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ウサ晴らし!  作者: 襟端俊一
第四話 少し早めのお花見
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「ここをまっすぐ行くと保健室ね。私達1―Aの教室は二階だよ」


 案内されるがままに守永由紀の後を付いていく憂晴。

 何故かすれ違う生徒一人一人から注目を浴びている。

 隣を歩く守永由紀も困惑した表情を浮かべているので、憂晴の自意識過剰というわけではなさそうだ。

 初めは入学式をすっぽかしたことで名前が知れてしまったのかとも思ったが、ほとんどの生徒は昨日が初顔合わせ。今日になって初登校の生徒が混ざったところで、そこまで目立ちはしないはず。


「なんか、目立ってるねぇ」

「理由分かる?」

「んー……移戯君が格好いいから、とか?」

「心にもないことを……」


 しかし当たらずとも遠からず、と言えるかもしれない。

 つまり憂晴が格好いいからではなく、守永由紀の美貌が注目を集めているのだ。

 更に言うなら、そんな美少女と早速並んで歩いている憂晴もまた、別の意味で注目されている。

 憂晴の推測は、タイミング良く入った透心からのメールで裏付けが取れた。


(成る程。こりゃ妙な視線を浴びるわけだ)


 学校公認の新聞部のメールマガジンをそのまま転送したものらしく、『新入生美少女ランキング』と題した内容で、ランキングの二位に守永由紀の名前があった。たった一日でどうやって統計を取ったのか定かではないが。

 階段を上って教室に入ると、早速守永由紀のファンと思しき男子生徒が数人近寄ってきた。

 皆一様に憂晴を一瞥して面白くなさそうな顔をしている。


(俺、友達できるんだろうか)


 軽く嘆息しつつ窓際の席に座ろうとすると、既に縦一列に並んだ机全てに鞄が置かれていた。

 一番後ろの席を確認するも、同じく席は埋まっている。

 それ以外の机は所々空席が目立つが、単に生徒がまだ登校していないだけだろう。


(入学式をサボるとこういう弊害もあるのか。俺の席は恐らく……)


 どの学校でも不人気であろう、教卓の目の前にある机を見る。

 そこには当たり前のように生徒の姿がなかった。

 試しに鞄を置いてみるも、その行為を咎める者はいない。

 十中八九、ここが移戯憂晴の特等席に間違いなさそうだ。


「あ、自分の席分かったんだ」


 言い寄る男子生徒から抜け出してきた守永由紀が隣の席に座る。

 この教室にある机は、縦六席、横五席の計三十席。

 守永由紀が座った席は、教卓の目の前ほどではないにせよ最後まで余るであろう残り物の席だ。


「まさかとは思うけど、そこが守永さんの席?」

「い、嫌だった?」

「そうじゃなくて、何でわざわざこんな席に? 視力の問題?」

「あ……それは、移戯君の席はここだろうなと思って。友達がみんな別のクラスになっちゃったから、知ってる人の近くに座りたかったの」

「俺のこと、昨日の時点で知ってたんだ。透心の奴、教えてくれればいいのに」

 これなら昨日、無理に電話で告白する必要は無かった。お陰で微妙な気まずさが抜けなくて視線も合わせられない。

 もっとも、直接顔を合わせてからだと告白できていたかどうか怪しいが。


「移戯君が隣になるかは一か八かだったんだけどね。見事に予想的中! ブイ。えへへ」

「はは。そういえば、席ってどんな風に決めたんだ?」

「最初に男子と女子が座る席だけ決めて、まず男子がその中から好きな席に座る。その間女子は廊下で待機してて、今度は逆に女子が決めて男子が廊下で待機。決まったら、男子が入ってきてご対面」

「初っぱなからそんな手の込んだ席決めを……」


 だがこれで合点がいった。

 適当に座ったのだとしたら、例え教卓の近くだとしても守永由紀の席の近くは男子で埋め尽くされていたはずだ。


「移戯君」

「ん?」

「お昼楽しみにしててね! やれるだけやってみたから」

「うん。……うん?」


 聞き返そうとしたが、守永由紀は既に一時間目の授業らしき教科書を用意し始めていた。


(あ……昼休みか。透心と食べるから俺も一緒にってことかな?)


 このとき、憂晴は咄嗟に了承してしまったことを後悔した。

 ついさっきのことを考えれば、あまり彼女と行動を共にするのは良くない。

 同性よりも異性との関係を優先する人間は、総じて同性から敬遠されがちだから。

 とはいえ、これは彼女が悪いわけではない。

 憂晴が入学式に出席して、自分なりの人脈を築き上げていればこんな心配は生まれなかった。


(昼休みまでの休み時間に、積極的に男子に話しかけてみるか……)


 その際、話しかける相手は慎重に選ばなければならない。

 既にグループの一員として確固たるポジションを手に入れた人ではなく、孤立している人を探すのだ。

 初めは一人でも、そう言った人達が集まればたちまち一つの仲良しグループが完成する。

 気合いを入れ直して一時間目の準備を終わらせる。

 タイミング良く担任らしき教師が教室に入ってきたと思ったら、今度はタイミング悪く透心からのメールが入った。

 ホームルームが始まる直前に素早くメール内容を確認すると、


『ウサちゃんの件、どうするの?』


 そのメールをきっかけに、憂晴の同性の友達を作る計画は白紙になった。


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