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能力世界の悲劇譚  作者: 桂木/山口
第二章 日常の能力世界〈依頼篇〉
10/54

3.学級委員長の依頼 Ⅱ

 

 とあるイベントが経過して、俺は速水さんのことを知りたくなった。


 彼女がどんな学園生活をおくっているか、どんなときにどんな表情をするのか。

 これだけ聞くと俺が速水さんのことを気になってる=好きって思うかもしれないけどそんなことは断じてない。

 ただの下世話な興味だ。


 まず、次の日は大騒ぎだった。

 3年4組の教室の窓が壊されているという話だ。教室内に窓ガラスが散乱していたので外から石等々が投げられたと判断されたようだ。

 処理を思いきり忘れていた。申し訳ないと思いながら知らない振りをする。

 長田も昨日のことは忘れていた。つまり目撃者がいないということになり、俺が破壊した証拠は完全にない。これが完全犯罪といいやつか。迷宮入りの事件を作ってしまって申し訳ありません。


 今日は9月6日、金曜日。明日は休日だ。

 クラス内の雰囲気は新学期初の土日ということでそれなりに盛り上がっていた。部活に入ってなければ喜ばしいし、部活があるやつから見れば憂鬱だろう。


 今日は速水さんの意味深な態度について考えることにした。俺の席は窓際の最後尾、そして速水さんの席はその隣。

 観察するのは比較的容易。

 1時限目の前に美希に話しかけられていた。いつの間にか俺と速水さんとの席の間に立っていたのだ。


「はよー、瀧沢君元気ぃ? 蓮ちゃんも元気ぃ?」

「俺は元気だけど……」

「私も元気だよ」


 速水さんはあからさまに元気ではなかった。顔色はいいので風邪ではなさそうだが。意図に気付いたのか強調して言う。


「本当に大丈夫だから」


 美希と顔を見合わせる。明らかにおかしいだろの目をする。

 すると目を何度もぱちくりさせて返してきた。目で会話するなんてできないことは最初からわかっていた。


「うんうん、蓮ちゃんの気持ちもわかるよ」

「何の話してるの?」

「叶わない……ってのも青春だよね」

「?」


 速水さんは美希が何を言ってるのかわからないようだった。美希は何か勘違いしている気がする。俺にはそれを確かめるすべはないけど。

 授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 教科書を取り出しながら、速水さんの態度がおかしくなる理由を考えてみると1つの可能性が浮上した。


「もしかして何か見たのか?」

「……そうだね」

「超能力関係か?」

「……うん」

「それは……忘れてくれって言いたいけど無理だよな」


 見られたのは俺と超能力協会の繋がり。楓から始まり中川さん、秋月さん、藤堂さんを始めたとした人物。

 俺は高校1年生、楓は2年、他2人は3年。高校生ばかりだけど訳はある。


「別に俺は協会とは直接関係してないし、協力者にすぎないぞ」


 超能力協会という言葉を口にするのは危険なので伏せて言った。というのは建前で中二病と思われるのは嫌だからやめておいた。


「違うよ……」

「…………」


俺の人間関係に知られてまずいものがあっただろうか。ここまで心配させるようなことがあったか。一応速水さんの能力をこれからは無効化しておくことにした。


 帰りのホームルームが終わると今週まで掃除当番なので1人で物理実験室に向かう。途中の4階の廊下を覗くと3年4組の教室の前で作業服を着ている人と教頭が何やら話していた。

 さわらぬ神に祟りなしだ、連想させるものが目の前にあったら絶対にボロを出してしまう。

 さっさと掃除して帰ろうと思ったが、速水さんの態度の気がかさが気になって手につかなかった。


「……そういえば知られちゃいけないことあったわ」


 超能力協会、その存在自体を知られてはならないけど、それは仕方ないとして俺がこの明星高校に転校しなければならなくなったかの理由も致命的だ。

 明日にでも話をしておこう。正直言えばかなり辛い。そしてそれを伝えることも誰かに辛い想いをさせることになる。

 だから速水さん次第で決めることにした。これも決断を押し付けたのかと問われれば何も言えない。


「そういえば明日は休日か…」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 翌日は土曜日だった。新学期が始まって初めての休日。転校すぐの楓との熱愛報道のおかげでゆっくりすることができなかった。

