不思議なサイト
昨日、2年間くらい付き合っていた彼氏に振られた。
何が悪かったのか分からない程度には、彼に尽くしてきたつもりだった。
それでも振られる時は振られるのだ。
確かに理由はいくつか思い当たる。
その中でも今年から大学へ進学して、お互いすれ違いが増えたのは、大きな理由の一つだろう。
しかし別にそれが自分のせいだとも思わないし、彼のせいだとも思わない。
それでも今の私には絶望しかない。
外に出るのすら辛い。
次の日の朝が来ても部屋から出る気にはなれなかった。
こんなに失恋が辛いものだとは知らなかった。
彼とはそれだけ本気で恋をしていたんだと思う。
母親や、父親の呼ぶ声が聞こえるが、ドアの鍵をかけ聞こえないフリをする。
これまでこんなにひとりが楽だと感じた事は無かった。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
秋だった頃に紅葉していた木々が枝ばかりになる程度には、日にちが過ぎていた。
それでも私はまだ、部屋から出られずにいた。
部屋を出るのはトイレやお風呂に行く時、後はコンビニへ食べ物を買いに行く時くらいだ。
私はショックでも意外と、食べ物が喉を通る体質だということを知った。
中毒だったスマホは、もう触っていない。
最初の頃は触っていたが、友人からのラインなんかを見ると心が痛くなり、見るのをやめた。
冬も深まってきて貯金が底をつきかけたので、なにかネットで稼ぐ方法はないかと、馬鹿なことを考えながらパソコンを開く。
今では大学の入学祝いに買ってもらったパソコンが、一番の友達かもしれない。
色んなサイトをめぐり、お小遣い稼ぎの方法を探していると、たまたま見たサイトで不思議なバナーを見かける。
「あなたの好きな人映します....?」
そのサイトはどうやら、見ている者の好きな人の今の映像を映し出すという物らしかった。
絶対にありえないとは思いつつも、少しだけの期待や興味、不安や恐怖なんかがごちゃ混ぜになる。
こういう時人間は好奇心に勝てないものだ。
私は、そのバナーをクリックした。
画面がブラックアウトしたかと思うと、そこには大学の講義を受けている元彼の姿が映し出された。
一番の悪い予感が当たった。
表示されなくても良いのに表示され、しかもそれが元彼であるという最悪のパターンだ。
パニックになりつつも、パソコンを壊したい衝動をなんとか抑える。
目を閉じて自分自身に、落ち着けと言い聞かせる。
目を開いて画面に目を戻すと驚くべき事に、そこに映し出されていたのはもう元彼ではなかった。
スーパーで買い物をしている母親だ。
私の好きなハンバーグの材料を手に取りながら、浮かない顔をしている姿に、胸が痛くなる。
しかし気づくとまた画面は切り替わっており、そこには3人の友達がファミレスでだべっている姿が映し出された。
会話の内容は分からないが、あそこはうちの近くのファミレスだ。
みんなが立ち上がり車に乗り込む。
カメラも何故か一緒に車に乗り込み、車の向かう先を映し出している。
暫くは車の外の風景が映し出されているだけだったが、ふと気付く。
あれ?これ私の家に向かってるぞ。
そのことに気付くと、一気に冷や汗が出る。
どうしよう、あわせる顔なんてないよ。
そんな事を考えていると、突然パソコンから音声が聞こえてくる。
「もうすぐで着くね。」
「いきなり行って迷惑じゃないかな。」
「ってか多分追い返されるだろうねー。」
「確かに(笑)」
「でも、また一緒に遊びたいなー。」
「うん...。」
そんな会話が続く。
みんな、まだ私の事忘れて無かったんだ。
なんでこんなにいい友達が居るのに私引きこもってたんだろう。
親やみんなに迷惑かけてまで...。
いてもたっても居られなくなった私はとっさに部屋を飛び出す。
久しぶりに急に動くものだから、よろけながらもなんとか家の扉を開ける。
久しぶりの外の空気を思いっきり吸う。
めまいがしそうな程気持ちいい空気だ。
そこへ丁度友達の車が来る。
皆が驚きの顔でこちらを見ている。
車を飛び出してきた友達とひとしきり騒いだ。
多分私の顔は今までにないくらい皺くちゃだったと思う。
泣きながら友達に謝り、共に再会を喜んだ。
そこに買い物を終えた母親も帰ってきて、また一通り騒いだ。
晩御飯は母親が友達を誘ったので、とても賑やかなものになった。
晩御飯を皆で食べながら思う。
今まで引きこもって心配かけたのに、こうやってまた笑顔で迎えてくれる皆が居るなんて、私は幸せだ。
元彼の事を忘れるのは、まだちょっと時間がかかりそうだし、引きこもっていたせいで、これからは前より少し辛く感じるだろうけど...。
「まあ、何とかなるか。」
と呟く私に、
「ん、何とかなるかよ。
皆一緒だからね。」
なんて友達が返してくれる。
お互い微笑みながらも、ふとあのサイトの事を思い出す。
あの後パソコンを見てもあんなサイトは無かったし、履歴にも残っていなかった。
友達に聞いても、カメラを持った人が一緒に車に乗ってなんていなかった、って言ってるし...。
ま、いっか。
とりあえず明日からまた頑張ろう。
不思議なサイトについてはまた、別の話を書こうかと思ってるので、お楽しみに....