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「……、」
「? どうかしたの?」
「いや、家に残してきた由紀が心配で」
現在、二人は歩いて十分で行ける商店街の古着屋に来ている。
透心は勿論、憂晴も昔からお世話になっている店だ。
ちなみに制服の前が破れてしまった透心はというと、そのままだった。
正確にはブレザーのボタンを留めて、ネクタイを雑に結んでシャツの胸元を隠している状態だ。
とはいえ流石にこのままでは心許ないのか、由紀の服と一緒に自分の服も買うつもりらしい。
家は近所なのだから走って帰れば良いのに、と憂晴が言ったら何故か怒られた。
「そんな調子で明日から平気? 学校行ってる間とか」
「ウサギは基本、夜行性だから平気だよ」
「それにしては元気だったけど」
「……た、確かに」
由紀が化けて脱走したときは早朝だった。
元気が有り余っていても不思議はなかったが、この時間は完全におねむのはずだ。
にも拘らずあのウサパンチの冴え。
人間の姿になって、時間感覚も人間に近くなったのかもしれない。
「まあ起きてたとしても牧草をつまむぐらいだ。テーブルの上に牧草を用意しておけば大人しくしてるさ。多分」
「なら、そう心配することじゃ」
「今はミアがいるだろ。変に張り合ってたし、絶対何かしそうなんだよな……むしろ何もないわけがないというか」
恋心が募って化けていたミアとは違い、由紀はストレスの塊のようなものだ。
お得意のウサパンチを軽くいなされていたのを根に持っていたとしたら、猫の姿に戻ったミアに何かしようとするかもしれない。
信頼と心配は別なのだ。
「ミアは頭の良い子だから大丈夫」
「動物を飼ってる人は大抵そう言うんだが」
「そんなことより、これどう思う?」
透心は涼しげな水色のキャミソールを手にとって見せてきた。
透心の意図が分からずに疑問符を浮かべる憂晴だったが、服を体に当てて聞いてきたのを見てピンと来た。
「ああ、由紀に似合うかってことか。俺は分からないし、透心のセンスで決めていいよ」
「そ、そうじゃなくて。私の」
「……? 透心はさ。破れた制服の代わりになる、その場しのぎの服を買うんだよな?」
「………………………………………………何でもない」
憂晴の正論に何も言えなくなってしまった透心は、ブスッと不機嫌になって店の奥に行ってしまった。そして乱暴に数着の服を選んでレジに持っていく。
(俺なんかでも選んで貰うと嬉しいものなんかね。まあ透心には世話になってるし、由紀がミアに何かしてると想定すると……)
由紀が化けてから味わってきた、数々の兎技。
それらがミアに向けられていると思うと、湧き水の如く冷や汗が止まらなかった。
(……この色だっけ?)
先程透心が手に持っていたキャミソールは、既に様々な服に紛れてしまっている。
憂晴には女物の服などどれも同じに見えてしまうが、この中から一つを手に取ったのだからそれなりに気に入っていたはず。
透心が店員と話し込んでいるのを確認して、さりげなくご機嫌取りを実行する憂晴だった。