 切実に担任の先生から両親に電話とかがいってなくて本当に良かった。


「さてと速水さんを呼び出しますか」


 速水さんに呼び出しのメールを送った。それは今日から見て昨日にあたる。


 集合場所は明星高校校門前。私服で学校前まで行くのは躊躇われるが速水さんが何処に住んでるかわからないので仕方なかった。

 もうすぐ約束の10時というくらいに速水さんは小走りでやって来た。


「待たせちゃったかな?」

「(ここで何を言うべきか)」

 ここで何を言うべきかという疑問。

『俺も今来たところ』というのが普通だがなんか癪だからやめておく。『10分前』とか言うのはわざとらしすぎてダサい気がする。だからあえてどちらとも違う答えを出す。


「別に待ってなかったし~。たまたまここで休んでただけなんだからね。勘違いしないでよねっ」


 速水さんの軽蔑の眼差しと、馬鹿らしさに耐えられなかった。主に前者が強力だった。黒歴史というのはこういう風にできるのです。


「って言われるのは俺だよな。はい、俺も今来たところです」

「どうもこんにちは」

「はい、こんにちはです」

「なんで敬語?」

「いや深い意味は」


 また決断だ。

 速水さんの私服は嘘偽りなく綺麗で可愛い。しかしとりあえず褒めるってのは社交辞令すぎてナンセンスだ。

 しかし無視というのは女性に失礼という意見もある。なればやることは1つ。


「その服すげー似合ってる。例えるなら砂漠に人知れず眠っているオアシスのようだ!」

「……空回りしてるよ」

「……本当に冗談です。本当に可愛いよ」

「ありがとう」


 速水さんはちょっと頬を赤くして微笑んだ。最初からこれを言えば良かった。次からは気を付けよう。


「さて今日呼び出したのは言いたいことがあったからです」

「その前に移動しない?」

「そうだな。でも荒山市にカフェなんてあったっけ」

「うーん、とりあえず歩こっか」


 俺達は駅の方向へ歩いていった。最近女の子と一緒に行動し過ぎな気がしてならない。きっかけは超能力だったとしてもことごとく可愛い女の子というのは悪意すら感じる。いや、


「そこファミレスはどうだ?」

「これくらいしかないか~」


 某ファミリーレストランで話をすることにした。

 店内の隅、窓際の席に向かい合って座る。どうやら他に客はいないようだ。

 確かに朝には遅いし、昼には早い時間ではある。渡されたメニューから軽めな品を中心に見ていく。


「せっかくならパフェにしようかな」

「私もそうする」


 まだまだ夏が終わる気配がない。体育祭とかは大丈夫なのだろうかと尋ねてみた。


「体育祭6月にやったからないよ」

「マジか俺の高1は体育祭なしか…ラッキーだけど」

「………文化祭が10月の初めにあるからそれについてもそろそろ決めないとだし」

「文化祭か~、楽したいな~」

「サボってたらパンチだからね」

「全体的に労力が少なければいいんだけどな」


 文化祭の役割分担、分担できてない説を問いたい。俺の場合任された仕事はやるけれど誰かの尻拭いは御免だ。

 けれど放っておくわけにもいかない、結局俺はやってしまう。それなら最初から無いほうがいいってだけ。

 そんなこんなで注文したフルーツパフェが届いた。


「男がパフェってどう思う?」

「意外だと思ったよ」

「生粋の甘党だからな俺」


 生粋とか言ったが実際はそんなでもない。辛いものも好きなときもあれば甘いものが好きなときもある。

 こんな風に雑談をしているが、それはなかなか本題に入れないからだ。雰囲気も相まって切り出せない。


「おいしい」

「イチゴか……一口くれない?」

「はい、どうぞ」


 パフェグラスごとさしだした。なんかこういうイベントあるわと思いながら。


「どうも……確かにうまい。俺のもどうぞ」

「じゃあ一口だけ……おいしい」


 一瞬、躊躇ためらっていたが俺の顔をみると平常を装ってスプーンをパフェに突き刺した。

 その時!


