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能力世界の悲劇譚  作者: 桂木/山口
第二章 日常の能力世界〈依頼篇〉
13/54

6.能力者集団

 

 今現在、某男子生徒から超能力について情報を引き出そうとしているわけだが前提として彼が敵か味方かどうかもわかっていない。


「最初は確か……『呪歌』の能力者でしたね。黒ずくめの集団と仲間のようでした」

「黒ずくめならば『シンディザイア』だろうな」


 早速情報を手に入れることができた。黒ずくめはシンディザイア、これからはそう判断しよう。


「そしてもう一団体いたんですが能力は『酸化』と『バリア』です」

「ほう、そっちは別団体だったのか……」


 んっ? 彼の情報は関係者からのものではないのか?

 演技にしては素が出過ぎな気もするし。天城学校が狙われた本当の理由も知らないのか。


「目的は両方とも同じでした。どちらもある物を狙っていたんです」

「ある物だと?」

「やっぱりここまでは知りませんでしたか。これについて知ってるのは当事者の中でも俺を合わせて3人だけですからね」

「その狙っていたものは何だ?」

「そう急かさないでください。その前に1つ確認します。あなたは織田修造を知っていますか?」

「…………」


 彼は眉を一瞬ピクリとさせた。よく人を観察しているから機微だけは鋭いつもりだ。変化に気付いたところで人を心配することしかできないけど。


「アイツから話を聞いてるなら『酸化』の能力についても、俺についても少々は聞いてるでしょう?」

「…………」


 一貫して無反応。と、見せかけてやはり微妙に動揺している。


「修造が超能力関係者というのは聞きましたし、俺もそうだと言いました」

「なるほど……ああ織田とは知り合いだよ。そういうことならお前の話も少しは聞いてるよ」


 これで心配事がなくなった。実は敵という線もなくなったので安心して語れる。


「その織田修造も知らないであろうことを知っているわけですよ。狙っていた物……それは能力が付加された本です」

「本か……ところでそれはどうなったんだ?」


 ごくごく当たり前の質問だ、しかし答えるのに少しの躊躇いがある。俺の『サイバー』の能力で回収したのだが。

 その本を開いて見たところ全てのページに『破壊』という文字がランダムの形、大きさで殴り書きされていたのだ。

 怖くなったが捨てるわけにもいかず本棚の一番後ろ詰め込んであるはず。


「……奪われました」

「そうか」


 咄嗟に嘘をついた。

 その本が何を意味して『破壊』という文字が刻まれているのかいくら考えてもわからない。

 苦労して手にいれた割に大したことないと、言われてもしょうがない代物だ。


「その後は名付けるなら『合成生物体』との闘いですね。無事に勝ったということで今ここに俺はいます以上」

「2つ質問がある」

「どうぞ」

「2つの勢力の内、1つがシンディザイアということが判明したが、もう一方の正体はわかるのか? 口ぶりからはどうにも判断しにくいが」

「いえ、わかりません」


 それに関しては情報不足である。その2組の顔すら見れていない。むしろこちらが顔を見られたくらいだ。


「もう1つはお前が所属している団体の名前は?」

「それは……」


 織田にどこに所属しているか言わなかったのは超能力協会が超能力社会においてどこに位置し、どれくらいの権力があるかわからなかったからだ。

 警察を黙らせたり、マスコミを統制することもできることは最近知った。つまり国家レベルらしい。


「超能力協会です」

「何?」


 露骨に嫌な顔をされた、それも嫌いだからとかいうレベルじゃない。一気に雰囲気が歪むような感触だ。


「超能力協会がどうかしましたか?」


 彼が何故ここまで驚嘆しているかわからない俺は素直に訊いてみる。俺が知らないであろう情報もたくさん持っているに違いない。


「……超能力協会は負の遺産なんだよ」

「負の遺産?」


 遺産ということは過去に俺の知らない何かが起こったということ。超能力関係で危険なことや捕まるようなこと……何個かは思いつきそうだけど。


「以前は超能力調査団という名前だった。やることといったら超能力協会と同じだ」

「同じなら何故負の遺産なんですか?」

「表向きはだ。保護と称した非合法の人体実験が行われていたんだ」


 超能力調査団らしいっちゃらしい事件だな。危険なことの一番最初に思い付いたことだったし。


「それはもう、人工的に能力者を作ろうとしていたし。とにかく兵器としての超能力開発を行っていた。それを俺達をはじめとした反国家勢力が潰したわけだ。それが2年前のクリスマスだ」

