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チートあるけどまったり暮らしたい  作者: 大野半兵衛
3章

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117/158

108 クリストフたちの日常4

4/5回です。

 


 神聖暦515年10月

 カルラ・クド・アダチ男爵とペロン・フォン・クック男爵の婚儀が執り行われた。

 本来はクリストフとドロシーより前に結婚式を挙げるはずだったが、クリストフたちが婚約して結婚が決まったのでそれを待って式を挙げることになった。

 別にクリストフはペロンたちが先に結婚しても普通に祝福したのだが、ペロンとカルラが相談してクリストフとドロシーの婚儀の後に結婚式を挙げることにしたのだ。

 これによりカルラはカルラ・フォン・クック男爵となる。

 本来男爵であるペロンの妻となるカルラはクック男爵夫人と公に呼ばれることになるのだが、カルラ自身も男爵に叙されていることから男爵夫人でも男爵でもどちらで呼ばれるも自由ではある。

 そしてカルラは男爵夫人なんてむずかゆいと言い男爵のほうで呼ばれることを望んだ。


「しかしあのカルラもウェディングドレスを着ると見違えるな。まさに馬子に何とやイテッ」


 クリストフが最後まで言う前に脇腹に横に座る者の肘鉄が突き刺さった。

 そしてその肘鉄の主がクリストフを睨んでおりクリストフは反射的に視線を逸らし背筋を伸ばすのであった。


「カルラさんに失礼ですよ!」


「はい、すみません・・・」


 ドロシーに肘鉄で牽制され視線で殺されたクリストフであった。

 クリストフとドロシーの後ろで2人の話を聞いていたプリッツはコメントを控えたが、クララに至っては「もう尻にひかれてるのね。プププ」と笑いを堪えていた。

 主役のカルラとペロンはさすがに緊張して式に挑んでいたが、主賓であるクリストフは自分が式の時に緊張しまくったことをないものとして2人の緊張した姿を楽しんでいる。

 この結婚式を取り仕切るのは魔技神殿の一級神官であるローザンヌ・アマツである。

 魔技神の信徒であるカルラとペロンなので本来はドロシーがという話もあったが、ドロシーは2人の主家であるブリュトイース公爵夫人でもあるので魔技神殿のナンバー2であるローザンヌが選ばれたのだ。

 出席者はカルラの親兄弟たち、ペロンの親兄弟たち、ブリュトイース公爵家の面々、王太孫殿下の代理人、宰相の代理人、南部貴族やその代理人、などなど多くの者がカルラとペロンの2人を祝っている。


 参列者に王太孫殿下の代理人がいるのはクリストフへの配慮である。

 王家として国王の代理人も考えられたそうだが、下級貴族である男爵の結婚式の参列者としては格を考え国王よりも王太孫の代理人としたのだった。

 それに将来国王となる可能性が高い王太孫としては外戚であり貴族の最高位である公爵であるクリストフの重臣へ配慮したという既成事実を作るのに丁度良いのだ。

 つい数ヶ月前には平民階級であったペロンにとっては信じられない光景であった。


 この式に先立つこと10日前にはクック港が開港されているし、領主館も落成していることからペロンの本拠地で式を挙げようという案もあったが、結婚式には神殿が付き物で神殿と言えば魔技神殿! というわけで魔技神殿での結婚式となった。これが魔技神殿での最初の結婚式となっておりクック家の歴史にしっかりと残る行事となるだろう。

 結婚式の後はクリストフが用意した豪華客船でクック港に乗り込んで披露宴という段取りである。

 後に『白亜の街』と言われるクック港湾都市が歴史に登場した瞬間である。


 クック港はペロンが治める領地に建設されていた港である。

 港の周辺は倉庫や宿屋が立ち並び、港から徒歩で10分ほど行くと小高い丘があり、その上には領主館が建っている。

 この領主館をはじめ港の建設にはクリストフも絡んでいるので、大規模な工事の殆どはクリストフが関係していると思ってよい。

 そして、今後この地を治めるペロンの妻であるカルラの要望で白を基調とした色使いの街並みとなっており、クリストフがカルラの要望にそった街を造るためにこき使われていたのは公にはできない話である。


 式は滞りなく進み無事に終了した。

 その後の豪華客船でのクルーズもそうだが、クック港の領主館での披露宴もこの地方ならではの珍しい食材を使った料理で来賓をもてなしたクック家。

 その料理の監修には王都屈指のレストランを経営しているペロンの父親や兄がいたのは間違いないだろう。

 参列者は皆極上の料理に舌鼓を打ち満足のうちに披露宴も終わるのであった。


 式の翌日はクック港と造船所の見学会が行われた。

 港は小型や中型船用の桟橋が数本と大型船を係留できる大型船用の桟橋もある。

 大型船用の桟橋はイーストウッドとブリュンヒルを結ぶ拠点としての役割がクック港にはあるからで、ホエール級戦艦が係留できるようになっているのだ。

 ただし、さすがに造船所は中型船までの建造設備しかない。

 これはホエール級の建造はイーストウッドに集中させるというブリュトイース家の施策であり、ペロンが主となり決めた造船関連の法や運用に沿ったものになっている。


「これは素晴らしい造船所ですな!」


 王太孫の代理人であり宮内省参事でもあるバウアー子爵が、造船所の最新設備を見て思わず声を上げる。

 今回の造船所見学はこのバウアー子爵のたっての希望として開催されたものである。

 もともとはイーストウッドの造船所の見学を望んでいたのだが、イーストウッドの造船所の設備についてはその情報は門外不出としており、そこで働く職人だけではなく、その家族も厳しく管理されているので見学や視察は一切拒否をしている。