「えっ!?」

「どうしたの瀧沢君……!」


 ガラス窓の外には制服姿の楓がいた。俺の視線に気付くと視線を逸らして通り過ぎていった。

 普通の表情すぎて怖い。いったいどこから見ていたのか。

 俺の動揺を察してか楓に説明しに行くべきだと言ってくれたが、今はできないのだ。


「誤解されたまま本当にいいの?」

「……一応言うけど付き合ってるわけじゃないから」

「でも手を繋いでって噂が」

「手を繋ぐ=付き合ってるってのはさすがに安直すぎる。小学生じゃあるまいし」


 いい感じで言い訳のセリフが出てきた。決して嘘を言っているわけではない。両思いであっても付き合ってはない。

 いや、無理あるかな?


「ふーんそうなんだ」

「疑ってるのか?」


 あからさまな疑いの眼差し。不機嫌そうな表情とジト目。

 楓と比べると表情がわかりやすい。そういえば楓の落ち込んだ表情とか見たことがない。笑顔も微笑み程度しか知らない。

 楓もこんな感じの表情をすればもっと可愛いのに。気付かないうちに重ね合わせて速水さんを見つめていた。


「な、な、何!」


 目を逸らされた。そして顔が赤くなっている。けど俺のほうはまったくもって何も思わなかった。


「ごめん」


 謝罪の言葉を口にした。気を抜くとすぐこれだよ、女子の扱いに慣れてなさすぎだ。


「閑話休題だ。昨日のことだ、もしかして俺の前の学校の知り合いの関係を見たのか?」

「…………」


 一気に核心を突く。速水さんは静かにうなずいた。

 速水さんが見た関係性はこんな感じだろう。

 天城高校1年某組の生徒が『死』という括りでまとめられていると言ったところだ。2人例外はいるけれど。


「確かに俺は天城高校の生徒だった」


 1ヶ月たった今でもニュースで流れている。犯人がでっち上げられたとは言え、不審な点が多くまだ完全な解決に至っていない。


「別にそれだけだ。気にしないでってのは無理だろうけど」

「もしかして私顔に出てた?」

「自分で気付いてなかったのね……」

「心配かけてごめんね」

「いやいや。せっかくだし雑談しようか」

「雑談って?」

「それは色々だよ色々」


気分転換として他愛のない話し始めたのだが。


「せっかくだし名前で呼んでよ」


 そんなこんなでこんなノリになってしまった。何があったんだと俺も訊きたいくらい何があったかわからない!

