炎の覇者
次々と倒れるイルカディア兵士…これを止めるべくバンホイルは迎撃に向かうが…
一方村についたラルドの小隊は衝撃を受ける…遅かったのだ…ラルドたちの行動が…
――イルカディア城内
「小隊反応消息…これで6部隊目です…」
「ふむ……」
バンホイルは顎に手を当て苦悶の表情を浮かべる。もしもの時のために、術式を組んでいたが、思いの外早い段階で役に立ってしまった。装備者の生命が停止すると大元へマナが届くよう術式を、組んだのだ。
「当初の作戦とは異なるが、迎撃体制に入るぞ、俺が迎え撃つ」
「ヴァダン、悪いが釣り出しの指示、頼むぞ」
ヴァダンは「りょーかい」と返事をする。
バンホイルは自分の片手剣と大盾を装備し馬に跨る…30名の兵士、つまり小隊6隊分を引き連れて…
――麓の村
ラルドたちは固まった。村の住民達の亡骸を目にして…
イリアは思い出す。自分の村…あの時の情景を…気づいた時には村にいたギルドナイツ兵へと斬りかかっていた。
村には10名ほどのギルドナイツ兵が居たが、その半数をイリアが斬った。
「こいつらはおそらく殺していない」
ふいにラルドは呟く。
「どういうことだ!」
イリアは怒鳴る。
「こいつらの持っている武器ではこのような傷はできない、住民達の傷は皆、ノコギリのような刃物で斬りつけられている…」
セラは補足した。
「それにこれはかなり力が掛けられている…刃身はおそらく短い」
リアロも意見を挟む。
「なんでもいい…絶対に殺してやる…!」
イリアは言い聞かせるように呟く。だが、ラルドがそれを制止する。
「自分を見失うな、復讐に捕らわれることは命を捨てることと同じだぞ」
「あぁ…」
言葉では返すが、内心の怒りは収まらない。
「とにかく、山を登ろう、村長たちはそちらへ行ったはずだ」
ラルドを先頭に4人は歩き出した。
――イルカディア郊外
「何者だ…こいつ…」
バンホイルは地面に手をつき呟く。連れてきた兵士のほとんどは立ち上がることが出来ない…貼り付けにされているのだ、地面に。
ギルドナイツ兵士は容易く倒すことが出来た、しかしバンホイルの苦戦しているのは、1人の二刀流使い…ギルドナイツのフィネであった。
フィネは剣士であるが、魔法を使う…しかしその魔法はバンホイルが見たことないものであった。
「召喚術か…? いや、それにしても頻度が多すぎる…」
バンホイルは呟いた。それに対しフィネは答える。
「そうだな…まぁ教えてもいいか」
そう言うとフィネの周囲の空中に無数の剣が現れる。すべてフィネの持つ剣と同じ形状だ。
「武器召喚、これは知っていると思う、自分だけの空間から武器を召喚したり、マナで様々な武器を象る魔法」
「私は少し特殊な武器召喚でな、この剣以外造り上げることはできないが、この剣は無数に造り上げることができる」
「無数?」
バンホイルは尋ねる。
「そうだ、無数…つまり私のマナが許す限り…」
気づけばフィネの周囲には数十本の剣が召喚されていた。
「もちろんこれらを同時に操ることが出来る」
剣たちは各々が廻ったり上下左右に動いたりと動き出す。
「まるで踊りみたいだろ?私はこれが好きなんだ」
フィネは呟く。微笑みながら。
「何人来ようと、私には敵わんさ」
そう言って剣たちはバンホイルへと向かって行った…
バンホイルは立ち上がり、後方へステップしながら、避けるものの、数本が体へと突き刺さる。魔法壁で防げるものの、既に限界が近い。
一瞬で距離を詰められ、2本の剣で斬りつけられる。と同時にバンホイルの魔法壁が割れた。
「悪いな」
そう呟き、フィネはバンホイルへと剣を突き立てる、が瞬前のところで、マナ弾に吹き飛ばされた。
ヴァダンであった。ヴァダンはバンホイルに向って笑いながら、
「バンホイルさんの兵士達から救難が出たんだ、めちゃくちゃ馬を走らせましたよ、おかげで馬がばててちまってる」
「私に数は関係ない…何人でもかかってこい」
フィネがそう言った時、フィネの通信術式が鼓動した。
「自分の仕事もこなせないのか…」
そう呟くとフィネは魔法を唱え姿を眩ませた…
「くそ…俺は絶対に死んでいた…」
バンホイルは地面を叩きながら、怒鳴る。手も足も出なかった自分に対して…
ヴァダンはバンホイルに肩を貸しながら、バンホイルの部隊を治療するように指示を出した。
――約一時間前、覇者神殿入口
「あれ〜、もう来たのか…まだ途中なんだけど…」
色白の男は振り向きながら話す。足元には無数の亡骸が横たわっていた。
イリアは剣を抜き一気に距離を詰める。マナを霧状に放射させ、目眩しのように使い、ワンテンポ遅らせて斬りつけた。が、見破られ防がれる。
「途中って聞こえなかった〜〜? 耳閉じてんのかよ」
男は剣を弾きながらイリアの腹を全力で蹴り抜く。イリアの肺から酸素が全て無くなり、息を切らす。
