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ウサ晴らし!  作者: 襟端俊一
第五話 過程と結果
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 守永由紀とのデート翌日。

 何事もなかったかのように声を掛けるか。

 様子見の意味も込めてしばらくは赤の他人として過ごすか。

 それとも、いっそのこと土下座して謝るか。

 いやそれ以前に、学校を欠席するかもしれない。

 そんなことを悶々と一晩中考えていた憂晴は、隣に座った守永由紀を見て拍子抜けした。

 彼女は笑顔で憂晴に手を振り、女友達と普通に話し始めたのだ。

 由紀の言っていた通り、昨日のことは本当に一晩で清算されたのだろうか。


(ん……メール? また透心からか)


 透心からのメールは、『守永さんの機嫌を損ねるようなことは絶対にしないで』という内容だった。

 昨日以上の屈辱などそうそう与えられるものではないが、やはりそこは友達として気になるらしい。

 ただ、いつまでもこのままという訳にもいかない。

 由紀が元の姿に戻りたいと言っている以上、積極的に守永由紀にアプローチをかける必要がある。

 手探りで由紀が元の姿に戻りそうなことを少しずつ試していくか、大胆な行動に出て一瞬で終わらせるかは悩みどころだが、透心と守永由紀の気持ちを考えたら前者を選ぶべきだ。

 幸い、由紀が元の姿に戻らなくとも特にデメリットはないらしい。

 また「やっぱりいいのです」などと言い出す可能性もあるし、少しくらい待たせても平気だろう。


(しかし唐突だな。今までは守永さんの気持ちなんて完全に無視して頼み事してたってのに。まあ……これ以上は流石に洒落にならないってことかな。それよりも俺は、由紀と一緒になって何を企んでるかの方が気になる。というか、主人の俺に内緒ってどういうことだよ)


 昨日、憂晴が家に戻って三時間ほど経った頃に由紀は帰ってきた。

 だが何を話していたか聞いても、「雌同士の秘密なのです」などと言って教えてくれないのだ。

 主人にすら話せないことを密談しているとなると、もはや雌同士の秘密で片付けられる問題ではない。

 何故由紀の主人である自分が蚊帳の外にいるのか。

 憂晴は納得がいかなかった。


(直接透心に聞いてみるか)


 時刻を確認すると、朝のホームルームまで十分ほどの猶予が残されていた。

 いくら時間が残されていようと返信が遅ければあまり意味はないが、それでもできるだけ高速で指を動かし『由紀と何を話してたんだ?』とメールを送信する。

 無視される可能性も考えていたが、五分ほどで返信があった。


(『憂晴のためにウサちゃんが頑張ろうとしてる。ただそれだけ』……ね。由紀や菜々子、香織が傍にいるだけで俺は幸せだってのに。今更何をしてくれるつもりなんだろう)


 思い当たることはある。

 昨日の由紀の、エキセントリックなあの行動だ。

 思いっきり守永由紀の下着を憂晴に見せた挙げ句、その感想まで聞いてきた。

 思い出すだけで顔が熱くなってしまう。

 何せあの薄桃色の持ち主は、今隣で女子と談笑しているのだ。

 手を伸ばしてピラッと捲れば、今度は全く別の絶景を拝むことができる。

 一度なら許容できても、二度目。それも、憂晴が直接捲れば流石の守永由紀も怒ってくれそうだが、


(教室でそんなことをしたら俺は終わる。守永さんは新入生美少女ランキング二位だということを忘れるな……。第一、そんなリスクを冒しても由紀が元の姿に戻れる保証はないんだ)


 下着は一先ず置いておいて、問題なのはキスだ。

 透心の言う『憂晴のために頑張ってること』が、『憂晴の初恋に決着をつけるため』なのだとしたら、まず間違いなく候補として挙がっていたキスをするために何かを企んでいる。

 友達である透心がそれを手伝っているのは理解できないが、直接連絡の取れる人物の協力が不可欠なのは確かだ。


(自分で提案しておいてなんだけど、キスは無理だよな。偶然唇と唇が重なるって、それどんな天文学的確率だよ。敢えて仕組むとしたら、互いに正面に立って、両方が同時に背中を押される……とかか? それでも唇より先に手が出そうだもんな。多分、俺が引っぱたかれる)


 スカートを捲られただけ、というにはあまりにも長い時間捲られていたが、それでデートを放っぽり出してしまう女の子だ。

 キスなんて以ての外に違いない。


(でも……そうか。アプローチをかけた結果、返事が覆る可能性もあるんだった。嫌われるんじゃなくて、本当に仲良くなって普通にキスする分には何の問題もない、のか?)


 鮮明に昨日の守永由紀の笑顔が浮かび上がる。

 瑞々しい唇に目を引かれなかったと言えば嘘になる。

 憂晴は守永由紀を意識していた。


 だが、その気持ちは恋ではない。


 あくまで憂晴は、昔の恋心を思い出している状態であって、可愛い女の子を見てドキドキしているだけに過ぎない。

 思春期の男子であれば誰もが抱えている、あって当たり前の感情だ。

 故に、憂晴は思う。

 もしも由紀達が考えている企みが憂晴の想像通りで、それが上手くいったとしても。

 本当にキスをしてしまっても良いのだろうか、と。


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