 ここでありがちなセリフを言うのはどうだろうか。『速水さんってよんでるじゃん』とか。

 しかし『ち、違う! 蓮華って……呼んで?』とか言わせるのは男としてどうだろう。前にもこんなことを考えた気がする。


 いや、待て。

 名前を呼ぶこと自体はやぶさかではないが、倫理的にどうなんだろう。主に周りの目が1番の問題だ。


「そんなのまあいっか。じゃあ蓮華れんかと呼ばせてもらうよ」

「はい……」

「ただ名前を呼ぶだけだからそんな恥ずかしがるなって」

「だって仕方ないじゃん」

「じゃあ2人きりのときだけで」


妥協案①2人きりのだけ=ミスって学校とかで呼んでしまうフラグ。マジで気を付けます。


「わ、わかった」

「……んっ?」


 ふと視線を感じ周りを見渡す。客は数人いるがスマホを見たり話し込んだりしている。外を見ても車が通過している以外感想は出ない。


「(気のせいか……まさか楓じゃないよな。いや自意識過剰かね)」


 俺達はこのあと数十分雑談をした後、解散した。

 内容は文化祭のことだったり、勉強のことだった。なかなかに面白い話も聞けたので収穫としては上々。

 にしても秘密の共有というのは少し心配だ。何かの拍子にってことも十分考えられる。こんな世界だから何が起きてもおかしくない。


 次の日の日曜日は疲れが溜まっていたのでとにかく休んだ。

 授業中に居眠りしないようにしているから家で休むのだが、色々あって眠れない夜が続いたのだ。

 軽く疲れが取れたところで月曜日を迎える。

 9月9日、朝早く登校するとやはり速水さんがいた。行儀よく椅子に座って勉強していた。俺に気付くと首をひねっておはようと挨拶をしてきた。


「おはよう蓮華」


 蓮華の隣の席に荷物を引っかけ窓から空を眺める。既にクーラーが付いていて汗ばんだ体が震えるくらい冷えてくる。腹痛にならないようにお腹に手をあてた。

 特に話すこともないので机に伏せて寝る。蓮華は引き続き勉強をしていた。ストイックとはこういうのを言うのだろうか。


「もしかしたらの話だけど平野晴子ひらのはるこは超能力者かもしれない」

「さらっと凄いこと言わないでくれよ」


 平野晴子というのはこのクラスの女子というのはすぐわかるとして詳しい情報は蓮華から訊く。


「その平野さんはどんな感じのやつなんだ? 見た目とかクラスでの立ち位置とか」


思春期特有の精神状態により超能力が開花することもある。日常のことも知っておきたい。


「髪はボブカットで、身長とかは私と同じくらいかな。あと色々切れ者だよ」


 蓮華の身長は楓より少し小さいので162cmくらいだと思う。切れ者とかいう興味深い言葉も出たけど。


「私と美希と晴子はよく一緒にいるかな」

「そういえば放課後見たな……」


 放課後話したときに最後のほうまで残っていた生徒の1人。なんとなく睨まれた記憶がある。


「性格は……優しいし、正しいかな」

「正しい?」


 正しさという言葉自体は良い意味だがどうしても不吉な印象を俺は受ける。物語とかではよくある絶対的正しさの先にあるのは何かという話。


「人間関係とかのアドバイスが正しいの」

「じゃあそれが能力なのかもな」

「そうでもおかしくないとは思うよ」

「話訊いてみるかあ」


 早速、平野晴子が登校してすぐに3人でお話をした。流石に唐突で面食らっているので自己紹介をする。


「俺の名前は瀧沢悠斗たきざわはると悠斗ゆうとと書いて悠斗はるとな」


 蓮華のときと同じ自己紹介をしてみた。なんというかさっきから怪訝な表情を浮かべている。


「私は平野晴子です」


 声は可愛らしかったけど目力が強い。敵意は感じないけど疑いの目線というか、観察しているように見える。


「蓮――……という名前の人が変身する仮面ライダーがいたな~。そうだ速水さん」


 速水さんの名前を人前で呼びそうになったが奇跡的に言い訳が浮かんだ。いや言い訳めっちゃ苦しいな。めっちゃ苦しいな!


