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ウサ晴らし!  作者: 襟端俊一
エピローグ
39/39

解決?

 透心達が帰ったのは、それから五分後のことだった。

 数秒遅れて事態を把握した透心が、妹は納得したと守永由紀に説明してくれたのだ。

 返事を求められたわけではないにせよ、結局告白された件はうやむやになってしまった。


(今はウサちゃんのことだけ考えてって透心には言われたし……切り替えよう。透心と守永さんのこと、いつかは決着つけないとだけど)


 庭を後にした憂晴は、玄関に回って家の中に入った。

 靴を脱いで、目の前にある扉を開けばそこはもうリビングだ。

 一旦心を落ち着かせるために深呼吸をする。

 自分でも理解しがたい、不思議な緊張感が憂晴の心を支配していた。

 どうなったかなど分からない。

 あの音は由紀が何処かで頭をぶつけただけかもしれない。

 リビングに入った途端、ミアに対抗心を燃やして告白の真似事をしてくる可能性だってある。

 そんなことを考えていると、心なしか緊張は解れていった。

 リビングに足を踏み入れ、少し前まで土塗れだった白のカーペットに視線を送る。

 そこにあったのは、憂晴のTシャツと女物の下着。

 紛れもなく、由紀が着ていたものだ。


(まだ分からない。単に脱ぎ捨てただけかもしれない)


 カーペットの上でうつぶせになってソファーの下を確認するも、特に何も見つからない。

 どうやらリビングにはいないようだ。

 憂晴は謎の安心感に戸惑いつつも、台所を通って自分の部屋へ向かう。

 そして、扉を前にして息を呑んだ。

 開いている。

 兎が一匹通れるくらいの幅だけ、開かれている。


(朝出かけたときは閉めた。その後部屋を出た由紀が閉め忘れたのか……或いは、元の姿に戻ったときのことを想定して、予め開けておいたのか?)


 それとも、元に戻らずに人の姿のまま扉を開けたのか。

 僅かに空いた隙間をジッと憂晴が見つめていると、その疑問は簡単に解けてしまった。

 ひょっこりと現れたのだ。



 ヒクヒクと動く、鼻と口が。



「はは……まさか、恥ずかしがってるのか?」


 しゃがみ込んで中途半端に開いていた扉を全開にすると、観念したのか移戯家のネザーランドドワーフが姿を現した。

 その場であぐらを掻いて由紀を見つめる。

 待ってましたとばかりに膝の上に乗ってくる由紀。

 ふくらはぎと太ももの間が気に入ったらしく、居心地良さそうに動きを止めた。

 憂晴は由紀の頭を優しく撫でながら、


(由紀が戻ったってことは、初恋に決着が付いて過去のストレスが消えたんだな。そりゃそうか……『初恋の相手から告白される』、なんてこの上ない『結果』を得られたんだから。当然返事はいらない。若干時間差があったのは、多分俺が自覚してなかったせいだ。想定外過ぎて思考が追いつかなかったもんな)


 今思えば、小学生時代の憂晴は自ら告白しようとは考えなかったかもしれない。

 積極的にアプローチをかけても、最後の一手は相手に任せるという女の子のような思考回路。

 小学生時代の憂晴は、面倒臭いだけでなく乙女でもあったらしい。

 憂晴は今の自分なりのやり方で守永由紀とお近づきになろうとしていたが、結局は過去の自分と同じ行動を取っていた。

 タイミングだの空気だのと理由を付けて、本気の告白ができなかったことが何よりの証拠である。

 もっとも、その偶然のお陰で最高の『過程』と『結果』が得られ、由紀は元の姿を取り戻すことができたのだが。


「おいで~」


 由紀の前に両手を差し出す。

 すると由紀は導かれるように憂晴の掌の上に乗った。

 顔を近づけて問いかけてみる。


「お前の憂さ晴らしは、もう終わったのか?」

「……」


 由紀は答えない。

 言葉も通じていないが、代わりに一つの反応を見せてくれた。

 憂晴の口元に向かってグッと身を乗り出し、鼻をひくつかせている。

 二週間前の憂晴なら、これはご飯のおねだりだと思っていただろう。

 しかし、今の憂晴には分かる。

 何せ由紀は、赤黒い瞳を固く閉じているから。


「一丁前にキスのおねだりとは。成長したなぁ」


 そう言って、憂晴は由紀の口元に唇で触れた。

 絶えずヒクついている鼻が当たってくすぐったかったが、由紀の反応が可愛くて気にならなかった。


「戻っちゃったな~。こんなちんまくなっちゃって……何だか夢を見てたみたいだよ。あれは本当に由紀だったのか? ん~?」


 つぶらな瞳に問いかけるも、鼻がヒクヒク動くだけで返事はない。

 が。

 次の瞬間、由紀は驚くべき行動に出た。

 掌の上でクルリと回転して可愛いお尻を目一杯突き上げ、顔だけを憂晴の方に向けてブーブーと鳴いたのだ。

 それはミアに教えてもらって、さりげなく憂晴がアドバイスしたあの仕草。


「く、くくっ。あははは! 可愛さ……五割増しだな。あははは……」


 堪らず由紀のお尻に頬ずりする。

 由紀も満足したのか、もう一度回転して憂晴の頬ずりに頬ずりで返した。


「さ、そろそろご飯の時間だから、ケージに戻ろうな」

 落とさないように慎重に抱っこして部屋の中に入る。


「って、しまった。ケージ組み立ててなかったじゃないか」


 由紀に止められた後、分解されたケージは憂晴の部屋に置かれてそのままになっていた。

 これでは脱走どころの話ではない。


「仕方ない……組み立てるから、それまで由紀は散歩しててくれるか?」


 脇の下に抱えた由紀に話しかけ、廊下に下ろそうとした――そのとき。

 憂晴の視界に、有り得ないものが映った。


「……香織?」


 オカメインコの香織のケージが、ものの見事に破壊されていたのだ。

 その有様は、まるでダイナマイトが爆発したみたいに無残で、よく見ると部屋のあちこちに小さな破片が転がっている。


 そして。


 憂晴の背後に迫る、一つの人影。

 この家の動物達は、ただでさえ恋愛関連のストレスが溜まりに溜まっている。

 由紀は『自分が一番溜まっていたから最初に化けて出てきた』と言っていた。

 憂晴はここ数日、由紀につきっきりだった。

 菜々子にも香織にも配慮はしていたが、心は完全に由紀に集中していた。

 敏感な動物達が、それに気付かぬはずがない。


 額に冷や汗を浮かべながら、憂晴はゆっくりと後ろを振り向く。

 抱っこされていた由紀は、どこかしたり顔で憂晴を見上げていた。


ここまで読んで下さって、本当にありがとうございます。

今回はちょっとファンタジーが入ったラブコメ……というか、ベタな擬人化ものしたが、如何だったでしょうか。

これだけ作中で兎兎言ってますが、実は兎を飼っていたのは友達で自分は飼ったことがなかったりします。

自分はハムスターを飼ってました。


可愛いですよね……小動物って。

そんな感覚から生まれた作品です。


そんでもって。

前作もそうだったんですが、別の作品を投稿したいがために一旦完結とします。

次は異能ものです。

その次はラブコメ。

更に次、もしくは次の次辺りで長いものを書く予定。

平行して書きたいんですが、時間と筆力が足りない……申し訳ない……。


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