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能力世界の悲劇譚  作者: 桂木/山口
第二章 日常の能力世界〈依頼篇〉
12/54

5.タイムリープ

 

 ループ現象が起きたときまず最初にやるべきことは何か?

 とりあえず、起きたことを整理することに違いない。

 10月初旬に行われた私立明星高校の3日にわたる中間テスト。採点されたテストが全教科返されたのは昨日。テスト3日、返却3日で計6日のイベント。


 そして今再び中間テストを受けることとなっている。つまり丁度1週間前に戻っているということになる。

 何らかの超能力でこうなったのは間違いない。それを俺の『サイバー』の能力で無効化してしまって俺だけ記憶を所持している状態にあるようだ。

 俺が過去に来たのではなく、世界が過去へ移行したと考えられる。

 そしてやるべきことはそのタイムリープ能力者を突き止めることだが、手がかりがない。


「得をしてるやつが元凶ってのが相場だけど……世界の裏側にいたらどうしようもないよな」


 中間テストが終わった直前と考えるとここの生徒だが理由が下らない過ぎるため却下。そしてこの件に関して誰かに協力を仰ぐことができない。


「前回の記憶を持っている俺しか相違点に気がつけない、か」


 休み時間が終わり日本史のテストを受けているが2回目なので半分の時間で100点を取れてしまう。


 いつもの感じなら超能力者を俺が引き寄せてっていうので身近にいると考えるべきだろう。そのはずなんだが偶然能力を無効にしただけかもしれない。

 考えがまとまらないから家でゆっくり考えることにした。


 午前中でテスト初日は終了し生徒たちはぞろぞろと下校し始める。早く学校から帰れることをいいことに遊び歩く生徒もいれば、赤点にならないように真面目に勉強する人もいる。

 ループが今回だけで終わるならいいがこれからも続くとなると面倒どころではない。例えば15200回とかループされたら精神がもたなくなる。

 どちらにしてもタイムリープ能力者は見つけないといけない。


「最強能力じゃねーかよタイプリープって」


 自分の都合のように過去改変できるなんて今までで1番最強の能力者かもしれない。ノーリスクかどうかはわからないが。


 いくら考えてもすべきことは思い付かず5日経ってしまった。


「(あれ? 明日で1週間だ……俺何やってたんだ?)」


 帰りのホームルームにテストの成績表が担任の中田先生から返される。今回返されたときは妙ににやけていたな。

 おっと、これから君が何をしようとしてるかわかるぞ平野さん。


「ねぇ、君の合計点数は?」


 俺を貶す気満々の表情でそんなことを訊いてくる。前回ならいざ知らず今回は。


「……な、なっ!」

「はっはっは、残念ながら俺の勝ちだ」

「……くっ」


見てはならないものを見たかのような愕然とした表情だ。


「そんなに俺のこと嫌いなのか……」


 あんな嫌そうな顔をされると流石にしょげる。

 まぁ、こっちの平野さんにもいい教訓となったかな。世の中良いことはそうそう起きない。


「どうしたの2人とも?」


 しょげてる俺と愕然としてる平野さんを見かねて蓮華が話しかけてきた。


「蓮華悪いな、俺は1位なんだ」

「へー、ちなみに私は3位」

「3位?」


 確か前回蓮華は1位だった、俺が上に行ったことで今回は2位のはずだが。歴史が改変されてるのか? それとも俺が知らない間に何か変えてしまったのか? 蓮華に関しては特にアクションは起こしてないはずだが。


「4位は平野さんだし……2位は誰だよ」

「黒岳君じゃないかな?」

「あっ、忘れとーと」

「とーと?」


 そうだよ完全に忘れてた。平野さんの能力で超能力者疑惑が判明したんだ。

 このタイミングでその名前が出るということは濃厚だ。

 しかし、ストレートに訊いて答えてくれるだろうか。否、もしそうならタイムリープしてテストを受けていたことを認めることになる。それは黒岳にとって最も避けるべきことだろうな。

