7
「それで、日取りは決まったのです?」
透心が家に帰ると、待ってましたとばかりに由紀が出迎えてくれた。
今日は家に誰もいないということで、朝早くからミアと一緒にお留守番をしてもらっていたのだ。
勿論今回は事前に憂晴の許可も取っている。
「まずはお帰りの挨拶からにゃーのよ! これだから乱暴にゃウサギさんは」
「ミアはウショいのです」
「ちょっと待っててねウサちゃん。今着替えてくるから」
透心は自分の部屋に鞄を置いて、ダボダボのTシャツにスウェットというとてもラフな格好に着替える。
そして髪をグシャグシャにして薄い化粧を落とせば、透心が一番リラックスできる自宅モードに移行完了だ。
何をするにもこの格好が一番落ち着く。
スリッパを履いて、パタパタと廊下を歩きながら二人が待つ和室に足を踏み入れる。
「お待たせ」
「遅いのです。あまり待たせないでほしいのです。トコといえど手が出そうになるのです」
「そんにゃことしたら憂晴様に怒られるーのよ。捨てられちゃうーのよ」
「ウサッ!? ……我慢するのです」
「そ、そうしてもらえると助かるかな」
冷や汗を掻きながら掘り炬燵の空いている席に足を入れる。
「守永さんは協力してくれるって。日取りだけど、『妹さんが早く帰らないといけない』ってことになってるし、できるだけ早いほうが良いと思う」
「できるだけ早く……なのです?」
「にゃっにゃ~ん。ウサギさん、その姿が惜しくにゃったーのよ?」
「そんなことはないのです。どっちの由紀でもご主人は可愛がってくれるのです」
「フー!! ママ~……むかつくーのよ……」
よろよろと寄りかかってくるミア。
あまり話をかき回して欲しくなかった透心は、ミアに向かって掘り炬燵の中に常備してあるまたたびスプレーを吹きかけた。
「にゃっはー!!」
「相変わらずの効き目なのです」
「後、決めないといけないのは場所かな。ウサちゃんは何処が良いとか候補ある? 私としては、できるだけ憂晴の家の近くが良いと思ってるんだけど」
由紀の役目はひたすら二人の仲を疑ってかかるだけだが、不測の事態が起こる可能性もある。
その場合、家の近くの方が何かと対処しやすいはずだ。
「由紀も家が良いのです。家の中……せめて庭にいないと怖いのです」
「怖いって、どうして?」
「ご主人と由紀でない方の由紀がチューをすれば、その瞬間に由紀は元の姿に戻るかもしれないのです」
「あ――」
ここ一週間、ずっと人間の姿しか見ていないので失念していたが、元の姿に戻った由紀はか弱いか弱いネザーランドドワーフだ。
初めて憂晴に見せて貰ったとき、思わず心を奪われそうになったウサちゃんなのだ。
あんな小さな小動物が、野良猫が徘徊しカラスが飛び交う街のど真ん中に放たれたらどうなるか。
悲劇はあっという間に訪れることだろう。
まあ、仮にキスできたとしても、もう一度憂晴が告白して返事を貰わない限り由紀が元の姿に戻ることはないだろうが、万が一と言うこともある。
「憂晴の家に守永さんを呼ぼう」
「それなら今日の晩、由紀がご主人に伝えておくのです。計画は明日、学校の帰りに行うのです。由紀でない方の由紀への伝言はトコに任せるのです」
「明日? 二、三日くらいなら充分待つよ? またその姿になれる保証はないし、何かやり残したことがないか……考える時間も必要でしょ?」
「もう充分考えたのです。そのための一晩なのです」
「ひ、一晩って。具体的に何するの?」
聞いてはいけないと思いつつも、つい口に出してしまった。
由紀は紛れもなく憂晴のペットだが、今は何処からどう見ても可愛い女の子だ。
『やり残したこと』と『一晩』というキーワードからよからぬ妄想に至ってしまうのは自然と言える。
そんな風に悶々としていた透心に向かって、由紀は平然とこう言ってのけた。
「ウサウサするのです」
「!?」




