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能力世界の悲劇譚  作者: 桂木/山口
第三章 非日常の能力世界〈騒乱篇〉
19/54

1.風吹く今日に

 

 11月にさしかかると気温も一層寒くなってくる。

 例に漏れず俺こと瀧沢悠斗たきざわはるとは『サイバー』の無意識使用により体温においては一定状態に保たれている。


 それならば動きやすい服装、半袖にしたいものだが学校なので冬は制服を、詰襟を着ることを校則で義務付けられていた。

 呼吸をしても白い霧が出ることもない。フィクションなら吸血鬼と勘違いされるかもしれない。

 笑えない冗談だ。

 登校してくる生徒にそれをバレないようにして教室まで向かった。今日は昼休みに花園綾乃から呼び出してを受けていて誰もいない文芸部室に集合することになっている。


 最近は教室に入るときに毎回平野さんを警戒してしまうようになっていた。正直に言えば憂鬱というか、面倒というか、気を遣わないといけないというか。だから意識的に避けてしまっている。

 進展しない速水蓮華の問題について。

 蓮華は自分からは会話をしなくなった。理性で合理的に考えた結果そうなったということでいいだろう。


「瀧沢、少し訊きたいことがあるんだけどいいか?」


 自席につくと直ぐに黒岳詠一が話かけてきた。時間が迫ってる訳ではないので了承した。


「どうしたんだ?」

「最近速水の様子が変なのはわかるよな、その原因知ってるか?」


 どうやら黒岳は蓮華の異状が超能力であると思っているらしい。変に隠すのも感じ悪そうなので簡潔に伝えることにした。


「超能力が関係しているよ」

「やっぱりそうか……それ大丈夫なのか?」

「わかってると思うけど影響は出ている。安全な状態ではあるけど」

「その、どういう状態なんだ」


 黒岳は蓮華のほうに目を向けた。俺もつられてそちらを見た。簡潔過ぎて足りなかった。ちなみに席替えが行われて窓側の一番前になった。蓮華は真ん中あたり。


「感情がないんだよ」

「そうか……でも―――」


 でも、と続けた。そして思う。人を見る目があると。


「お前もそんな感じがするけどな」


 しばらく前に平野さんからも言われたけど、俺の場合はたまたま気付いたらしいので、わかりにくいはずだった。黒岳もたまたまという可能性もあるけど。


「限りなく近い状態ではあるけど、俺と速水さんでは違うよ」

「…………」


 なんというか胡散臭い言い方になってしまった。案の定黒岳はなんとも言えない表情になっている。

 フォロー入れとかないと後々面倒になりそうに思ったので。


「言ってもそんな困ることもないから。超凄いポーカーフェイスとでも思ってくれ」


 丁度チャイムが鳴り朝のホームルームが始まった。


 4限の授業が終わると昼休み、校舎がある建物から移動して部室が集まっている棟に向かった。3階の一番奥に文芸部というプレートが設置されている教室を見つけた。

 3回ノックして扉を開ける。中からの反応より先に扉を開けてしまったと後悔したが次から気を付ければいいか。

 そこには花園綾乃がいた。会議用テーブルを横に2つ並べ、左右に3つずつある椅子の左側の一番奥に座っていた。


「あ……こ、こんにちは瀧沢君……」


 妙にたどたどしい挨拶だったが気にせず返す。


「こんにちは、花園先輩」

「まあ、とりあえず座って……」

「はい」


 なんとなく正面に座ったところで妙に堅い雰囲気の中花園綾乃は口を開いた。


「なんというか……今日さ……一緒にさ……昼……」

「…………」


 こういう場合はどうすればいいのか。

 花園先輩が座っているパイプ椅子の隣に弁当袋的なのが2つ置いてあるわけだが、俺が気を遣って『腹ヘッター!』と言うべきなのか、そのまま待ったほうがいいのか。

 顔を真っ赤にして、小声で、さっきよりも数倍たどたどしくなっている彼女になんと言えばいいのか。

 とりあえず世間会話でもしてみた。


「花園先輩、2週間後だけど期末テストどいけそう?」

「期末テスト……」


 あからさまに嫌そうな顔をしている。そうだった、俺が花園綾乃と出会ったのは中間テストのテスト返しのときだった。そして彼女の怒りとかが爆発してしまった。それを連想させる会話、つまりは超能力を連想させる会話になってしまう。