 それも仮定の話だけど。


 おもむろに近づいて話しかけてみる。黒岳の表情が少しこわばったように見えた。


「よー黒岳、俺のことを覚えてる?」

「転校生の瀧沢だよな」

「そういうことじゃないけど……」


 俺達の知られざる関係は遡ること8年、俺こと瀧沢悠斗と黒岳詠一は同じ学習塾に通っていた。小学2年生の頃だ。

 そのなかでも俺は劣等生、黒岳は優等生として扱われていた。その時点で何学年もの知識差があった。

 そもそも俺は馬鹿だから塾に通い、黒岳は頭を良くするために塾に通っていたことからできが違かった。

 そこから小学6年生になるまで俺達は通っていた。

 その頃には俺もそれなりの頭脳を手に入れたが黒岳はさらに先へ進んでいた。

 そんな訳で俺と黒岳は顔をあわせることがあっても話したりする仲ではなかった。それ以降は中学で塾を止めたのでそれからはわからない。


「同じ塾に通ってたじゃん詠一君」


 黒岳は塾の先生にそう呼ばれていた。俺も同様に下の名前で呼ばれていた。


「そうだっけ?」

「忘れてるのか」

「悪いな」 


 自分の席に戻ると直ぐ蓮華にある頼みをする。

 蓮華の『関係可視』の能力で黒岳が俺のことを本当に覚えてないかと、何をするのか調べてもらう。


「蓮華、能力で黒岳を見てくれ。俺のことをホントに忘れてるか確かめたい」

「わ、わかった」


 今事件とは直接関係しているわけではないが黒岳がその可能性があるというなら知ってて損はない。得もないけれど。


「ついでに何をしようとしてるのか調べて欲しい」


早業だった。まさに一瞬というやつ。


「……君のことを転校初日から知ってたみたい。それとこれから……」

「これから?」

「これから……」

「これから何だよ?」

「テストが1位じゃないから、『もう1度やり直そう』……何これ?」

「……なるほど大体わかったぞ」


 放課後になったのでホームルームが終わって直ぐ黒岳に超能力のことを話そうしたとき異変が生じた。

 さっきまで騒がしかった教室は静まり返る。この静寂は覚えがった。

 ループ前にも違う場所であったではないか――。


「完全に忘れてたわ花園綾乃! 生態装甲、四肢!」


 虚ろにどこかを見ているクラスメイト達を横目に窓を開ける。

 長田の時は上の階から下の階へ向かったが、今回は上に上る必要がある。


「それは夏休みに経験済みだったな」


 高校1学期時代の親友、織田修造とともに校舎壁を上ったな。あの時も時間が差し迫っていた状況だった。


「(待ってろよ楓……ついでに花園綾乃も!)」


 外壁に足やら指を突き刺しながら徐々に上っていく。

 窓が全て閉まっているので殴って破壊し侵入する。楓の教室は隣の隣だ。

 廊下には俺が天井に突き刺すはずだった椅子が転がっている。そして教室からは花園綾乃の喋り声が聞こえてきた。

 迷いなくドアを開ける。


「やめろ花園綾乃! ……………って――誰だ?」


 花園綾乃が話していたのは楓ではなかった。この学校の制服を着ている男子生徒が花園綾乃と話していたのだ。

 展開が前回と違っていた。バタフライエフェクトの如く、二回目における俺の行動により引き金が引かれたのか。

 その彼も俺のことを誰だよ、という表情で見ている。どういう立ち位置なんだ、こいつは?