「別に名前で呼んでもいいよ」

「それはいくない……というのは置いといて訊きたいがあるんだよ平野さん」

「…………」


 俺達の微妙に進展してしまった関係を目の前にしたらこの顔もわかる。生ゴミを見るような目だ。

 フォローしとかないと何されるかわからない。


「違うんだよ人を名前で呼ぶことにそんな深い意味はない。仲間だからだよ!」

「神代先輩と付き合ってるのに……蓮華に……」


 最後のほうは小さな声で聞き取れなかったがなんかわかった。最近のやつらは噂を簡単に信じ過ぎだ。


「俺は楓と付き合ってるわけじゃない」

「……楓」

「な、仲間だから名前で呼んでるだけだからな!」

「同じ高校の年上……」

「幼なじみみたいなもんだよ。むしろ従姉みたいなノリだ!」


 平野さんは大きなため息をした。


「今回は納得してあげる。で、訊きたいことって?」

「平野さんってもしかしてエスパー?」


 ストレートに訊いてみる。平野さんは目を丸くした。いきなりそんなことを訊かれたらそりゃこうなる。

 けれど超能力事件を知らないなら自分でも半信半疑のはず。

 そして答えた。


「――信じてもらえるかわからないけど、というか絶対信じないとは思うけどオーラは見える」


 これは確実に超能力者発言だ。

 蓮華はやっぱりという驚きの表情を浮かべた。オーラを見るだけの能力なら超能力協会に送り届ける必要はなさそうだ。


「ちなみに俺とか蓮華はどう見えてる?」

「蓮華はオレンジ色に輝いてる」

「確かにオレンジっぽいな」

「それはどういう意味?」

「情熱に燃えてる感じがするから。文化祭とか張り切っちゃうでしょ」

「別にそんじゃないし」


 蓮華はそっぽを向いてしまった。別に他意はなかったんが気に障ることを言ってしまったらしい。

 話を戻そう。


「で、俺は?」

「何も見えない、無色透明かな?」

「なるほどだいたいわかった」

「?」


 本来はわからないが今は俺の能力の1つで平野さんのオーラ可視を無効にしているから何も見えない状態になっている。多分解除したら何色とかが見えるようになるだろう。

 が、蓮華の件もあって軽率に能力を受けないようにしているので知るよしもない。


「最後にこのクラスに他に輝いてる生徒はいるか?」


 言い分から輝きこそが超能力の象徴だとなんとなく理解できた。

 平野さんは集まってきたクラスメイトを見渡す。そして1人の人物を捉えた。そしてある人物指差す。


「あそこにいる黒岳詠一くろだけえいいち君は青紫に輝いてるよ」

「……マジかよ」


 これは本格的に夏休みに秋月さんが言ってたことが証明されたんじゃないか疑惑が浮上してきた。

『君が超能力者を引き寄せてるように見える』

 もはや証明したと言ってもいいくらいだ。なんでこんなにたくさん超能力者がいるんだよ。


「一応長田君も輝いてる」

「……それは置いといて。平野さん俺も超能力者なんだ。簡単に人に言ったりするなよ」

「……蓮華、この人中二病なの?」

「えっ? どうだろう……」

「そこは否定してくれないと……つまりは信じるも信じないもそういう話を聞いて近寄るやつがいるってこった」


 蓮華は長田の件で骨身に染みてるだろうが、話だけ聞いて納得できることではない。


「とにかく誰にも言うなよ。言うときは俺に通してくれ、審査する」

「?」


 やはり納得できないようだ。

 でも誰にも言うなってことは念を押して伝えたのでそれはわかってくれただろう。

 わからないことがあったら蓮華に訊けと伝えたところで担任先生のゆったりホームルームが始まった。

 ふと、あと1つ言っておかなければならないことがあったことに気づく。


 放課後ホームルームが終わると直ぐに平野さんを呼び出し手短に伝えた。いい忘れていた。


「自分から能力者を探すようなことはするなよ」

「それは何故?」

「そりゃ厄介なことに巻き込まれるから……詳しくは速水さんへ……」


 このままいると全て話すまで質問攻めにされそうな雰囲気である。押しに弱い俺は口が軽かったりする。


 今日も1人で帰る。すると校門に寄りかかっていた眼鏡女子に唐突に声をかけられた。