「ふふ、実は神代さん教えてもらってるんだ」

「マジすか」


 一時はというかパラレルワールドではおもいっきり敵対していたのに、今となってはいい関係なのか。感慨深かった。感情はないけど。

 その後もいくつか会話したけど、彼女はちゃんと超能力に頼らない生活をしているようだった。そういうパターンもあると思うと今まで出会った超能力者にもそういう対応をしたかったと思ってしまう。けれど後悔ではない。ただ思っただけ。


 それから紆余曲折あって花園綾乃が作った弁当を食しているわけだがとても上手いし、美味かった。

 食後もいくらか会話した。兄弟はいるかとか、沖縄に行ったことがあるかとか、そんなレベルの話だったけど花園綾乃はとても嬉しそうだった。表情だけということはないと思う。


 6限の授業が終わると放課後、5時くらいにはファミレスに到着したいところだけど帰りのホームルーム時に窓から外を見ると神代楓が見えた。

 歩きながらに金髪がゆらゆらと揺れている。このペースなら荒山研究所あたりで追いつく。

 さてさて、俺はどうするべきなのか。

 楓とすれ違ってしまった今、行ったとしても嫌な思いをさせるだけかもしれない。

 感情がない今でも行かなければならないという何かが俺の中を渦巻いている。楓返し危険な目に遭う可能性があるなら俺は。


「瀧沢君話聞いてましたか?」


 不意に名前を呼ばれたので顔を上げた。いつの間にか下を向いていたらしい。


「ちゃんと聞いてましたか?」


 確認するようにもう一度尋ねられる。


「はい、テストまで2週間をきったのでそろそろ勉強を始めろと言ってましたよね」

「ちゃんと前を向いて聞いてくださいね」

「はい」


 確か中学生の頃、何故先生の顔を見て話を聞かないといけないのかという疑問を抱いたことがあった。それに対する俺の答えは既に出ている。

 反省。反芻。


 帰りのホームルーム、終礼が終わるとともに教室を飛び出した。なんだかんだ7、8分の差がある。とりあえず走って荒山研究所へ向かった。

 ギリギリ、本当にギリギリで楓に追いつくことができた。中に入ってるから追いついたと言えるかあやしいけど。

 やっぱり楓はいい顔をしてくれなかったけど今回は危険な案件ではないらしい。

 地下の会議室までの迷路のような道を歩きながら概要を聞いた。


「今日の午前中に荒山研究所のほうから連絡が来たの。北幸響きたこうきょう病院から異常体質な患者がいるって」

「それが超能力者ってことか」

「相手は女子高生だから同年代くらいの私が呼ばれたわけ。なかなか話してくれないからって」

「そんなこともするんだー……中川さんは?」


 超能力研究所協力者も意外と大変なだと関心しつつ、こういうとき必要になるであろう人物の行方を訊いてみた。


「どうしても外せない用事があるんだって」

「そっか」


 そうこうしているうちに地下空間に到着した。

 会議室を目の前に見知った人物がいることに気付いた。相変わらずのかっカッコよさで秋月友紀が壁に寄っ掛かっている。どうやら俺達を、というか楓を待ち伏せていたらしい。


「久しぶりだな瀧沢君、元気にしていたか」

「元気にしていました」


 と、定型的な会話を嗜んだところで。嗜んではないけど。


「名前は黄昏花恋たそがれかれん、能力は『そよ風』と言っている。詳しくは藤堂、中川が来たらだが今のうちに情報は整理しておきたい」

「俺の出番はなさそうですね」

「いや君は人畜無害そうに見えるから大丈夫だろう」


 俺は人畜さんですか、と独り言を漏らしつつ話は進んでいく。


「その黄昏花恋はなかなかの人見知りでな私だと威圧的になってしまってよくない」


 それだけ聞くと楓は動き出した。


「わかった友紀、なんとかしてみる」


 会議室脇の小さなテーブルを挟んだソファーに向かい合って座る2人の女子高生。それを横から仁王立ちをして眺める1人の男子高校生。


「私は神代楓と言います高校2年生です、ええと超能力についての話は聞きましたか?」


 黄昏花恋は少し顔を上げて楓のことを見ると、やや硬直したごまた俯いた。


「……はい、さきほど秋月という方から聞きました」


 そして凄く小さな声だった。高校3年と聞いたがこれからが心配になる。