「……超能力者ですか、あなたは?」


 本当に答えてくれるとは思わないが一応尋ねてみる。

 するとその男子生徒の目付きが変わった。警戒が色濃く表れている鋭い視線。関係者であることは間違いない。

 俺もだいたいそんな表情だろうけど。この三つ巴はいったいどこに向かうのやら。

 とりあえず人畜無害アピールをしておく。


「俺は決して別に敵対したいわけではありません」

「ほう」


 男子生徒はそう言い、花園綾乃から離れ逆側のドアに後退りした。3人の距離が均等になった。


「超能力って……まさかあなた達も持ってるの!?」


 花園綾乃がそう言ったがもう1人の男子に気をとられ無視してしまったのが良くなかった。


「グ、グァァァァァ……」


 花園綾乃が生徒を操った。


「なんだこいつら…?」


 謎の男は血走った眼をしている生徒を見て疑問を口にする。


「まあ、花園綾乃その質問は後で答えるから落ち着け」

「……わかった」


 半分冗談で言ったが納得してくれた。前回のパターンを見るとなかなか信じられない気持ちもある。

 そういえば生態装甲纏ったままだから警戒されてるのかもしれない。解除。あとは交渉だな。


「花園綾乃さん何故能力を使ったんだ? あぁ噂だっけ? テストの点数だっけ?」

「……ただムカついたから……何故事情を知ってんのよ……」


 思いの外理由が浅いなー。そんなんで窓から人落とすのかよ。それは俺が外に出たからか。


「なるほど。次にあなたは何故ここにいるんですか?」


本命は謎の男子生徒の方だ。この世界でのイレギュラー的存在。


「それはこっちのセリフだ」

「俺はこの学校にいる超能力者を探してるんです……」


 本来の目的は能力者を捕らえて記憶を消すこと。俺は安全そうな能力者は秘密を守らせるということで手を打ってる。


「超能力者を探してるだと……まさか『シンディザイア』か?」

「『シンディザイア』?」


 シンディザイア。何を言ってるかわからないけど固有名詞。言い方からして団体名のように聞こえた。

 俺が出会ったことのある超能力団体は、俺が協力している超能力協会と、やっぱり夏休みに襲撃してきた黒ずくめ達ともう1つだけ。


「『呪歌カースソング』の能力者がいる団体のことですか?」

「何だと!?知っているのか!」

「1度襲撃されただけですが、あなたこそ知ってるんですか?」

「…………」


 まだ信用し切ってないからしいが、敵ではないことは伝わったようだ。

 そしてその男子生徒が口を開いた瞬間。


「ちょっとどういうことか説明してよ!」

「花園綾乃さん……俺は1年5組の瀧沢です。詳しくは明日にでも話しますから今は」


今更ながら敬語に改めて挨拶、そして戦力外通告。


「ちょっと話聞いてる?」

「性格変わってますよ花園さん」

「早く答えてよ!」

「ということで今の所はここまでにしましょう。花園さんも解除してください」

「だから説明して!」

「わ、わかりましたから。一緒に来てください屋上まで」

「急に引っ張んなっ!」

「テンション上げすぎですよ。『!』ばっかですよ?」


 某男子生徒に軽く会釈して教室を離れた。

 屋上の鍵を能力で開けて2人で隣り合って座ろうとしたが、距離をとられた。普通は気にするよな。

 話してる暇もそんなになかったりするので手短に。


「簡潔に言えば……超能力者を保護したい以上」

「は?」


 やっぱり足りないか。わかってたけど。説明すると絶対長くなるんだよな。超能力協会のことは隠さないといけないし。

