抑制=論理≪感情=殺意
よし!話を整理しよう!
まさか2話目にしてこんな展開になるとは!
俺は坂紫乃、女みたいな名前だけど男だ。予想外の展開で、まさかのハイテンションになってる。普段は冷めた方だ。
職業は勇者らしい。アイコンに表示されている。もちろんレベルは1だ。
現在俺はどこかの異世界に召喚された、と思っている。夢でなければ。召喚された際にこちらの世界の情報を【入力】された。それは肺呼吸をすることが自然であるように、お腹が空けば音がなるように、ごく自然に。
だから、おかしいことだと思った。夢だと思った。
いきなり『ラスボス』の部屋の前に召喚されたり、幼い気な女の子に抱きつかれたり、その子が少し押しただけで死にかけたり、その子が最上級の回復魔法が使えたり、その子が『ラスボス』だったり。
性格も変わるよね☆
変わらねえよ!
だが、ここからどうするのが正解だ?俺のレベルは1だが、向こうのレベルはわからない。【入力】された知識だと「マキシシリーズ」を覚えられるのはレベル80台。ということはこの女の子は最低でもそれくらいのレベルはある。しかし、そうなると少し疑問が残る。果たしてレベル80が か る く 突き飛ばしただけだが、俺は死んでいない。レベル差を考えれば即死の可能性もあったはずだ。死にたいわけではないが。兎に角、向こうが回復魔法をかけてくれる辺り、好戦的ではないようだ。…ギリギリ生かして回復させてを繰り返すドSでなければ…
まずは、情報収集だな。
「えっと、マオちゃんっていったっけ?ここでなにしてるの?パパとママは?」
そう、可能性としてあり得るのはこの子の親のどちらかが本当の『ラスボス』である事。そうだとすると、素質的に低レベルでも才能開花して早く習得することもある。それでも70レベルくらいだけどな。
「パパとママはいないよ。私が小さいときに殺されちゃったから。」
「そ、それは、大変だったね」
やぶ蛇だった!いきなり地雷を踏んでしまった。
「でも、仕方ないの。『ラスボス』だったから。殺されるために生きてきたって今なら分かるんだ。」
ドクン 変な鼓動がする。おかしい。
「分かるって、なんでだ?君はまだ幼い。それでも普通死にたくないって思うものだろ?まるで死にたかったみたいな言い方、おかしいだろ?」
「私たちはそれが普通だよ?そのために生きてるんでしょ?そのために勉強して、つよくなるんでしょ?」
おかしい。
「それに、誰も遊びに来てくれなかったら、例えその人が自分を殺しに来た人でも人に会えたら嬉しいでしょ?」
「なんだよ、それ。おかしいよ。」
「そんなことないよ?お兄さんも私を殺しに来たんでしょ?だから私は嬉しいよ」
おかしいだろ!
「狂ってるよ、捻れてるだろ?因果がずれてる!」
俺はこの時、感情を抑えられなかったんだろう。怒りに任せてこの子を、殺そうと思った。初期装備で腰に携えていた短剣で切り伏せようと。その感情は力あるものが力なきものを虐げる驕り。或いは、弱き者が見せる決死の抵抗。論理的になれない感情の奔流。
あとで考えれば、レベル1の俺が斬りかかった所でダメージなんて皆無だったんだろう。それでも、
「強くなって、私を殺してね」
首筋から薄く血を流しながら囁く彼女を知りたいと思った。