縛っといてくれ!」
イリアはもう1人を追う。
「くそ! ぶっ殺してやる!」
走っていた山賊はイリアへと向き、ハンドアックスを取り出す。
構えた山賊目掛け、イリアは剣を抜き、斬り込む
山賊のハンドアックスを弾き、左手からマナを放つ。衝撃弾となったマナは山賊の顔面で破裂し、勢いで後ろへと倒れ込む。
「ぐぁっ……」
首に剣を当て、イリアは言う。
「おとなしく捕まってくれ」
「今回の依頼は大したことなかったな、何せ、山賊と言っても5人しかいなかったろ?」
リアロは話す。
(お前何かしてたか?)
イリアは今日の事を思い返しながら、考える。見るとセラも同じことを思っているようだ。表情から伺える。
「……報告しに行こう、報酬は山分けだ」
セラは少し呆れた様子で話す。
――イルカディア兵舎
「おう、お前ら戻ったか」
兵舎内でバンホイル兵長に声をかけられる。セラが代表して報告する。
「山賊は5人でした、うち2名は抵抗したため、戦闘になり、戦死。あとの3名は捕獲し、中立国のドンケルノへと収容しました」
「はいよ、ご苦労、報酬だ」
小袋に入った金貨を渡される。
(今日は美味いものが食えそうだ)
イリアはひっそりと考える。
「どうだ、3人チームは」
バンホイル兵長が、声をかける。イリアたち3人はこの1ヶ月、全ての任務を3人でこなした。おかげで立ち回りや役割は確立し始めていた。
「いい感じですよ! バンホイル兵長!」
真っ先に声を上げたのはリアロだった、それに続き、2人も若干の沈黙を挟みながら、頷く。
「そりゃよかった、イリアも覇者の力に慣れたか?」
「はい、なんとか。覇者の剣にも慣れてきました」
覇者の剣の実物は村長が持っていた。村を訪れると、正門で待っており、すぐに手渡された。初めは上手くマナを流せなかったが、今では前使っていた剣以上に使いこなしていた。
「よかったよかった……あの後ラルドから連絡はあったか?」
バンホイル兵長は尋ねる。ギルドナイツ戦線が終息し、ラルドが目覚めたあと、その日のうちにラルドは姿を消していた。
「いえ……ですが、ラルドは気まぐれな所があります、ひょっこり帰ってくるでしょう」
イリアは答える。それにバンホイル兵長は頷いた。
「あ、そうだ、最近妙な噂が回ってるんだ……知ってるか?」
イリアとリアロはさっぱりであった。しかしセラは頷く。
「はい、貿易馬車や商人を襲撃する事件が頻繁に起きているやつですね」
「あぁ、お前達も貿易の護衛に入る時は気をつけてくれ、襲撃された亡骸は全ての鋭い剣で斬られているそうだ」
バンホイル兵長はそう言うと通信術式が鼓動する。
「行こうか」
セラはそう言い兵舎から出ていった。
――城下街
「ほんとにラルドさんどこいっちまったんだろうな」
歩きながら、リアロは呟く。実際にイリアも居場所に関しては検討もつかなかった。
「確かにな、私達はラルドさんのことを何も知らない」
セラも続ける。自然と足はよく行く大衆食堂へと向いていた。
「まぁ、すぐ帰ってくるさ、気長に待とうぜ」
イリアは答える。
「そうだな、腹減ったぜ」
「あぁ、何食おうか」
「どうせ肉だろ」
そんな会話をしながら、3人は歩いていった。
――山脈、某所
ズチャッ、グチッ、ズッ……
「あぁ、何匹……喰ったかな」
ガリガリ……
「あいつら何してんだろ」
グシュッ、ジュッ……
「仲良くやってるといいな」
「もう少し喰ってくか」
肉塊から立ち上がりながら、呟いた。
――翌日
(昨日の噂が気になるな……貿易護衛か)
イリアは考えながら、掲示板を見渡す。
(あった、近隣国のランロフェから中立国のドンケルノまで……結構近いんだな)
(2人に聞いてみるか)
イリアは掲示板から依頼書をむしり取り、兵舎へと歩き出した。
――兵舎
「ん? お前ら貿易護衛やるのか?」
バンホイル兵長が少し驚きながら、3人に尋ねる。
「はい、3人で決めました」
セラとリアロは即答でOKだった。
「もし、噂を確かめるってだけなら、許可はできんな」
バンホイル兵長は腕を組みながらいう。だが、ここでセラが発言をする。
「その依頼、とても報酬がいいんです」
「私達もそろそろ装備を整えたいなって話をしていて」
「資金が必要って結論になったからです」
「ふむ……」
「そうか、そういう事なら許可しよう、だが無理はするな」
「金も大事だが、命はそれ以上に大事だからな」
バンホイル兵長はそう言いながら、許可印を押す。
――城下街
「とりあえず、ポットは5本ずつ揃えたな、あとは術式をいくつか持とうか」
セラは準備などをする時非常に助かる。リアロとイリアは感謝しながら、セラの意見を聞く。
「あ〜〜〜ら、もしかして、炎の覇者さん?」
後ろから突然声をかけられ、イリアは驚く。
黒を主体に赤いラインの入った鎧を纏った女がそこにはいた。
「はい、そうですが」
「そんなに固くならなくてもいいわよ、私はヴェラッタ、今任務帰りなのよ~」
そういうと、ヴェラッタは顔を近づける。
「ねぇ! マナってどんななの? 気になるわ!」
まるで子どものような眼差しをして、イリアを見る。
「えっ、あぁ……その」
「隊長……なにやってるんですか」
いつの間にかヨン副隊長が後ろへと立っていた。
「あら、ヨン君じゃない、元気にしてた?」
「隊長、部下を放っておいて何をやっていたんだ」
「隊長がいない間にギルドナイツと戦――」
「知ってるわ」
ヴェラッタ隊長はヨン副隊長の言葉を遮る。その目は先ほどの無邪気な目とは一変し、冷酷な目をしていた。
「別に何しててもいいじゃない、ヨン君なら隊長の器もあるんだし」
「まぁ、肩書は渡さないけど」
笑いながらヴェラッタは言う。
「……相変わらずですね、とにかく彼を困らせないでやってください」
「はーい、じゃあね覇者君、これ以上絡むとヨン君に怒られそうだわ」
ヴェラッタ隊長とヨン副隊長は城の方へと歩いて行った。
「ヴェラッタ隊長、イルカディアではラルドさんに匹敵する自由奔放と聞いたことがある」
「セラ、お前はなんでも知っているな」
リアロとセラが話している声が聞こえる。イリアはヴェラッタに対する意味のない不信感を感じていた。
「よし、ランロフェまで行こう、表向きは資金集め、本来の目的は……」
「噂の確認だな」
「あぁ、気合入れてな」
3人は馬に跨り、イルカディアを出発した。
がんばっていきたいと思います