「ではあなたの『そよ風』についてですが、そよ風を起こすんですよね」


 互いが何呼吸か置いた後に答えた。


「……そうです。でもとても暑い熱風――なんです」


 納得がいったということで俺は口に出した。


「だからワンピースにサンダルなんですね」


 この部屋に入ったときから何らかの超能力の影響で夏みたいな格好になっているんだろうなとは思っていた。

 冬である今でも夏服を着るくらいの暑さとはどんなものなのか。

 なんて考えてるうちに黄昏花恋はまた俯いた。話の流れが絶ち切れそうだったので急いでフォローしておく(何故流れが絶ちき切れそうになったのかはわからないけど)。


「それなら確かに学校には行けませんよね」

「……はい」


 心底学校に行きたかったのだろうか、一層俯いた。黒いオーラが見えるようだった。


「いつその能力に気付きましたか?」


 楓は続けて質問をした。


「えっと……違和感は中学生の頃にはあったと思います。でもここまで暑くなったのは数日前です」


 これって記憶消せないパターンじゃないのか、と小声で楓に訊いてみると、かもねと呟いてさらに質問を続ける。


「誰かに能力のことを言ったり、気付かれたことはありますか?」


 一呼吸置いて。


「多分ないと思います……怪しまれたことはありますけど」

「そうですか。最後にここに来たことから自分では制御できないということでいいんですね?」

「そうです、いつでもどこでも風が吹き付けてきます」


 ここで一区切りということで締めに入る。


「はっきり言いますとそれを解消するのは難しいです。しかし絶対に治らないわけではありません」

「…………」


 黄昏花恋は少しだけ顔を上げた。


「この能力は心のありようで制御できます。もちろん簡単ではありませんが。それに一時的になら直ぐにできなくもありません」

「そ、そうなんですか」


 …………。


「俺は用事があるから帰るよ」

「わかった。あとはまかせて……」


 ぎこちない別れの挨拶だった。これを解消するには1回楓と腹を割って、胸襟開いて話す必要がありそうだ。

 黄昏花恋の話が意外と時間がかかったので早歩きで荒山駅に向かう。丁度来た電車に飛び乗って一息落ち着く。


 制御不可能な能力か……。

 先日異常なまでに視力が上がっていることに気付いた。意識せずとも体が勝手に最適化されていた。それが良いことなのか悪いことなのかはわからない。

 もしかしたら運動神経も上がっているかもしれない。絶対病気にならない体になってるかもしれない。人間を越えた状態。


「(害悪はないからそんな気にしてないけど……暴走したらどうなんだろう)」


 未知の能力が暴走したとしたらその影響はまさしく未知数になる。『サイバー』には能力を無効化にする能力がある、それを本気の戦闘使ったとして誰が止められるのか。


「そういえば俺の他にもサイバー使いがいるらしいな……」


 下頭駅に到着、裏口からファミレスGeorgeに入った。

 今回はほとんど無心で皿洗いをしていただけだった。本格的な参戦はもうちょっと慣れたららしい(疲れそうだから嫌だけど…)。

 それでも人員問題は解決しない。


 8時50分頃、客が全員帰ったのを確認してから一気にため息を吐く。


「滅茶苦茶疲れた……皿洗いだけなのに」

「確かに今日はお客様が多かった」


 バイトの先輩、横道貴嶺(18歳)が隣に来て呟いた。あくびをして女子更衣室に歩いていった。


「お疲れ様瀧沢君」

「そちらこそですよ村上さん。一挙手一投足が尋常ではなかったですよ」

「そう見えたんなら良かった」


 もう1人のバイトの先輩、村上響子(20歳)が労いの言葉をかけてきた。今回に関しては俺はほとんど何もかもしてない。効率が若干上がった、ように見えるだけだった。

 迷惑をかけ続けるわけにもいかないので本腰入れなければならない。


「ここはホワイトだから学生は9時までに帰すんだよ」

「へーそうなんですか」


 着替え終わり更衣室から出たところで叔父=オーナーの瀧沢典明に遭遇した。いくらか雑談する。


「バイトの募集とかチラシとか結構してるんだけどなかなか入ってくれる人がいなくってね」