「2年前のクリスマス……」


 どこかで聞いたような年月だった。違うか楓から聞いたのは1年前のクリスマスだっけか。


「その後は当然解体され、名前の上での管理者が変わり現超能力協会になっているんだ。当時実験体として捕らえられていたやつらは心底恨んでいるだろうよ…その超能力協会も」

「超能力協会に能力者が襲撃することは仕方ないということですか?」


 某男子生徒はコクリと頷いた。いや某男子生徒の名前何て言うんだ? 毎回某男子生徒は大変だわ。


「ところであなたの名前は?」

「……そうだなまた会うことになりそうだからな。一応言っておくか」

「嘘言わないでくださいよ? 佐藤とか」

「言わねぇよ。俺の名前は南成太みなみなりただ」


 なんというな普通だけど、少しアウトローな名前だ。それは同じ文字が2つあるからだと思う。ミナミナって感じで。


「繰り返しになりますが俺は瀧沢悠斗です。とりあえず明星高校連合なんてどうでしょうか?」

「ダサいというはいいとして、この学校の能力者を全員確認したのか?」

「合計で6人は確認しました。多分全員です」


 速水蓮華、平野晴子、長田、黒岳詠一、花園綾乃、そして南成太(本名だとしたら)の6人。


「6人か、平均より少ないな。もう2、3人いても数的には問題ないってところだな」

「平均とかあるんですね」


 超能力協会は国レベルの情報操作を持っている、そして付随した情報網も然り。

 南さんが所属する超能力団体もそれなりの情報網があるらしく、改めて驚かされた。


「ま、何があったら言ってくれ。ほんの少しなら力を貸せるかもしれないからな。織田の仲間内だってならそれなりに、な」


 締まりの無い終わりかただが南成太は屋上から去っていった。当初の目的は達成されたし万々歳だ。


「そろそろ出てきてもいいですよ花園先輩」


 換気扇とバリケードの間から隠れていた花園綾乃が現れた。というか俺が押し込めた。

 時間が無かったので説明も兼ねて待機させておいたのだ。これでおおむねのことは伝わったはずで、晴れて明星高校連合が結成された(はず)。


 タイムリープ等があったものの意外にあっけなく終わったので思いの外達成感がなかった。話がわかるやつが多かっただけなんだろうけど、それでも肩透かし感が拭えない。


 翌日からは何事もなく日々が過ぎていった。タイムリープのおかげで精神的疲弊があって眠かったけれど。

 何日連続学校通って、テストを何回受けてんだって話である。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 帰宅後、自室にて先日の話を整理した。

 超能力協会→俺etc

 シンディザイア→歌呪etc

 ?①→バリア、酸化etc

 ?②→南成太、織田修造etc

 第4勢力の発見と超能力協会の過去についての南先輩の情報は、有意義であったものの悶々と悩むことになりそうな内容。

 南先輩に訊くのは気が引けるので修造からっていうのもあり。連絡先はまだ持っている。

 と、ノートの切れ端に書いたところで、紙を4つ折りにして掛け時計の裏にテープでくっ付ける。


「このまま関わってくともっとデカイ紙が必要になりそうだな……」



 某月某日の明星高校。


「そういえば明明後日には文化祭か。俺何もやってないな……」


 文化祭の準備の分担は夏休み前に決まっていたので俺はあまりの雑用をやるしかない。罪悪感がありながらも楽できて嬉しい気持ちもある。

 だからってホントに仕事があったら心底嫌がるに違いない。


 翌日からは放課後にも文化祭準備が始まった。午前中は授業、午後以降は準備という形。

 文化祭実行委員の美希がせわしなく働いてるのを見ると…おっかなくて心配になる。ちなみに名字はまだ知らない。

 もう一度だけ花園綾乃に話をしたかったが、楓とも会うことになるので控えた。

 代わりといってはなんだが、3年の南先輩のいる教室へ向かったが休みらしい。というか週に2日くらいしか学校に来てないようだ。

 それが花園綾乃の『洗脳』の能力が効かなかった理由。彼女が南先輩に触れることができなかっただけ。


「(ホントに全校生徒触れてたのはビビるわ……先生達もだし)」


「ちょいちょい」


 すると休んでいるというか、暇をもて余している俺に黒岳が小さく手招きしてきた。そのまま教室から出たが廊下にも飾りつけをしている生徒がいたので人混みを避けて屋上へ向かった。

