フィネ
覇者の力を手にしてもイリアは苦戦していた。
力尽きても良いであろう、サクレンの生命力に……
「……フレアグレイ!」
これも知識として得ていた魔法だ。左手から放射状に放たれたマナが男に向かって収束する。前方からの多角的な攻撃を可能にした魔法だ。
「あちい……」
身体の半分が焼け、燻っている男はつぶやく。こいつがなぜ生きているか、イリアは理解ができなかった。それはまさに、人外の者の雰囲気すら纏っていた。
「お前……なぜ死なないんだ……?」
イリアは口を開く。男は淡々と話す。
「元々俺が任された仕事は覇者の誕生を防ぐこと……まさかお前が覇者の適応者だったとは思わなかったがな……」
そう言うと男はイリアへと走る。イリアは剣を構え、マナを流す。その剣は炎を纏った……
男のダガーによる一撃をイリアは剣で受け止め、問いかける。
「おまえの名前はなんだ」
「…サクレンだ」
「そうか……その名前、決して忘れない」
そう言ってバックステップで距離をとる。イリアはさらに剣へとマナを流す。剣の炎はさらに燃え盛る。
(これで一気に決める……!)
イリアは剣を十字に斬りつける。
「クロウフラム……!」
炎の十字架はサクレンへと放たれる。サクレンは……避け無かった。避ける必要がなかったのだ。
サクレンの周りを大量の剣が覆う。イリアの放った一撃はいともたやすく防がれた。
「フィネ、待ってたぜ……」
「お前が役割を果たせず、私に押し付けるとは、何を考えている? なぜ炎の覇者が誕生している?」
金髪の二刀流……フィネであった。イルカディア郊外からここまで飛んできたのだ……転移術式で。
「こいつ、適応者だったんだ……気を抜いちまった」
サクレンはにやにやしながら話す。傷を抑えながら。
「悪いがフィネ、ポットくれ……こいつの足止めで全部使い切っちまった」
そう言いながら手を差し伸べた。
「マスターの予感は当たるようだな。」
フィネと呼ばれていた女は呟く。そして再びサクレンへと振り返り、
「サクレン、悪いがお前はギルドナイツには必要ない……殺しすぎだ……」
いつの間にか出現していた剣はサクレンの心臓を突き刺していた。次第にサクレンの目から生気が消えていく。
「同情などはしないが……なぜ?」
イリアは尋ねた。
「ギルドナイツ……私達は金で動くが、誇りは忘れない、無意味な命はとらないさ」
「が、こいつは関係ない者達……今回でいえば、村の住民の命は奪った、必要はないことだ」
「ギルドナイツ全体でも、こいつの行動は少々問題視していてな、いいタイミングだから始末した、それだけだ」
フィネは淡々と話した。
「さて、私がここに来た意味だが、サクレンの後始末をしなくてはならない……貴様を殺す、それは必要なことだ」
フィネの周囲に10本の剣が召喚される。イリアは同じように左手に10個の火種を練る。
刹那、10本の剣はイリアへと飛んでくる。火種から、魔法盾へと変更し、防御を取る。
3本、フィネの剣はイリアの魔法壁に突き刺さりダメージを与えた。
「なんだ、この魔法……」
フィネは既に再召喚し終わり、既にイリアに向けて、剣を発射させていた。
魔法盾を構えながら、距離を詰める。イリアの間合いに入った時だった、
「サザンクロス!」
フィネは叫ぶ。4本の剣がクロスし、イリアを斬りつける。魔法壁は破れた……が、イリアは動きを止めずフィネへと剣を放つ。
「……私が魔法重視の剣士だと思ったのか?」
いともたやすく防がれる。
「噛みつけ」
フィネは呟くとイリアの上下から剣が突き出した。右へローリングし避け、再び魔法壁を唱える。フィネ相手に魔法壁なしでは、即死であろう。
「反応は良いようだな。が、これはどうだ?」
フィネは一瞬魔法陣を出すが、遅かった。
「踊り狂え! 剣の舞!」
フィネの周囲10m、大量の剣が個々に動き回り、イリアを切りつける。
瞬間的に魔法壁は剥がされ、鎧を切り裂き、イリアの肉体を斬りつける。一つ一つの傷は浅いものの、イリアへの切り傷は数十にも及んだ。
「炎の覇者、ここで殺せればかなり楽だな……」
地面へと手をつくイリアにフィネは語りかける。
不意にイリアの精神へと問いかける声が聞こえる。
『初戦で死ぬのか……小僧!』
『お前はまだ覇者の力を三割も使っていない、そもそもその剣はなんだ』
『覇者の剣ねえのかよ』
属性精霊であった。
「どうやって使うんだよ、覇者の力は!」
イリアは叫ぶ。
『まぁ初戦てことで、大目に見てやろう……俺のマナを貸してやる』
そう言われた瞬間だった。イリアの鎧が紅色の鎧へと換装される
『覇者の鎧……機動性だけじゃなく、防御力も、凄まじい上に、炎特化だ威力を底上げしてくれる』
『ほんとは手前のマナでやるんだがな』
イリアは内なる底からマナが溢れ出るのを感じだ。
「これが……覇者の力か……」
「覇者の鎧……なるほど」
フィネは笑いながら、呟く。
「遊ぶのはやめにしよう、私のとっておきだ」
そう言うと、フィネは自分の実剣2本を空へと掲げる。
「古代魔法……エンシェントマジックだ、恐らく、もう私しか使える者はいないだろう」
フィネの足元に魔法陣が展開され、平行する剣の中央から、1本の巨大なマナの剣が現れる。
『お前もエンシェントマジックで対抗してやれ』
精霊の笑う声が聞こえる、と同時に新しい魔法の知識がイリアの頭の中へと流れてくる。単純だ、炎の放射それだけの魔法だった。
イリアは魔法陣を展開し、左手に全神経を集中する。覇者の鎧はそれに共鳴するかのように燃え盛る。
「消し飛べ!」
フィネはマナの剣をイリアへと叩きつける。
『叩き込んでやれ!!!』
「テウスイグナイト」
神々が使ったとされる炎。それと同種の炎が、古代の剣へとぶつかり合った……
『テウス……懐かしい響きだ』
『あの戦争でも使ったものだ……』
名前が名前が名前が