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俺の守護獣  作者: 朝樹
2/4

2.「ここ」は危険




 土曜の夜は何事ともなかった。

 今までの騒ぎが嘘のように。


「まぁそんなもんさ。幽霊ってのは人見知りなんだ。初めての人間には警戒する」


 そう、缶ビールを片手にどうでもいい話をしながら、その夜は更けていった。





 日曜日。

 わざわざ俺は目覚ましをセットして戦隊モノの時間には先輩と二人でテレビから少し離れた場所で待機していた。




 やはり7時半きっちりにテレビがついた。




 覚えてしまったオープニングが流れ出す。


 もちろん誰もリモコンにも触っていない。


「毎週これなんですよ」

 俺がそう言うと、先輩はテレビの前、クッションの置いてあるあたりをじっと見ている。


「子供がいる。3歳か4歳か――― この子が犯人かな?」

「こ、子供ですか?」


 そう言われれば確かに子供のやりそうないたずらばかりだった。

 だからヤマトは警告しなかった?

 脅威ではないから?

 俺は若干ホッとした―――のに。



「でも、ヤバいのはこいつじゃない」


 先輩はそう言った後黙り込んで何か考えているようだ。

 視線が何処を見ているのか分からない―――― 犯人?を探してるのか?探せるのか?


「このアパートに子どもはいるのか?」

「ああ、下の階にいますよ。男の子です」

「年は?」

「さぁ…… 3歳位?ですかね?」

「会えるか?」

「や、面識もないしいきなり行ったら不審者ですよ」


「この真下の部屋って言ったな」

「そうですけど…」

「よし。洗濯物をベランダに落とせ」

「ええ?そこまでするんですか!?」


 このアパートにはちいさなベランダ?がついている。

 確かに洗濯モノなんかは干しているけど――


「ヤバいのはテレビを見てる子じゃないんだよ。でもこのアパート内だ。変なモノが集まっている――?」

「集まってって――」

「文字通りだ。勝手に集まってるのか集めているのかは知らん。ただ、ここには俗にユーレイと呼ばれている物の数も多い。普通じゃない」

「ゆ、幽霊も多いんですか?」

「まぁ大した力のあるものじゃない。そもそも結構いるんだぞ。お前はそのイタチのおかげでヤバい奴に寄られずに済んでるが」


 そう言いながらも先輩は俺のタオルを掴むと、下の階のベランダ部分に投げ入れた。


「先輩----!!」

「よしっ、とり行くぞ!」


 俺は強制的に一階の103号室に連れて行かれた。

 いや、無茶苦茶じゃねーか。


 呼び鈴を押すと、中から「はーい」と言う女性の声が聞こえた。

 確か家族で住んでるんだよな。 


「あ、あのすみません、俺、二階に住んでる神崎と言う者ですが、洗濯物がこの部屋のベランダに落ちちゃって---」

 慌てて言い訳をする。

 先輩が話すんじゃなかったのか?


「ああ、真上の方ですね。ちょっと待ってて下さいね」


 奥さんと思われる人は優しい笑顔でベランダに出てタオルを拾ってくれる。



 その間に部屋の中を見渡す。

 このアパートは玄関が直接LDKにつながっていて、結構生活が見えるんだ。


 LDKには3歳くらいの男の子と父親お思われる人が例の戦隊シリーズを一緒に見ている。

 軽く会釈をする。


 ほほえましい光景だ。

 もちろんヤマトも反応しない。


 ふと、テレビがCMに入ったのか、男の子が俺を見た。

 -----いや、俺の肩にいるヤマトを見た。


 たたたっと駆け寄って来て、俺の目の前に立つ。

 え、えーと…

 どうすりゃいいんだ。


「お兄ちゃんそのネズミ何?珍しいね!」


 にこやかに、はっきりと聞こえる声で言った。

 その後ろには俺のタオルを持ってきてくれた奥さん。


「こら、大地。変なこと言わないの。---すみませんこれですね」

「あ、そうです。俺の方こそ申し訳ありません」

 

 そう言って俺がタオルを受け取った時、後ろにいた先輩が奥さんに聞いた。


「何だか、お線香の匂いが強いですね。-----最近誰かお亡くなりに?」

 げっ 先輩そんなこと初対面で聞くか普通!!


「いいえ、最近ではないんですけどね。そんなに匂いますか?」

「ああ、外から入るとあれって思う位ですよ!」


 俺が一生懸命フォローするのに、後ろの失礼男はさらに続けた。


「最近ではないのにこれだけご供養されているのは、大切な方だったんでしょうね」

「す、すみませんこんなこと----」

「いえ、いいんです。もしかしてお二階の方にも匂っていたんでしょうか?ご迷惑をおかけしてすみません---」

「いえいえいえ、大丈夫ですよ。俺、ぜんっぜん気にしませんし!」

「------この子の、兄になるはずの子だったんです。本当にごめんなさいね?」

「いえ。大丈夫です!! って、え?兄になる、はず?」

「死産だったので--- もう5年も前の話です。なのに私はまだ---」

 

 俺は何も言えなかった。

 死産って--- 

 そんな経験をした人に、こんな若造が何を言えるってんだ。



「それはお辛かったですね。心よりお悔やみを申し上げます。---ここまで話を聞かせてもらってこのまま帰るのもなんですから、お参りさせてもらっても良いでしょうか」



 おおおお! さすがだ。さすが人生の先輩!!