 その間不思議なことを尋ねられた。


「ストーカーの対処法わかるか?」

「警察……」


 黒岳は無反応のまま屋上前の踊場に着いた。


「こうやって人気のないところに呼び出したのは時間移動する必要が出てきたからだ……」

「何!? 一体全体どういうことだ!?」

「……最近妙な女子生徒につけられてるんだ。妙に察しがいいと言うか、妙に悟ってるっていうか……あれなんだよ」

「……それはなんというか、タイムリープするほどか?」

「とにかく妙なんだよ!」


 説得力はないけど、ある意味説得力があった。なんというか凄みが感じられたのだ。

 あの黒岳がここまで言うのなら本当に何かがあるのだろう。


「わかった、俺がなんとかしてやるよ。高速艇に乗ったつもりで待ってろ」


 大船どころの機動力ではないぞ!


 その女子生徒は校門に背中を預けて一眼レフを弄っていた。この姿は一度とならず二度見たことがある。

 この嘘告白眼鏡女子の名前は万丈流ばんじょうながれ


「あれ?今日は2人だと思ったら瀧沢君と一緒か…わかっていたけど」

 何をわかっていたのかはともかく、知った顔なら話は早い。ここはバシッと言って止めさせる。


「万丈さん、彼は付きまとわれて困ってるんだ。言いたいことわかるよな」

「今日で8日目なんだよね……ということで瀧沢君に訊きたいことがあるんだよね」


俺の言葉は無視して、何の脈絡もなくそう言う万丈。


「……訊きたいことだと?」


 こいつは何を考えてるのか全くわからないので、自然と身構えてしまう。話題といったら俺と黒岳に関連している何かだろうけど、考えると俺達の関係は小学生時代と能力だけ。

 あれ? そういえば8日目とか言ってたよな。俺もいつかに同じようなことを考えた気がするんだが。


「私は君達がいわゆる超能力者だってこと知ってるよ?」

「…………」

「…………」


 俺と黒岳は思わず絶句した。黒岳の顔を見ると、首をブンブンと横に振っている。つまり黒岳は超能力について万丈さんに言ってない。それはつまり~。


「え、えっと、何の話だ? 超能力とか信じてんのか? 俗にいう中二病か? 痛いなー」

「瀧沢君……やっぱわからないな~」


 俺の煽りは意味不明扱い発言によって書き消された。そのセリフは前にも聞いたし、むしろ俺のセリフだ。

 ここで考えられる万丈さんが超能力を知っていた理由とは。リアル新聞部なみの情報力を行使してここに至ったか、何らかの超能力で知ったか。

 そして疑いだして8日がたったことで言い訳の余地がなくなったのだ!

 結論に至ろうとした直前で彼女はあっさり答える。


「私、人の心を読めるんだよね。つまり君達と同じ超能力者ってわけ」

「な、なるほど。で、黒岳から情報を得ていたわけか」

「そうなんだけど君の能力が無効って読んだときは驚いたね~」


 読むって言い回し、改めて考えると何か妙だな。


「『読む』ってことは文字が頭に浮かんできてるんだよな?」

「そんなことはいいとしてさ! 早く教えてよ超能力について!」

「声大きいから」

「お前ら知り合いだったのかよ」


 今さら気付いた黒岳の声はまたもや万丈の大声で書き消された。

 雰囲気的に黒岳だけを帰らせて、万丈さんとともにお話しながら歩く。

 説明するのも面倒だから心を読んでもらおう。能力解除。


「知りたいことがあるなら勝手心を読んでくれ」

「だから見えないって……あれっ、読める!?」


 それから分かれ道になるまで数十分の間、無言で歩いていた。

 信号が赤になっているので立ち止まる。万丈さんがそのまま歩いていこうとしたのを襟を掴んで気付かせる。


「ここで分かれ道だっけ?」

「もう、これくらいでいいだろ」

「う、うん。じゃあ私も明星高校連合ってことで!」


 そう言って青信号になった横断歩道を走っていった。その時の笑顔はなんというか凄く可愛かった。冗談めかした感じが魅力を引き立たせてる気がした。気のせいかもしれないけど。


