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能力世界の悲劇譚  作者: 桂木/山口
第一章 非日常の能力世界〈序章〉
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7.後日談

 

 起きたのは8月2日の夜だと思う。

 場所は例のごとく荒山研究所地下仮眠室である。

 ベッドの脇の椅子に楓が座っていた。でも居眠りしている。一定感覚で頭がグラグラと揺れているのが見えた。

 ずっとそばにいてくれたのは嬉しかったけども、これ以上あんなのに関わりたくはない、という想いが先んじてやるせない気分になる。

 見たところ神代楓は俺以上の感情欠陥が見受けられた。

 数時間前、公園で俺が寸前で助けたときは特にそう思った。

 楓は目を瞑っていた――。

 ただそれだけ、諦めただけだった。もしかしたら死への恐怖がないのかと思った。そこまではないとしても無抵抗というのは異常な光景ではあったことは間違いない。

 楓は俺以上に超能力に関係している、だから感情がすり減ったのかもしれない。どれが怖いと感じてしまったのだ。

 だけれども、どんなに怖くても―――

「でも……やっぱり好きだ」

 自分自身に言い聞かせるように口にしていた。

 完全に顔でのひとめ惚れ、だけど。

 彼女の笑顔や恥ずかしがりやな所は、可愛かわいくて、いとしくて、でたくてしかたなかった。

 同じくらい好きで、同じくらい嫌い。

 だから覚悟がなかなか決まらなかったけれど、もういい。


「一目惚れで、好きだけど………」


 次の言葉は口に出なかった。それは出したくないと心から思っているから。代わりに別れの言葉を告げる。


「ありがとう、さようなら楓」


 スマホの電話帳から『神代楓』を消した。それから秋月さんに会うため仮眠室から出た。

 歩いていると丁度、秋月さんに会った。


「起きたか瀧沢君」

「はい、おかげさまで」

「吉元颯太の記憶は消しておいたよ」

「それは良かったです……何があったか聞いてますか?」

「楓から大体は」

「それなら、まぁいいです」


 秋月さんは怪訝そうな表情を浮かべていたが、すぐに精悍な顔つきに戻った。

 そして、頭を下げてきた。


「……今回の件、本当に申し訳ないと思っている」

「あれは俺の独断行動でしたから秋月さんが謝る必要はありませんよ。結果オーライですし」


 今となっては本当にそんな大きなこととは思わない。終わってしまったらこの程度、誰しもそう思ったことはあるだろう。どんなに大事でもそこら辺は変わらないようだ。


「それでも『植物』のときも学校のときも高校生には厳しいもばかりだったからな……」

「……能力者が引かれあってるみたいすね」


 自分で言っていてゾッ、とする。縁起でもないことは言わないほうがいい、どうも意識してしまう。

 だが、さらにゾッ、とすることを言われてしまう。


「私は君が引き寄せてるようにも見えるよ……いや、今のは忘れてくれ」

「(忘れられるわけがないだろ…!)」


 秋月さんはそのままどこかへ行ってしまった。

 どうにも不安感は拭えなかった。

 とにかく今は帰ることにした。既に7時だから親にも見苦しい言い訳しないといけないし。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ここからの夏休みはあっという間だった。

 前の事件で40人近くの死者を出してしまった天城高校は当然廃校を余儀なくされた。きっと慰謝料ならなんやらが天文学的数字になっていることだろう。

 この事件は大量虐殺事件として替え玉の誰かを逮捕したということにして解決を謀った。

 と、いうことで俺は他の高校に通わなければならなくなった。むしろ今までは学校までの距離が遠かったので好都合なこともあるが、編入試験やら手続きやらでここ最近は疲れ気味になっている。

 新しく通う荒山明星あらやまみょうじょう高校は俺の住んでいる南木市の隣町、荒山市にある私立高校である。それがとてつもなく家から近いのとともに、荒山研究所とも近いのだ。