 花園綾乃と交渉して黒岳だけを洗脳させて能力を使わせないっていうのもこの展開ならできそうだけども。


「君の能力って何? 結局あの人って誰なの?」

「俺にもわからないことがあるんですよ」

「何頭焼けたこと言ってんの?」

「落ち着いて下さいって。実はこれからもう1人の能力者に会いに行くけど……どうする?」

「行くわよ!」



 場所は戻って1年5組の教室。時間が飛んだのはさておいて帰りのホームルーム中のようだ。

 2人で聞き耳をたてて中の様子を探ってみる。


「あれ、瀧沢君はどこいったの?」

「いつの間にかいませんでした。荷物は全部ありますけど」

「うーん。サボりかな?」


 担任先生と蓮華の会話が聞こえた。既に花園綾乃の洗脳は解除している。

 女の子とこんな風にいるのはなんとも不思議な気分だった。妙な緊張感の共有と言えばいいのか。

 そうそうに先生の話は終わりホームルームが終了した。


「花園綾乃さんはそこら辺で待ってて下さい」

「わかったわよ」


 本性を知られたからってそこまで威張られるとムカついてくるな。というのは置いといて黒岳のもとへ。


「よー、黒岳俺のこと覚えてる?」

「瀧沢だよな」

「そうだけどそうじゃない。昔俺と同じ塾に通ってたじゃん」

「……覚えてないな」


 覚えてない訳ではない。蓮華の能力で転校初日で気付いてたことはわかってる。

 黒岳がタイムリープ能力者だと仮定して鎌をかけてみる。


「俺テスト1位だったんだよ。黒岳は何位だ?」


 もちろんさっき返された中間テストの話。

 前回と今回と黒岳の関係性を考えたら『テスト』が重要なファクターであることは間違いない、はず。


「…………」

「それとは関係なくさ、何かするとさ余波が生まれるわけよ」

「何の話をしているんだ?」

「つまり……なんというか…」

「帰って勉強しないといけないんだよ」

「それってさテスト勉強? 全部100点とって1位になれるように?」

「……そうだよ2位だったから」


 それとなく探りを入れてみたけど、クロっぽい反応だった。

 まだ超能力のことを言ってないからなんの進捗もないのと同じだけど。そろそろ逃げられそうだな。


「世の中全部自分の都合のいいようにはいかないんだよ」

「だから何を言いたいん―――」


 ここぞとばかりに黒岳の左腕を掴む。


「これ以上ループするな」

「!」

「とにかくループに俺が巻き込まれるんだよ。だから止めろ」

「なっ……」


 声を出すと腕を振り払われそのまま教室を出ていこうとする。突発的ではあったが、もちろん予想済みだ。

 すかさず左手を後方に伸ばし黒岳の手を捉える。だがその前に黒岳は叫ぶ。


「戻れ!」

「何!?」


空間がグニャリと歪んだ。そして色すら剥がれて灰色と化す。


「――うっ……」


 気付いたとき目の前には雪野さんの後ろ姿があった。

 あの一瞬の間にタイムリープを発動したらしいが、予想以上のスピードで対応しきれなかった。

 もう1度記憶を保ったまま同じことを繰り返すとなると憂鬱だが、正解のルートはわかった。黒岳とのエンカウントさえなんとかすればいいだけだ。

 ということで半ば答案を覚えてしまった数学のテストを―――。


「(あれっ、日本史だと?)」


 数学は1日目にあったが日本史は最終日。黒岳の目的がテストで1位を取るだけなら、最終日に飛んだのは3日目の教科以外は既に100点ということだろう。

 ループは今回で終わりか。

 テストが終わると早速黒岳に話しかけようと席に向かったけど既に教室を出ていた。結局は戻ってくるんだぞ、ちゃんと考えてるのか?