「もしかしたら俺って節操がないのかもな……」


 そう反芻しつつ俺は俺の帰途につく。

 南先輩の言った通り他にも超能力者がいた。優秀なことに『読心』の能力者だった。皆が皆ことごとく便利な能力を持っているのは少し気がかりだ。

 もっとアウトローな能力があってもいいけどな。水をお湯にする能力とか。

 気がかりと言ったら、万丈さんの読心で心の内を読まれたわけだが、天城高校虐殺事件のことも見られたにも関わらず無反応という点。気を遣われるのは嫌だが、もしも彼女にも楓と同じように心に傷があるのなら何か力になりたい。

 安請け合いできるようなことじゃないけれど。


 次の日の朝、すぐに黒岳が来て開口一番。


「アイツ大丈夫だったか!?」


 と訊いてきた。曰く、黒岳は秘密を暴露されまくってトラウマ状態らしい。

 今も昔も硬派なイメージがあった黒岳詠一だったがこういうこともあるんだなと思った。万丈と意外と気が合うんじゃないか?

 一方的にいじめられてそうだけど。


「つつがなく解決法したよ」


 心配ごとといったら蓮華の能力『関係可視』で黒岳と万丈さんの関係を見られることくらい。それも説明すればいいだけだから楽なもんだが。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 9月、明星高校に転校してから何人かの超能力者に出会った。関係可視から始まり、タイムリープして、洗脳されかけて、読心に至っている。

 決して楽ではなかったが、なんというか呆気ないと思ってしまう自分がいる。

 夏休みと比べて、目に見える危機的状況ではないし、殺されそうになってないからだけど。

 それと共に都合よく行き過ぎだとも思っている。ただ幸運だったというには無理があるくらいに。

 しかしまあ、自分の能力がわかっていないことが一番良くないことではある。治癒能力だけでも万々歳なんだが、これ以上あっても制御しきれる気がしない。



 全体的に曇り空が広がる10月の初め、明後日が文化祭という日になった。なってしまった。

 この日も午前中は授業を受けて、午後は文化祭の準備となっている。いつもなら俺と蓮華しかいない朝の教室は多くの女子生徒がたむろっていた。

 1年5組の女子集団だけでなく隣やそのまた隣のクラスも作業を行っている様子。なんとなく居場所がない俺は屋上へ向かった。

 俺の『サイバー』の能力で鍵穴の部分を侵食、鍵を回すことで鉄の扉は開く。

 便宜上、侵食するそれをサイバーセルと名付けた。単純にサイバーの細胞の意。

 ぼうっと登校してくる生徒達を眺めていると金髪の髪をした女子生徒が目についた。


「(金髪は目立ち過ぎるな……楓)」


 軽くなびく風に髪を揺らしながら校舎へ向かって歩いている。その姿をついつい目で追ってしまう。

 それは俺が彼女のことを好きだから仕方ないとしても、周りを歩くモブどもも釘付けだった。

 1ヶ月くらい話してないなと思い、文化祭はちょっとくらい付き合ってもらう計画にしようかな。それも超能力協会との兼ね合いだが。


 受ける授業は毎回退屈だからといって居眠りなどはしない。休み時間を毎回短いと思い、昼食を作ってくれた母に毎回感謝して、文化祭の準備で毎回暇を持て余す。

 楽なのはいいけど、居場所がないのは意外と休めないのだ。そして勝手に屋上へ足を運んでしまう。こんなことがあろうとあるものをバッグからおもむろにレジャーシートを取り出し寝転ぶ。思いの外気持ちよくて直ぐに寝てしまった。


 何でもないその日の帰り道、偶然にも見知った男に出会った。


「藤堂さん……」

「お前は瀧沢悠斗……」


 ここにいる時点で研究所は通りすぎたので藤堂さんとすれ違いになるのだろう。気まぐれで藤堂さんに何かあったんですか、と尋ねた。


「……そうだな。お前に関係してないわけではないからな」


 予想外の答えにゾッ、とした。


「そうだな昨日の話だ―――」


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