 どちらも20分かからない距離にある。

 超能力関係にはもう関わらないと決めたのにフラグみたいなことが起きてしまった。



 気付くと8月26日になっていた。

 自宅で天城高校の制服やら荷物を片付けてると、夏休みの課題に目がいった。8割ほどやった痕跡がある、それはもう提出する必要はない課題。

 特に何も思わずに段ボールにしまって、ガムテープでグルグル巻きにする。そのまま部屋の隅に放置。


「長い夏休みだったな」


 8月1日が遥か遠くのように思えた。

 日常のありがたみを気付けた夏休みだった。自分の見ている世界がどんなに小さいかを理解できた夏休みだった。

 あのとき以来楓にも会っていなし、俺の能力のサイバーも使っていない。もう超能力の「ちょ」の字も見えない日常が過ぎていった。

 あの後、超能力関係には縁がなかったが、それとは関係なく奇妙だと感じることは度々あった。




 その1つは夏休み中の運動不足を解消するため毎朝外を走っていたのだが、その途中で中学時代の同級生にあったこと。

 名前は東葉渚とうようなぎさと言って中学の時のクラスメイトであり、元学級委員長だった優等生。割と1人でいた俺に積極的に話しかけてくれたいいやつだ。

 卒業式以来だが髪型がだいぶ変わっていた。

 ロングのポニーテールだったのが肩くらいのショートとなっていた。だからすぐには彼女だと気付けなかった。

 東葉の家の前を通ったのだが、ジャージ姿でストレッチをしていた。そこを横切ったのだ。

 お互い気付いても数ヵ月間会わなかっただけでとてつもなく話しかけずらかった。だから、お互い知覚しながらも無視した。

 それが8月中旬の話で、それから度々横切っても彼女を見かけなかった。

 超能力に関係ない不思議でもなんでもないことだけど不吉なものを感じてしまった。




 そして2つ目は8月29日の話。

 毎朝の日課となったランニング帰りに小学生時代の後輩とあった。年齢的には今年13歳となる中学1年生の男。学校制定の体育着の半ズボンにTシャツという部活スタイルだ。

 名前は木戸蓮司きどれんじ

 付き合いが長いだけに年が離れていてもタメ口である。俺も一向にかまわない。


「あっ、タッキーじゃん」

「よっ、蓮司久しぶりだな」

「そうだっけ」

「で、どうしたんだ?」


 すると、蓮司はこの南木市に流れている噂を語り始めた。基本的に目で見たものしか信じない俺には縁がないもの。


「国道沿いにさ、汐ノ宮道場ってあるじゃん」

「そういえばあったような気がする」

「そこに、なんか偉い人が来て何かやるんだって。だから見に行こうと思って」

「野次馬かよ……面白そうだし俺も行ってみようかな」


 と、いうわけで蓮司と俺は汐ノ宮道場に赴いたのであった。

 道場に到着すると入口には20人近くの野次馬が既に待機していた。まだ何か始まったわけじゃないけれど緊張感が外まで伝わってくる。

 道場の中にはその偉い人と道場主がいるらしい。人混みに揉まれながら中を覗くと俺と同じくらいの年の女の子が道場主の隣に正座していた。

 しかし、色々ツッコミどころがあった。

 まずは髪型、何故にツインテールなのか。動くたびに揺れに揺れて邪魔だろと言いたい。

 そして道場の中央にその彼女がいて、その隣に道場主と思われるおっさんが正座しているのだ。普通に考えれば逆だろう。


「何か訳ありか……」


 普通ではないことは精神統一している彼女を見ればわかる。素人の目でも凄味を感じ取れる。

 するとおっさんのほうが偉そうに突っ立っている人達に頭を下げ、言った。


「この度は先日話した通り私の娘の実力をお見せしましょう」


 おっさんは立ち上がり定位置に移動した。女の子のほうも同様に対になる立ち位置に移動した。

 自由組手、寸止めの試合ということらしい。

 形式的な挨拶をし早々に試合は始まった。2人とも空手の構えをとる。

 俺には空手についても、格闘技についてもよくわからないが、ならではの緊張感が道場に広がっていく。