「良いんですか?----死産の話しはあまり友人たちには話していないのであの子も喜びます」



 そう言って、俺と先輩を奥の洋室の方へ案内してくれた。

 そこは絨毯が敷いてあって、いかにも子供が遊びやすそうな空間だった。

 夜は押入れから布団を出すのだろうか。

 確かにベットを二つ置いたら、それだけで何も置けなくなるもんな。


 そのベランダの脇、押入れと反対方向の角に仏壇は設えてあった。


 位牌もきちんとある。死産でも位牌ってあるんだ。

 写真も飾ってある。

 きっと死後の写真なんだろうけど、ちょっと化粧をしているのかな?


「弟さんと、と言うかお父さんに似ていますね」


 先輩は、旦那さんにも礼をしてから、仏壇に蝋燭と線香を点けて手を合わせる。

 俺はあわてて先輩に習って手を合わせた。

 




「ありがとうございます---」

 奥さんが涙ぐんでいる。

 5年たったって言ったよな。

 

 この人にとっては、5年なんて短い時間だったんだろう。


「ホクトにーちゃんも僕と良くあそんでくれるんだよ!」


 弟君。…確か大地って呼ばれてたよな。

 大地君がそう言う。


「北斗にーちゃんって、この---」

 と仏壇を見る。


「この子が、見えるなんて言うんです。すみません気にしないでください」

 

 いや、ヤマトが見えるなら兄ちゃんだって見えるだろう。



「急に来て、なんだか申し訳りませんでした。またあらためて、こいつが引っ越しのあいさつに来ると思います。では失礼します。-----帰るぞ」


「はいっ 本当にすみませんでした。大地君またね」


「うん!ネズミのお兄ちゃんもまたねー」


 俺はミッ○ーマウスか!










「まぁ、テレビの犯人は確定したな」

「何で部屋でもテレビついてるのにわざわざ俺の部屋に来るんでしょう?」

 貴重な俺の休日に!


「----こればっかりは分からないけどな。父親と一緒の弟が羨ましいとか、いろいろあるかもしれん。

 しかし問題はそこじゃない。テレビの犯人は----あの北斗と言う子はあれだけ供養してもらっているのに何故まだここにいる? テレビ以外の犯人も北斗なのか? そして最大の問題だ。このアパートに、お前を呼んだ、ヤバいモノ(・・)は、何なんだ」



「-----あの子が、俺を呼んだんじゃ、ない?」

「違う。気配は綺麗なものだった。人を引き寄せたり、ましてや祟ったりするモノではない」

「じゃぁまだ他に…?」


「そう言うことになるな。-----いちから探さないといけないのか」


 先輩は少々うんざりしたように言う。

 俺は少々申し訳なくなった。



「先輩、今日はもういいですよ。実質俺に害は無い訳だし、気長に探しますよ」



「いいのか?大事なコンバットマグナム?が被害に遭うかもしれないぞ?」

「コルトパイソンです!! まぁ、そうなったらしばらく泣き暮らすかもしれませんが」

「泣き暮らす前にここを出るって選択肢は?」

「今のところありません」



 先輩はまたため息をついた。



「今から一緒に不動産屋をまわってやるって言ってもか?」

 うう、確かに先輩の車で連れて行ってもらうと言うのは捨てがたい。


「でも--- 三か月以上もここにいて、大した被害は無いですし---」


「これだけ俺がヤバいって言ってもか」



 先輩の目はマジだった。



「お前のイタチはこの部屋にいて、このアパートに来て、一度も何も言わないのか」


「え… あ、何度かありますけど、この部屋にいる時じゃ--- そう だ。いつもヤマトが警戒するのは103じゃない---101に住んでいる会社員の人に会うと---」


「そいつか!」


「や、ちょっと待って先輩。木下さんはいい人ですよ!人当たりのいい温厚な感じの」

「そんなのは分かるもんか、お前が標的ならいくらでもいい顔はするーーーーー!!」


 

 その話の途中、食器棚の皿が何枚か、地震でもないのに落ちて割れた。

 ちなみに食器棚と言っても小さい物だが、一応ガラスの扉がついている。

 その扉は閉まっていたのだ。



「------こんな事、今までなかった----」

「イタチは?!」

「何も」



 ちっ、と先輩は舌打ちをして煙草を取り出した。

 うちは禁煙なんですけど。


「分からん。このタイミングでこの現象。------警告か、脅しか、…こっちの反応を見ているのか」


 現象が、激しくなっていく。

 今まで起きなかった事が起きる----


 俺は急に背筋に冷たいモノが走った。






「----先輩。不動産屋、連れて行ってくれますか?」

「その方が良いだろうな」


 

 ああ、せっかく決まったアパートが。

 三ヶ月間ためてきた給料が。


 敷金とか礼金とか足りないだろうなぁ。

 親父、出してくれるだろうか。


 そう思いながら部屋を出ようとした瞬間、後ろで大きな、物が倒れる様な音。

 振り返るとテレビが倒れていた。


「え―――――?」

 直しに行こうとした俺を先輩は止めた。


「入るな! 行くぞ」


 


 先輩に引っ張られるように部屋を出た。

 何だよアレ。

 こんなことなかったのに---



 コンビニまで走るようなスピードで行き、先輩の車に乗ってやっと少し落ち着く。



「アレ、何だったんですか」

「少なくともあそこにいたのは北斗じゃなかった。----言っただろう。多いって」


「何で、急に---」

「お前が出て行ったら、困るんじゃねーの?」

「だから出る時に邪魔した?」

「それ以外はほとんど分からん。-----その101の木下ってのに会えれば何か分かるかも知れないが--- それは最後だな。会わずにこのまま引っ越せればそれが良いだろう」

「そうですね」



 何か、腑に落ちない。

 何が居るんだよ。 

 何でおれがこんな目に会うんだよ。







 その日。


 7件の不動産屋をまわったが、そのすべてに俺の希望する様な物件は無かった。







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