目覚めた狂気
互いにダメージを負ったイリアとフィネ。
イリアはフィネへと詰め寄るが、思いがけない出来事が起こる
――炎の覇者神殿、入口
「はぁ……はぁ……」
イリアは息を切らしながら立ち上がる。一瞬だが気を失っていたようだ。左腕が動かない……折れてはいないようだが、魔法の反動だろうか。
周囲に目を配り、フィネを探した。だが、姿が見えない、手応え的には死んではいないはずだ。強力な古代魔法同士のぶつかり合いは、周囲の景色を変えていた。
不意に剣が飛んでくる。右手の剣でそれを防いだ時だった。
聞きなれない音とともにイリアの剣は折れた。剣が飛んできた方向を見ると、フィネが立っている。イリアと同じように息を切らせ、両腕を力なく垂らしていた。
「覇者か……マスターもこれほどの力を隠していると思うと、ゾッとするな……」
フィネがつぶやく。剣を2本召喚し、イリアへと走り出す、がそのまま前に倒れ剣が消える。
「私が、私がマナ切れだと……?」
力なくつぶやくフィネへとイリアは歩み寄る。
「3人を……どこへ飛ばした……」
イリアはフィネへと尋ねる。
「教えたところで、どうにもなるものか……貴様もほとんどマナは残っていないだろう」
剣は折れ、マナもない。だが、3人の元へと行かねばらならない。イリアは貰ったポーションを飲みながら続ける。
「いいから教えろ!」
その時。イリアは、宙に黒い羽根が舞っていることに気づく。
「なんだ……この羽根……」
イリアはそれを受け止め、まじまじと見つめる。鴉、いや鴉よりもそれは大きく、どこか不気味な雰囲気を纏っていた。
「なぜ、いや、ありえない」
フィネは動揺したように呟く。何かを恐れるような目。フィネが何かを恐れている様子は、イリアにも理解出来た。
バサッ、バサッ
「カカカカカカッすげーすげーーよ、これ!」
高笑いと翼が羽ばたく音がする。
サクレンだった。その姿に先程の面影はなく、表すのであれば「異形」。額からは黒ずんだ角が2本。肌は全体的に黒ずみ、背中からは黒い羽根に覆われた翼が生えていた。
「ギルドナイツから……クソ! たしかに殺したはずだったのに……」
フィネが呟く。それに対しイリアは尋ねる。
「なんなんだ、あの姿は?」
「イルカディアではまだ出ていないのか? まぁ、すぐに流行るさ」
フィネは呆れたように話す。
「“デビルの血玉”もっとも、“悪戯な飴玉”や“アナザー”などと呼ばれているがな、馬鹿らしい」
(何の話だ……?)
イリアは理解できない、フィネは何の話をしているのか検討もつかなかった。
「サクレン……貴様いつの間に“喰った”?」
フィネは立ち上がりながら尋ねる。
「ハハッ……気づけなかったのかよフィネ〜」
サクレンだったものは答える。体に赤色と黒色のマナを纏いながら。
「書いといたんだよ……口の中によ!!」
「転移術式……それも血玉と口の両方に刻んだのか」
笑いながら答える。フィネが小刻みに震えているのにイリアは気づいた。
「死ぬ瞬間によ〜〜口の中に飛ばして“喰ってやった”よ」
そう言うとサクレンは翼を広げる。再び宙に不気味な羽根が舞う。
「今からよ……復讐するんだ……あいつに!!!」
腰から術式を取り出す。それに赤黒いマナを込めると光がサクレンを包む。
フィネは剣を召喚しようとしたが、虚しくもそれは現れなかった。そしてサクレンは消えた。
「あいつとは……マスターか?」
フィネは座り込みながら、呟く。イリアはそれを見て、再び質問をする。
「なあ、忘れてないよな? 3人はどこだ?」
それに対しフィネは笑いながら答える。
「マスターのとこだ、本来なら貴様ら4人ともマスターの元へ転移させ、マスターがそれを殺す、私達はそれぞれの役割を命令されていた」
「だが、もう遅い……まさかサクレンが……デビルになるとは……クソ!」
フィネは地面を叩く。そこでイリアは思い出した。
「お前、マスターのとこまで転移術式を持っていないのか?」
だがフィネは再び笑い、
「持っていたとして、私がお前に渡すと思うか?」
だがイリアは引かない。
「このままだと、お前のマスターも危ないんじゃないか?」
「マスターに限ってそんなことは……」
「今のお前が助けに行ったとしても役には立たないだろう、だったら俺が」
イリアは続ける。一刻も早く3人の元へと行きたい気持ちを抑えながら。
「……あとでこっぴどく叱られるな……」
フィネは腰から術式を取り出す。
「いいか? これは共闘じゃない、たまたま行き先が被っただけだ」
そう言いながら、フィネは立ち上がりイリアの腕をつかむ。マナを込めようとするが、術式は展開されない。
「……悪いがマナを込めてくれ……」
イリアは焦る気持ちを抑えながら術式符を受け取り、マナを込める。
青白い光が2人を包み込む。向かうはラルドたち3人とマスター、ゼンの元だ。
ギルドナイツ戦線の決戦が始まる。
気づくといつもの空間何も無い闇。
『デビル……デビルか!』
声は笑ったように呟く
『このあと――――にあうキーポイントだな』
『やつは変わったやつだからな』
『とりあえず、ギルドナイツとの戦いに終止符を打とう』
声はそう言った。どこか楽しそうに。
多忙により更新出来ずごめんなさい