リアロとセラがそれぞれ左右から距離をつめ、リアロは短剣、セラは廻し蹴りを放つ、がそれも防がれる。
「イルカディアのやつらはみんな話聞かねぇのな」
男はマナを込めると自分の身体から放出する…衝撃波だ。リアロとセラは吹き飛ばされる。
「村の人たちを切ったのはお前か?」
ラルドは尋ねる。男は
「ははっ…面白かったぜ?? 家族を斬られた奴らの顔はよぉ…」
嗤いながら男は答える。
「いい反応してくれるぜ…家族がいるやつは!!」
男はダガーをラルドに向って投げる。ラルドはそれを弾き、距離を詰める。左手と右手に異なるマナの量を流しながら。
「吹き飛べ!!」
ラルドはそう言いながら、近距離でマナを放つ。マナは巨大な砲となり、放たれた。
「剣を抜かなかったのがお前の敗因だ…」
男はラルドの後ろへと回っており、もう1本のダガーをラルドの肩へ突き刺し、そのまま下へと斬り裂く。
「ッ…!!」
ラルドは苦痛の表情を浮かべたが、怯まずに腰から逆手でナイフを抜き、振り返りながら、斬りつける。男は避けながらラルドに尋ねた。
「おいおい、お得意の大剣はどうしたんだよ…このままじゃ死んじまうぞ?」
ラルドは笑いながら、
「お前相手にこいつを使う程でもないさ…」
と言って距離を詰める。
「変な意地張りやがって…」
そう言ってラルドのナイフを避け、斬りかかった。
が、その途中、男はセラからの重激を食らう…
「お前、3対1って忘れてないか…?」
ラルドは笑いながら、問いかける。
男は術式を使いながら、立ち上がる。回復術式のようだ。
イリアはようやく立ち上がる。呼吸の乱れも収まった。おばちゃんから貰ったポーションを使う。即効性のある回復薬であった。
「お前らはよぉ…釣り出されたんだよ…」
男はニヤニヤしながら、話す。と同時にラルド、リアロ、セラ、イリアの足元へと巨大な魔法陣が現れた。
「転移術式…!」
セラが叫ぶと同時にラルドはイリアに向かって、魔法を唱える。
「エクシードディスペル!!!」
…魔法や術式を無効化させる上位の古代魔法。魔法が得意ではないラルドにとって、この魔法はラルドのマナをほとんど使う魔法であった。
唱えたと同時に、イリアを除く3人はどこかへ転移させられた。
「なんだよ…そんなの聞いてないぜ…」
男はつぶやく、がすぐに嗤いだす。
「これってよぉ…めちゃくちゃに斬ってもいいってことだよなぁ…?」
男はイリアに向かって、走り出した。ダガーを構えながら。
イリアも走り出す…雄叫びをあげながら…
イリアは男へと斬り掛かるが、見破られ、再び蹴られる。マナを左手に込め、マナを放つが、これも返されより強力なマナを撃ち込まれる。フェイントを交えて斬り掛かるものの見破られ、カウンターを受ける…総合力では圧倒的にイリアは劣っていた。
4度目に蹴られた時、イリアはたまたま、神殿の入口へと飛ばされた。そこで僅かにだが、声が聞こえた。
「…い……こへ……」
それは聞いたことのある声であった。イリアは走り出した。洞窟の中へ。
男はイリアを追いかけるが、炎の衝撃波により吹き飛ばされた。
「よお! 小僧! 昨日よりもだいぶましな顔だな! いろいろあったみてーだな…今もな!」
属性精霊は笑いながら、話しかけてきた。
イリアは叫んだ。
「俺に…俺に力をくれ!」
そうすると属性精霊は突然真剣な表情になり、イリアに問う。
「この力、貴様に授けるとどうなる? 俺に利益はあるのか?」
イリアは答える。
「お前の利益など、知ったものか! 俺はお前の力を利用する! 俺の理想のために!!」
それを聞くと属性精霊は笑いながら言った、
「覇者はそうでなくてはな!!」
突然祠が消え、目の前に溶岩が現れた。
「飛び込め」
属性精霊は言う。
イリアは溶岩の中へと飛び込んだ…
熱い…だが、あの時の…竜の火球に比べれば心地よい熱さだ…心地よい熱に包まれるという感じだ。そう考えていると同時に大量の知識が頭に流れ込む。炎に関する魔法だ。頭痛がする…頭が割れそうだ…
痛みが引き、目を開くと目の前に紅い石があった。
「こいつは覇者石だ…覇者としての証…壊されるとおまえは覇者ではなくなる…大事にしろよ?」
属性精霊が問いかける。そして、こう続けた。
「お前の身体、少し住まわせてもらうぞ」
その声を聞いたと同時に俺は現世へと戻された、祠の前へ…
後ろからは男が走ってくる音が聞こえる。俺は唱えた。覇者としての最初の魔法を…
「アクセルフレイ」
炎を纏った蹴り。その蹴りが男を吹き飛ばす。
「覇者っておもしれーーーー!!!!!」
男は興奮しながら立ち上がる。
…今から始まるのは戦いじゃない…蹂躙だ。
『炎の覇者となったイリア』
『意外に早かったな、お前もそう思うだろ? ***』
『イリアは覇者の力、使いこなせるだろうか』
笑いながら声は話した。
なんか駆け足のように進んでますが、急いではないです…