 おっさんが最初に動き、拳を繰り出すが受け流される。水の流れのような無駄のないしなやかな動き。

 女の子はそのまま攻撃態勢に入るが、おっさんも予測していたのか防御態勢に入っていた。

 しかし、彼女の繰り出す拳はおっさんの手をあり得ない力で後方へ吹き飛ばした。がら空きになった腹部にすかさず寸止めの一撃を加える。

 おっさんは後ろにのけ反り、数歩後ろへ動くとやっと止まった。

 という超能力か人間の力かわからない不思議なことが起こったのだ。その風圧がここにも届いたくらいだからおかしいとは思ったけれど。

 余興にしては盛り上がる展開にかける試合だったと思う。

 そのツインテールを暫く見てると思うことがあった。


「どっかで見た顔だな……」


 ラブコメみたいに実は幼なじみとかいう展開はない。俺は幼なじみなんていない絶対。

 そして俺の疑問に蓮司が答える。


「ここら辺の地区なら同じ小学校だと思う」

「そういえばいたような……」


 いつかの学年で同じになった汐ノ宮……同い年、いたな。

 昔は常にやんちゃな男の子にからかわれているイメージがあったけれど、今では圧倒的凄味を持つ空手美少女となったようだ。

 なんというかツインテールは不覚にも似合っていると思ってしまった。TPO的にNGだし、KYだけれども。

 思うところは色々あったがこの時は帰ることにした。途中で蓮司は中学校に行くということで走り去っていった。


「最近の中学生は大変なんだな」


 呆れながらも、よくやるなと思う。

 俺に関しては、今も昔も部活動には縁がない。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これからの予定は普通の高校生として生活すること。

 前までは何か起これ、と心の中で思っていたくらいだけど、今は本当に普通の素晴らしさを実感している。

 起こったことは良いことばかりじゃないが、こう思えただけでもいい教訓だった。

 でも、俺の基本的な性格が変わったわけではない。いつも通りに1人で過ごしていたいのは変わらない。友達なんて2人くらいいれば十分だと思っている。天城高校では1人しかいなかったけれど。



 8月31日の夜9:30頃、俺のスマホに電話がかかってきた。驚きのあまり通話終了のボタンを押してしまった。


「あっ……」


 誰からの電話か確認すると見覚えのある番号だった。

 今はなき楓の電話番号。死んだ訳じゃなく、スマホにはないっていう意味で。

 相当に迷ったけれどもかけ直すことはしなかった。スマホの電源を切ろうとしたとき、メールが届いた。さっきと同じ番号を示していた。


 内容は『外角公園にいるから来て』というものだった。


 外角公園というのは俺の家から最も近い公園の名前、最寄り公園といったところ。

 そこに楓がいるということは……行かなかったら家に来るよな。

 仕方なく外角公園に向かう。歩いて5分足らずの距離にあるが、熱帯夜が続く今日この頃、着いたときには全身霧吹きをかけられたみたいになっていた。

 楓は入口近くベンチに座って待っていた。俺に気付き一瞥。

 距離を開けてベンチに座る。


「……で、どうした」


 吹く風に書き消されるような小さい声。楓にはちゃんと聞こえたようだ。


「今日……夏休み最終日だから……」

「だから?」

「……言いたいことがあって」


 楓の声も俺と同じくらい小さな声で風に書き消されそうだったけど、ちゃんと届いた。楓は妙に俯いている。


「…………」


 内容がわからないこちら側からすれば心配でしょうがない。超能力関係なんてもってのほかだ。冗談でもおかしくなる。


「――もしかしたらっ」


 緊張している声色、薄暗いために表情はよく見えない、だけど頬はほんのり赤い。一層楓が何を言いたいのかわからない。

 気付いたとき目と目を合わせて向き合っていた。今日はいつもと違って、吸い込まれるような錯覚に捕らわれる。目が離せない、もっと見ていたい、と。


「私もっ、好きかもしれないっ!」

「は…?」


 好意があることの宣言だよな? 