「時間かせぎだぞ黒岳」

「黒岳君がどうしたの?」

「うげっ!?」

「何驚いてるの」

「急に話しかけるなよ平野さん」


 俺は偶然平野さんの席の近くにいた。

 平野さんは黒岳が超能力の可能性があることは知っている。変な動きをしたら怪しまれるかもしれない。


「ちょっと仲良くなりたくてな」


 言い訳が苦しい。考える時間が足りないぞ。


「……そう気を付けて」

「おう」


 怪しまれるのではなく心配された。人を最初の印象で判断するのは良くないな。

 平野さんは自分の席に戻って勉強を始めた。

 能力無効の意思を織り込んだ糸を創りだす。手のひらからスッと50cmほど。やっぱり自分の能力の全貌がわからないのはとてもよくない。


「いやはや不思議でしょうがないな……」


 3日目のテストのあとはそのままロングホームルームの時間となっている。テスト中には話出来なそうだったのでそれまで暇を持て余していた。


「おいおいおいおい逃げるな~ら黒岳」

「やっぱ記憶がっ……」

「たちまち走って逃げるな~!」


 というやり取りを数回した後、ようやく捕まえることができた。そのために多大なる労力と知力を消費したがな。まあ今日中に捕まえられただけラッキーだと考えよう。


「俺は別にお前を責めてるわけじゃないんだよ。俺も巻き込まれるから止めろって言いたいわけよ」

「どういうことかわからないんだが。お前が俺と同じような力を持ってて効かなかったと? カンニング行為をしていた俺を放っておくと?」

「そうだ。だからというわけじゃないけど、このことは他言無用で」

「何まとめようとしてるんだ、ちゃんと説明しろ」

「花園綾乃は楽だったのに……」

「花園綾乃? その人も超能力者なのか?」


 つい口走ってしまって余計な情報を与えてしまった。ここであからさまな否定をすると信用を失ってしまう。


「明日にでも説得に行くつもりなんだけど……説明すんのかー、面倒だなー」

「この際ホームルームはサボってでも聞いてやる」


 発言通り1時間分のホームルームをサボって超能力について話した。超能力協会のことはもちろん伏せて。

 目的も果たせたところで思い出話に花を咲かせようじゃないか。


「小学2年の頃覚えてるか?」

「覚えてない」

「転校した当初から気付いてたろ? 視線を感じた」

「目を合わせないようにしたんだけど……気付いてたのか」

「流石に気付くぜ、ハハハ」

「………」


 蓮華から聞くまで気付かなかったなんて言えない。


「俺が何学年も先の内容やってたの知ってただろ?」

「ああ」

「丁度その時からこの能力が使えるようになってたんだよ」


 これは花園綾乃と同じように昔からの記憶なので消去したら精神的影響が出るタイプだ。


「まさか?」

「そう、その時から能力は使ってた。絶対見破られることはないはずだったのに……」

「俺は最近能力を手に入れたばっかなんだよ」


 このようにアウトラインの説明で時間を潰した。

 紆余曲折ありながらも協力関係は成立し今回のループでの問題点は解決した。あとは3日後に花園綾乃と某男子生徒のエンカウントを攻略するだけ。

 面倒なこと、ではなかったな。これこそが本物のあるべきルートの世界。俺主観でしかないけど俺が生きる世界だからこれでいいんだ。


 でも、世の中そんないいことばかりじゃない…っていうのは誰にでも当てはまることで。


 今日は放課後に花園綾乃の能力が発動し某男子生徒が現れるかもしれない日だ。

 ループ毎に何かが微妙に変わっていたので前回通りというわけにはいかないが変わらない基準点は花園綾乃だ。

 テストの答案が返されると同時に動き出すことは決まっている。

 帰りのホームルームとなり成績表が先生から渡される。

 相変わらずにやけてるな。

 結果は1位、まずは平野さんを打ちのめしてから蓮華の順位が3位というのを聞いてから黒岳に尋ねる。


「だうだった?」

「そりゃ1位だよ。当たり前だろ3回もやったんだぞ」

「ただの確認。俺は2回で1位取れたけどな」

「俺は凡人なんだよ」


 軽く雑談しつつ全体の相違点を確認した。今のところは大きな問題点は見当たらない。


 そして放課後、できるだけ前回と同じ道を辿るためにあえてタイミングを待つ。

 来た、クラスメイト全員の動きが止まった。


「来た! 生態装甲、四肢!」


 指先の硬度を前回よりも強くして生成する。そして効率良く壁上りするため腕の筋肉自体にも装甲する。

 前回同様に窓ガラスを破壊し廊下へ侵入、該当教室を覗きこむ。今のところは花園綾乃が洗脳能力を発動し始めたばかり。

 某男子生徒がいないので、やはりどこかで違うルートに移行してしまったようだ。最初のルートに近い。

 だからと言って楓美を放置する訳にもいかないので。


「花園綾乃さん……能力を止めてください」


 同じセリフを使い回すのはなんかあれだし適当な登場になってしまった。

 少なくとも説得に応じてくれる度量はあるからさ、頑張る。


「……何故あなたに私の能力が効かないのかはこの際どうでもいいわ。私の邪魔をするなら誰であろうと!」


 洗脳された生徒達がこちらへ向かってくる。だから廊下の窓から外に出て逆側に回り込んで花園綾乃を気絶させる……と最初のループと同じになる。目標は第2ループでの説得成功。