「もっと内情をオープンにできればいいんですけどね」

「オープンに……なるほど」


 あくまで勘ですけどね、と言うのは忘れない。ちゃんと保険をかけておかないと責任が重くなってしまう。親戚だからって油断はよくない。



 バイト帰り、荒山駅から家までの道のり。

 電灯が等間隔で設置されている道路、塀越しに見える家の窓からオレンジの光が漏れ出ている。

 電車でしばらく座ってたからか眠気が襲ってきた。


「寒いな……」


 ポツリと呟いた。

 冗談というか、景色を見ていたら何となく口にしたくなった。

 反応してくれる人なんていない、はずだった。だがしかし誰かが返答した。


「それも気にならなくなるよ」


 後ろから聞こえた。相変わらず吹き付ける風が妙に気持ち悪く感じられた。

 ゆっくり振り返るとそこには白いワンピース姿に麦わら帽子をかぶった女の子がいた。電灯の下で帽子で顔を隠しながら。


「直ぐに楽になるから……およそ8秒で」

「あなたは――」


 季節外れのワンピース、ほんの数時間前に見たばかり。名前は黄昏花恋といった。

 しかし、印象が違いすぎて気付くのが遅れた。凄く細くて、綺麗で、可憐で、儚げで、情緒豊かで、そして躊躇がない。

 気圧され後方へ足が動いてしまう。

 そのとき、躓いて後ろに倒れてしまった。急いで立ち上がろうとしても足が動かなかった。

 足に力が入らない。足の様子を確かめるため手を伸ばす。


「うぐっ!?」


 伸ばした右手が切断された。

 そして、立ち上がれない理由は両足とも膝の部分で切断されているから。

 後ろを取られたときから痛覚(神経)と体のリンクを解除しておいた。だが触覚までも解除状態にあったので切断の痛みも、流れていた血液にも気付けなかった。

 止血のためサイバーを発動しようとした。が、気付いたときには彼女は俺の頭を見下げていた。そして腕を振りかざしていた。

 咄嗟に左手で顔を守る。生態装甲すら纏う余裕もないくらい瞬間的に。

 左腕に一直線のひびが生まれる。

 左手の中指と薬指の間から肘の真ん中にかけて線を境にして真っ二つになった。異常なほどの血液が溢れ出す、数メートル吹き上げる。

 威力はそれだけにとどまらず時間差で両目眼球を裂傷。失明。

 全身の力が抜けていく――つまり死亡。


「――……」

「私の『風』にかかればこんなものよ。と、言っても聞こえないか……まったく『あの人』は」


 黄昏花恋を中心に竜巻が起こり、彼女を体を上空へ持ち上げる。高度はどんどん上昇していく、そしてふっと消えた。


「――っ」


「――――うぅ……」


「――――生態装甲……」


「――――――――――――――――――――なんとか助かった」


 右手首を能力で拡張し切断面を無理矢理くっ付け、その後はもとの状態に戻すだけ。その右手に纏ったサイバーで両膝、左手に触れて切断面を侵食させて止血した。故に切断面は青く光る。

 両目に右手をのせて目の傷を治す、再創造して入れ替える。


「あれは黄昏花恋だったよな……」


 両膝も左腕も切断面どうしを合わせるとそのまま何事もなかったかのように元に戻った。後は飛び散った血液をサイバーで吸収すれば完全に隠滅できる。


「しかしまずいな……」


 黄昏花恋が何故俺を襲ってきたのかはわからない。それはこの際置いておくとしても、超能力協会の本拠地に侵入してくるのはまずいだろ。

 敵は超能力協会レベルのセキュリティを軽々と突破してきたとなると、既に紛れているかもしれない。あらゆる情報を詐称、改竄かいざんしてまったくの別人として超能力協会を掻き回している。

 シンディザイアが菜花女学院で俺を狙ったきっかけもこれかもしれない。

 腕が慣れてきたところで立ち上がる。


「風の能力者か……本格的な異能バトル物になりそうだな……」


 足元に落ちてるカバンを拾って家路についた。心なしか風が弱まっている気がする。

 しばらくは夜もうかうか眠れそうにない。



 昨日唐突に現れた風の能力者、黄昏花恋について秋月さんに連絡をし身元について詳しく調べてもらうと予想通り実際に存在しない架空の人物名だった。ちなみに昨日のことはうまく隠し通せた。