 しかし同列である貴族よりの要望は何とか黙殺できても王家の要望はそうはいかない。

 今回王太孫の代理でクック家とアダチ家の結婚式にかこつけたバウアー子爵率いる視察団の要望を叶える形でクック港の造船所を公開し見学会を開催したという政治的経緯があるのだ。

 イーストウッドの造船所についてはブリュトイース家として頑なに視察を拒否しているので、その落としどころとしてクック港の新造船所の公開となった形である。


「こちらが水門の開閉を操作する操作盤、こちらが排水の操作盤です」


「水門の開閉をこの箱で操作するのですかな? それに排水まで・・・」


「これまでのように杭を打ち遮水板を設置していく方法では隔離までに数日かかりますが、この水門であれば10分ほどで遮水ができます。それに排水に関しても手作業で数日必要だったものがこの設備を使うことで6時間ほどで完了します」


「何とっ!」


 最新の水門と排水設備の説明だけで目が飛び出すほどの驚きを露わにするバウアー子爵と貴族たち。

 今回の視察は貴族も参加を許可しているので非常に多くの貴族家から人が来ているのだ。

 そんな中、ブロス男爵は今回の視察を通して何としてもブリュトイース家の造船技術を盗み出そうと画策していた。

 ブロス男爵は貴族派のブリットン伯爵の寄子であり、そのブリットン伯爵は唯一海の港を持つ港湾都市アルスムの領主である。

 そしてブロス男爵はブリットン伯爵が率いる海軍の提督でもあり、国王がベルム公国や聖オリオン教国に対する大規模攻勢を計画していることもあり海軍を増強している状況下である。

 つまりブリットン伯爵やブロス男爵にとっては、ブリュトイース公爵家が持つ造船技術は喉から手が出るほど欲しい情報なのだ。

 ホエール級戦艦の戦闘力は先のジルペン湖の戦いで証明されているので、直接ブリュトイース家にホエール級戦艦の設計図の開示を要求しているが、拒否され続けている。

 王家でさえホエール級戦艦の造船技術の開示を要求し拒否されているので、ブリットン伯爵が何を言おうと拒否されて然りなのだが、ブリットン伯爵やブロス男爵はそれが我慢ならない。


「ブリュトイース公爵閣下! これだけの造船技術があればベルム公国を殲滅せしめることは容易(たやす)いことですぞ! 是非その技術を我らにも!」


 このやり取りは何度目かとクリストフは辟易するも顔には出さずやんわりと断る。


「ブロス殿、その件は何度もお断りしております。その要望には応えることはできません」


 なおも食い下がるブロス男爵を振り切りクリストフは自室に戻る。

 確かにホエール級戦艦の威力はこの世界では計り知れないだろうが、人の成果を横から奪おうとするその根性が気に入らない。

 先ずは自分たちが努力しそれでもダメなら頭を下げ教えを請い願うのが筋であるとクリストフは考える。

 それなのに国王もブリットン伯爵もそれをせずに一足飛びに答えを求めるのだ。


「ふ~、公爵なんて言われてもあのような小物も追い払えないとはな・・・」


「それだけブリュトイース家の造船技術は魅力的なのですよ」


 ドロシーはクリストフが疲れ果てた姿を見てクスっと笑いお茶を啜る。


「クリストフがその気になればあんな小物は近寄ってこなくなるけど? どうする?」


「・・・いや、やめておくよ」


「貴族派は落ち目だから追い打ちをかければいいのに」


 いつも王都で諸侯の相手をしているクララだが、さすがに親友のカルラとペロンの結婚式には出席させないわけにはいかない。

 そんなクララはブリュトイース公爵家の力を使いブリットン伯爵やその傀儡のブロス男爵を抑え込んでも、誰も表立って文句は言ってこないだろうと踏んでいるのだ。

 事実、王家の外戚でありブリュトゼルス辺境伯家の縁者であり、数々のマジックアイテムを世に送り出しているクリストフの神聖バンダム王国での影響力は計り知れないだろう。

 しかし、それをすれば貴族派とブリュトイース公爵家の間に軋轢が生まれるのは火を見るより明らかだ。

 ただでさえクリストフは国王派と思われているので貴族派とはあまり良い関係ではないのに、更に溝が深まるのは避けたいところだ。


「私は国王派ではないのだけどね・・・」


「今更でしょ?」


 クララだけではなくその場にいるドロシーやプリッツが無言で頷き、護衛としてクリストフとドロシーに付き従うフィーリアとリリイアも内心では頷いている。

 現在、クリストフの護衛はフィーリアが担当し、ドロシーの護衛はリリイアが担当している。

 勿論、他にもフィーリアの部下たちが数名護衛として周囲を固めている。

 ドロシーの護衛にはクリストフが最も信頼するフィーリアをあてたかったが、フィーリアがクリストフから離れるのを頑なに拒むので仕方なくリリイアをドロシーの護衛長としている。


 話は逸れてしまったがクック港の造船所はイーストウッドに次ぐ最新設備を有し、中規模船、今までなら大型船と言われた規模の船を造れるだけの規模である。

 この規模の造船所はこれまでブリュンヒルの他に数か所しかなく、今後の海運事業の拡大を見込んでいるのであれば造船所を拡張したり新たに建築するべきである。




 

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