 右耳から入って左耳から出ていった気がする。

 それよりも目の前にある美の真骨頂に目が釘付けだった。あれ、なんか凄いこと言ったな、と後から理解する。


「……え?」

「…………」


 楓はまた俯いた。恥ずかしさで顔を真っ赤にしている。

 このとき俺は何を思ったかわからない。思いすぎて頭が追い付かないのだ。

 真っ先に気になったのは『好き』の部分じゃない。


「『私も』ってどういうこと?」

「それは……」

「……ま、まさか、起きてたのか?」

「うん……」


 頭の中で鐘がなった。頭が揺さぶられている。

 研究所仮眠室で、楓の寝たフリをするという謎行動のおかげで俺の精神がだいぶすり減ったようだ。

 でもあのとき『続き』を言ったほうが良かったのかは今でもわからない。けれど、楓の告白で俺はテンションがおかしくなってしまった。


「……参考までにきっかけを」

「えっ!」


 恥ずかしがる姿もやはり可愛い。

「是非お願いします……」


 自分で自分を好きなってくれた理由を訊くのは流石に恥ずかしい。けれど重要なことだから。


「……あのあと考えてみたらいいかなぁ~、って……」

「俺が言うのもなんだけどさ俺の(似非)告白を聞いて、理想と置き換えただけじゃないのか?」


 つまりは意識し過ぎてるとか、恋愛対象が他にいなかったからとか、つり橋効果とか。

 それは俺にも言えることだけどスルーしておく。


「―――も……いいかなって」

「もう一声」


 楓の声が小さすぎて聞こえなかった。なので聞き直す。声が小さかったのは楓自身もわかっていたようで深呼吸して今度は大きな声で言った。


「年下に振り回されるのもいいかなって思ったのっ!」

「……げ」


 このセリフを言わせてしまったのは申し訳ないけれど、可愛すぎて悶えてしまいそうだ。

 でも俺は……楓が年上だったことに驚きだ! 何だかんだ同い年だと思っていた。

 確かに大人びてたけど、実際そんなことあるのか!

 俺、動揺せず気張っていけ!

