第三者
激闘の最中訪れた男は圧倒的な存在感を放っていた。
覇者2人を釘付けにするほどに
「いやー盛り上がっているところ申し訳ない」
にこにこ笑いながら階段を降りてきた男はイリアとゼンに話しかける。
「……なんの用だ」
ゼンは問いかける、その様子はあまり快く思っていない表情だ。
「そのまんま、伝えるぞ、『今回の依頼はなかったことにしてくれ』だそうだ」
「あともちろん依頼金も返金しろ、と」
男は付け加える、ゼンを相手にかなり強気に出る男だ。
「理由をきかせろ」
ゼンは問い詰める、しかし、男は笑いながら
「俺ももそれは聞いてなくてですね、知らない、としか言えない」
嫌味ったらしく男は話す。
「あぁ、あと炎の覇者も生かしておけ、陛下が退屈してしまう。」
話題が一瞬イリアへと向く。どうやらこの男は俺が覇者ということは知っている様子だ……つまりギルドナイツとの関係を持つ男……
(依頼主、アレキサンダーか?)
「遊びで俺らは戦っていない、理由も述べずに手を引けるか」
ゼンが答える。
「遊びとか本気とか言う前に、力の差を見てくれよ」
「たとえ、水の覇者が本気になったとして、勝てるのか? “アレキサンダー”に」
そう言うと、男はマナをちらつかせる。殺意の篭ったそれは、イリアとゼンを威圧するのに容易であった。
「分かればいいんだ、分かれば。という事で、この場は解散としよう」
男が背を向けた時だった、ゼンは魔法陣を展開する。
「1日に2発……だが、惜しんではいられん!」
魔法陣はより強力なマナをゼンへと纏わせる。
「貫け! ハイドリック・ノア!!!」
ゼンは魔法を放つ、イリアは古代魔法であることを直感した。
しかし、男は鼻で笑う
「哀れな、この状況を理解できないのか」
「俺の役割はあくまで使者なのだがな……」
男はそう言うと、背後から鎧が現れ、男を包み込む。“換装”だ。気づけば右手には大槍、左手には大盾を装備しており、構える。
「舐めるな!!!」
ゼンは腕をクロスさせる。「ハイドリック・ノア」は2つに割れ、左右から男を挟み込む。
「あぁ、そうだ、炎の覇者には俺の名前を教えておこう」
男は左側を盾で防ぎ、右側を大槍で正面から貫く。「ハイドリック・ノア」は只の水と化した。
「俺の名前は、アンダイン」
「アレキサンダーでは竜騎士隊副隊長の肩書きだ、“その説”は世話になったな」
男はにやりと笑い階段へと振り返った。その場には一時の沈黙が訪れた。
「アンダイン……」
イリアはしばらくして呟く。そして本来の目的を思い出した。
ラルドの元へと走る、気を失っているようだが、息はあった。それはセラ、リアロも同じであった。
「イルカディアと戦う理由はなくなった」
後から声かけられ、イリアは振り向く。剣を収めたゼンとフィネが立っていた。
「他の仲間にも伝えた方がいいんじゃないか?」
フィネは項垂れながら、イリアへと問いかける。
「そんなあっさり引けると思うか?」
少なくとも、村人、イルカディアの兵士はギルドナイツによって殺されている。ここで引くには引けなかった。
「お互い、ここで消費するわけにはいかんだろう、近いうちに大きな戦争になるだろう」
「イルカディアでもどこかの国と連盟を組んだ方がいいだろう」
ゼンは話す。大きな戦争、つまりアレキサンダーとの戦争だろう。
「我々もこれ以上イルカディアには手出しはしない、まぁ依頼があれば分からんがな」
ゼンはそう付け加えると、フィネに肩を貸しながら、振り返る。
「まぁ、覇者として戦うこともまた一興だがな」
その背中には自身と同時に何かに怯えている、そんな雰囲気を纏っていた。
救助をラルドの術式で呼んでから数時間もしないうちにイルカディアから、多くの部隊がギルドハウスへとやって来た。どうやらイルカディアからはそう遠くなかったらしい。
「――で、ゼンとフィネってやつはどこかへ消えた……これであってるか?」
ヴァダン隊長はイリアへと確認する。イリアが体験したことを全て伝えたのだった。
「しかし、お前が炎の覇者になってくれて本当によかった、これでイルカディアも覇者持ちだな」
「3人とも命に別状はない、回復術式の中でオネムだぜ」
「お前のおかげだ、イリア。助けがなければ少なくとも1人は殺させれていただろう」
ヴァダン隊長は労うように肩を叩く。イリアは頷くことしかできなかった。その心中には悔しさと恐れがあったのだった。
イリアの活躍によりイルカディアの戦力が高まり、同時に新たな敵が浮かび上がったのであった。
――――闇
声が聞こえる
『すっきりしねぇなぁ』
『お互いに勝敗は付かず、消耗しただけで終わったんだった』
声は話す
『たしか次は……あぁ、――が出てくるんだったな、あの事件もまぁまぁひでえな』
声は思い出すようにして話し始めた……
次回は後日談と次の話へのつなぎとなります