 昨夜から、今日の早朝、現在昼休みまでそれについて考えていたが例のごとく答えは出ない。次現れたときの対策くらいは考えたが不意討ちをされたら意味はない。

 もう少し情報が欲しい、やっぱり一介の高校生には限度がある。だからといってやたらめったら人を巻き込むわけにはいかない。


「んっ? 久し振りですね。ええと南先輩」


 気分転換がてらに中庭に出たときに偶然見かけた。丁度登校してくるところだった(だいぶ遅刻気味だけど)。


「久し振りだな」

「……では」


 南成太とは付き合いはかなり短いが踏み込みは深い。だが人間的にあまり得意ではない。ましてや感情を失っているから。気を遣ってまで話すことなんて――。


「そういえば超能力協会のような団体に所属してるって言ってましたよね?」

「! こんなところで口にするな……移動するぞ……」


 学校に来たばかりだろうが南先輩は学校から出て一番近くの公園まで移動したところから話が始まる。


「ああいうことは人前で言うなよ何処に敵がいるかわからない」

「すみません」


 ベンチの左右の端に離れて座る。


「特に話したいことがあったわけではありません」

「は? ただ確認しただけだってのか?」


 流石に若干切れ気味なので何でもないは通用しそうにない。しかし何か知っていてもおかしくない。


「そうですね……『風』の能力者を知っていますか?」

「『風』だと……そうだな俺も多くの超能力者に会ったわけじゃないが風の能力者自体は少なくない数いる」

「…………」


 違う人が同じような能力を持つこともあるらしい。そういえば楓の能力は『上位サイコメトリー』だった。忘れていたけど上位や下位の概念が存在していた。


「しかし、まったく同じというのもなかなかいないもんだ」

「そうですか――」


 黄昏花恋(偽名)の能力の特徴。暖かい風……右手を切られたとき確かに冷感はあった。ワンピースもなにも超能力協会に侵入するための理由付けに過ぎないと思われる。

 攻撃は圧倒的風圧による斬撃、人間をもろともせず切り刻める。俺ではなかったら確実に死んでいただろう。


「強いていうなら速くて強いって感じです」

「それは特徴にならんぞ。ある程度の速さで操れればパワーも同様に上がるからな……」


 残念ながら俺の見たものに特定できるようなものはなかった。顔はなかなか悪くなかった(つり目が滅茶怖いけど)。


「どんな能力者を知りたいかわからないが、情報がなければどうしようもないぞ」

「それはそうでしょうけど……全然関係ない話なんですけど超能力協会のセキュリティってどうなんでしょうか?」

「日本最高峰のセキュリティだろ」


 当たり前だろ何言ってんだこいつみたいな表情だ。それはわかっている、それを突破できるかって訊いたほうが良かったな。


「特徴か……偽名なんだよな黄昏は……温度の調整もできるっぽいな……」


 何気なく呟いた言葉。何の意味もないものだったが南先輩は反応したある単語に。

 黄昏――。


「黄昏って言ったか?」

「黄昏って言いましたけど」

「そういえば――」


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 さらに2日後、土曜日、朝10時頃。

 俺は南成太先輩とともに荒山駅前にいた。学校がないので勿論私服だが男2人の適当ファッションなんかはどうでもいい。


「これから何処に行くんですか?」

「俺達、『スタイル』のアジトだよ」


 ここからおよそ50分ほど電車に揺られる。大きな川の上を通ることで東京に入る。土曜日ともなればこれくらいの乗車率かと思った。80%くらいか。

 電車から降りると休む暇もなく進んでいく。


「下原駅は改札が多い、気を付けろよ」

「子供じゃあるまいし大丈夫ですよ。スマホもありますし」


 南先輩はそりゃそうか、と小さく呟いた。

 人混みの間を縫いつつ目的の改札口へ歩いていく。駅からさらに数分歩いたところに廃工場があった。まさしくアニメでよくあるアジトって感じの。


「進道いるかーーー!」


 南先輩の大声が工場内に反響する。丁度反射音が止むと同時に物音、誰かが歩いてくる音がした。

 歩いてくる彼はなんというか普通の服を着た、普通の男子高校生という感じがした。妙に笑っているように見えるのは気のせいか。そして片手を上げてこう言った。


「久しいな南」

「久し振りだな」


 この人はいつでもどこでも久し振りなんだなこの人は。と、気付いたときその後ろにも女の人がいることに気付いた。

 ふと目が合うと微笑んできた。この人は……なんかキラキラしてるけどまぁ今はいいか。


「昨日言ってたのは彼のことかい?」

「そうだ。詳しくはそいつから訊いてくれ」


 進道とやらは俺の正面に。


「名前は瀧沢悠斗と言います。一応、超能力協会の協力者です」

「超能力協会……そうか。ともかく場所を変えようか」


 男女4人で廃工場の奥へ、普通ではあり得ないような地下への階段がそこにはあった。暗い暗い階段をゆっくりゆっくりとくだっていく。


 そこには空間が、テーブルと椅子が乱立している学校の教室くらいの大きさの空間があった。

 そこにはさらに3人の人物がいる。そしてリーダーである彼、進道が満を持して言った。


「これが俺達『スタイル』だ」


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