 脳内のこだまがこだましていた。

 いきなり年下に呼び捨てにされたり、タメ口にされたりして驚いたんだな。

 何とか落ち着いた。実は年上という事実も受け入れた。


「ありがとう」


 とりあえずお礼の言葉を口にするけど内心は複雑だった。

 嬉しいけれど、関わりたくないという気持ちがあってどう返事すればいいのかわからなかった。

 そういえば少し気になったことがあったんだ。言い回し。


「別に付き合いたいとかではないのか?」

「……悪いけど付き合ってる暇はないというか」


 告白しといてその言い草は普通の人だったらぶちギレるとこだが、訳ありのようだ。不都合なことに超能力関係らしい。

 自然と雰囲気が重くなる。さっきまでの似非イチャイチャオーラはどこへやら。


「あれは、もう1年くらい前かな。クリスマスの日の話なんだけどね」

「クリスマス……」


 いかにも何かが起こりそうな日付ではある。


「そうだった、私の家族について説明してなかった。私の両親はミシュランの審査員で日本とか世界を飛び回ってるの」

「ミシュラン……凄いな」


 ミシュランの審査員の条件に素性がばれないというのがあったと思うけど、俺程度なら言ってもいいのか。ばらすつもりはないけれど。


「だから中学生のときから友紀と一緒に住んでるんだけど」

「友紀、って秋月さんだよね」

「うん。でも実家もあってクリスマスの日に何となく立ち寄ったの」


 そこで何かが起こったということか。何となく立ち寄った、というのも妙に都合が良い感じがするけれど。


「中学生の前半までは両親と一緒に住んでたし思い出にでも浸ろうとサイコメトリーの能力を使ったんだけど……知らない思念が残っていたの」


 残念ながら俺にはこの説明だけでは何が言いたいのかすぐには理解ができなかった。なんとか理解できたけれども筋違いか。


「えっと、泥棒が入ってたとか?」

「違う」

「じゃあ、全然覚えてなかったとか?」


 ただ思い出を忘れていただけならわざわざこんな説明はいらない。愚問だと思ったけれど意外と核心に触れていたらしい。


「まあ、ある意味そうとも言える」

「ある意味?」

「その覚えてなかった記憶っていうのが実の兄のことだったの」

「……待て、わからない」

「要は私には兄がいた、らしいの。サイコメトリーして初めて知った。だけど私にも、両親にも、いとこの友紀にも兄の記憶はない」


 頭を抱えながら、フル回転する。

 その現象と超能力の因果関係を脳内で構築する。


「中川さんみたいな記憶消去の能力とかってことか?」

「そう、だけど記憶消去っていうより存在消去って感じ。学校の先生やお隣さんだって知らなかったの」


 広範囲における記憶消去=存在消去に繋げるか、面白い。さらっと進めていたけど驚くべきことを言っていた。けど話の腰を折るわけにはいかない。


「整理すると、兄はいるけれど記憶は消去されていた。しかし、サイコメトリーの能力で存在していたことに気付いたって感じだよな?」

「だから私は真実を知りたいの。これが私が悠斗と付き合えない理由」


 これが楓の超能力に関わる理由。この存在消去の能力者を発見するために今まで…色々すり減らしてきたのか。

 強張った表情は、それが解決するまで人生が始まらない、と言っているようだった。

 俺も別に付き合いたいわけじゃない。これ結構重要。


 この暗い雰囲気と、暗い公園の中で何を言うべきか。俺は俺自身で気の利いたセリフが言えないことを知っている。

 嘘は得意でも慰めは苦手だ。むしろ嫌いだ。

 だから変に気を遣ったりしない。今思っていることを正直に話すことが俺にできる唯一のこと。


「秋月さんって従姉だったのね」

「そうよ」

「あ、ちょっと眠いわ……」


 ぎこちないけど笑顔になった。楓の淡い表情を見ているとどうにもメチャクチャにしたくなってしまう。間違えたイチャイチャしたくなるだ。

 楓の隣にくっつき、左頬に手を添える。


「ちょっ! 何!?」

「キスしたいと思って」

「えっ?」


 眠くなってきたのか頭で理解していても、どうにも止められない。左手に伝わる熱がますます上がっている。

 楓の抵抗する力を感じて、ふと、目が醒めた。


「……ごめん、寝ぼけてた。完全に無意識だったわ」

「それは流石にっ」


 確かに流石に思わせ振りな態度だった。もはや途中から本気kぽかった。頬から手を離すと、楓は自分の両手を頬にあてて羞恥に萎えていた。

 俺は反応する気力もなかったので動揺の『ど』の字もない。

 今はこの状況からどうやって後腐れなく家に帰れるかを考えている。眠いので目を瞑りながら楓の耳元で囁く。


「俺も恋愛と付き合うとかよくわからないから……付き合う気はなかったよ」

「う、うん……」

「それに……言いたいことがあるんだけど眠いから帰りたいし」

「……ふっ、そうね」

「ごめん、先に休ませてもらうよ」

「じゃあね、お休みなさい」


 俺は振り返って自宅へ帰った。ここは男として家まで送るよと言うべきところだが、眠いし、秋月さんもいるらしいから。


「それに楓は強いからな……はぁ~」


 あくびが出た。明日から学校だから早く起きないとって思ってたけど、もう天城高校じゃないから急がなくてもいいんだ。

 自室のベッドの中、さっきは眠いと言ったがいつの間にかに眠気が飛んでいた。


 俺が楓に言いたいことの1つは、存在が消えた兄について一緒に調べてもいいか。

 もう1つは望み、それが解決したら超能力協会から手を引いて欲しいということ。

 楓にこれ以上超能力に関わって欲しくない。楓自身が気付いていないだけでかなり疲弊しているように見える。

 自分自身のことは意外とわからないものだから、楓の代わりに俺がなんとかしなければならないと勝手に思っている。余計なことしてると思われるかもしれないけど、それが俺のやりたいことだから何と言われようと変えるつもりはない。

 まあ、本気で止めてって言われたら……どうだろう?


「だがまあ、本当に一番訊きたかったのは何故制服だったのかだけど」



 いつの間にか寝ていて、いつの間にか起きていた。

 スマホを確認すると、9月1日、5時30分と表示されている。


「夏休み……終わったか」


 カーテンを開けるとまだまだ夏の日差しが顔を照りつける。新学期には相応しい快晴の空は自然と胸が高まらせた。

 朝食を食べ終わり、新しい制服に身を包む。しばらく暇潰しをした後、家を出る。

 学校自体に何か期待しているわけではないけれど新生活は楽しみだった。


「よし、行くか!」


 というわけで瀧沢悠斗の超能力協会との出会いはこのように一幕終えた。


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