「待て、俺は君の敵じゃない!」

「そんなの知らねぇよ!」

「待て!実は俺以外にも君の能力が効いていない生徒が1人いる!」

「!」


 廊下に頭だけ出して、叫んだ。


「出てきてくださーい。俺は敵ではありませんよー。あなたが知りたがってる『シンディザイア』について知ってることもありまーす」


 某男子生徒が出てきそうな話題の提示。でも明らかに罠っぽい。俺だったら絶対行かないわ。


「ちょっとどういうこと!? シ、シンディザイアって何?」

「静かにしてください。後で説明しますから」

「今説明してよ!? 殴るわよ!」


 花園さんは近付いてきて拳を振り上げる。そして間髪いれず頭を殴ってきた。


「痛っ……いですよ。説明しますから」

「ふん」


 鼻を鳴らし、腕を組んでふんぞり返った。こういう仕草は可愛いんだけどな。意外とチョロいし。

 廊下にもう1度声をかけて、花園さんを屋上まで連れていった。


「全部話してもらうわよ」

「その前に能力を解除してください」

「……はぁ」


 下階から少しずつ騒ぎ声が聞こえてきた。ちゃんと約束を守ってくれる良い娘だった。

 説明も何回もしてるから要点もわかってる。


「前提として俺達は超能力者です。確実に存在してます。俺はこの学校にいる超能力者の確認と保護を目的としてます」

「確認と保護……何でそんなことするの?」

「超能力のことを広めないようにするため。やたらと危険な集団が寄ってくるんだよ」

「危険な団体って何よ!」

「さっき言った『シンディザイア』を始めとした超能力武力集団。最近も……」


 最近と言っても8月、今でも一昨日のように覚えている。ちなみに吉元との闘いは昨日のように覚えてる。


「天城高校の事件だよ」

「あの大量虐殺事件が……」


 世間ではそういうことで処理がされている。実際に死体がバラバラ過ぎて親族に届けることができないとかで社会的問題となっていた。

 犯人は替え玉、死刑は当然と言っても誰も裁かれない…まったくもって最悪の事件だ。俺も殺されかけたわけだし。


「だからやたらめったら使うものじゃないんだよ、超能力は」

「……本当なのさっきの話?」

「本当だよ。なんたって俺はその生き残りだから」

「!」


 花園綾乃の初めての表情を見た。目を見開いて呆然としている。そんな彼女が何を思ってるか俺にはわからない。

 どんな表情なのかも本当はわかってないのかもしれない。


「君が巻き込まれないためにも、もう能力は使わないで欲しい。君の能力は強いからさらわれても、おかしくない」

「…………」


 花園さんはその場に座り込んだ。簡単に納得できることではない、けど納得してもらわないと困る。


「花園綾乃さん、危険とは言いましたが俺は全力であなたを、皆を守るつもりです。だから……」


 だから……何だ?