「どうもこんにちは瀧沢君」


 どうやら俺のことを知っているらしいが、俺は知らない。だが、知らないけど仲良さげに話してくる人もいるだろう。

 それにあんな噂が流れたんだから名前くらいは校内に響き回っていてもおかしくない。


「あぁ、久し振り。今は実は地味に忙しいんだけど?」


 あなたは誰ですかと訊きそうになったが、面倒に巻き込まれる気がしてならないから止めておいた。


「はい、新聞部の万丈流ばんじょうながれです。同じく1年です」

「『はい』ではない。そしてこの学校新聞部なんてあったんだな。じゃ」


 俺は万丈流の横をすり抜け帰路につこうとした。けれど袖ではなく襟を掴まれた。


「いてっ! 急になんだよ!」

「話くらい聞いてよ!」


 そう言ってカバンからカメラを出し始めた。

 俺は写真が撮られるのはすこぶる嫌いだ。というか人に見られること自体が嫌い。


「噂の深層を知りたいんですよ私。神代先輩と付き合ってるというのは真実なんでしょうか!?」

「断る」

「答えになってないけど」

「とにかく断る!」

「そこをなんとか」

「客よせピエロなんてやってたまるか!」

「そんな……」

「当たり前だ。お前も秘密を探られたりするのは不快だろ? つまりそういうことだ」


 感情論を言えば大抵の人は引き下がってくれる……本当は吝かではないんだけどね。

 今度こそ万丈流の横をすり抜け帰途についた。

 噂について実際にアクションを起こしてきたのは意外と彼女が初めてだった。遠くで見られるほうがまだマシだったけど。

 もしかしたら、もしかしなくても楓のほうにも同じことが起こってるかもしれない。

 もう1週間たったというのに。若者の旬は2日くらいで終わるのだと思ってたのに。

 今日にでも楓に訊いておこう、できることがあるかもしれない。特に万丈流は楓にも突撃取材に行く可能性がある。

 まあ、でもさっきは言い過ぎたかもしれない、少しくらいは話を聞いてやろう。


 次の日も早く家を出て蓮華に新聞部について訊いてみた。


「新聞部? そんな部あるの?」

「昨日新聞部を名乗るやつに声をかけられたんだ」

「……なんだろうね……誰がとか覚えてる?」

「確か……万丈流ばんじょうながれだっけ」

「1年3組にそんな名前の人がいたはず」

「ほう、他クラスの人もわかるのか」


 それは流石、速水蓮華という他なかった。

 楓にカメラを持って噂の~らとか言わなければ俺も関わる必要もないのだが。

 メールで楓に『新聞部が来たら連絡くれ』と伝える。しばらくすると『わかった』と返信が来た。

 そういえば夏休みに朝5時に電話したときおもいっきり寝ボケていたな。あの時は天城高校が襲撃されるなんて思わなかった。ため息が漏れる。


 放課後、今日も1人で下校しようとしたら、また校門に寄りかかっている女子高生を見かけた。あいかわらずの眼鏡女郎だ。

 平均的身長で、髪は半端に短く、全体的に影が薄いという印象を受ける。


「待ってましたよ瀧沢君」

「訊きたいんだけど新聞部っていうのは嘘か?」

「本当だよ! 一昨日できたばかりだよ!」

「タイミング悪いと思ったわ! この噂のために急遽作ったのかよ!」


 情報の劣化は1週間もかからない。俺と楓の噂はもう古いものとなった。だからって蒸し返すようなのは迷惑だ。


「今日は別に新聞部のことじゃないの」

「じゃあ何だよ……」


 ついつい強く当たってしまう。厄介なことじゃないだろうな。


「好奇心からの質問だから答えなくてもいいけど……本当に神代先輩と付き合ってんの?」

「ところでさ俺はさ2学期から転校してきた訳だけど、神代先輩は何をしてきたらこんな有名人になるんだ?」


 楓は確かに世界一可愛くて、世界一綺麗だけど……噂の広がりがかたが尋常じゃなかった。主に楓方面で。

 神代嬢とか誰か呼んでたし、有名になる何かがあったのか。


「『告連こくれん事件』と『残虐ざんぎゃく事件』かな」


 上手く話題をすり替えることができた。情報も引き出せる、まさに一石二鳥。


「何その不吉な事件名」


 校門の前ではなんだから帰りながらに話を聞く。

 この日も夏の暑さが皮膚を焼いた。まだ10日だから仕方ない。