 安心してくださいというのか? 無理だろうな。彼女にそんな信頼感はない。

 言うこと聞いてくださいか? これは俺でも納得できない、却下。

 こういうときはこうすればなんとなく話が終わった感じになる! 手のひらと手のひらを思い切りぶつけて、音を鳴らして。


「……手を取ってくれないか?」


 右手を座り込んでる花園綾乃にさしのべる。俯いたまま動かない。

 こういうとき透かしたやつなら…こういうことをするのだろうか。


「えっ?」

「俺に守らせてくれ綾乃さん」


 花園綾乃の前で膝立ち、手を取って耳元で囁く。同時に彼女の体が一瞬震えた。

 ここまで透かしたセリフは恥ずかしい。お互い顔を見れないのがせめてもの救いだ。

 好感度15くらいでこのセリフは普通だったらキモいじゃすまないけど、彼女は状況に流れやすい。このまま説得成功もあり得る。


「そろそろ落ち着いてきたかな」


 立ち上がると早速手を払われた。そりゃそうだな。


「はぁ……」

「そんなため息出さなくても」

「敬語で話せ、この後輩野郎!」

「うっ!、腹……は殴らないで……くださいよ」


 俺はへたりこんでさらに痛みに悶えるのだった。


 数十分後、某男子生徒が屋上に現れた。

『シンディザイア』に過剰な反応をしていた彼が来ないわけはない。

 まず最初は敵ではないことを証明しなければならない。


「1年5組瀧沢悠斗というものです。超能力について知ってることもあります。決して敵とかではありません! 人畜無害です!」


 服装を整えて誠実さをアピール、ハキハキとしゃべる、最後の所は強調する。

 印象は悪くないと思うが、目付きが相変わらずキツい。滅茶苦茶睨まれてるよ。


「お前の能力は何だ?」


 当たり前の質問だが超能力者としては致命的なもの。けれどここで躊躇したらチャンスがなくなる。


「……粒子を操る能力です」

「粒子を操るか……まぁいいだろう、敵意は感じないからな」

「ふぅ」


 安堵で軽くため息が出た。


「俺はこの学校にいる超能力者を探しています。今日も偶然誰かが能力を発動させましたよね」

「そのときお前が『屋上で待ってます』と言ったな。俺がそのにいることがわかってたかのように……」

「はい、言いました。それは能力を使ったからです」


 決して嘘ではないが俺の能力ではない。タイムリープで前もって付近にいることを知っていたから。


「粒子を操る能力でか?」

「それについても話があるんですよ。まず俺は何人か超能力者と会ったことがあります」

「『シンディザイア』を知ってるならそうだろうな」


 シンディザイアも超能力協会と同じように世間では隠されている。しかし超能力者には有名な集団なのかもしれない。


「私が情報をあなたに与えるのは協力関係を築きたいからです。協会と言ってもお互い無駄に干渉しないってたけです」

「どうだかな。裏切るかもしれないし裏切られるかもしれないぞ?」

「俺は絶対裏切りません」

「絶対なんてあるのか?」


 絶対を証明する方法はあるのか。

 根拠がない以上何を言っても砂上の楼閣、つまり概念的には証明不可能。

 そんなことはわかってるけど引けない。


「はい、結果的にそうなります」

「…………」


 そんな顔をしないでくださいよ。

 何言ってんだ的な表情を浮かべてきた。このときだけはつり目が緩んだのでちょっと肩が軽くなった。


「保証はできませんがその自信だけはあるんですよ」

「話にならないな」

「それならそれで俺が勝手に自己開示してるだけということで」


 前置きはこれくらいで、協力関係云々は目的の半分。もう半分は逆に情報を引き出すこと。

 この某男子生徒は確実に俺以上の情報を持っている。


「正直俺もよくわかってないですが『天城高校虐殺事件』知ってますよね?」

「ああ、最近では一番大きな超能力事件だからな」

「俺はそれに巻き込まれたわけですよ。その中でいくらかの超能力者に会いました。それがシンディザイアかどうかはわかりませんがね」


 敵だと『呪歌』、『バリア』、『酸化』。この件での協力者によるともう1人能力者がいたらしいけど。


「それについては俺も知っていることもある。こちらが知らないことであることを願うよ」

「善処します……」


 天城高校虐殺事件の全貌を知っている人物は俺こと瀧沢悠斗と織田修造のみ。

 敵能力者も外側と内側で派閥が違った故、第三勢力となった俺達のみが多くを知ることとなった。

 某男子生徒がいくらか知っているというのは今のところどこからの情報源かはわからない。その人物達に近い関係があるわけだ。


「最初かは確か―――」

 さてどこまで話そうか。ここからは読み合いだからな。


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