「『告連事件』っていうのはただただ連続で告白され過ぎてって話」

「参考までにどれくらいのスピードで?」

「それが1日7回告白されるように計算してたんだよね」

「計算してた?」

「呼び出しのタイミングを休み時間毎に設定して連続で振る。それを2週間に収めるっていう武勇伝」


 衝動的告白の気持ちはわかる。俺の場合は色々考えた結果にしどろもどろの告白だったけど。

 しかし、勝算もフラグもない状態での告白はナンセンス過ぎる。攻略のなんたるかを知らないやつばかり。


「『残虐事件』は教師にまで名を轟かすほどだし!」

「残虐ってネーミングセンスどうなんだ?」


これこそ告白を蹴りそうな名前だけど決して姫ではない。


「神代先輩が不良生徒に告白と言う名の強姦されそうになって……」


 こっからはだいたい予想がつく。なんたって楓は強いから。いつもスタンガンを所持しているから。


「倒したのか」

「そう倒したんだよ!」

「はい」


 赤信号になったので横断歩道で止まる。

 楓の印象は前とほとんど変わらなかった。たいていのことは自分だけで何とかしてしまうからな。

 特に何も思わなかったけど暇潰しくらいにはなった。


「じゃあ俺こっちだから。さよなら」

「じゃあね………じゃなかった!結局真偽は?」

「答えはNOだ」


 振り向きざまにそう言った。

 別に答えなくてもよかったと思う。こんな情報実にも種にもならない。


「それは良かった! わたし君のことが好きなんだ!」

「あ――痛っ!?」


 不意討ちにより足を踏み外して転んでしまった。

 いったいどういうことだ。

 とりあえず整理すると万丈流は俺のことが好き、だから俺に付きまとってきた。そして付き合ってないと知って告白してきたというわけか。

 釈然としないな。そもそも俺は万丈流と接点がなかったはず、なのに何故好かれる? やはり顔か? 顔なのか? 中の上の顔なのか?

 変なフラグになりそうなので今すぐ蹴る。

 振り返って早足で万丈流の前に戻る。


「残念ながら無理だな」


 そう告げてまた振り返って早足になる。

 目を点にしていたけど「わかんないな~」と小さな声で言っていた。それはこっちのセリフだ。


 彼女が何をしたかったのかいまいちわからなかった。

 次の日昼休みに俺の教室に来て。


「昨日の告白嘘だから」


 と言ってきたときは流石にカチンときた。

 その後「君は宇宙人だね」と言われたときはもはや怒りという感情を通り越していた。


「お前には何が見えてるんだよ」


 呆れてこう言うしかなかった。

 やっぱり1日で女の子と気兼ねなく話すのってアレだよな、業が深い。やたらめったら仲良くなるのは好きじゃない。やっぱり顔なのか。


 書面で書き記しておく。

『今までに出会った能力者』と一番上にサッと書く。

 橘秀太→重力

 秋月友紀→?

 中川瑠璃→記憶消去

 神代楓→上位サイコメトリー

 藤堂さん→データベース

 路地裏の男→植物

 織田修造→硬質化

 天城高校転校生(女)→呪歌

 天城高校校門の2人組→酸化and光のバリア

 吉元颯太→合成生物体

 速水蓮華→関係可視

 長田明→気絶

 平野晴子→オーラ可視

 俺→粒子細胞操作、意思による能力無効


 出会った能力者が多くなりすぎて覚えきれない。いつの間にか、だ。

 これを書いた紙を手のひらサイズまで折り畳んで自室にかけられている時計の裏にテープでくっ付けておく。

 スマホとかだとハッキングされる恐れがあるため書面かつ、隠密おんみつに管理しなければならない。


「そういや最近能力使ってないな……ああ、蓮華に見せたとき依頼か」


 夜10時くらいに外角公園のグラウンドでどれくらい能力を制御できるか確かめてみた。

 結果としては吉元の合成生物体と闘ったときと変わっていなかった。熟練が重要なのか……いや、最も重要なのはイメージだっけ。


「それも違うか『思い込み』だったな」


 相変わらず熱帯夜だった。


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